ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
結論、現時点でピッコロとの再会は不可能だ。
薄々と予感はしていたが、実際に真実が顔面に叩きつけられるとしんどい。
「なんで……もう、歴史での役目終えてるじゃん…」
行き場のない気持ちを持て余しながら、草むらでもだもだ転がる。
彼はもう『仕事』を終えた。クリリンを一度死なせることによって超サイヤ人の覚醒の遠因になって、マジュニアを産み落とせば彼は用済みのはずだ。死んでいなければならない、のであればシンプルに会いに行くだけなら歴史への影響はない。
そう、私が死んでも、何の問題もないはずだ。
最初、ブルマにドラゴンレーダーをもう一つ作ってほしいと頼みに行こうとした。土下座くらい安いものだとブルマの居場所を探ろうとした途端、全身に激痛が走ってその場に倒れた。
次に、自力で蘇生させようと研究しようとした。ノートに研究タイトルを書こうとした瞬間激痛が再発し、痛みのあまり気絶するまでそれは続いた。
生き返らせるのがダメならばと、占いババにあの世への案内を頼もうとした。ブルマの時と全く同じことが発生した。
私が封印されている間もお互いの存在を認識できたことから、テレパシーを応用してあの世にいるであろう彼と話そうとした。しかし、彼を見つけ出す前にまたあの拷問のような苦しみが始まった。
痛みが問題であるのならばと、痛覚を一時的に切ってみたり、麻酔を使ってみたり、とにかく痛みをどうにか消したり和らげたりできないかと試行錯誤した。どれも失敗に終わった。
思いつく限りのことはした。同じ案を何回も試してみたりもした。
喉が枯れるくらい叫び、絶え間なく涙を流し、地面に爪を立て、吹き出す汗を拭いもせず、みっともない姿を晒しながら、全身を貫く痛みと戦った。
何度も。
何度も。
何度も。
そうしているうちに私の精神はあっさり限界を迎えた。三桁年本を読み漁り研究し続けてもほどんどなんの変化もなかった私の精神が、ほんの一週間たらずで参ってしまった。元から精神が弱っていたとは言え、自分はやはり貧弱な凡人だと思い知らされた。
そんなこんなで最終手段である『自害』は、軽率ながらも試行されたのである。
躊躇はあった。どんなに追い詰められていても、こればっかりは実際行動に移すまでに少しばかり時間がかかった。本当にここであっさり死んでもいいのか、ピッコロは許してくれるだろうか、マジュニアや悟飯くんに大きな傷を負わせてしまわないか…やらない理由なんてそれこそいくらでもあった。
でも、それ以上に辛かった。自分が楽な方向に逃げてしまうくらいには。
まあ、さも当然のように妨害されて気絶させられて、気づいたら数時間たっていたわけだが。
「別に私もいらないじゃん…いなくても勝手に話進むじゃん…」
どう考えても例のあの界王神もどきがつけていったあの死ぬほど趣味の悪い縛りのせいだが、目的が見えない。原作通り話を進めたいだけなら、私がいつどこで死のうが問題ないはずだ。むしろ何も関係ないタイミングで死んでほしいくらいだろう。
「なんで、私だけ生かされるの…」
ブゥが来た時にワンチャン消極的自殺はできるかもしれないので、最悪それをあてにしよう。彼と一緒にいられるなら地獄だろうがどこだろうが問題ない。どうとでもなる。
何度目かとっくの昔にわからなくなった深いため息を吐いて、いつの間にかまた降り出した雨の中のろのろと起き上がる。最初みたいな激しい雨はなんとか降らせないようにしているものの、ちょっと気を抜くとすぐこれだ。頭を冷やせば少しはマシになるかなと近くの川へ向かえば、水が明らかに茶色い。そりゃそうだと額に手を置いて、そうして手についた汚れを見て自分の外側の状態にようやく気が向いた。
「うわ…」
魔法で荒れた水面を水鏡にして見下ろせば、思わず声が漏れるくらいには酷い有様だった。髪は葉っぱやら泥やらが絡まってぐちゃぐちゃ、泥だらけの顔の中心にある目は真っ赤で腫れ放題、首から下も容赦無く自然の犠牲になっていて、よくよく見たら手足の爪にしっかり泥が入り込んでいる。と言うか、靴どこ行った。のたうち回ってる間に脱げたのか。
水浴びは無理なので魔法で全身を綺麗にして目の腫れも治す。靴がないのを除けばいつもの自分だと確認した後に水鏡を消せば、どっと疲労感がのしかかってきた。今日はもう寝てしまおうと重い足取りで家に戻ろうとした時、予想外のことが起きた。
マジュニアが、目の前に降りてきた。何の前触れもなく、上空から。
「……え?」
思わず辺りを見回してから再び彼に視線を戻す。何故どうしてとあからさまに困惑してしまい、それに釣られたかのようにマジュニアも少し落ち着きをなくしたかのような表情を見せた。
「お、驚かせるつもりは、なかった。その、少し、話が…」
そわそわと動く手から居心地の悪さが伝わってくる。かなり気を遣われているのは早い段階でわかっていた。立場からして気を使わないなんて無茶振りもいいところなので、私にできることと言ったらそれを悪化させないことぐらいだ。
「話?…って、あっ、ごめんね。すぐ雨止めるね?」
極力優しい声を出そうとしたけど、果たしてうまく出せただろうか。自分の中にまだ煙たいほどに燻っている悲しみを無理やり噛み殺し、空に手をかざして少しばかり強引に雨を止めた。もう少し落ち着けば雲も勝手になくなるだろう。
「本当にごめんね、濡れちゃったよね」
なんで彼がこちらに向かっていることにすぐに気がつけなかったのか。ちょっと周りを気にかけるだけでこんなミスは簡単に避けられる。本当に封印が解けてからろくに何もちゃんとできていない。なんで私はこうも━━━。
「……謝らないでくれ」
それは、まるで懇願のようだった。
「わかっている、そう言う人物だと。知っている。だが……聞く度に、苦しい」
ふわりと、彼の道着とマントに一瞬風が通り抜けたかのように見えた。服を新しくしたんだろう、濡れた跡が消えていた。
「『ピッコロ』だからじゃない…俺が、今ここにいる俺が、聞きたくないんだ」
ふと、気づく。
この場所は、ピッコロに初めて頭を撫でられた時と同じ場所だと。私が帰ろうと振り返った時に、今マジュニアがいる位置に彼がいた。
「マジュニアが、聞きたくないの?」
「聞きたくない。できれば二度と」
「それはちょっと…」
「わかっている。ただの願望だ」
あの時と違うことはたくさんある。
そう、こうして私が歩み寄るのも、あの時と違う。
「手、血出てるよ」
躊躇しながらもそっと彼の手を持ち上げると、不思議そうに首を傾げて自分の両手を眺め始めた。強く握りすぎて爪が食い込んでいることに気づかなかったらしい。
「………優しいねぇ、マジュニアは」
胸がふわっと温かくなって、自然と笑みが浮かんで、さっきの疲労感も忘れて傷を癒す。
「あの人は回数が鬱陶しいとかうるさいとかそんな風にしか言わなかったなぁ…まあ、紛うことなき本心だろうし、別にそれで良いんだけども」
痕を残すことなく治った掌を親指でそっと撫でてから顔を上げると、じっと静かな表情で見下ろされていた。再び視線を手に戻して、少し眺めた後に放す。
「言わないのはやっぱり無理かな。マジュニアには重いモノを背負わせてしまったし、迷惑かけてるし、多分これからもかけちゃうだろうし…でも」
こればかりはちゃんと顔を見て言わないとダメだと、気恥ずかしくも見上げた。
「ありがとう、苦しくなるほど気にかけてくれて。マジュニアがそこまで気にしちゃうなら、頑張って回数が少なく済むようにするね」
原作のこの頃の彼がここまで柔らかい人物だと描写されたのは最初の死の時だったけれど、いつからこうだったんだろうか。いつから、それが滲み出てきたんだろうか。いつから、悟飯くんがそれを拾い始めたんだろうか。
「…何故、俺は勘違いをしたのだろうな」
「マジュニア?」
「俺は、先代とは異なる存在だ。名前と思いを…願いを託されたに過ぎない。そもそも当人が生きてるタイミングで卵が存在している以上、同一存在であるわけがない」
「え、あ、うん。そうだけど」
急に何を言い出すのかと思いつつ、大人しく聴き続ける。
「最初はきちんと線引きができていたにも関わらず、俺は…いつの間にか自分ではない者に成ろうと、成らなければならないと、そう在れかしと生まれたのだと思い込んでいた」
そう言われて原作の漫画のコマが脳裏をよぎる。確かに最初はピッコロのことを父だと認識していたのに、天下一武道会では自分を生まれ変わりだと言っていた。
「記憶の引き継ぎですら完全なものではない。俺にすら見せたくない記憶、プライベートなモノだろう…それが受け継がれなかったせいで、かなりの抜け落ちがある。自分のコピーを作りたかったのであれば、それは起きないはずだ」
プライベートな、記憶。
高速で心当たりが脳内を駆け巡る。ブワっと顔が熱くなって、思わず顔を背けてそれを隠すように腕で頭全体をガードした。
「…あの、その……抜けてる部分に特徴があったりは…?」
墓穴を掘りにいく発言だと分かっていても、聞かずにはいられなかった。
「特には……いや、夜が抜けがちか?」
「早速だけどすみませんごめんなさいそれ以上は勘弁してください私が悪うございましたっっ!!」
「なっ…聞いたのはそっちだろう!」
「謝罪カウント増えちゃうから許して!」
しんみりした空気から一転、その場はマヌケなBGMが流れそうなくらいコントじみた空気になってしまい、結局話題に戻れる程度に落ち着くのに数分かかってしまった。
「とにかく、だ。俺はずっと勘違いしていたんだ…どう呼べば良いのか聞かれるまでは」
先ほど駆け抜けたギャグ時空のおかげか、どうやら不安やら緊張やらは消えたらしい。怪我の功名、はこう言う時に使うんだったか。
「俺は思い出した。自分のままでいいのだと、同じ名前なだけの別の誰かであっていいのだと…あの時、あの瞬間、俺はもう一度この世に生まれ落ちた」
そんな大袈裟な、と言いたかったけどやめておいた。声も顔も真剣で大真面目に話しているようだから、その一言は余計通り越して暴言になりかねない。
「……悟飯に封印されているのは俺の母親かと聞かれた時、その時はそんな未来があったのかもしれないと答えた」
胸に突き刺さる言葉だった。ピッコロ大魔王が生まれない世界を作るにあたって一番の問題はマジュニアの誕生だった。ピッコロに産んでもらうしかないだろうか、はたまた私が産んでも大丈夫だろうか、タイミングはどうするか、悟飯くんとスムーズに接触させるにはどうしたらいいか…考えることはたくさんあった。
たくさんあったけれど、楽しみだった。
成長を急かされないマジュニアというのも中々素敵な響きだったのだ。原作の彼は人気上位キャラなのが納得できる魅力的な人物ではあったけれど、同時にかなり苦労してきた方でもあった。悟飯くんに負けないくらい、過酷な星の下に生まれていた。そんな彼が、もう少し穏やかに生きられたら。なんだったら悟飯くんと兄弟のようにゆっくり育つことができたら、どれほど良いだろうか。
そんな思いは果たされることなく、今に至ってしまったが。
「だが、かつてと変わらず先代の妻としてそこに在り続け、俺が生まれ直した理由であるのなら……」
「それなら、母、と…呼んでも、理屈は、通る、と…」
心臓が、呼吸が、思考が、何もかもが一瞬止まった気がした。
私は、何もしていない。起きて、ちょっと話しただけだ。育児らしいことなんて微塵もしていないし、私の血なんてこの子には一滴たりとも通っていない。何も、何一つ、マジュニアにできなかった。
「……いいの?」
なんとか絞り出した声は弱くて震えていて、目にはじんわりと水が溜まり始めていて、さっき目の腫れを治したばかりなのにと頭の隅の方で思ってしまった。
重荷にしかなれないと思った。
足を引っ張るだけの存在になってしまうのではないかと恐れた。
だって、だってこんなにも私は、散々引っ掻き回しておいて、結局…役に立つことなく、むしろ苦しみを助長させてしまったのに。
「名も願いも義務のように受け継いでしまったかもしれない。不安がなかったとは言わないが、それを理由に逃げる気はない…母親として扱うのも、『ピッコロ』と名乗るのも、謝罪を聞きたくないのも、荷を捨てないのも、全て俺自身の意思だ」
ああどうしてこんなにも、こんなにも明らかに余計でしかない私が、ここまで恵まれるのか。
「強制はない。俺は自分が望むように生きる」
種は撒かれた。
根ははられ、葉は光を浴び、水を吸い上げて成長した。
「…『お母さんって呼んでもいいですか』って、ここぞって時にストレートに言葉が出ないところで似なくてもよかったのに」
ならば、何度失敗しても、責任を持って刈り取ろう。たとえ数は少なくとも、誰かに望まれたという事実は揺らがないのだから。
「情けないお母さんで良いなら、喜んで」
他でもない、私に願ってくれたのだから。
空は、いつの間にか星々が輝いていた。
作者「おっ、評価バーに色ついた!へー、これくらいでつくのかぁ。ちょっと嬉しいなコレ( ^ω^ )」
少し後の作者「お気に入りめっちゃ増えてるんだけど!?(((°Д °;)))」
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