ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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それは、言葉にできない引っ掛かり


違和感

「━━━このわたしなんぞ、もうとうの昔に神をやめるべきだった…ピッコロなどという恐ろしい悪を生み、その力は神をも超え世を混乱に陥れたのだ」

 

 ずっと、引っかかっていたことがある。

 

「そこんとこだけどよ、神様…あいつ、本当にそんなに悪いやつだったのか?」

「孫!?」

「お、おい悟空!何急に言い出すんだよ!?」

長年、疑問に思っていたのだ。

「前のピッコロは、確かにひでえことしてたし、オラも許せねえって思ったし、倒したけどよ…オラ聞いちまったんだ」

そう言う悟空は、自分の掌を複雑そうな顔で見下ろしている。

「き、聞いたって何を…?」

「誰かの名前じゃねえかな…爆発する前に、すげえ寂しそうな声で『ムギ』って言ってたの聞いちまって」

ずっと自分の中に残っていた引っかかりを、勘違いではないということをそうして弟子が裏付けてしまった。

「そ、その名は…」

「『ムギ』と、確かに言ったんじゃな悟空?」

神様が言葉を濁らせているのを割って入るように聞けば、頷きが返される。

「神様もご存知のようですな、ムギと呼ばれる方を」

「…三百年前、ピッコロよりも早く封印された、この地球の『星の魔女』だ」

重々しく言いづらそうな口振りでそう言われて、辺りを緊張が覆った。

「ま、魔女!?」

「ふ、封印されたってことはやっぱピッコロ大魔王を同じくらい悪いやつってことか!?」

 魔女という称号、ピッコロ大魔王の縁者となれば当然の反応だろう。何も知らなければ、自分も同じ反応をしていた。

「わしは会ったことないが、占いババが話したことがあると生き返った後に教えてくれたんでな、色々と聞いてみたんじゃ」

 

 

「『星の魔女』…そんなの初めて聞いたんじゃが」

 

生き返った自分の様子が気になるからと、そんな言い訳でやって来た姉が語り出した内容は新しい発見に満ちていた。

「ムギ様は表舞台に出るのを避けておったからのう。魔術・魔法に通じる者か、ボーロ樹海の近くにいる村出身でなければ知ることもなかろう」

「名前の通り、魔法を使うのか?」

「それだけではない。何百年経とうと老いることのない体と、地球そのものを癒し守る力を持ちながら、神でも魔族でもない『人間の突然変異』…まあ、人間離れした人間とでも思え」

占いババの言葉の端々から魔女への敬意がにじみ出ていた。

「なんじゃそれ…神様と何が違うんじゃ?」

「神は星の管理をするが、星の魔女は星と共生するのじゃ。基本的に下界に手を出さずに見守る神は最悪星を滅ぼすことも仕事のうちじゃが、星の魔女は星が死ねばほぼ確実道連れになるのでな、なるべく自然も人も滅びないようにと積極的に関わるのじゃよ」

「なんと…!」

「“機嫌よくのんびり生きながら、ちょいちょい環境を改善していけば基本的には問題ない仕事だよー”と気楽におっしゃっていたんじゃが、さっきも言ったじゃろう?ムギ様は目立たないようにしておられたんでな、誰にも感謝されずに自分にしかできない仕事を黙々とされておった…星の魔女になる以外の選択肢など、生まれた時からなかったというのに」

「ふむ…」

神の地球に対するスタンスをそれまで聞いたことがなかったのももちろん、影から地球をずっと支えてきた縁の下の力持ちの存在に驚く。神ではないと言うけれど、その立ち振る舞いは神のそれではなかろうか。

 

「ある日つい聞いてしまったんじゃ、寂しくないのかと。そしたらのう…頬を赤くして言うんじゃよ、“一緒に長生きしてくれる旦那様見つけたから、もう大丈夫”と」

「だん……待て、まさか…」

そこまで来て、ようやく何故この話を突然しに来たのか理解した。

「……ピッコロ大魔王が暴れ始めた時、わしはボーロ樹海を確認しに行ったんじゃ。あの方がこれを許すわけがないと、きっと何かあったに違いないと。そしたら…」

「そしたら?」

「よくわからん大きな水晶のようなものの中に封印されておった。何がどうしてこうなったのか、なんとか封印を壊せないかとしばらくあれやこれやしておったんじゃが、うっかりピッコロ大魔王に見つかってな」

「ねーちゃんそれ初耳じゃぞ!?」

「墓まで持っていくつもりじゃったからな」

姉らしかぬ無鉄砲さに、思わず椅子から立ち上がる。さらりと爆弾を落とした占いババは、問題はそこじゃないと言わんばかりに話を進める。

「まあとにかく、見つかったわしは死を覚悟しながらもお前が封印したのかと聞いたんじゃ。そしたらあっさり違うと返された。驚いていたら“封印を解けないなら立ち去れ、人間。二度も見逃す気はない”と言われてな、その言葉に嘘がないのは火を見るより明らかじゃった」

きっと震えるほど恐ろしかっただろう。当時の恐怖が伝わってくる口振りから溢れる言葉は、しかしえもいわれぬ哀愁を纏っていた。

「わしはやつの気が変わる前に逃げた。逃げて、逃げて、ずっと逃げ続けて…気づいたらお前の師匠がピッコロ大魔王を封印していた」

自分があの時感じていた無力感に近いものを、姉も感じていたのかもしれないと思うと、もう言葉が出なかった。

 

 

「…武泰斗様も何か引っかかっていたようでな、こちらを嘲笑いながらも妙に寂しい目をしていたと言っていた。最初は何を言っているのかと思ってたんじゃが、武泰斗様の言葉はずっと頭の隅に残った。何しろ、ピッコロ大魔王は急に現れた…世界征服を始める前はどこにいたのか、何をしていたのか、どうして暴れ出したのか、本当に何も知ることなく終わってしまったからのう」

神様に目を向けると、呆然としているかのように固まっていた。

「神様、前のピッコロも、今ここにいるピッコロも、間違いなく悪人です。罪を犯した以上、そこは紛れもない事実です。しかし…『悪』以外何もないと言うのは、いささか早計ではありませんかな?」

間違いなく、神様は動揺されていた。急に階段の段が1つ消えたかのような、困惑。

 

「神様」

そんな苦悩の霧を晴らすかのように、悟空が呼び掛けた。

「孫…」

「さっきも言ったけど、ピッコロがまた悪さしたらオラが止めるからさ…殺すのはとりあえずやめといてくれねえか?」

その声は、懇願に近い何かが込められていた。

「なんとなくだけどよ、オラとピッコロ、あんまり変わんねえ気がすんだ」

「そっ、そんなことは━━━!」

「あいつは、必死だった」

神様の言葉に被せるようにして、身も心も随分と大きくなった弟子が言う。

「オラ、今でもよく勝てたなって思う。それくらい、必死だったんだ。ちゃんとオラを見てるんだけどよ…本当に倒してえのは、オラのさらに向こうにいる『何か』だった」

 

「なあ、神様…そのムギってやつ、本当に封印されなきゃいけねえやつだったんか?」

 

 悟空の質問に答えが返されることは、ついぞなかった。

 




聡い人は結構引っかかってそうだよなーと
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