ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
この人達の周りは、楽だ。
「ムギさん!」
「ムギさんだ!」
「ムギさん、今日は何の話をしてくれるんですか?」
「また魔術見せてください!」
「ムギさんっ、昨日ブルマさんが見つけてくれたお水がすごく美味しくて…!」
カプセルコーポに一時保護されることとなったナメック星人達。外に出られないとは言え、大きな庭園も部屋数もしっかりあるので特に不自由することなく暮らせているらしい。原作でその様子はざっくりとしか語られなかったけれど、いくら多種多様なペット達がいるとは言え流石に暇では?と心配した私はちょくちょく顔を見せにいくようにした。
「こんにちは〜。今日もみんな元気そうで何より」
駆け寄ってきた子供達の頭を順番に撫でれば、花が綻ぶように笑ってくれる。マジュニアも生まれたばかりはこれぐらいの大きさだったんだろうなと思うと、ものすごく悔しい。一度で良いから抱きしめたかった。
「ムギさん、いつも子供達の相手をしてくださりありがとうございます」
「お礼を言われるほどのことじゃないですよ、ムーリさん」
ナメック星人達の気はいつも穏やかで、ここに来ると自然と自分の肩から力が抜ける。根本的な所で明確な違いはあれど、瞑想している時のあの人とよく似たそれがとても心地良い。ぶっちゃけ、半分はそれ目当てなので礼を言うのはこっちな気がしないでもない。魂送りでだいぶ疲弊した心に滅茶苦茶沁みて、うっかり泣きそうになる時もある。
「ムギさん、今日は悟飯さんも来てるんです!」
「おっ、それなら今日は地球の生き物のお話する?悟飯くんも詳しいし」
「ほほう、それは私も気になりますな…」
「なら是非ご一緒に」
きゃいきゃいはしゃぐ子供達に連れられて、のんびりゆっくり庭園へ向かう。途中ブルマさんのお母さんにも会って、前回持ってきた苺タルトのレシピのお礼を言われる。
「ブルマさん、作った端からどんどん食べちゃって!お料理、とっても上手なのね〜」
「いえいえ、普通ですよ」
ブリーフ博士と比べるとあまりにも若々しいパンチーさんは、初めて会った時からすごくフレンドリーに接してくれている。最初はなんだか自制しているような雰囲気だったから心配してこっそり読心術を使ってみたけど、ピッコロに関する惚気話を聞きたい気持ちを抑えていただけで拍子抜けした。未亡人かつそこまでまだ仲良くないからと我慢してくれる思いやりに感謝しつつ、とりあえず見なかったことにした。まだちょっと、楽しく思い出話できるほど気持ちに整理がついてないし。
私もすっかり馴染んじゃったなぁと、遠慮して距離をとっていた過去の自分を笑った。いろいろありすぎたとは言え、この世界の懐の深さを忘れてしまっていた。
*
悟飯くんを交えたことで地球の生き物解説は大変盛り上がり、ムーリさん以外の大人達も私が魔術で宙に映すイメージを眺めながら興味津々に聞いていた。ナメック星の異常気象で失われた動植物は数知れず、多種多様な生き物を実際に見ることがなかった新世代の好奇心が大いに刺激されたらしい。
「何から何まですみません」
「気にしないでください。慕ってくれるのは嬉しいですから」
三時間に及んだ解説会の後、はしゃぎにはしゃいだ子供達はすっかりエネルギーを使い果たして流れるようにお昼寝タイムに突入した。悟飯くんだけならまだしもデンデまで私の膝を枕にするし、他の子供達も私に寄り添うようにして丸くなるしで動くに動けない。この後やろうと思っていたことがあったけど、こりゃキャンセルだなと安心し切った寝顔を晒すデンデの頬をそっと撫でた。ふくふくと丸くて柔らかい、よもぎ餅のようなそれをつまみたい気持ちはなんとか抑えた。
「貴方が相手だとついつい甘えてしまうようで…ムギさんの気は、包み込むような柔らかさある。きっと、それで安心してしまうのでしょう」
「そんな、買い被りですよ」
「いえいえ、そんな貴方だからこそだと私は思うのです」
首を傾げれば、ムーリさんは先代の最長老様を彷彿させるような微笑みを浮かべた。
「貴方だからこそ…誰よりも孤独な我らが同胞を、絶望の底無し沼から掬い出せたのだと」
ふっと、あの寂しい背中が脳裏をよぎる。
「生まれる際に変質したことによって、我らでは持ち得ぬ可能性を手に入れた同胞。いくつもの偶然が重なって、本来のナメック星人であれば決して届かない奇跡を実現した者…我らではおそらく理解しきれない、必要なモノを与えられない、居場所になれない仲間を、貴方は救ってくださった」
当たり前のように、『同胞』という言葉がその口から転がり出た。異質な存在への嫌悪はなく、確かな敬意と尊重、そして安心がそこにあった。
「あ…あの人、は、魔族、ですよ?人も…犠牲者、だって、たくさん…」
言葉を詰まらせて言ったそれは、別にあの人を貶して言ったわけではなくて。一瞬でころりと評価が変わってしまうのが怖くてしょうがなくて。
“どうせ好かれるのは『あいつ』の方だろう。今更帰ったところで意味はない”
期待した後にあの言葉通りの展開が来ることを恐れて、無理やり吐き出した言葉だった。
最初から期待されていないのはいい。もうどうしようもないことだってことぐらい子供でもわかる。でも、これ以上落ちようがないと思っていたところで上げて落とされるのは、いくらなんでも━━━。
「ええ、聞いています。彼の子が教えてくれました…彼の罪は簡単に許されるようなことではありません。償いはあって然るべきです。ですが、それと魔族であることは別物です。生まれは選べないものですから」
ナメック特有の、少し温度の低い手が肩に添えられた。
「彼は…ピッコロさんは、貴方を大切に思えた。貴方との穏やかな日々を喜び、貴方を傷つけまいと気遣い、貴方の幸福の為に模索し、貴方と変化していくことを受け入れ、貴方と共に困難に立ち向かうと決意した。全てに怒り、絶望していた彼に『幸せに生きたい』と願わせたのは、他でもないムギさんです」
何か、言おうとした。口を開けて、動かして、無音の空気だけが喉を通る。震える唇を見せないように手で覆い、歪む表情は俯いて髪の毛で隠した。
「そんな貴方を理不尽に奪われ、ありふれた願いそのものすら否定されたら……魔族でなくとも、世界と神々を呪うでしょう」
ぱたりぱたりと服に水滴が落ちる。
ピッコロに出会ってから、どうにも涙腺が緩んだ気がしてならない。嬉しい時も悲しい時も、すぐ目の前がぼやけてしまう。
「死を目前にしても貴方を助けることを諦めないピッコロさんの思い…我らが同胞に持つそれとは異なれど、他全てが敵であっても揺らがなかったその愛は素晴らしいものです。その強さを仲間が手に入れられたことは、とても…とても、誇らしい。ですからどうか、貴方も自信を持ってください」
「ムギさんはピッコロさんのことを…誰よりも愛した夫を、誇りに思って良いのです」
否定されるのが普通だった。同情されるのが関の山だと思っていた。
当然と言えば当然なんだろう。ナメック星人らしい反応だと言われたらそうだとしか返せない。でも、それでも、やっぱり嬉しい。偽りのない綺麗な言葉が、都合の良い許しが、涙を堪えきれないくらい私を救ってくれる。
*
ねえ、ピッコロ。
この世界は、私達が思っていた以上に優しいみたいだよ。