木偶に息   作:百合に 

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テストが終わったから全力執筆




 

 始まった戦いは、さながら鬼ごっこのような様相で展開した。

 

 うちはサスケがカンクロウを追い、油女シノはそれを援護。カンクロウはうちはサスケから逃げ回りながら、油女シノを【烏】で狙う。

 油女シノは木々を挟むようにして、直接攻撃が当たらないよう傀儡から距離を取る。傀儡で囲まれ挟み込まれれば、うちはサスケが強引に引き離す。

 

 一見油女シノがただ足手纏いになっているような構図だが、この『援護』というのがいやらしかった。奴の蟲に意図せぬタイミングで罠や傀儡を無力化され、何度もヒヤリとさせられている。

 

 更には洞察力が優れているのか、あの蟲使いは、カンクロウの行動に一定の法則を見出しているようだ。今もまた、鋭く警戒を促す声が飛ぶ。

 

「サスケ!その刃に素手で触れるな!毒が塗られている!」

 

「あァ!?……チッ!」

 

「目敏いじゃん。オレの武器には漏れなく毒が仕込んであるからな。掠り傷でも避けとけよ?」

 

 刃を蹴りで対処しようとしていたうちはサスケが身を捻り、チャクラを用いて空中で宙返りをする。

 文字通りの間一髪、頭のすぐ横を通過したナイフは火遁で無様に変形させられ、塗布した毒は一瞬で気化したようだ。

 

 カンクロウは親指と人差し指を捻るようにしてその頭部を回転させ欠けた刃を交換、今度は槍の形状のそれを振り回す。白刃の先から滴った液体が、柄を伝ってポタポタと垂れた。

 

「そのカラクリの内部に毒が仕込まれているのか……!例え替え刃が尽きたとしても、肌を裂く威力があるなら十分に武器なり得る……!」

 

「つまりどういうことだ、シノ!?」

 

「武器切れは期待できないということだ、サスケ!」

 

「元より期待してねーよ、そりゃあ!」

 

「お前ら愉快だな。そらッ!」

 

 小気味良い掛け合いに割り込むように、【烏】でうちはサスケを挟み込む。が、その瞬間、再び【黒蟻】が切り離された。

 蟲使いと【黒蟻】、カンクロウの並びはちょうど一直線。丁度いい、この瞬間を狙っていた。

 

 うちはサスケの攻撃が掠って出来た頬の出血に、袂から取り出した巻物をペッタリ付ける。即ち、口寄せ、

 

「【姫蜘蛛】!」

 

 煙と共に現れたのは、楕円形をした壺のような奇妙な物体だ。そこから小さなカラクリが飛び出し、カラカラと音を立てて後部のプロペラが回転。

 噛み切ったチャクラ糸を登ってこようとする蟲の元へ自走で突撃していく。

 

 チャクラ糸をただ『辿る』だけの機能を付けた蜘蛛型のオモチャは、途切れた線路の先、脱線事故の要因を作った油女シノへと飛びかかった。

 

「シノッ!」

 

「ぐッ!?」

 

 爆発。デザインだけで二日程こだわった造形が、気持ち良いほど無惨に破裂する。

 

 そんなものに無駄な時間を使うなとテマリには叱られたが、しかしカンクロウは傀儡師なのだ。造形だって拘りたいものである。

 現に自走式爆弾とは思えない繊細な見目は、敵の油断を誘うことにも繋がっているのだ。必要な工程である、と主張したい。

 

 ……無論、心持ちの話である。実際には言えない話だ。万一テマリの耳に入れば、十中八九殴られる。

 

 まあ造形の要不要はともかくとして、だ。

 この【姫蜘蛛】には、第二次忍界大戦時に流行した古い型組が使われている。貧しさから里存亡の危機に陥っていた当時、何故この(カンクロウ的には)傀儡とも呼び難いカラクリが流行ったのかというと、そこには極めてシンプルな理由があった。

 

 なにせこのオモチャ……材料が極めて安価かつ、仕組みが単純で簡単に製作できる為、大量生産が可能なのだ。

 

 

「そォらッ、大量だぜ!」

 

「ッ、マズイッ!」

 

 時限式なんて七面倒な仕込みは必要ない。追って現れた大量のカラクリが一斉に疾走し、手当たり次第に爆発していく。退避し損ねた蟲の群れが、機械仕掛けの虫に蹂躙される。

 

 肥沃な土壌を持たない風の国は、反面、昔から地下資源がよく取れる地だった。中でも火薬の原材料は、そこらの土を掘るだけで入手できたのだ。爆弾ほどお手軽な兵器が他にないのは、現代も同じ話である。

 

 上がる硝煙、土煙。回収した【黒蟻】を繋ぎ直せば、うちはサスケも仲間を抱えて離脱する。

 数発は攻撃をモロに浴びたようだが、【姫蜘蛛】はそのサイズ上高い威力を持っているわけではない。残念ながら、戦闘継続に支障はきたしていなさそうである。

 

「無事かよ」

 

「すまん、サスケ。問題ない……」

 

「埒が開かねえな……こっちがミスするのを待っていやがる。イヤな奴だぜ」

 

「お褒めに預かり光栄じゃん」

 

 カンクロウは傀儡使いとして求められる才能の一切を、平均を遥かに上回った水準で持っている。当然、“嫌がらせ”の才も例外ではない。嬉しい言葉である。

 

 とはいえ状況は厳しい。この分ではそう間を置かずに罠が切れるだろう。傀儡はまだまだ稼働可能だが、罠無しで二人とやりあえるとは思えない。

 

 『傀儡使いはジリ貧が常。どれだけ万全を起したところで、仕込みには必ず限度がある。それを如何に悟られず・されど誤魔化さずに戦い抜けるかが勝敗を分つ』。

 ……大丈夫、何一つとして忘れてはいない。

 

 

「……大体な……オレは親切心でお前らを止めてるんじゃん」

 

 少しでも時間を引き伸ばすべく、カンクロウは芝居がかった仕草で両手を広げた。

 傀儡師は、兎角ブラフと相性がいい。例え意味の無い些細な行動であっても、相手に緊張を与えることができるからだ。

 事実木ノ葉の忍び達は、距離を詰めずに身構えている。

 

「我愛羅に勝つとか、テメー本気で言ってんのかよ?我愛羅は……砂の誇る最強兵器だ。例え五影だろうが、アイツを倒すことは出来ねえ……いいや、倒せない方が幸せだろうよ。ソッチの方が、もっと酷い目に合う羽目になるんだからよ!」

 

「……どういう意味だ」

 

 余裕が無くなるほど、カンクロウは口が回るタイプだ。狂言が回れば調子も上がる。姉に詐欺師と呆れられる才能だ。

 

「アイツの中で眠るのは、四代目火影を殺した存在じゃん」

 

「!?」

 

 尾獣、という括りでいえば間違いはない。敢えて誤解される言葉を選び、カンクロウはニヤリと笑う。

 

 我愛羅が人柱力であることはもはや隠しようがない。我愛羅があんな人の多い場所で砂の腕を顕現させたのだ、木ノ葉の上層部には間違いなく情報が割れている。

 となれば、それもブラフとするべきだろう。利用できる分には利用しておく。砂の忍びとして、転んでもただで起きはすまい。

 

 『名誉の戦死』と公表された四代目火影の死因が『九尾』によるものであることは、各国に知られた公然の秘密だ。諜報大国木ノ葉と言えど、あれほどの被害が出た事件を隠しきることはできない。

 兄弟の中で一番風影の側に置かれていたカンクロウは当然それを知っていたし、夜叉丸に代わる人柱力の世話役として、戒めのように聞かされていた話でもある。

 

「アイツの中に封じられたバケモノは、謂わばこの世の天災そのもの!このオレ程度に足止めを食らうような奴らに、我愛羅の相手が務まる訳がねーんだ!」

 

 続けた言葉、こちらは掛け値無しの本音だった。カンクロウなど、我愛羅にかかれば瞬殺されて終わりだろう。圧倒的な暴力に、小手先の誤魔化しは通じない

 カンクロウすら容易く倒せないのであれば、勝ち目どころか勝負になるかも怪しいものだ。

 

 

 

「………」

 

 納得したか、それとも脅しすぎただろうか。黙り込んだ木ノ葉の忍び達に、思わず怪訝な顔をする。

 元より静かな油女シノは兎も角、うちはサスケが言い返して来ないことに疑問を覚えたからだ。

 

 しかし……そんな疑念を払拭するように、うちはサスケが顔を上げた。

 

 

 

「………天災そのもの?砂が誇る最強兵器?……それがどうした」

 

 齢十三の少年のものとは思えない低い声が、底冷えする声で言い放った。

 昂った時の我愛羅と同じ、深い深い闇の色。自分以外の何をも信じまいとする、裏切られた者の絶望が、言葉の上に塗り重ねられている。

 

「生き急ぐなだの、復讐は諦めろだの……御託はもう聞き飽きてんだよ。火影を殺したバケモノだと?結構なことじゃねーか」

 

 一度言葉を切った漆黒の少年が、一呼吸置いて目を瞑り、開いた。

 勾玉が踊る真っ赤な瞳。うちはが誇る写輪眼。この戦いの最中、幾度も見たその煌めきが、一際赤くカンクロウを見つめている。

 

 否……奴はカンクロウを見ているのではない。目の前の少年はこの言葉越しに、我愛羅のことを見据えている。

 

 

「オレはいつか、火影より強い男を殺す……!」

 

「!」

 

「オレは、こんなところで、足踏みしてる場合じゃねーんだ……!」

 

 初めて見た明確な殺意。それと同時、うちはサスケの白い頬に、奇妙な形の影が浮かぶ。

 酷く崩れた文字のようなその黒が、斑に少年の肌を侵食していく。視認できるほどの禍々しいチャクラが、少年を中心として滲み出す。

 

 

 

「……オイオイ」

 

 

 

 味方であるはずの油女シノがたじろぐほどに、うちはサスケは殺気立っていた。つまりは……完全にヤル気、という奴である。

 

 マズイ。煽りすぎた。カンクロウは笑みも繕えずに顔を引き攣らせた。

 チャクラ糸を手繰りながら、こりゃ死ぬかもしれねーなと内心で姉に詫びる。

 

【傀儡術】

 

 お決まりのように一拍手。向き合い、構え、仕込みの全てを打ち込む覚悟をする。

 きっと最後になる攻防が始まろうとした……その時だった。

 

 

 

 

【ウ、グ、ガ、アア、ウアアァア!!!】

 

 

 

「!?」

 

 天を裂くような絶叫、次いで立つことさえ難しいような地震。カンクロウが思わずそちらに気を取られたのと同じく、うちはサスケも構えを解く。

 遠く森の向こうから、試験会場のものとは比べ物にならない程に巨大な腕が出現していた。

 

 

【───ァ──】

 

 

 空を掻きむしる尖った掌が地面に叩きつけられ、再び揺れが起きる。立つことさえ儘ならない状況下尻もちをつくと、立っていた場所に地割れが走った。

 

 

【───ォオ────ア、アア───!!】

 

 

地獄の門が開いたならば、きっとこういう音がするだろう。そう思わせるような叫び声の重低音が───

 

 

【───ヒャッハー!!!】

 

 

「!?」

 

 ───甲高い、耳障りな『声』に掻き消される。

 

 『声』。あの声だ、とカンクロウは悟った。瞬間、ヒッと喉の奥が引き攣る。

 それは純粋な恐怖だ。『風影』の得体の知れなさとは違う、もっとわかりやすいモノ。生物として根源的な、命を脅かされる恐怖だった。

 

 

 

 あれはまだ我愛羅の世話役につけられたばかりの頃、父が手配した我愛羅への『暗殺者』を、初めて見逃したときのことだ。

 良くしてくれた暗部の彼が、母・加瑠羅を象った砂でもって圧殺された所から始まる惨劇を、カンクロウは鮮明に記憶している。

 

 忠実なる『刺客』が惨殺されるのを無感情に眺めていた父は、カンクロウが身につけた『工具』が引き寄せられたことで、初めて焦りを見せたと思う。

 それと同時、地面の染みを苛立たしげに踏みつけていた幼い我愛羅の様子が……唐突に一変したのだ。

 

 あの日我愛羅は笑っていた。その口から溢れたのは、あの甲高い奇妙な『声』だった。我愛羅を守るように渦巻いていた砂は、明確な殺意を伴って暴れ回っていた。

 

 父は砂の刃が飛び交う我愛羅の部屋へ飛び込み、そして我愛羅をねじ伏せた。

 父と我愛羅が戦っているのを見たのは、それが最初で最後のことだ。

 

 傷だらけで帰ってきた父は、我愛羅が【眠った】のだと忌々しげに言った。それを何より避けよとも。

 

 以来、カンクロウは我愛羅の睡眠の管理を慎重に行なってきた。我愛羅が眠ろうとするタイミングでは周囲で悪感情の類が起こらないよう努めたし、眠りに抗っている時は恐怖を押し殺して話しかけていた。

 ……思えば、木ノ葉に来てから。それが甘くなっていたかもしれない。

 

 

「……我愛羅が【寝ちまった】……オヤジはいない……オレは……どうすれば……」

 

「寝た……?おい、どういうことだ!アイツが何かしたのか!?」

 

 うちはサスケの声に応える余裕もなく、カンクロウは思考を巡らせる。

 

 逃げろと理性は言っている。逃げて生き延びろ、少しでも多くの情報を持ち帰れ。叩き込まれた諜報の知識を、忍びとしての判断力が引っ張り出す。

 ああなってしまえば、もうおしまいだ。父から磁遁を受け継げなかったお前に、出来ることなどありはしない。あれは【天災】だ、さっさと逃げろ、逃げるべきだ!!

 

 

 

 ……でも、あそこには……オレの『家族』が。

 

 そんな思いが過ぎれば、もう駄目だった。

 

 

 

「チクショウッ……!」

 

「おいッ!どこに行くッ!?」

 

 

 

 【烏】と【黒蟻】だけは巻物にしまい、他の罠は気にせず捨て置く。駆け出そうとするが、揺れる地面では木に飛び乗ることも難しい。

 どうにか幹の天辺にチャクラ糸を引っ掛け、ブランコの要領で木から木へと飛び移る。

 

 膝がガクガク震えている。糸を掴む腕だって、これ以上ないほど無様なものだ。

 それでも……それでも、行かなければ。

 

 傀儡師ではないただの人として、カンクロウは走った。

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

「パックン?」

 

 森をひた走る影が三つ。その先導を務めていた四つ足の小さな獣が、スンと鼻を鳴らして前方を伺う。いち早くその挙動に気が付いた少女・春野サクラが、怪訝げにその名を呼んだ。

 世に忍犬は数あれど、人語を操るものなどごく少数。その極めて稀な一匹であるパックンは、嗅ぎ取った匂いに目を丸くする。

 

「…コレは……」

 

「どうしたパックン!?もうサスケに追いつけんのか!?」

 

 パックンが溢したその言葉に、少年……うずまきナルトは希望的観測に満ちた問いをする。しかしパックンは、小器用にも首を横に振り。

 

「いや……『分からん』」

 

「はァ!?どういう意味だってばよ!?サスケの匂いが消えちまったのか!?」

 

「そうじゃない……そもそも匂いが嗅げねーんだ」

 

 その言葉を受け、少年少女はコテンと首を傾げる。彼らは所属する第七班の班長、はたけカカシに命じられるまま、この賢しい忍犬の先導に従ってきた。それは偏に、突出したもう一人の班員……うちはサスケの追跡のためだ。

 人間なぞより何千倍も優れたパックンの鼻は、正確に仲間の匂いを辿ってきた。その嗅覚は、第七班と共にサスケの追跡を命じられ、そして自ら囮として道中に残った同期の忍び、奈良シカマルの作戦成功を嗅ぎ取るほどのものである。

 

 にも関わらず、ここに来て突然の先の発言だ。困惑するのも無理はない。

 しかし人間以上に困惑した様子のパックンは、心底解せぬといった調子で言葉を繋げる。

 

「コレは……なんだ?あまりにも……デカすぎる」

 

「それって……」

 

 地面が揺れたのはその時だった。

 

 

 

【ウ、グ、ガ、アア、ウアアァア!!!】

 

 

 

「いッ!?」

 

「キャッ!……って、ナルト!?アンタ大丈夫!?」

 

 遠くから聞こえた雄叫び。一匹と二人は同時に体勢を崩し、大樹の根元ヘ退避する。しかし足元の揺れ以上に、ナルトはその絶叫が『痛かった』。

 様子がおかしいナルトに駆け寄るサクラ。好きな女の子が自分を心配してくれるという普段ならば狂喜乱舞していい状況で、ナルトはジンと痺れる頭を抱える。

 

 

【───ァ──】

 

 

【───ォオ────ア、アア───!!】

 

 

 

 『声』が小さくなっていく。声が、出せなくなっていく。苦しい、辛い、耐えられない────寂しい。

 

 痛いほど分かるその心が、どんどん小さくなっていく。

 ……だから、ナルトは決意したのだ。

 

 

「────行かなくちゃなんねーってばよ」

 

「はァ!?って、ちょ、ナルト!!!っ……ああ、もうッ!」

 

「オイ、お前らッ!」

 

 飛び出したナルト、次いでサクラが走り出し、慌ててパックンがついて行く。

 役者は揃った。しかして、事態は収束し始めたのである。

 





……当時、僕は小学校に上がってさえいませんでした。僕はお母さんの隣に座らされ、いつものようにハッピーセットを開けて、ワクワクしながらビニールを破ったものです。
そしたら……いたんですよ、“”アイツ“”がね……!

それがナルトとのファーストインプレッションです。なんでアレ捨てちゃったんだろ……ほんと後悔しかない
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