ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
「たぁーーー!」
岩に向かって放り投げた悟飯が、それを足場に跳ね返って殴りかかってきた。状況判断、体勢調整、着地から発射までの体幹のブレ、脚への力の込め方、そして繰り出された一撃の強さ。ようやく及第点まで来たかと受け止めた手を掴んで、そのまま地面に叩きつける。
「ぐっ…」
流れるように蹴り飛ばせば、腕でしっかりと防御した悟飯が吹っ飛んでいった。スイッチさえ入ればそう簡単に死なない程度にはなってきたか。
追撃をと手に気を込め始めた時、こちらに近づいてくる者に気づいた。
「ピッコロさん?」
太陽の位置を見れば、なるほど確かにそんな時間だった。
「…休憩だ。水場でその面と手を洗ってこい」
手を収めてそう言えば、悟飯の顔が喜色に輝く。
「はいっ!」
うるさいくらいの良い返事をしたかと思えば、泉の方へ全速力で飛んで行った。その現金な姿にため息が漏れるが、コレが始まってから明らかにやる気が増しているので何も言えない。
「今日は順調?」
やってきた彼女は自分の近くに降りてきて、見上げながらそんなことを聞いてくる。
「…それなりだ」
「そっか。ならよかった」
それ以上深く聞くことなく準備を始める母上は、随分と楽しそうにしている。精神も以前と比べてかなり安定してきた。良い傾向だ。
「あ!ムギさんこんにちは!」
「はい、こんにちは。今日は食べたいって言ってた回鍋肉作ってみたんだけど、初めてだからちょっと味違うかも…」
「本当!?やったぁ!」
戻ってきた悟飯はさっき以上にテンションが高い。これが食事の力なのかと敷物の上に並べられる料理を眺めた。
*
せっかくお母さん扱いしてくれるんなら、お母さんらしくサポートしたい。初めてそう言った時、マジュニアは渋った。心配八割、何ができるかわからない二割といった感じの顔で「無理しなくても…」と止められそうになった。確かに病み上がりで精神ズタボロで戦闘は大して強くないけれども、だからと言って引き下がるわけにはいかなかった。
「何かやることある方が余計なこと考えなくて済むから」
「しかし…」
「何かしらできることはあると思うんだけど……あっ!ねえマジュニア!」
「悟飯くん、今何食べてる!?」
休息時間やら水分補給やらは想像以上にしっかりしていた彼も、食事の量はともかくその内容に関してはさっぱりだった。親と違って水だけで済ませてしまう彼ではわからないことの方が多いだろう。
「私があの人に食事内容の大切さをレクチャーした記憶、たぶんあるよね」
「…!」
「成長しきった大人でも気をつけなきゃいけないことを、これからどんどん成長する悟飯くんが疎かにしたら修行にかなり支障出るんじゃない?」
「む…」
「ちょっと調べれば足りないものも必要なものもすぐわかるし、それに合わせた献立も作れる。そんな豪華なものは作らないよ、必要なものを必要な分作るだけ。だから、ね?」
説得はさほど難しくなく、話し合いの末に毎日昼食だけは私が用意するという形になった。
*
無論、悟飯くんだけで満足するわけもなく。
「おかわり!」
「はいはーい……あ、マジュニア。お茶の味、今度は大丈夫?」
「ああ。これぐらい薄い方が飲みやすい」
「やっぱりあの茶葉が濃かったんだねぇ…悟飯くん、おまちどうさま」
水だけで基本は問題ないのは百も承知だけど、より効率よく回復できないかと自家栽培している茶葉に手を入れた。メイン効能は疲労回復で、精神への効果を期待して香りも調整した。一種の茶葉では理想の仕上がりにならなかったのでブレンドしたら、今度は味が濃すぎるという問題にぶち当たって中々苦労した。でも、その苦労が楽しかった。コップに注がれたお茶の香りが鼻まで届いた時にマジュニアが見せる柔らかい眼差しが、最高の報酬になった。
「悟飯くん、本当に良い食べっぷりだねぇ」
「ムギさんのご飯、すっごくおいしいから」
私が二人と一緒にいるのは、1日のうちこの時間だけだ。邪魔になりたくないと言う気持ちはもちろんあるけれど、それ以上に時間がない。図書館で得た知識に基づいた実技訓練や実験、星の魔女としての仕事、その他もろもろでなんだかんだ忙しい毎日になっているのだ。
「ムギさん、僕、気になってることがあって」
「ん?私のことで?」
私に関して概要程度にしか聞いていないらしく、悟飯くんはこうして食事中にあれこれ聞いてくる。学者希望な子供だけあって気になることはすぐ聞いてしまうところがあって、たまに質問に次ぐ質問で昼食時間が長引いてしまうこともたまにある。あんまり長引くとマジュニアが不機嫌になるので、場合によっては質問の回答を次回に持ち越したりすることもあったりなかったり。
「ムギさんは魔法と魔術を使うんでしょ?」
「そうだよ」
「魔法と魔術って違うの?」
「そうそう、実はちゃんと違うの」
今回はよくある疑問だったので、さほど言葉を探すことなく説明できた。
「魔法はその人が元々持ってる力で、魔術は手順とか道具とか必要なものを揃えたら使える力なの」
「ふんふん」
「例えば、私の『天気を変える力』とか『植物を元気にする力』とかは魔法。腕を動かすのと同じくらい当たり前にできるし、練習すればどんどん上手になる。逆に、『呪いを解く力』とか『人の体を詳しく調べる力』とかは魔術。やり方を知らないとまずできないし、魔術やその人の得意不得意によっては道具が必要になったりするの」
こう言った分類を使う人はあくまで魔法や魔術を専門的に扱っている人達だけらしく、それ以外は『超能力』や『特殊能力』などのそれっぽい呼び方を使っている。つまりチャオズの超能力やウーロン達の変身能力も、私達の分類だと『魔法』扱いなのだ。
「あ!じゃあピッコロさんも?」
「正解!『気』を使わない『心を読む力』とか『物を作る力』は魔法だから、一応『魔法使い』になるよ」
魔法使い、という言葉の響きが良かったのだろう。かつてないほどキラキラとした目で悟飯くんに見つめられるマジュニアがものすごく居心地悪そうだった。可愛いけれどちょっとかわいそうなので、話を続けてちびお弟子ちゃんの注目をこっちに戻した。
「どんな力も『魔法』の方が強くて便利なんだけど、『魔術』なら『魔力』を持っていれば誰でもできる。最初の『魔術』は『魔法』を誰でも使えるものにする為に生まれてて、私とマジュニアが使う『魔法』も『魔術』で真似できたりするんだよ」
「じゃ、じゃあ僕も…?」
「誰でも『気』を持ってるように、誰でも『魔力』は持ってるよ。違うのは持ってる量だけ。良い道具があれば、誰だって『魔術使い』になれる。ドラゴンボールは誰だって使えるでしょ?」
「そっかぁ!」
嬉しくてほっぺを赤くして喜ぶ悟飯くん、くっそ可愛いなオイ。マジュニアが溺愛するのも納得の笑顔。この顔で全面信頼されてたらそりゃあ心の壁も崩壊する。
「人によっては『魔法』がちょっと使い勝手悪かったり力が足りなかったりするから、『魔術』で補強したりとかもしてるよ。ネジを締めたり緩めたりするのは手だと難しいから、ドライバーを使う感じ」
「僕も『魔術』使ってみたい!」
「それはサイヤ人を倒してからにしろ」
「…はぁい」
すかさず待ったをかけるマジュニアと、不満げながらもちゃんと分かっているので了承する悟飯くん、そしてそれがおかしくて笑いを堪えきれない私。この短い休憩時間が、楽しい。食事と一緒にこの場を噛み締めている。
ああ、この先が、怖い。
今回も加筆多め。
書き始めた当初は魔術と魔法の違い、全っっっっ然考えてませんでした…
ちなみにサイヤ人の大猿化や超化、フリーザ様やザーボンの変身は『気』によるものなので『魔法』ではありません。
個人はもちろん、種族によって魔力が多かったり気が多かったりします。
ピクシブに追いつき始めているので、そろそろ更新速度が下がります。