ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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立場がよく似ている二人


嘆きと怒りと

 

 ピッコロさんは、優しい。

 

「マジュニア…」

「ダメだ」

 予想より早くサイヤ人が来たとわかった時、ムギさんは一緒に戦いたがった。自分にもできることはあるから、僕達が戦いやすいようにサポートできるから、戦力は少しでも多い方がいいだろうからと、ムギさんは必死にピッコロさんを説得しようとした。

「早くこの場から離れろ。母上の仕事はこの後だ」

「でも!」

「サイヤ人との戦いが苛烈を極めるのは容易に想像がつく。地球へのダメージを考えれば、今は力を温存しておくべきだろう」

でも、ピッコロさんは譲らなかった。声を荒げることなく、静かに、ムギさんの願いを拒否した。

「…万が一、俺達全員が倒された時の最後の砦としての役目もある。どうであれ、出番は今ではない」

 

「頼むから、退いてくれ」

 

 ちらりと見えた素の顔を、僕もムギさんも見逃さなかった。声はいつも通りなのに、目が、小さな表情の変化が、必死で。真っ当な理屈だけじゃない何かが、確かにそこにあって。

「……ずるい。ずるいよ、マジュニア」

目に涙を溜めながら、あの人はピッコロさんの願いを叶えた。

「二人とも!死んだらダメだからね!」

そう言って強がって飛び立つ魔女の姿を二人で見送る。

 

 ピッコロさんは僕の隣で、とても、とても申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 ピッコロさんは、優しい。

 

「━━━な…情けない話だぜ……ピ…ピッコロ大魔王ともあろう…ものが……」

一緒に戦ってもよかったのに、ムギさんを逃してあげた。狙われていたのはこっちなのに、自分が逃げた方が自分の為にも皆の為にも良かったのに、僕を助けてくれた。

「だ…だが…悟飯……お…俺と…ま…まともにしゃべってくれたのは…お前が最初だった…」

死ぬと知っていたから、嘘をつかないように、ムギさんに返事しなかった。

「せ…先代も…こんな気分だったんだろうな……は…母上…には…悪いことをした…」

今にも死にそうなのに、考えるのは自分以外の人たちのことばかり。

 確かに僕を誘拐したのはこの人だ。お母さんにもお爺ちゃんにも会わせてくれなかったし、修行はものすごく厳しかったし、意地悪なところもあった。

 でも、どんなに僕が自信なくても「お前ならできる」と迷わず言ってくれた。僕がわからないことを聞いたらちゃんと答えてくれた。僕が眠っている時はずっと側にいてくれたし、服がボロボロになったらすぐに替えてくれた。僕の調子が少しでもおかしかったら僕より早く気づいてくれたし、自分でなんとかできないような危ない目に遭いそうになったらすぐ助けてくれた。

 こんな人が、ピッコロさんが、本当に悪い人なわけがない。そんなわけがないんだ。

 

 あ、そうか。

「き…貴様といた数ヶ月……わ…悪く…なかったぜ……」

 そうだ、この気持ちだ。

「死ぬ…な…よ……悟………飯…………」

 

 ムギさんも、こんな気持ちだったんだ。

 

 

「うわぁあああああああああっ!!!!!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 悟飯の文字通り全身全霊の一撃は、サイヤ人に通用しなかった。

「チ…チビのくせにすげえことやってくれるじゃねえか……」

強すぎる。あまりにも、強すぎる。もう少しで悟空が来てくれるのに、間に合いそうにない。

「ち…ちくしょう……!!」

小さな子供を助けようにも、もうまともに体が動かない。無力感と悔しさに押しつぶされそうで、ピッコロに謝る悟飯が見ていられなくて、顔を背けて目を瞑った。

 

 その瞬間、轟音があたりに響いた。

 

「ぐぉっ、おおお…!」

サイヤ人の呻き声が聞こえてきて、慌てて目を見開く。苦しんでいるサイヤ人と驚いている悟飯しか視界に入らない。偉そうな方のサイヤ人を見ても、驚きであたりを見回しているだけだ。

「な、何が…?」

生温い風が辺りに吹くと、何かに気づいたかのように悟飯が空を見た。釣られて同じように見上げると、まるで誰かが神龍を呼び出したかのように、急に厚く黒い雲海が広がり始めていた。ゴロゴロと雷鳴が聞こえてきたかと思ったら、今度は下からうるさいくらいの地鳴りが響いて体が震える。

「な、なんだ!?」

こんな異常事態なのに悟飯は一人、全てを理解しているかのように落ち着いた様子で、空に向かってポツリと呟いた。

「……ムギ、さん?」

その名前の持ち主が誰だったか思い出す前に、10本の稲妻が同時にでかい方のサイヤ人に落ちた。

「がぁああああああああ!!?!」

 肉が焼ける匂いが辺りに漂う。痛みのあまりその場に膝をつくサイヤ人に、追撃だと言わんばかりに何本もの雷が降り注いだ。立て続けに空のあちこちに発生しては落ちる雷電は、避雷針にでも引き寄せられているかのようにサイヤ人を一度も外さない。空も地面も絶え間ない雷光によって白く瞬いて眩しい。こんなの、異常気象なんてレベルじゃない。

「悟飯!!巻き添えくう前に離れろ!!」

鳴り響く雷響から鼓膜を守ろうと耳を塞ぎつつ、叫ぶ。衝撃のあまり耳を塞ぐので精一杯だったらしい小さな子供にその声はなんとか届いたらしく、転がるようにこちらに駆け寄ってきた。

「く、クリリンさん…!」

悟飯に、電気の影響を受けた様子は一切ない。あんなに近くにいたのに、雷はこの子をかすりもしなかった。

 

 突然、天地の震えが止まる。あのサイヤ人はかなりのダメージを受けてまともに動けないらしいけれど、まだまだ死にそうにない。急な静寂の理由を知ろうともう一度空を見上げた。

「あ、あれは…」

サイヤ人の真上の暗雲に、白く輝く小さな穴が開いた。それはバチバチとわずかに電気を漏らしながら、ゴロゴロと唸りながら、徐々に広がっていく。直径数メートルはあるその穴に電気が集まっていると気づいた時、さあっと自分の血の気が引くのを感じた。

「悟飯!」

「えっ?」

オレは最後の力を振り絞って悟飯抱え込み、伏せた。

 

 

 全てをかき消してしまうような、世界が真っ白になるほどの音と光。そんな世界が終わるかのような光景を経ても生きてる自分が、しばらく信じられなかった。

「お父さん!」

腕の中の悟飯があげた声につられて見た先にいる悟空の背中で、ようやく現実に戻れた気がした。




本シリーズは、飛ばすところはガンガン飛ばす、をモットーにしております
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