木偶に息 作:百合に
やや短め。次は長いと思われる。
第二次試験が終わった為、次の試験はひと月後。第三次試験こと中忍選抜試験本戦を待つばかり……であった筈なのだが。
「これより第三次試験・予選を執り行う!」
二次試験合格から5日後。担当上忍のバキを含む砂隠れチームは、三代目火影に呼び出される形で試験会場へと訪れていた。
どうやら二次試験での脱落者が想定より大幅に少なかった為、合格者を減らすことになったらしい。中忍試験規定に則って予選を行うことになり、全ての合格者が招集されたようだ。
火影から説明を代わった木ノ葉の上忍が仰々しい機械を示し、予選の形式を説明していく。
ここからは個人戦。コンピュータによって2名をランダムで選出し、1対1の戦闘を行うことになるらしい。勝者のみを本選進出とするとのことから、単純計算で半数は落とされる。
「災難だぜ……」
【烏】の中に籠ったまま、カンクロウは溜息を零した。
予選試合を行うことによるデメリットが最も大きいのは、間違いなく傀儡使いたるカンクロウだ。
傀儡術は仕込みが命。手の内を無闇に見せないという忍びの掟以上に、初見殺しが重要になってくる。
とはいえそれも、今後のことを鑑みる余裕あっての懸念だ。見たところ、合格者の中でも『ヤバい』のはほんの一握り。それも我愛羅には敵うまい。
うちはサスケ
vs
赤胴ヨロイ
モニターに2名の名前が映る。
木ノ葉の額当てをつけた優男風の青年が辞退し、予選出場者は20名。まあなるようになるだろうと、カンクロウは拳を握りしめた。
「しょ、勝者、カンクロウ!」
馬鹿正直に組み付いてきた音隠れの忍びを締め倒し、そのままノックアウト。毒や仕込み武器を使う必要もないような相手だ、訳もなかった。
【烏】に背負われ関節部を治しながら姉弟の元へ戻ると、テマリがげんなりした顔をする。
「首くらい付けてから戻ってきなよ……気持ち悪い……」
「辛辣じゃん……」
フィールドでは木の葉のくノ一達がボコスカと殴り合っている。いっそ子供の喧嘩のようなそれに、テマリが呆れ笑いを零した。
我愛羅は黙して語らず、ただ静かに佇むだけだ。戦いに昂揚するその性に幾度も被害を被ってきたカンクロウからすれば、妙に不穏に感じる静けさである。
尤もレベルが低い争いを見て興が冷めただけなら、あのくの一等には感謝しなくてはならないだろうが。
バキは……まあ殆ど置物のようなものだ。テマリの師である癖にテマリには弱いし、我愛羅に対しても言わずもがな。カンクロウの心労を軽くしてはくれない頼りないオトナである。
元々ただの連絡要員だというツッコミは聞きたくない。カンクロウは心労からやや心が荒んでいた。
「やっと終わったか……泥試合だったな」
互いにカウンターでパンチが決まり、ダブルノックアウトで両者敗退。電光掲示板にはテマリと木ノ葉のくノ一と思しき名が映り、カンクロウはチラとテマリを伺った。
その横顔に乗る表情を見て、思わず相手に同情する。精々甚振られる前に負けさせてもらえたら良いのだが。
「フン……やっぱり大したこと無かったね」
「おつかれ」
カコ、と【烏】の頭部をチャクラ糸ではめ直しながら様子を伺えば、試合を終えたテマリは足音も荒く帰ってくる。木ノ葉のくの一を訳もなく一蹴していたし、そう機嫌を悪くすることはないと思っていたのだが。
「どうしたんだよ。まさか相手に骨が無かったから不満、とか言わねえよな」
「言ってないだろうそんなこと。それよりもお前、いい加減傀儡から出たらどうだ。第二試験以降殆ど籠りっぱなしじゃないか」
「別に良いじゃん……」
ア・コレめんどくせー奴だ、と思いながら、カンクロウは大人しく会話に付き合った。思わず横目で我愛羅を見やるも、特に反応がないことにホッと安心する。
当然のことながら、テマリの試合も恙無く終わった。カンクロウもテマリも下忍ではあるが、実力はとうに中忍の基準を超えている。我愛羅が『中身』の制御をこなせるようになるまで、試験への参加を見送っていただけなのだ。
中忍試験の合格など、出来て当然、やれて当たり前のこと。作戦上は誰か一人でも本戦に出れば良いことになっているが、そんなことは関係ない。
だからこそ、『当たり前』を熟せなければどうなるか。二人の胸中には、常にそんな危惧が渦巻いていた。
軽口めいたやりとりは、それを誤魔化す意図もある。気が立っているのはテマリだけではなく、カンクロウも同じだ。
「…金髪が勝ったな。順当か?」
「や、番狂わせじゃん?周囲の反応的に」
カンクロウがテマリに絡まれている間も試合は続く。となれば話題は自然とそちらに向き、二人並んで観戦モードに入る。
着々と揃いつつある本戦出場者達は、なるほど、一癖も二癖もありそうな奴ばかりだ。木ノ葉の旧家・奈良の倅に、カンクロウに絡んで来た妙な金髪。名門・日向同士の争いは、分家の方に軍配が上がった。
勝因や戦法を好き勝手に講評していると、またモニターが切り替わる。
ロック・リー
v.s
我愛羅
対面では対戦相手である全身タイツの妙な男が、担当上忍と思しきよく似た風貌の男に、張り切った様子で送り出されている。
その晴れやかな表情を見て、可哀想に、とカンクロウは素直に同情した。
下手をすればあの忍びは、この試合で死ぬことだってあり得る。それも知らずに、哀れなものだと。
先程日向の分家が戦闘を止められていたが、同じく我愛羅の試合を『中止』させることなどできやしないだろう。
砂を使った我愛羅の戦闘スタイルは回避以外に殆ど対処法が無いだけではなく、我愛羅は殺しに躊躇をしないからだ。
殺しの経験があるか否かというのは、忍びにとって大きな分岐だ。一度殺せば、人を傷つけるハードルは大きく下がる。
見たところ、木ノ葉の下忍の大半は殺しの任務を経験させられていない様子だが、人数の不利を少数精鋭で補わねばならない砂隠れでそんな悠長なことはやっていられない。
その中でも我愛羅は特別な子供だ。実の叔父を手にかけたような、冷徹な忍びであるのだ。
虫の居所が悪かったなら、一瞬の躊躇いさえなく相手を殺す。そこに制止の余地があるとは思えない。
「……」
「が、我愛羅……」
何も言わずに我愛羅が組んでいた腕を解き、音もなく一歩歩き出す。その凄惨なまでの笑みを見て、テマリがヒュッと喉を鳴らした。
カンクロウも思わず冷や汗を流し、しかし強がりでどうにか笑みを作る。我愛羅は一瞬の緊張状態を気に留めることもなく、下層へ降りて行ってしまった。
妙に手持ち無沙汰な心持ちになった為、目的もなく周囲を見回す。一方的になるだろう我愛羅の試合の間、どうにか気を紛らわせたかった。
「がんばれよ、ゲジマユー!!!」
と、近くから能天気な声がして。
「? おいカンクロウ、どこへ行く」
「ちょっと情報収集してくるだけじゃん」
大したことは聞き出せないだろうが、時間潰しには丁度よかろう。なにより、『はたけ』カカシには興味がある。
カンクロウはクイっと指を曲げ、金髪頭の元へと【烏】を進めた。
「疲れた……」
金髪頭……うずまきナルトは、とことん無軌道な男であった。そのあんまりの能天気っぷりに、真面目に付き合う方が馬鹿馬鹿しくなってくる。
元より期待してはいなかった情報収集も、全く出来やしなかった。完全に無駄骨折らされたじゃん……とカンクロウは息を吐く。
それだけではない。それだけではなくて。
「我愛羅………」
木ノ葉の忍び達にはうまく取り繕えていただろうか。カンクロウがそんな当たり前のことに思い至ったのは、予選が終わったその夜、宿に帰った後のことだ。
同じく驚愕していたテマリにさえ心配されるほどに、カンクロウは動揺していた。
我愛羅の絶対防御が破られ、剰え対戦相手に翻弄させられたその光景が、目に焼き付いて離れない。
対戦相手の少年が我愛羅に再起不能な程の傷を負わされようとも、カンクロウは愕然としていた。
『中身』を使わなかったにしても、我愛羅は木ノ葉の下忍程度に砂の鎧を破られたのだ。ならば相手が上忍なら。火影ならば。我愛羅は呆気なく敗れるのではないか。
勿論カンクロウとて、砂隠れの武力が尾獣だけに頼るものだとは思っていない。風影を筆頭に、五大国が一つ・風の国の隠れ里に相応しい戦力を有している。
それでも木ノ葉からの勝利を得た見返りが、まだ未熟な人柱力を囮にするリスクに釣り合うとはどうしても思えないのだ。
木ノ葉崩しは果たして成るか。仮に成されたとして、それは本当に里の益となるものか。
「…………まさか、あり得ねえじゃんよ」
まるで砂を使い潰そうとしているようだなんて、そんなこと。ジリ、と嫌な冷や汗を掻いて、カンクロウはゆるゆると首を振った。
父が、風影が命令したことなのだ。あの人が他の何より里を第一に考えていることは、他の誰よりよく知っている。カンクロウ如きにも及ぶ考えを、風影が考えていないはずがない。
第一次試験、その最終問題を思い出す。理不尽で避けられない二択を迫られた問いに、カンクロウ達は正解した。
正解するしかなかった。退却する道など、初めから存在しなかったからだ。
それと全く同じこと。今更何を悩むというのだ。
そして来たるは中忍選抜・本試験。即ち作戦決行の日である。
作戦日の朝、父からの言葉は何も無かった。カンクロウはグッと歯の奥を噛み締めて、笑顔で朝食を下げる中居に礼を言う。
テマリはあからさまにピリピリしていたし、バキも硬い面持ちを崩さない。何より我愛羅の機嫌は、最悪を通り越してドン底だった。
我愛羅は生きとし生ける全てを嫌っているが、己に向けられた刺客に対しての憎しみは別格だ。
闇討ちに来た音忍を無惨に始末した我愛羅は、木ノ葉を一人で散策しに行ったときから低迷していた機嫌を更に損ね、そのひと睨みで人を殺せそうな形相になっている。勘弁してほしい。
訪れた試験会場では、多くの木ノ葉の忍び達が忙しなく周囲の警備を行なっていた。張り出された最新の対戦表を見るに、カンクロウは第三試合での対戦となっているらしい。
興味なさげに対戦表を一瞥したテマリとは異なり、我愛羅は喜色を浮かべている。本戦開始に次ぐ第二試合、我愛羅に充てがわれた対戦相手は。
「うちはサスケ……」
かつて木ノ葉の二枚看板であった大家、うちは一族の生き残り。我愛羅と同じ、昏い闇を飼う男。
初戦で当たるならば、その間に木ノ葉崩しが始まることもないだろう。待ち望んでいたその対戦に、我愛羅は歓喜の表情を浮かべている。
背負う瓢箪の中身が蠢く気配を、カンクロウは怖気と共に感じ取った。
金髪がどんでん返しで勝利を掴んだ第一試合、うちはサスケがまさかの『遅刻』をし、試合が流れた第二試合。
そして作戦を鑑みてカンクロウが棄権した第三試合の次は、テマリが臨む第四試合である。
「男が女に負ける訳にゃいかねえしなぁ………まあ、やるか!」
「!」
お願いだからテマリを煽らないでくれ……!カンクロウは頭を抱えた。作戦前から不安は募る一方である。本当に勘弁してくれ。
次回は今回より早く更新出来ると思われます。亀を許して