ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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警戒は当然。


不信

 

 目覚めると、知らない天井がそこにあった。

 

 視点を変えれば大概の人間よりも大きいこの体を難なく収めるベッドの上に寝かされているのがわかる。状況を把握しようと起き上がろうとすれば全身が軋むように痛み、意識を失う直前までの記憶が蘇る。

「お、のれ…!」

グラグラと怒りが湧き上がり、憎しみで内が満たされていく。それを力にしてようやく起き上がって毛布を取り払えば、治療が施された自分の体が視界に入った。こう扱われる心当たりはない。『あいつ』がわざわざこんなことをするとは思えないが、事情が変わったのだろうか。自分が今いる部屋を見ても幽閉されているようには思えない。どこにでもある人間の住居のようだ。

「どういうことだ?」

部屋の外に出て情報収集しようと立ち上がろうとした瞬間、耳が足音を拾った。外にいるのか、踏まれる草や枝の音も聞こえてくる。まっすぐこちらに向かっているようだ。

 息を潜め、待つ。気の質からして『あいつ』ではないし、神族の関係者でもない。かといって魔族とも言い切れない。穏やかだが、白黒つけれない妙な気だ。部屋に魔力の痕跡が多く残っているのを考えると、魔術・魔法に関わりを持つ者ではあるようだ。自分に何かしらの価値を感じて治療した魔術師なら利用できるかもしれない。

 そこまで考えが至ったあたりで、問題の人物がこの部屋のすぐ近くまで来た。声からして女のようだ。

「そろそろ起きる頃かなーっと」

自信か慢心か、警戒している様子はない。なんの躊躇もなく、そいつはドアを開けた。

 

「 動くな 」

 

殺気を露わに、いつでも攻撃ができるように構える。驚いたからか、目標の足はすぐに止まった。

「その場から動かず、質問に答える時だけ口を開け。ここはどこだ?」

治療道具らしきものが乗ったトレーを持ったまま、女は動かない。見た目は普通の人間の女とほとんど変わりないが、自分と同じように尖った耳と人間の女にしては高めの身長が気になる。

「…ボーロ樹海中央付近の、私の家」

「ボーロ樹海だと?」

天界からどう落ちたかまではよく覚えていないが、そこそこ離れた位置だ。女の声に特に違和感はなく、こちらに精神操作をかけるようなそぶりもない。

「何故、私はここにいる?」

「えっと、その…近くに落ちてて…」

「落ちていた?」

「大きな音がして、見にいったらクレーターできてて…そのままにしてるから、気になるなら見せれるけど…」

「ふむ…で、貴様は私を拾って連れてきた。そういうことか?」

頷きが返された。対応に困っているのか戸惑いが見えるが、嘘はついていないようだ。

「この辺りにいるのは私と貴様だけか?」

「人間が迷い込むことはたまにあるけど、それ以外は特にいないはず。」

「貴様の目的は?」

即答しない女を観察する。場合によっては自分の身がただではすまないとわかっているのだろう、さっきまで緩み切っていた女の気が緊張をあらわにしている。

「どうした?答えられないのか!?」

声を荒げれば目の前の人間がびくりと反応した。女は口を開いては閉じ、悩み、また開いては閉じと、言葉を探しているようなそぶりを見せた。害意らしきものは感じないが、話しづらいような理由となると警戒せざるを得ない。

「……ほっとけなかった、って言って、納得する…?」

 ようやく紡ぎ出された言葉は、偽善者どもがよく口にするそれだった。瞬時に激情が膨れ上がり、それに呼応するように気が上昇していく。

「貴、様ぁっ…!」

 ただただ腹立たしかった。人間も、奴らとのつながりを望んだ『あいつ』も、目の前のこの女も。

 何もかもが気に食わなかった。怯えながらも敵意をむき出しにする目が、嫌悪を露わにする目が、困惑で歪む目が。

「そんなに死にたいか…!」

視界が、揺れる。怒りのあまりか、気によって家屋が震えているのか…そんなことはどうでもいい。とにかくこの女を━━━!

 

「ダメっ!!!」

 

 次の瞬間、体が凍りついたように動かなくなった。何が起こったのか把握する前に全身がバラバラになりそうな痛みが走り、こらえきれず声を漏らす。ひゅっと息を飲む音が聞こえた気がして、音がした方へと視線を向ければあの女がいた。こちらに片手のひらを向けているが、何らかの魔術を使ったのだろうか。

「い、今、そういうことしたらだめ…!」

痛みが治まらない。女の声が震えているように聞こえるのは、先ほどの揺れが収まっていないからだろうか。

「魂が壊れちゃう…!」

遅れてやってきた疲労感と痛みで鈍くなった頭ではその意味を理解できず、ゆっくり近づいてくる女の姿を最後に視界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 「━━━つまり、今の私の魂は損傷が激しい上に、構成物が足りない致命傷一歩手前の状態だと?」

「それでだいたいあってる」

再び目が開いた頃にはだいぶ時間が経っていたらしく、視界には最初の光景に加えて疲弊したあの女の姿があった。

「応急手当てしたから、休養すれば自然治癒で問題なく動き回れる程度には回復するけど…」

「それだけでは足りんのか」

「……今の貴方の損傷具合だと、完治できない。欠陥のある魂っていう爆弾抱えながら生きることになる。何かの拍子に死ぬだけならまだしも、魂が崩れて形を維持できなくなったら…存在そのものが、消滅する」

これ以上ない心当たりがあり、診断結果を疑う気は湧かなかった。自分が無理やり切り離された側なのだから足りないものは多いだろう。

「肉体の方はもう3日…2日でも大丈夫かも。ちゃんと栄養とれば順調に回復するはず」

「自然治癒のみで魂を回復させた場合、どれくらいで元通り動けるようになる?」

「一ヶ月より短くはならないし、さっきも言ったけど不完全なままだから…」

「『不具合』は避けられん、か」

苛立ちはある。が、気絶する前のような激しい怒りはない。

「……貴様なら、完治させられるのか?」

深いため息の後にそう聞けば、自信なさそうではあったが返答が来た。

「初めてこういうことするから手探りになるし、貴方の心身にも負担がかかるから時間はかかるけど…治療方法は、ある程度目処がついてる。欠陥がほぼ気にならないところまではいけるはず」

「ふむ…」

 おそらく、こいつより腕のいい魔術の使い手はそう苦労せず見つけられるだろう。だが、この手の連中はえてして高い対価を求めてくる。その一点に関してはこの女の方が大概のやつよりマシだと自分の勘が囁いていた。今知る限りの情報からしてこの女は比較的慎重な方で、無謀な策は好まない。自分に何かしらの対価を求める場合、なるべく踏み倒されないようなものを指定する可能性が高い。理由はともかく、なるべくこちらの怒りを買わないように様子を伺っているのは火を見るより明らかなのでそこは心配しなくてもいいはずだ。

「意地でも治せ、女。私はここで腐り落ちる気はない。」

「わかった」

 緊張した顔つきでの了承に、うっすらと不安を感じた。

 

 

 

 

 

 

 手探りかつ、心身に負荷がかかり、おまけに時間がかかる。

 確かに、そう言われた。

 

 ここまで酷いとは思わなかった。

 

 最初の一週間程は自然治癒である程度安定させる必要があると言われ、休養メインで過ごした。新米の星の魔女だと名乗ったあの女がすることと言ったら経過確認くらいのもので、不満といえばあまり動き回れないことぐらいだった。

 この時に自分が落ちた場所や家の周囲にある川やらなんやらの場所を散歩がてら案内され、さらに自衛のために森一帯に特殊な結界を張っていることも説明された。行動可能範囲が狭い代わりに安全が保障されていると思えば納得できる範囲だった。少々馴れ馴れしいのが苛つくが、無理さえしなければ放っておいてくれるのでこれも問題なく我慢できた。

 

 二週目からが問題だった。

 自分の目で魂の状態を確認したいかと聞かれ、特に断る理由もなくされるがままにそいつの言う安全な方法で魂を外に露出された。この時点で軽い吐き気を感じたが、変形しひびの入った小さく感じる魂を見て放置する気にはなれなかった。事前に治療に関する説明を一通り受けて知識を得たこともあり、きつくても治らないよりはマシだと思ったのだ。

 あの女が直に魂に触れた瞬間、最初の吐き気なんて勘違いだったのではないかと思うほど強烈な不快感が全身を襲った。当然のようにそれは顔に出、それを見たそいつはすぐに手を離した。曰く、生物にとって最もデリケートな部分である以上精神から肉体へと影響がどうしても出てしまうとのことだ。例外はあの世くらいだろうとも。

 深い眠りに入っている状態なら感じずに済む可能性が高いという提案は却下した。完全に信用しているわけではないのだから当然だ。

「…本当に、大丈夫?」

「いいからやれと言っているだろう!」

 

 こちらの言動に敏感に反応する姿が、妙に目に付いて苛ついた。

 

 




あの分離、滅茶苦茶無理矢理やった感がすごい。二人ともよく死ななかったなと。
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