ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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遅れてやってきた絶望


信じたかった者達

「ん゛ーーーー?どっかミスってるわこれ…ここ綺麗に合うはずなんだけどなぁ」

原作登場時より滅茶苦茶早い段階でダーブラに遭遇すると言う衝撃の出会いから、どれくらい過ぎただろうか。

 

 図書館にいても体の中にいても時間の流れが全くわからないのは困った。ピッコロに今何年何月何日?と聞くのは現実的ではなかったし、ダーブラは滅多に来ない上に聞こうと思った時にはもういなくなっているのでヒントすらほとんどない状態だ。図書館にある本は全て読み切ったので、少なくともその分の時間は経過しているはずだ。

「上から全部チェックしていくしかないか…ここは、確か……あったあった、この本だ」

色々調べたものの、結局内側から封印を解く方法はなかった。どういった類の封印かは分かったが、肝心の弱点が『外側からの衝撃に弱い』だったので早々に匙を投げた。そう来られるともうピッコロに任せるしかない。どれくらいの衝撃で封印が解けるのか全くわからないけれど、まだ封印されたままなのでピッコロ一人ではそう簡単に到達できない領域だろう。

「えーっと……うん、ここはあってる。じゃあ次は…」

縛りに関しては『つけたやつ倒すかゴリ押しで壊せ(意訳)』と書かれていたのでストレス発散をかねて思いつく限り罵詈雑言を吐いておいた。ハードモードなんてレベルじゃない。

「……ん?んん??……あっ…アホじゃん私、マジでただの見落としじゃん。ここにこうして…ほーーら綺麗に合ったぁ!おマヌケ!」

 全ての本を読み終えた後、私は手に入れた知識を元に研究を始めた。研究といっても体がないので実技は実験はできない。全部紙の上だ。戻ったらやることがとにかく多いので早いうちに分身かその類の術を習得したい。体ひとつじゃあとてもじゃないけど時間が足りない気がする。

 

 不安がないと言えば嘘になる。

 大魔王になっていなくても彼が封印される可能性はあるし、歴史がしっかり修正されて大魔王が誕生してしまって本来の流れどおりに封印されててもおかしくない。

 私はこうして限定されているとは言え、封印されていながらも自由を手に入れられた。でも、彼はこういかないだろう。少なくとも原作では彼に全く自由はなかった。狭い場所に三百年近く押し込まれっぱなしなんて、想像を絶する苦痛だろう。それを経たピッコロは、もう私が知る彼じゃないかもしれない。

 それでも、信じるしかなかった。

 

 “ムギ”

 

 彼が諦めないことを。私とまた、なんでもない日々を送りたいと願い続けていることを。

 

 今もまだ、私を愛してくれていることを。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「…この人が、ムギさん?」

「そうだ。今の俺達ならこの水晶を壊し、彼女を開放することができる」

 

 サイヤ人と戦う前にどうしてもやっておかないといけないことがあると言われて、僕はピッコロさんに連れられてボーロ樹海というところに来ていた。

 ボーロ樹海は他では見ないような生き物達が生きていて、気をつけないとすぐピッコロさんを見失ってしまいそうなくらい植物が隙間なく生えている。サイヤ人がいなくなって、もっと大きくなったら、ここに来ていろんなことを調べてみたい。そう思うくらい生き生きしている森だ。

 

 水晶の中にいる女の人のことは少しだけ教えてもらった。星の魔女っていう地球にとってとても大事な仕事をしている人で、戦いでボロボロになった地球を綺麗に治す力を持っているんだとか。

「これは、父の悲願だ…俺達以外のやつには任せられない」

打倒サイヤ人とはまた違った真剣さで、ピッコロさんが言う。きっと、ピッコロさんのお父さんにとって、とても大切な人なんだろう。

「ピッコロさん」

「なんだ?」

「この人は…おじさんの、お母さんなの?」

いつも眉間に皺が寄っていた厳しい目付きが、驚きで丸くなる。その目は何度か瞬きした後、女の人の方を向く。

「……そんな未来が、あったのかもしれないな」

返事の声は小さくて、なんだかピッコロさんに似合わないくらい弱く聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 僕達が全力の一撃を同時に当てた瞬間、水晶に大きなヒビが入った。

「やった!おじさんやったね!」

返事はない。見上げれば壊れ始めた封印に目を奪われて息を止めているあの人がいた。

 外側から剥がれるように、水晶のかけらががらがらと音を立てて落ちていく。頭から少しずつ剥き出しになっていったムギさんは、脚を支える水晶が崩れると同時に体が傾いた。

「あっ!」

僕が何かする前にピッコロさんがそれを受け止めて、ムギさんの体にまだついていた水晶が砕けて粉雪みたいに散った。そっと顔を覗き込むと静かにゆっくり息をしていて、何百年も水晶の中にいたとは思えないくらい普通に眠っていた。

「魂も無事体の中に収まっているようだな…気に怪しい乱れもない。少なくとも人間の基準では健康体のようだ」

「よかった…」

そんなことを話していたらムギさんが身動いだ。ピッコロさんが固まる。

「ん…」

ずっと閉じていた瞼の向こうには、満月のようにまあるくて黄色い目があった。

「え、えっと、おはようございます…体、大丈夫?」

寝ぼけているようにぼんやりとしていたから、優しく声をかけてみた。声は聞こえているみたいで、ゆっくりとこっちに顔をむけてくれた。

「……こ…こ、は…?」

声の出し方を思い出しているかのような、かすれたやわらかい声。それに返事をしたのはピッコロさんだった。

「ボーロ樹海だ」

ムギさんの顔がピッコロさんの方を向く。僕もそっちを向いたら、どうしてか申し訳なさそうな悲しそうなピッコロさんの顔がそこにあった。

「…遅くなって、すまない。」

 最初、ムギさんは不思議そうな顔をしていた。それなのに、急に何かに気付いたかのようにみるみる歪んでいった。

「む、ムギさ━━━」

どうしたのかと聞く前に、ムギさんが飛び起きて地面に転がり落ちた。

「お、おい!」

ピッコロさんが起き上がらせるよりも早く自分で起き上がったかと思いきや、ムギさんは地面に手をつけた。

「星よ!!」

さっきのかすれていたのが嘘かのようにはっきりとした声でムギさんが叫ぶと、手を置いた場所から光が噴き出した。

「うわぁ!?」

「ぐっ!?」

眩しすぎて思わず腕で顔を守った。

「お、おじさん!」

「魔法だ!攻撃じゃない!だが、これは…!」

光の束が1つ自分の頭を突き抜けた時、知らない場所が見えた。

 

“おっす!”

“おぬしの知り合いか?”

“いいえ……”

“じっちゃん、生き返ってよかったな!みんなも元気そうだ!”

 

「お、お父さん!?」

その風景はすぐに消えて、気づけば僕は現実に戻っていた。ムギさんは睨むように、必死な様子で光の源を見ている。

「星の記憶を見ているのか…!?」

「どういうこと!?」

「この星で起きた出来事を、過去を見ているんだ!封印されている間に何が起きたのか知るために…!」

「過去を…?」

どうしてピッコロさんはあんなにも不安そうな顔をしているのか。その答えはすぐに出た。

 突然、ムギさんの体がびくりと震えた。徐々に光が弱くなっていって、勢いも緩やかになっていく。

「あ……あ、あ…」

ムギさんの体が震え始めたと思ったら、急に生温い風が通り抜けていった。なんだか少しずつ暗くなってるような気がして空を見上げたら、あんなにも晴れていた空がいつの間にか暗い雲に覆われていた。

「あ、あれ?な、なんで…」

「来るぞ悟飯!!」

「え?」

 

 その瞬間、雷が空を裂いた。

 

 

 

 

 

 

 こうなると予想していなかったと言えば嘘になる。

 ただ、そうあってほしくないと思っていた。

 

 

「あぁああアあああァああああ゛あ゛あ゛あ゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!」

 

 

 暴風と豪雨、そして無数の雷。

 突然の大嵐に吹き飛ばされそうになった悟飯を捕まえると、顔色を悪くして俺にしがみついてきた。

「お、おじさぁん…!」

「自分で踏ん張れ!」

「そ、そんなこと言ったってぇ!」

舌打ちをしながら彼女に視線を戻すと、頭を抱えて丸くなっていた。雨か体に叩きつけられ、風が髪を巻き上げ、稲妻に照らされる体はひどく小さく見えた。

 

「あ゛っ、あ゛ぁうっ…!!うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

顔をあげた彼女の目には何も映っていなかった。顔は濡らしているのが雨なのか涙なのかわからないくらいずぶ濡れで、悲痛に歪みきっていた。喉を裂かんばかりに吐き出される絶叫は、天候による轟音にかき消されることなく耳に届く。

「こ、これじゃあサイヤ人が来る前に地球がめちゃくちゃになっちゃうよぉ…!」

 悟飯の指摘は正しい。おそらく今起きている嵐は、数百年に一度あるかどうかというレベルの大災害だ。自分達のような実力者でなければ彼女に近づくことすらできないだろう。

 それほどまでに、彼女は悲しんでいた。

 

 願っていた。

 

 愛していたのだ、たった一人の男を。

 

 

 

 

 

 

 どうすることもできずに耐えること30分。微かに嵐が和らいだのを感じた。

 

 マントから顔を出せば相変わらず天気は荒れていたが、その中心部たる彼女はぼんやりとした様子で座り込んでいた。空を見上げ、だらりと腕を投げ出して、巻き上げられる長い髪に気を取られる様子もなく。

 今なら、止められるかもしれない。しかし、下手に自分が名前を呼んでしまったら悪化してしまうかもしれない。そうして最悪の事態ばかり考えていた俺の存在を無視するかのように、悟飯が声をあげた。

「ムギ、さん…?」

ゆらりとこっちを向いた顔は、こちらの存在を認識すると理性を見せた。

「……と…」

彼女が声を出すたびにぶわりぶわりと涙があふれ、不規則な呼吸のせいで中々言葉が出てこないようだった。

「…ご……めっ…と、まら…なく、てっ…」

状況は把握できているらしい。呼吸だけでも落ち着かせようとしているが、どうにもならないようだ。

「とっ…め……て…」

 

 一瞬も無駄にしなかった。

 

 即座に接近し、正確に、一点を狙って、手刀を振り下ろす。脱力した体を受け止めると徐々に天気が穏やかになり、雷が消え、風が収まり…そして、雨だけが残った。

 

 何もかもが重く感じる。

 雨も、空気も、服も、腕の中の体も。

 

「ピッコロさん…?」

「……帰るぞ」

 父の記憶を受け継いだことをこれほど感謝したことはない。同時に、同じくらい父を恨んだ。

 

「俺なんかが、代わりになれるわけないだろう…!」

 




悟飯くんの知能レベルがわからん…!
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