木偶に息   作:百合に 

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傀儡術もっと詳細欲しい。名のある傀儡師って3人しか出てきてないんだよな…。逆に言えば3人しか名のある傀儡師が居ないってことだし……


少年期


 

 午前5時・起床。衝立の向こうの姉を起こさぬよう、そっと身を起こす。もそもそと黒装束に着替え、カンクロウは欠伸を噛み殺した。

 

 5時10分。寝ぼけ眼のまま顔を洗い、化粧箱から塗料を取り出す。先ずは隈取るようにラインを引いて、顔の右半分に適当な幾何学模様を書いた。鏡と睨み合いながら、左右対称になるよう同じものを書いていく。

 

 5時30分。身支度終了。引っ掛けておいた頭巾を被り、形を整える。……やや小腹が空いたので、こっそり姉の干し柿を拝借した。大丈夫大丈夫、後で補充しときゃ平気じゃん。

 

「おはようございます、カンクロウ様」

 

「おう。おはよう」

 

 早朝の人気の無い風影塔の廊下を、誰の目も憚ることなく進む。換気窓についた木枠は、硬い鉄格子に変わって久しい。

 あれから10年弱。カンクロウは『忍』になっていた。

 

 

 第四倉庫は改装された。あの作業室を中心に、一階部分をそっくりそのまま立て替えたのだ。梁が何本も伸び出た吹き抜けは、鉄骨で仮補強が成されている。今のところ、『仮』が外れる気配はない。

 

 近頃風の国の大名は、大胆な軍縮を進めている。その軍事機関である砂隠れの里は当然盛大な煽りを受け、資金不足に喘いでいる状況だ。

 こんな『曰く付き』の、利用者もそう居ない建物なんぞに、かける金はないと言う訳である。

 

 要因はそれだけではない。傀儡が猛威を振るった第二次忍界大戦も、終戦から早40年。往時の英傑達は寿命や病で次々と亡くなっており、傀儡術は急速に力を失っている。

 

 コネと呼ぶなら好きにしろ。カンクロウはそんな気持ちで、傀儡の必要性を声高に訴えていた。

 普段カンクロウが世話になっている傀儡部隊の面々もこれ幸いとそれに乗り、嬉々として旗頭に押し上げてくる。

 傀儡師は皆性格が悪いので、更に言えば好きに傀儡が作れるならば他に文句の無い奴ばかりなので、ガキのカンクロウが代表面をしても、なんの問題も起こらないのだ。

 

 

「あー……毒袋壊れてんじゃん。うわ、うわ、腐ってやがる、くっさ!!!」

 

 蛙型の傀儡の腹を開けて、酷い悪臭に咳をする。慌てて腰に引っ掛けたガスマスクを付け、木槌で腐った部分を壊していく。

 特殊な素材で作られた作業手袋の表面が溶解しているのを見て、カンクロウはヒエッと息を呑んだ。

 

「こりゃ仕込み総取っ替えじゃんよ……」

 

 洗浄液の中にピンセットで摘んだ螺子を落としながら、骨組みをそっと外していく。これは中々手強そうだ。

 四苦八苦しながら傀儡を分解し終えて、カンクロウはやれやれと息を吐いた。最近修理した壁掛け時計を見る。時刻は6:54。そろそろ『お役目』の時間だ。

 

 弱酸性の液体で浮かせていたラベルをそっと剥がし、陽光に透かして眺めてみる。廻しを締め、張り手の構えをする蛙のラベルは、中々に愛嬌がある。

 それをペタリと手帳に貼り付け、カンクロウは満足した。このラベルも後で複製してもらおう。

 

 パタンと手帳を閉じ、カンクロウは立ち上がった。汚れた黒装束を脱いで鎖帷子を着込み、その上から新しい黒装束を身につける。

 倉庫を出たところでついつい陰鬱な気分になりかけるが、ブンブン首を振ってそれを逃した。

 

 行き先は厨房だ。然る後、カンクロウは決戦場へ向かうのである。

 

 

「……おはよう、我愛羅」

 

「………。」

 

 無視かよ。今更だけど。内心で悪態づきながら、カンクロウは朝食を机に並べた。固い面持ちのテマリが、それを手伝ってくれる。

 

 弟の食器から一口ずつ小皿に取り分け、目の前でそれを食べてみせる。弟はピクリともしない無表情のまま、漸く箸に手をつけた。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 最悪の空気である。味もまともに分からない朝食を運ぶだけの作業は、ただ只管に苦痛だ。それでもカンクロウは、出来るだけ平静を装って声を上げた。

 

「今日。出立前、四代目から話があるそうだ」

 

「、」

 

 ピタ、と一瞬、姉と弟の動きが止まる。それに気付かないフリをして、味がついている筈の海苔を白米に乗せた。

 

「オレは9時半、お前らは10時に呼び出しが掛かってる。そのままの出発らしい」

 

「………」

 

 モグ、モグ。ゴクリ。半分以上食事を残した我愛羅が立ち上がり、そのまま退室する。扉が閉まる刹那、向けられた冷たく鋭い視線に、カンクロウは思わず冷や汗を流した。

 

 パタンと扉が閉まった瞬間、のしかかるような重圧が掻き消える。テマリとカンクロウは顔を見合わせ、息を揃えて溜息をついた。

 3人で食事を取るよう命じられてからも、そこそこの歳月が経っている。末の弟との溝は深いままだ。

 

 食事にようやく味が戻ってきた。暫く無言で箸を進めていると、あからさまに気張っていた姿勢を楽にしたテマリが、ポツリと呟くように言った。

 

「……木ノ葉崩し。本当に、やるのか?」

 

 カンクロウは口端を歪め、努めて無感情に返す。

 

「命令なんだ。やるしかねえじゃん」

 

「だが……」

 

「里の為、だぞ」

 

 テマリの皿の焼き鮭の身をほぐし、ちょいちょいとその皮を剥いでやる。細かい骨は筋ごと外し、太い骨も端に避けてやった。

 憂鬱そうな表情のままモグモグと鮭を食む姉に、カンクロウは唇を引き結ぶ。

 

 命令だ。やるしかない。命令に従う他に、カンクロウに何が出来ると言うのだ。

 

 だから、カンクロウは。

 

「人柱力の状態を第一に考えろ……以上だ」

 

「はい。──それだけですか?」

 

「他に何かあるのか?」

 

「…いえ。何も」

 

 その時感じた微かな、しかし何処か致命的な違和感に、気づかないふりをしたのだ。

 

 

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、着いた……!着いたじゃん……!」

 

「だからやめとけって言っただろう……」

 

 呆れ顔のテマリに頭を小突かれるも、言い返す気力も湧かない。木ノ葉についた時には、カンクロウは疲労困憊の状態だった。

 【烏】に己を背負わせて、三日三晩の砂漠の行軍を乗り切るのは辛かった。とはいえ忍道何事も修行である。

 

 テマリは終始嫌そうな顔をしていたし、担当上忍のバキは物言いたげだったし、カンクロウの手も攣りかけたが、極限状態に追い込んだ脳は冴え渡っている。良い修行になった。

 

 その上カンクロウは我愛羅の世話係でもある為、その辺りの対応も消耗の一因だ。

 我愛羅の着替え、食事、不眠に不機嫌。持ち前の要領の良さでどうにか乗りきったものの、お陰で隙を突くような短時間での睡眠が得意になってしまった。

 

 父は……三代目は、とくに何を言う訳でもない。いつも通りのことだ。

 

「テマリ……オレは、寝るぜ」

 

「はいはい。ったく、しょうがない弟だね」

 

 木ノ葉側に充てがわれた自室に着いた途端宣言したカンクロウに、テマリが呆れた声で返してくる。とはいえ出ていく気配もないあたり、テマリは側にいてくれるらしかった。

 

 とはいえ一応チャクラ糸を張り廻らせて、室内への侵入を察知できるようにはしておく。分かりやすい太い糸に脆い本命の細糸を紛れさせれば、簡易的なトラップは完成だ。

 

 座布団を枕に大の字になって目を瞑ると、テマリが瞼の上に濡れタオルを乗せてくれる。妙に優しい。

 カンクロウはチラと片目を開け、側に佇む姉を見た。その拳は、硬く握りしめられている。

 

「姉ちゃん」

 

「、どうした、カンクロウ」

 

「今日オレの部屋泊まれよ」

 

 久方ぶりの呼びかけをすれば、テマリがピクリと眉を動かした。やや露骨すぎたらしい。

 姉としては弟には頼られたいと言う願望がある為、分かり易い気遣いには機嫌を損ねるのだ。

 

 しくじったか。カンクロウはそれでもヘラリと笑い、視線を逸らして続ける。

 

「なんだよ。弟の可愛いお願いじゃん」

 

「……はぁ」

 

 テマリは背負った鉄扇をゆっくり下ろし、カンクロウの枕元に座り込んだ。気丈に吊り上げられていた眉がゆるゆると下がる。こうして見ると、姉はやはり母似の美人だ。

 

「普段からこうならモテんのにな」

 

「うるさい」

 

 ペシ、と額を叩かれる。拳の一発もとんで来ないとは、これまた予想外だ。テマリは思いの外弱っているらしい。

 

 まあそれもそうか。カンクロウは自嘲し、【烏】に仕込んだ数々の劇薬を思った。

 今日オレたちを笑顔で迎え入れた全てを、オレたちは殺すのだ。

 

 

 

 

 散々な目に合った。今日は妙なガキどもに絡まれたし、ピカピカにした【烏】に石をぶつけられたのだ。カンクロウは怒り心頭だった。

 テメエこの傀儡にどれだけの価値があると、と叫びたいのを堪えていれば、我愛羅にまで注意を受けてしまった。

 

「あークソ、我愛羅の奴……」

 

 人を傷つけることしか考えていない奴なのだと納得しようとすれど、動揺もする。

 我愛羅の物言いは、どこか父に似ている。投げやりに言い捨てられた言葉の刃は、カンクロウの抱える鬱屈そのものだった。

 

 カンクロウは愚図だ。愚図な子供だった。それ故に消えない罪を背負い、取り返しのつかないことを既にしている。……償わなければならない。

 

「【里に尽くせ】」

 

 カンクロウがきな臭い任務を与えられる度、わざわざその裏を説明する父が、結び文句として無感情に告げる言葉。何度も何度も繰り返されたそれは、既に心に染み付いている。

 

「……傀儡の整備でもすっかな」

 

 思い悩んでいた所で、カンクロウはますます腑抜けるだけだ。信じられるのは己が傀儡と、磨き上げた指先だけ。

 広げた巻物から機材を取り出し、カンクロウは【烏】の汚れを払った。

 

 

 

 

 中忍選抜試験1日目。今日も今日とて我愛羅の機嫌は最悪である。

 初手は筆記試験の予定だが、一応小型の傀儡を仕込んでおいた。

 

 試験官に大型の傀儡を紛れ込ませようかとも思ったが、流石にそれは露骨すぎるだろう。珍しく【烏】を背負っていないカンクロウに、テマリが珍しそうな顔をする。

 

「良いのか?一番のお気に入りだろ」

 

「口寄せは出来る様にしてあるぜ。今日は違うの使うんじゃん」

 

「この間作っていた奴か」

 

「……なんで知ってんだよ」

 

「水臭いね。子供の頃から散々傀儡談義に付き合ってやったってのに」

 

 言ってないはずなのに、と動揺するカンクロウの肩を、したり顔のテマリが叩く。さてはスパイがいるらしい。

 誰だ、と工房の近い傀儡師達を思い浮かべて、カンクロウは首を振った。どいつもあり得る。考えるだけ無駄だろう。

 

「お前は修理ばかりやって、自分では傀儡を作らなかったんだろう?どう言う風の吹き回しだ?」

 

「……ただの試作品じゃん。オレなんかまだ大したもん作れねぇよ」

 

 装束の袖口を固く握りしめ、小さく呟く。現在のカンクロウの渾身の作品など、『あの人』の傀儡に比べれば玩具のようなもの。操演の腕とて、未だ児戯に等しいのに。

 己に才能がないとは思わない。目利きの才があるからこそ、カンクロウは頂との歴然とした差を実感しているのだから。

 

「難儀な奴だな、お前も」

 

「余計なお世話……って、あ、待てよ!」

 

 テマリは呆れたように息を吐くと、鉄扇を担いでスタスタと歩き去ってしまう。カンクロウは懐の傀儡を押し込んで、慌ててその後を追った。

 

 

 つまらない幻術を揃って通り過ぎ、席に着く。先日のガキどもが騒いでいたが、努めて無反応を貫いた。我愛羅を無駄に刺激した所で、良いことなど一つもないからだ。

 

 程なくして入ってきた試験官が、試験の概要を説明していく。

 問題は十問で、持ち点10点からの減点方式。さらにカンニングの発覚で『2点』減点され、最後の一問は追っての明示とのこと。

 前調べ通り、この試験は情報収集技能を試すためのものらしい。ご丁寧なまでにカンニング前提が主張されている。

 

「忍びなら……立派な忍びらしくすることだ」

 

 試験官の言葉が途切れた瞬間、カンクロウは耳を欹てた。困惑したような声やパラパラと意味もなく紙を捲る音にまぎれて、躊躇いなく筆記用具を手に取る音が聞こえてくる。

 

 カンクロウはパッと細いチャクラ糸を出し、前方に座るその音の持ち主、木ノ葉の額当てをつけた青年の親指に絡めた。

 己の指にも巻き付けたそれは、傀儡に慣れたカンクロウでさえ認知できるギリギリの細さだ。傀儡に疎い木ノ葉の人間には、まず見留められないものだろう。

 

 ほんの僅かな衝撃で千切れかねないそれの動きを読み取り、青年の書いた答えを書き写して行く。一応教室の角に小型の傀儡を取り付けておいたが、そちらは使わなくとも良さそうだ。

 あっという間に解答を書き終えた青年は、答案を裏返すこともなく机の上に置いている。やはり試験官の一人であったらしい。

 

 最初の一文こそ答えを写し損ねたものの、2〜9問目を埋め終え息を吐く。用紙を裏返したカンクロウは、カンニングと取られない程度に周囲を見回した。

 

 我愛羅は、まあ何とかするだろう。ならばテマリは、と視線を流すと、バッチリと視線が絡み合う。

 

「………」

 

「………」

 

 しょうがねえ姉貴だぜ……。カンクロウはテマリの5指にしっかりチャクラ糸を巻きつけ、傀儡の要領でその指先を操った。

 

 テマリとて諜報の訓練を受けてはいるが、少々豪快過ぎるきらいがあるのだ。

 下手なことをして失格し、我愛羅まで巻き込んで退出するよりかは、カンクロウに任せた方が良いと言う判断だろう。

 

 テマリはいつもそうだ。カンクロウは密かに憤った。テマリは頭が良い癖に、カンクロウが同じ任務に着くとなると、途端どんぶり勘定になる。要するに、雑になるのだ。

 我愛羅はアレだし、割を食うのはいつもカンクロウだ。世知辛いものである。真ん中っ子は辛いじゃん………。

 

「ではここに残った全員に………第一の試験・合格を言い渡す!」

 

 虚仮脅しも難なく乗り越え、一次試験はそこで終了。それと同時に飛び込んで来た木ノ葉の上忍・みたらしアンコに連れられて、カンクロウたちは第二試験に臨むことになる。

 

 殺しもありのサバイバル試験。我愛羅の手綱を握ろうなどとは考えていないが、今から胃が痛い。きっと我愛羅は暴れ回るだろう。森を平らにしなければ良いが。

 

「使わなかったにせよ、諜報の痕跡を残すのは悪手だな。オレたちの目を誤魔化す程の手段があるなら、こっちも上手くやるべきだった」

 

「……ウッス」

 

 仕掛けておいた小型傀儡を回収しようとした所、試験官から向けられた皮肉と賞賛に、カンクロウはゲンナリした。全く、先が思いやられる次第である。

 

 

 

 幸いなことに、カンクロウの危惧は的中しなかった。我愛羅は八百長を持ちかけて来た雨隠れの忍び達を惨殺したものの、それ以外は至極効率的に試験を進めたからだ。

 カンクロウの仕事といえば、専ら【烏】で巻物と自分を持ち運ぶくらいのものである。

 

 試験開始から一時間と少し。制限時間も気力も殆どを使わない形で、砂隠れチームは第2試験を合格する。

 

「が、我愛羅……お疲れ様」

 

「………」

 

 第二試験を殆ど一人で突破し、最短記録を大幅に塗り替えた我愛羅は、テマリの言葉にも無言を返すと、そのまま何処かへ消えてしまった。

 

 ……なにはともあれ、1日目は終了である。

 




中忍試験編ってどうしても説明臭くなるんだよなぁ……。それをああも面白く描かれている二次創作家の皆様はマジで凄い。見習って(自戒)。

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