ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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それぞれ、異なる形のそれ


愛の形

 ピッコロさんがムギさんにサイヤ人のことを話している間、僕はずっと二人を見ていた。

 

 ずっと封印されていたからこの人達がこうして話すのは初めてで、そのせいかどっちもなんだか遠慮しているような雰囲気だった。自分を押し殺しているような、間違って傷つけないように回り道しているような、遠くから話かけているような、そんな調子で。

「これから、どうするつもりなんだ?」

「とりあえず、地球の現状確認からかなぁ。百年単位で不在だったからだいぶあれこれ変わっただろうし…あ、今降ってる雨は日が昇る前に止めるから安心して。早朝の地面のぬかるみはどうしようもないけど、お昼頃にはある程度乾いてるはず」

最初のアレの被害も確認しないと、と呟きながら考え込むムギさんは無理に明るく振る舞っているようにしか見えなかった。

「…無理は」

「してないしてない。これでも天候を操作できる程度には落ち着いてるよ」

ピッコロさんもそれに気づいているみたいだけれど、どうにもできないからか不機嫌そうだ。

「明日、ここら一帯をチェックしたらボーロ樹海に戻るね。色々確認が終わったらたぶん顔見せにくるから」

「たぶん…?」

「いやほら、ちょっと本格的に治さないといけない土地があったりとかしたらそっちに集中するかもだし!」

今の焦りは心配かけたくないからなのか、それとも隠し事があるからなのか、僕にはわからない。でも、ピッコロさんはわかったみたいで、眉間のシワがさらに深くなった。

 バレてるのに気づいたのか、ムギさんが話題を変えてきた。

「そうそう!もう1つ確認というか、早めに決めておきたいことというか、そんなのがあって!」

「…なんだ?」

 ピッコロさんにとって、この人は本当に大切な人だ。

 今日初めて会話して、今日初めて触れた人。それでも、本当はまださっきの話が気になっているのに、話題が変わるのを止めなかった。ピッコロさんが親から受け継いだ記憶がどんなものなのかほとんど教えてくれなかったけど、その記憶はきっと、ムギさんを大切にしたくなるような、そんなかけがえのない思い出がいっぱいなんだろう。

 

「えっと、その…なんて、呼んだら良いかな?」

 

「は?」

「え?」

思わず、僕も声が出た。邪魔しないようにと静かにしているつもりだったのに。

「ほら、私にとって『ピッコロ』は…えっと、あっちの方だから。名前受け継いだのはわかってるけど、どっちも同じだと、あの、紛らわしいし、ね?」

 わたわたしながらの説明だけれど、聞いた僕は普通に納得した。僕は今ここにいるピッコロさんに最初に会ったけど、ムギさんが最初に会ったのはピッコロさんの親の方だ。最初にそう呼んだのが向こうなら、こっちのピッコロさんを別の呼び方にするのが自然だ。

 ピッコロさんは、固まっていた。

 口を少し開いて、目を見開いて、驚いた顔をしたまま身動き1つしていなかった。ムギさんの方を見ると、僕と同じようにピッコロさんの反応が予想外だったみたいでオロオロしていた。

「え、あ…だ、大丈夫?ねえ?」

心配そうに声をかけながら近づこうか迷っているムギさんの代わりに、僕が近づいて呼びかけてみた。

「おじさん!ピッコロさんってば!」

体を揺り動かしながらそう呼ぶとようやく僕と目が合って、数回瞬いた。その目がゆっくりとムギさんの方にも向くと、少し遅れてピッコロさんの口から声が出た。

「す、まない。想定外だった」

一瞬、声の出し方を忘れたかのような言い方だった。

 

 今日のピッコロさんは、今まで見たことない表情をたくさんしている。

 申し訳なさそうな顔、心配そうな顔、不安な顔、悔しそうな顔…そして、今の顔。昼の青空の向こうにもちゃんと星があるんだと今更思い出したかのような、当たり前のように知っていたはずのことを改めて知らされたかのような、夜明けの顔。

 その理由を聞きたかったけど、ピッコロさんが軽く頭を振るといつもの難しい顔に戻ってしまった。

「……マジュニア」

「へ?」

「天下一武道会に参加した時に使った偽名だ。『ピッコロ』以外で呼ばれ慣れている名はそれだけだ。新たに作るよりはそちらの方が良いだろう」

顔が戻って、理由を聞くことはできなかったけれど、これだけはわかる。

 

 たった今、ピッコロさんに何か良いことが起きた。間違いない。

 

「マジュニア、ね?」

「ああ」

 だって、こんなにもピッコロさんの気が柔らかくなったんだから。

 

 

 

 

 

 翌朝、日が昇る前に起きて雨を止ませ、昇り始めた頃に荒野の状態を確認し、大きなダメージもなかったので二人に別れを告げた。二者二様に心配そうにこっちを見てきたから良心がチクチク痛んだけど、それを無理矢理笑顔の下に隠して地球全体のチェックに取りかかった。

 彼が…ピッコロが地球に残した爪痕が残っている場所がまだいくらかあって、特にひどいのは中の都のキングキャッスル周辺だった。星の記憶を見て比較したところ生き返った後に中の都に留まらなかった人達がかなりいたらしく、人口が大幅に減っていていた。逆に比較的被害が軽かった中の都の郊外の住宅区は人口が増えていて、そこと中の都を繋ぐ公共交通機関も比例して増加していた。

 天下一武道会会場のあるパパイヤ島のダメージも中々だったけれど、こっちは急速に復興が進んでいてそう時間かからず元通りになりそうだ。おそらくマジュニアの大技が下方向にあまりダメージを与えなかったのに対し、ピッコロの大技は思いっきり地球をえぐっていたのが要因の1つだろう。

「時間できたらキングキャッスル周辺の回復に集中した方がいいかなぁ…」

 その他の地域に関しては、意外と大丈夫そうだった。天災から中々回復しきれてないところはちょこちょこあったけれど、人間の環境破壊によるダメージは想像以上に少なかった。私が不在だった間に地球環境との付き合い方を改めてくれたんだろうか。だとしたらありがたい。これから大きなダメージを受ける事件が増えていくから、細々とした仕事は少ないに越したことはない。

 

 久々に肉体を持って動き回ったからか、ボーロ樹海に戻ってきた頃にはかなりお腹が空いていた。ちゃんとした食事を取りたい気持ちはあったけれど、まだまだやることがたくさんあるのでその辺の取って食べれる木の実で簡単にすませた。

 そうしてようやく再会した我が家は、案の定荒れ放題…では、なかった。

「あ、れ…?」

時間は確かに経過している。外も内も、取り換えるしかないほどボロボロになっている部分がある。生えてきた植物によって壊されたのだと思われる部分もある。ホコリだって被っている。

 でも、三百年近く経ったにしては、綺麗すぎる。

 

 まるで、まるで誰かが、数年前に一度手入れしたかのように。

 

「…ほし、よ」

壁に手を当て、家の記憶を少しばかり遡った。

 

 

▽▽▽

 

“━━━これが、限界か”

 

 リビングに立つあの人の手は、土やらなんやらで汚れていた。

“魔法で作られたとは言え、百年単位で持ち主不在では流石に荒れてしまうな。私ももう少し魔術の類を身につけておくべきだった……いや、この場合は掃除か?”

ふっと小さな笑いが溢れる。

“この私が掃除とは…ずいぶんとアレに毒されたものだ”

あの頃とは少し違う、懐かしさと寂しさの混じった笑みだった。

 

 ひとまず気は済んだのか、彼はリビングに背を向けて外へと通じる扉に手をかける。そしてそれを開けて一歩踏み出したかと思ったら、首だけが再びリビングの方を向いた。

“………いってくる”

また戻ってくると言わんばかりに、いつも私に言っていた言葉を、誰もいない部屋に告げた。

 

△△△

 

 

 もう十分泣いたと思っていたのに、しばらくは天気を荒らさないようにしようと気合を入れたはずなのに、気づけばまたポツポツと雨が降り出していて。そんな中、私の顔は雨に当たっていないのにびしょ濡れになっていて。

「……ばか」

ずりずりと、家の壁に寄りかかりながら座り込む。

「ぴっころの、ばかぁ…」

若返って、さあこれから世界征服ってタイミングで、わざわざ掃除しに来て、挙句そんな言葉まで残して。

「だったら…だったら、ちゃんと…かえって……!」

無茶だと分かっていても、届かない言葉だと知っていても、言わずにはいれなかった。

 

「ちゃんと、帰ってきてよぉっ…!」

 

この家にピッコロがいないのは、自分のせいなのに。

 

 

 

 

 

 

 ムギさんがいなくなってから、ピッコロさんはよく1つの方向をぼんやり眺めるようになった。もちろんそれは修行をしていない時で、特に夜眠る前が多い。

 僕は、その視線の先に何があるのか知っている。

「心配、なの?」

今晩も、そうだった。すっと自分に向けられる目には修行中のあの厳しさはなくて、なんだか迷っているような気がした。

「…貴様には関係ない。もう寝ろ」

ピッコロさんは、自分が考えていることをちゃんと話してくれる。修行でわからないことがあればきちんと説明してくれる。

 でも…だけど、自分の気持ちは、ほとんど話してくれない。態度や話し方でわかることはあるけど、それだけだ。元々そういう話が嫌いなだけかもしれない、相手が僕だからかもしれない…確かなのは、誰にも話さないってことだけ。

 それは、よくないと思う。

「ピッコロさん」

「寝ろと━━━」

「ムギさんと話して」

失礼だけど、無理矢理言った。途端に、ピッコロさんの体が固くなる。

「…貴様に指図される筋合いはない」

ピッコロさんの組まれた腕に、爪が少し食い込む。

 怒られるかもしれない。殴られるかもしれない。蹴られるかもしれない。下に放り投げられるかもしれない。

 

 でも、僕しか言えないことだ。

 

「今言わないと、ずっと言えないかもしれないから」

ぴしりと、空気が固まった。

「…僕、お父さんが死んだって聞いた時、ドラゴンボールで生き返るって言われても、怖かった。もし、生き返らなかったら、どうしようって」

ピッコロさんの顔を見るのが少し怖くて、自分の手ばかり見てしまう。

「もっとたくさん、したいことがあるの。またお父さんと釣りに行きたいし、お母さんも一緒に来てピクニックしたいし、遊びたいし、話したい……もっと、もっとありがとうって、大好きだって、言いたいし言われたい。お父さんがあんなに早く死ぬなんて思ってなくて、だからまだ…まだ、足りなくて」

ああまた涙が出てきそうだ。泣いたらピッコロさんは怒るのに。

「サイヤ人が何をするかわからないから、お父さんとまた一緒にいられるかわからなくて、怖いの。生き返ってもまたすぐ死んじゃったらって…」

 

「孫悟空は、死なない」

 

大きくないけど、はっきり聞こえる声だった。恐る恐る顔を上げると、いつものしかめっ面がそこにあった。

「その為に修行してるんだ、死ぬわけがなかろう」

「でも…」

「前回はなんの準備もしていなかった」

当たり前のことを話すように、ピッコロさんは淡々と続けた。

「あいつが負ける時は、なんの備えもしていない時だけだ。何かが来ると知っていれば、どんな手を使ってでも、あいつはそれを越えようとする……俺の仇は、そう言うやつだ。だからこそ、簡単には勝てない」

こんなに嫌そうな顔をしながらお父さんを褒めるのはこの人くらいだと思う。

「孫悟空の仲間は必ず、やつを蘇らせる。くだらん心配をしている暇があったら自分が死なない努力をするんだな」

 わかったらとっとと寝ろと話をそこで終わらせようとするピッコロさんに気付いて、すかさず僕は話を戻そうとした。

「あの、ムギさんは…」

「何度言わせるつもりだ!?寝ろ!」

ああダメかと落ち込んで、諦めて背を向けて寝ようとした時だった。

「…貴様に言われなくとも、近々様子を見に行く。まだ精神が安定していないだろうしな」

僕の師匠は、本当に素直じゃない。

「はい!…おやすみなさい、ピッコロさん」

 

だけど、やっぱり優しい人だ。

 




切りどころがわからんかった…
あと、悟飯くんの口調が迷走してたらすみません。この頃は特にあやふやです…
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