ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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みんなみんな、罪悪感が憑いてる


裁かれたい人たち

「━━━てわけで宇宙船はバッチリオーケーよ!!」

 うっかりサイヤ人の宇宙船を自爆させてしまった時はどうしようかと思ったけれど、神様が乗ってきたという宇宙船のおかげでなんとか軌道修正できた。サイヤ人のものよりずっと大きいあちらの宇宙船なら中を少し改造するだけですぐに出発できるはずだ。

「神様の宇宙船でナメック星へか!!すごいや!!」

 

 手段が確立してさあ誰が行くかという話になった時、その人は窓から普通に入ってきた。

「よっ、と…失礼」

「へ?」

長い黒髪から顔を出す尖った耳と、満月のような黄色い瞳の、背の高い女の人だった。

「ムギさん!」

反応からして悟飯くんの知り合いらしい。でも、どこかで聴いたことがある名前な気がする。いつだろう。そんなに昔じゃないと思う。

「悟飯くん」

お互い面識があるのは間違いみたいで、来訪者は迷わず悟飯くんに近づいた。声色も表情も、普通に心配している人のそれだ。

「む、ムギさん…ぼ、僕……僕は…」

何か言い訳をしようとしている悟飯くんの頭に彼女の手がそっと乗せられた。

「生きてて、良かった」

悲しげに微笑むその姿を見て、悟飯くんの息が止まる。くしゃりくしゃりと掻き撫でる手つきは酷く優しい。

「む、ムギさ…」

それでもなんとか言葉を紡ごうとする口を、呼ばれた女性がもう片方の手の指で止める。

「頑張ったね」

そう言うと頭を撫でていた手が淡く光る。その光は傷だらけの小さな体を数十秒ほど包み込んだかと思うと、なんの前触れもなくふっと消えた。

「これで怪我は治ったけど、だからと言って無理しないでしっかり休むこと。いい?」

真綿を扱っているかのように、悟飯くんの顔を二つの手が包む。

「私の力で体は癒えても……心は、どうにもできないから」

 そこまで言うと彼女は悟飯くんから離れて、今度はクリリンに近づいた。

「え、えっと…」

「……別に取って食べたりしないよ」

ポンと軽い調子で坊主頭に置かれた手から、さっきと同じように光が滲み出る。体に纏わりつく光が消えた後にクリリンが自分の体を確認すると、同じように傷が消えていた。

「あ、ありがとう、ございます……」

「別に…お礼言われる立場じゃないし」

「え?」

 

 会話もそこそこに、彼女は一番の重傷者へと向かった。

「孫、悟空」

「よう」

急に、空気が重くなった気がするのは何故だろうか。

「こうして会うのは初めてだな」

「だね」

「……恨んでるか?」

その時になってようやく思い出した。そうだ、ムギって確か、ピッコロ大魔王の━━━。

「………何も思うところがない、って言ったら嘘になる」

「おう」

「でもあの立場なら、誰だってそうする…誰でも……貴方を責めるのはお門違いだって、ちゃんとわかってる」

顔が見えないから、彼女がどんな表情をしているのかわからない。でも、握られた拳に込められた力が少しだけ増したのはわかる。声がわずかに震えていることも。

「それに…それに孫悟空……貴方だけだった…」

違う、声だけじゃない。よく見てようやくわかる程度に、本当にわずかに震えている。

 

「貴方だけが…あの広い世界で……私すらいなくなった、あの広い世界で唯一………ただ一人だけ、あの人と対等だった…!」

 

絞り出されたかのような、苦しそうな声だった。

「あの瞬間、どちらかが死なない限り終わらないあの戦いの中で…いや、そんな殺し合いだったからこそ…!孫悟空、貴方はあの人と対等になれた…!上下なく、全身全霊で、殺し合った…!」

「おめえ…」

 話している内容は出鱈目なようで、理屈が通っていた。自他認める天才の自分が変に拗らせたりしなかったのは、おおらかな母の存在ももちろんだけれど、自分と同じ目線に立てる父がいたからこそだと断言できる。見下すことも下から睨めつけることもない誰かがいるのは、人が思っている以上に大事なことだ。敬意と共感を同時に感じられる相手以上に孤独を癒してくれる存在はいない。なんだかんだ言いながら孫くんの友人を辞めないのも、本人の人柄に加えて、別ジャンルながら自分と同じ天才だからというのは確かにある。

 孫くんもピッコロ大魔王も、ほんの一瞬かもしれないけれど、きっと何かが通じたのだろう。心のどこかにあった孤独感が消える瞬間が、確かにあったのだろう。

「あの子の時も…正体を知っていても、正面から向き合って戦った……誰もが、誰もが存在してほしくないと思っていたであろうあの子に、生きてほしいと願ってくれた…憐みなんかじゃなくて、なんの混じり気もない敬意で…!」

 なんて、なんて悔しそうな声だろう。顔が見えている孫くんはきっと、声に負けないくらい悔しい表情が見えているんだろう。ちらりと悟飯くんを見ると、今にも飛び出しそうな顔をしていた。

「確かに貴方はあの人を殺した。来るのが遅くてあの子を死なせた……でも、私の気持ちなんて関係ない…貴方の存在そのものが救いだった瞬間が、確かにあったから…」

「……そうか」

 多分、孫くんは一発くらいは殴られる覚悟をしていたんだと思う。ピッコロ大魔王を倒した時からずっと、なんだかすっきりしてない様子だった。正しいことをしたはずなのに何かを取りこぼしているような、本当にわずかな後悔がずっとあったのかもしれない。

 ムギさんは数回深呼吸をすると再び口を開いた。

「だからと言って、さっきも言ったけど、思うところがないわけじゃない」

「なら、どうすんだ?」

彼女の手が、さっきと同じ光をまとって孫くんに触れる。そして、悟飯くんとクリリンの時よりずっと早く、それを退かした。

「後遺症が残らないところまで治したから、しばらく大人しくしてれば綺麗に回復するはず……どうせそのうち仙豆で治すだろうけど、入院生活は少しマシになるでしょ」

「へへっ…ありがとな」

「言わないで」

 

 要は済んだと言わんばかりに彼女は病床から離れて、そのまま入ってきた窓から出ようと敷居に手をかけた。

「ちょ、ちょっと待つだ!」

それを、チチさんが止めた。ムギさんは素直に止まり、そして振り返った。

「何か?」

「何か?じゃねえべ!おめえ、本当にピッコロ大魔王のヨメだか!?」

「……正確には初代、つまりキングキャッスルで好き勝手やった方だけど、確かにそうだよ」

ムギさんはこの展開を予想してたかのように向き直り、チチさんはズカズカ近づいていった。

「おめえにもずっと文句言いたかっただ…!」

「お、お母さん!」

悟飯くんの制止の声なんて聞こえないと言わんばかりに近づいた彼女は、人差し指を突き出して背の高い来訪者を睨み上げた。

「おめえさ、子供にどんな教育をしただか!?天下一武道会の会場を吹っ飛ばして、悟空さを殺そうとして、挙句にオラの可愛い悟飯ちゃんを拐って!!親なら子供が悪さしようとしたら、ちゃんと止めて叱るのが仕事だべ!」

「お母さん、ムギさんは…!」

「悟飯ちゃんは黙ってるだ!」

チチさんはどんどんヒートアップしていく。ずっとため込んでいたと言うのは嘘じゃないのだろう。対してムギさんは静かで、微動だにしない。

「何が『私の気持ちなんて関係ない』だ!?まるで悟空さが悪いみたいに!悪いのは悪さしたおめえの家族と、止められなかったおめえだ!!旦那の方はともかく、子供はおめえが頑張れば良い子になれたかもしれねえのに何してただ!!?被害者みてえにメソメソしてれば許されると思っただか!!」

「お母さん!!」

「悟飯ちゃん、さっきから何で…!」

 

「育てたかったなぁ」

 

チチさんよりずっと静かなそれは、何故かやたらと病室内に響いた。

「…何、言ってるべ?」

「あの子は母上って呼んでくれたけど…最後の三ヶ月しか一緒にいなかったのに、母親気取りって冗談きっついよねぇ」

部屋の空気が一瞬にして氷点下まで落ちた。

「血だって繋がってないのに…なっさけないよねぇ、死なせたのは孫悟空じゃなくて私でしょどう考えても」

乾いた笑いと一緒に言葉が吐き出されている。

「貴方の言う通り、私は母親失格……いや、そもそも母と名乗る権利なんてぶっちゃけないよね、うん。あの子が望んでくれたからそうしてたけども…ほんっと、形ばっかりだったなぁ」

そう言うと彼女は再び窓に手をかけた。

「じゃあ、いるだけ無駄な私はこれで……悟飯くん、ちゃんと休んでね」

優しい言葉を最後に、魔女は空の向こうへと消えていった。

 




念のためですが、チチさん好きです。
ただ、彼女の立場と持ってる情報を考えるとムカ着火ファイヤー案件だろうなと。
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