そこは深く暗い陰惨な空気に満ちていた。天然の光源など微塵も存在しない、静寂が満ちた空間。感じ入るのはどこまでも広がる、常人では感知できない異様な感覚。しかしそこには、巨大と称しても足りない圧倒的な存在が、黄金の玉座に静かに座していた。
光源がないために、本来の輝きの数分の輝きも見えず、だというのにその黄金は昏い輝きを伴って、次第に辺りを照らし出す。
音も無いというのに、脳内に反響するかのようなその存在が生み出す声は、笑声と称する以外に形容できない音だった。その存在、黄金の獣と称されるラインハルト・ハイドリヒという男は、その玉座に備わる肘かけに優雅に片肘を駆け、口元に絶えることのない笑みの形を浮かべていた。
髪の色と同じく不気味に輝く黄金の瞳には、つい先程顔を合わせた異世界の住人の姿が映し出されていた。自分達と比べても、存在の種族だけで言えばラインハルトと比べても、見劣りしない怪物。その戦闘の程は、自身の部下であるヴィルヘルム・エーレンブルグと激突しても、見劣りしないそれを見せてくれた。
それだけでも十分に価値のあるものだったと言えるが、それ以上に彼と相対して尚、消えることのなかった戦意の光は彼にとってそれ以上に価値のある眩しきものに感じていた。やがてその感動を内に留めておくことができなくなったのか、ラインハルトは遂に笑声を口から響かせ、彼と唯一対等の男に向けて言葉を投げた。
「見ているのだろう?我が盟友カールよ。いい加減、その姿を私の前に現したらどうだ?」
愉しげな彼の声が、果てしなく広い空間に木霊する。そしてその声を受けて数秒の後、ラインハルトの声と存在以外感知できることの
なかった空間に、同じく笑声と不気味なほどに暗い存在感を伴って、影絵のような男の姿がゆっくりとその形を空間内に為し始めた。
「おや?気付いておられましたかな獣殿?」
「当然だ。というより、そんなことは卿も知っていただろうに。相も変わらず、誤魔化すのが得意な男だな。その性格だけはなんとかならないのか、カールよ」
「それはそれは。何分こういう性分なもので、どうか勘弁願いたい。そもそも、私の性格がどうであれ被害を被る者など今更いるとは思えないのだが」
「口は達者のようで何よりだ」
言葉は責めるようなものでありながら、その実全く思っていない事を言うラインハルト。対するカールと呼ばれた男も、そんなことは初めからわかっているのか、特に反論することもなく答えを返している。それも当然の筈だ。彼らの間に交わされる会話など、大概そんなもので両者共にその事は熟知している。
伊達に長い付き合いではないし、そのようなことで仲違いをするような狭き関係でもない。これが他の団員とならそうでもないであろうが、彼らに至ってはその限りではなかった。そんな下らない会話を何分か続けると、やがて本題を切り出す様に再びラインハルトの方から切り出した。
「ところで、此度のこの戦について何か私に話しておくことはないのか?言葉が少ないのはいつものことだが、今回ばかりはそれでは納得できないことも多々あると思うのだが」
「ふむ、確かにあなたの言う通りかもしれないな。他の団員は兎も角、あなたに対しては言っておくべきかもしれぬと、私も先ほどから考えていたところだ。盟友として、その程度であれば答えよう」
「フ、では存分に卿の言葉に甘えるとしようか。此度の趣、一体どのような趣向によるものだ、カールよ。聖餐杯にはああいったが、実際の所は私もかなり驚いているのだが」
「そうですな、それについては私も謝るべき所が満載なのでしょうが、まずはあなたの問いに対する答えを返しておくとしよう。とは言え、私も突然に思いついた事なので、説明の拙さについては深く言及しないで頂きたい」
「構わんよ。そのような些事、元から気にするような性質ではないのでね」
ラインハルトは含み笑って、カールに言葉を返す。対するカールも、それは初めから予期していた答えなのか同じく笑って返すだけ。
本音としては、この男にしては珍しくもう少しだけこの会話を楽しんでいたいと思っていたのだが、あまり盟友を待たせるのも悪いと思ったのか、それは心の内に留めておいて説明を始める。
「今回のこの事態に関して言えることと言えば、たまには趣向を変えてみようと思ったまでの事。どれだけ未知を求めて行動しようと、結局のところありきたりな既知の結果にしか辿り着けない。だというのならば・・・」
「いつぞよ卿が言っていたことかな?卿曰く、盤上をひっくり返し、取り払ってしまえば良いと。成程、此度のこの事態はそれを体現したものだと言いたいのだな?」
「言葉にするとチープなものに成り下がるが、結局の所そうなりますな。それで獣殿、あなたはこの結果に異論でも?」
「それこそまさかだよ、カール。卿は昔から常人にも偉人にも理解不能な行動を繰り返す男ではあったが、そのどれもが私にとっては愉快なものであることは事実だ。現に、今の私がこうあるのも、卿の仕業であろう?」
からかう様にラインハルトがカールに言うと、彼はその言葉の意味を噛み締めて声を漏らして笑みを浮かべる。狂ったように笑う様は正に狂人。されど、その笑みは心底嬉しそうでいて、心底滑稽なようであった。そんな悦に入っている盟友を見て、ラインハルトも笑みを浮かべるが、続く疑問が幾つもあるために申し訳なく思いつつも、彼は問いを重ねる。
「では次だ。聖餐杯が疑問に感じていた疑問。それについてはどうなっているのだ?私としては、卿に限って彼の言うような失策は犯さないと思う反面、卿ならば彼の言う通り知っていて静観するようにも思える」
「聖餐杯・・・というか、彼の言う身体の違和感の件ですかな?」
「それと、彼の言う疑問についても是非聞いておきたいところではあるな」
「なるほど。と言っても、彼の言った通りの事が九割を占めているといっても過言ではないのだがね。彼の感じた疑問も、獣殿が今感じている疑問も、その答えについてはもう彼が結論を出している。それでもあえて言うのであれば、私にとってこの状況は想定していない事態ではなかったということ位ですかな」
「ほぅ?」
それでと、続きを促すラインハルト。カールはそれに笑みをもって応え、久方ぶりの盟友との受け答えに応じる。
「私とて、獣殿や団員の思っているほど完全な存在ではないのでね。出来ることがあれば、出来ないこともある。そもそも、何でもできるのであれば、私の目的もあなたの目的も総じて果たすことは容易いことだ。しかし、結果として私が完全な存在でないがためにそれはできない。此度の件もそれと同じだ。
私が出来たのは、我らの黒円卓の団員を可能な限り無茶のない方法で、この未知なる世界に招き入れることができたというだけのこと。それ以上を不用意に望んでは、結果は果たしえずただ無駄な結果に終わっただけとなってしまう」
「つまり、簡単に表現するのであれば理には逆らえぬという事かな?」
「その解釈で間違っていないかと。元の我々の世界であるならば兎も角として、この全く未知の異世界の理ともなれば流石に不用意に接触することは容易ではない。そもそもこの地自体、言うなればシャンバラ似たような地と表現しても過言ではないのでね。何せ、外界との接触を結界によって断ち、あらゆる異界との接点を持っている地だ。
余りに高度であるがために、不用意に触れれば我々とてただですまない可能性も無きにしも非ず。最悪の場合、我らの世界とこの異世界が干渉を強めてしまい、本来絶対に関わりえることのない理同士が衝突し、対消滅を起こす可能すら起こりうる」
「故に、あまり私たちの世界の法則をそのまま持ち込むわけにはいかんと。そういう事かな?」
「然りだ、獣殿。突出した力というのは、それを治める突出した器があってこそ十全に発揮できるというもの。しかし、それを求めるには此度我々がやってきた地というのが狭すぎる。だからこそ、大きすぎる力にはそれなりの処置をしなければならない。我ら二人は元より、三騎士、そして貴方の器を持つ彼」
「成程、彼らには少し不自由を与えることになるかな?尤も、その程度で揺らぐものでもあるまいが。シュライバー辺りは、色々と不満を溜め込むだろう。とは言え・・・」
ラインハルトが不自然に言葉を切った。しかしその視線が、隣にいるカールに向けられていることからその意図は明らかだ。彼は目を瞑ってクスクスと笑うと、彼の言葉を引き次いで語りだす。
「本来なら有り得ぬ出会いだ。であれば、多少の不都合には目を瞑ってもらいたい。そして、その不満で目を曇らせずに、しっかりと相手の器を見極めてもらいたい。待遇に不満を持つ事はあれど、用意した舞台と敵の器は見劣りするものでは決してない。魑魅魍魎の類から、鬼に仙人に神仏。いずれも、粒揃いの品揃えだ」
「確かに。宣戦布告しかしていないものの、久方ぶりに心が躍る見世物ではあった。それで、話が変わるがカールよ。卿は今回はどうする気かね?」
「どうするとは、それは私が此度の戦に出るのかという問いですかな?」
「聞き返すまでもないだろう?先程から話を聞いている限り、卿の言葉にはまるでやる気が感じられない。いや、やる気が感じられないというのは誤解を招くかな?」
「・・・・・・それについても、獣殿、貴方の想像通りだと言っておきましょうか。私は今回の戦については、出ようとは思わない、否。出るわけにはいかない、とでもいいましょうかな?それは先にも答えた通り、我らが十全の力を発揮できないが故にという意味でもあるし、出すわけにもいかない為でもある」
カールは先程まで浮かべていた笑みを消し、ラインハルトに忠告するように告げる。彼はそんなカールの表情を見て小さく驚きの声を漏らし、自身も先ほどまで浮かべていた笑みを消す。それだけで周囲の空気が何倍にも重くなったように感じるが、カールの言葉はそれ以上に空気を重くしていく。
「我らがその力を不完全ながらも発揮するとなれば、それは聖遺物の第四位階"流出"を発言することに他ならない。常であれば、我らが世界でそれを行うのであればそれは全く問題がないでしょう。だが、この世界、この地に限ってはそれは最大のタブーに他ならない。流出の位階は、全ての力を出し切って発現させてこそ意味あるものと成り得るものだ。
それを中途半端な力になった我々が行えばどうなるか。答えは私としても予想に過ぎないが、その時はこの世界は、というよりこの土地に存在する者達、我らも含めその全てがこの世との接点を絶たれ消滅することになりかねない」
「・・・・・・卿は予想に過ぎないというが、それはほぼ確定的なのではないか?」
「確立としては高いと言える。何せこの幻想郷という土地は、外界と隔離され独立した世界な上に、この地にいるのは皆幻想の存在と言うべき者達だ。人々から信仰を失い、存在を忘却された者の集う場所。だからこそ、神や人外の集うべき場所と言えるのであろうが、この地に来たからには我々にもそのルールは適用されているようだ。
とりわけ、異能の力が強い者はそのルールに引きずられる。異能の塊である我々が、万が一にもこの地を掌握しない内から流出を使えばどうなるか・・・」
「理に従い、幻想となって消える・・・か。成程、元の世界では考えられない事だったが、そういう展開にも成り得るわけだな?」
ラインハルトはカールの結論を聞いて、驚くどころか寧ろ愉しそうに言った。そんな彼の表情を見て、ついつい笑ってしまうカール。
「全く、貴方と言う方はつくづく常人の考えられぬ方へと行かれる方だ」
「何、卿なら私がこう答える事など分かっていたことだろう?とは言え、全てが為せるまでは約束は守ろう。私が出しても、創造までに止めておくとしよう。私としても、卿の言うような結末は望んでいないのでね。それに・・・」
「ええ。此度のこれは、あくまで戦というよりは遊びに近い戦いだ」
「物語に例えるならば、本編とは関係のない番外編と言ったところかな?とは言え、それでも未知が得られるというのであれば踊ってみるのも一興と言うものだ。カールよ、卿の用意した舞台、確と楽しませて貰うとしよう。卿がどうするにせよ、卿なりに楽しむと良い」
「言われるまでもなく。私としても、異世界の住人が我々相手にどれだけ戦えるのか見てみたい気分でもある。我が息子よ、せいぜい励めよ。女神がお前に付いている以上、無様な結果は許さんよ」
カールの言葉を最後に、再び空間に闇が差し込んだ。それは段々と深まっていき、やがて完全に闇に閉ざされたが、最後までカールとラインハルトの笑声が途切れることはなかった。それはまるで、終わることのない闘争を体現しているかのようであり、酷く不気味なものに聞こえた。
超設定捏造回でした。
二次創作とは言え、やり過ぎた感じが否めない。
なので、コレのせいで不快になられた方はすみません。
無理あり過ぎじゃね?とか思われたら、これ以上は読まない方がいいかもしれません。
いかんせん、この設定で行くと両原作の設定ブレイクに繋がるかもしれませんから。
気にならない心が寛大な方はどうぞこれからもよろしくお願いします。
後、Chapter2からは少し更新が遅れるかもしれません。
中盤と後半のエピソードの構想は練り終わっているのですが、そこに至るまでのつなぎがアレですので。
ニートさんの口調が難しく、何か鬱になりそうになった作者でした。
デハノシ