ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
生きて帰るつもりだった。自信だってあった。
あの日、泣いている悟飯をただ見上げるしかできなかった日。先代と全く同じことをしてしまったと、その瞬間になるまで気づかなかった。母上は同じことの繰り返しになるかもしれないと恐れていたのではなく、
果たして母上がその場にいてできたことがあったのか、という点に関してはわからない。言動に制限がかかっている以上、なす術もなく眼前で俺の死を見ることになった可能性だってある。もっとも、そうであっても意地でも何かを変えようと足掻いただろうが。
“情けないお母さんで良いなら、喜んで”
母親扱いすべきではなかったのかもしれない。迫り来る死の前にせめて悔いなく生きようとした上での判断だったが、かえって苦しめる結果になってしまったと自責で潰れそうになる日もあった。しかし、ぎこちないながらもできた繋がりは双方にとって確かに救いだったのだ。否定し切ることもできない。
だから、挽回したかった。悟飯を生きたまま救って母上の元に帰ることが一番の償いになると信じて、少々強引にでも生き返った。途中の思わぬ出会いでさらに強化され、これならいけると本気で思っていた。
あの瞬間、咄嗟に孫のやつを庇った理由は自分にもよくわからない。もしかしたら、父親の死を悲しんでいた悟飯をまた見たくなかったのかもしれない。あるいは、孫が死んだら本当に打つ手がなくなるという危機感故の行動だったのかもしれない。
朦朧とする意識の中、馬鹿か俺はと自分に呆れていたのだけは覚えている。これではまた地球が荒れるなと、脳裏に焼きついている母上の嘆き悲しむ姿を幻視しながら闇に呑まれていった━━━。
*
目を覚ますと自分は地面に横たわっていて、殺されたはずのナメック星人の子供がすぐ側にいた。起き上がれば悟飯が駆け寄ってくる。辺りを見回せばたくさんのナメック星人に混ざってブルマとベジータもいて、その場にいる者のほとんどが自分と同じく状況が理解できず困惑している。幸い、最長老様が細部まで把握していたのですぐ説明を受けることができた。
地球に戻ってきたと言うことはと周辺の気を探ってみれば、高速でこっちに近づいてくる者がいた。ほぼ同時に気づいたベジータが騒ぐが、俺と悟飯はその正体を知っている。
「マジュニア!!」
土埃を巻き上げながら少し離れたところに着地し、大声を上げて母上が駆け寄ってきた。。本当は飛びつきたかったのだろう、あと数歩のところで急ブレーキして半端なところで腕が彷徨う。肩を上下させながら魔術で全身スキャンする姿が、全速力で飛んできた事を言外に伝えてくる。そんな姿を見て心配そうに声をかける悟飯の姿を視界に入れてようやく安心したのか、母上は顔をくしゃりと歪めて声を絞り出した。
「お、かえ、りっ…」
自分の肩からも力が抜けていくのがわかる。柄にもなく緊張していたらしい。責められるようなことは絶対にないと知っているのに。
「おや、貴方はもしや…?」
そこで最長老様から声がかかる。ハッと声の方へと顔を向けた母上はその姿を見ると、慌てて駆け寄った。
「え、えっと、すみません…少し、失礼しますね」
一言断ると彼女は大きな手を取って、少量の気を送り込み始めた。
「お若い方、私はもう長くありません。気にする必要はありませんよ」
「…息するのも、辛いようでしたので」
あくまで苦痛を和らげる為の処置らしい。やろうと思えば延命措置もできるのだろうが、相手がそれを望んでいないと分かっているのだろう。ゆるゆると小川のように気を流していた。
「この星は、心優しい魔女に恵まれたのですね……カタッツの子の片割れが貴方に出会えて、本当に良かった」
皺だらけの大きな手を労るように撫でていた母上の手が一瞬止まった。俺も悟飯、そしてブルマもその言葉に反応した。
「少しばかりですが、貴方達の事情を知っています。私にできる事はあまりにも少ないですが…いつか、そのあたたかな願いが叶いますように」
母上は、泣かなかった。涙を溜めながらも微笑んだ。
「ありがとうございます」
その諦めの悪さが、目が眩みそうなほど眩しかった。
***
降り続く雨で、とうの昔に体は冷え切っている。
冷たい体は凍ってしまったかのように動かない。
動かない。
動かない。
そう離れていない所に、ムギが雨に打たれながら座っているのに。
背を向けて、肩を震わせて、必死に声を殺しながら泣いているムギが。
ムギがいるのに、動かない。
動けない。
動けないのだ。