ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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だからもっと知りたい


特別な誰か

 ムギさんは、いつもいろんな話を聞かせてくれる。とても楽しそうに、僕たちにもわかるように、僕たちが飽きないように、話してくれる。その時間が楽しみでしょうがなくて、僕もカルゴも他の子たちもムギさんが来てくれるとつい駆け寄ってしまう。勢い余って飛びついても、笑って許してくれるムギさんが大好きだ。

 そんなムギさんが、少し寂しげな声で話している時がある。それは決まって、新しく最長老になったムーリさんが相手で、話題は僕の知らない『ピッコロ』というナメック星人のことだった。

「━━━中々、厳しい指導ですなぁ」

「私が向いてなさすぎたってのはあると思います。私、どうしても手を抜くというか、力が入りきらなくて…“それでどうやって自分の身を守るつもりだ!?逃げれるものも逃げられなくなるぞ!”って言われて、何回も宙に放り投げられちゃって」

「宙に!?」

「それはもうぽーんと。護身術指導の後はお風呂に直行してたなぁ…懐かし…」

悟飯さんと仲が良くて、たまに会いにきてくれる彼とは違う別の『ピッコロ』。聞けばあの人の親で、地球に避難してきたカタッツさんの子供なのだとか。

「嫌にならなかったのですか?」

「げんなりしちゃう時とか勘弁してほしい時はありましたよ、普通に痛いですし。でも、私を心配してるから教えてるんだってわかってたので…私以外の全てに安心できないから、自分が間に合わなくても逃げられるようにって根気強く教えてくれました」

「それは……また…」

「…とても、悲しい理由です。そんなに心配しなくても大丈夫だよって言ってあげられたらよかったんですけど、嘘はつけませんでした」

 その『ピッコロ』さんは、長い間ムギさんと一緒に暮らしていた。ムギさんと『夫婦』という関係になっていた。『夫婦』とは、クリリンさん曰く、二人の人間が共に生涯を生き抜くという誓いをした特別な関係らしい。子供を作ったり育てたりするのも『夫婦』になってからが普通だと言っていた。

「私のことになると何かと不安になることが多くて、なんのトラブルもない平穏な一日の後に少し…怖がっているような顔をする時もあって」

「…平穏を、当たり前だと思えなかったのですな」

「……大事に、本当に大事にしてくれました。こんなにも自分以外の誰かを大切にできる人だって知る度に、幸せにしたくて…安心、してほしくて…」

片方がいなくなったり、どうしても関係が噛み合わなくなったりしないと『夫婦』は解消されない。そして解消されないと別の人と『夫婦』になれない。簡単に相手を変えられるような誓いじゃないから、本当に好きな人を選ぶようにしているのだとか。

 「大事にしてくれると言えば、あの人、私に触れる時は爪を短くしてたんですよ。こう…ひゅって引っ込む感じに短くなるんですけど、これってナメック星人なら誰でもできるんですか?」

「おや…放り投げるわりには、貴方の扱いに気を使っていたのですね」

「あ〜、やっぱりそういうアレなんですか」

「我々ナメック星人は、生まれて間もない子供に触れる時は爪を短くしているのです。地球人の赤子ほどではありませんが、やはり生まれて数ヶ月は万が一を考えて慎重に扱っているのです」

「赤子レベル!?私そんなに脆く思われてたんです!?」

「ムギさんは見る限り全体的に柔らかそうですから…子供達も柔らかくて温かいと良く言っていましたよ」

「放り投げられるけど、爪は立てられない……クッション?ぬくいクッション扱いなの私?どう反応すればいいのこれ?」

 ムギさんともう一人の『ピッコロ』さんは、お互いを選んで誓い合った。誓いの通りに生きて、死別した。ムギさんは、選ぼうと思えば別の人を選べるのに、そうしなかった。

「黙々と触ってくるなぁって思ってたけど、まさかそんな…」

別の誰かに見向きもしないで、再会を願っている。

「ふふっ、こう聞くと子供達とあまり変わらなくて可愛らしいですな」

「本人に言っちゃダメですよ。絶っっ対怒りますから」

ほんの少し、羨ましい。僕たちナメック星人にはちょっと分からない気持ちかもしれないとクリリンさんも言っていたけれど、もう一人の『ピッコロ』さんは同じナメック星人なのにそう思えた。良いことばかりじゃないと横で聞いてたブルマさんが言っていたけれど、『夫婦』であるブルマさんの親はとても仲良しで楽しそうに見える。

「是非とも、お会いしたいものです」

「……愛想は期待しないでくださいね」

悲しいことも辛いこともあるけど、それを一緒に乗り越えようと頑張れる誰か。幸せにしたいと、一緒に幸せになりたいと強く願える人。そんな存在としてムギさんに選ばれた知らない仲間が、羨ましくて━━━。

「ムギさんっ」

「うぉっ!?…デンデ、もう昼寝終わったの?」

「ちょっと早くに目が覚めちゃって」

今だけちょっと甘えさせてくださいと、心の中で彼に謝った。

 どうやっても彼には敵わないんだろうなと、少ししか知らない自分でもわかる。ムギさんの一番はずっと彼なんだろうなと、確信に近い何かがある。だから今だけ、目一杯甘えよう。

 

 いつか彼が帰ってきた時に、心から二人の再会を喜べるように。

 

 

***

 

 

 もしかしたらこれは自分専用に用意された苦行なのかもしれないと、穏やかな気を纏って反対側に座っている男を見る。

「そんなに天国は暇か?」

「平穏ではあるな」

 

 まだ三回目だが、わざわざ面倒な申請だの予約だのをして武泰斗が面会しに来る。立場上の問題もあってこちらには拒否権はないらしく、私は毎回不快な拘束椅子に座らされる。もう逃げたり暴れたりというのは諦めたから、せめて普通の椅子に座らせてほしい。なんだったら床でもいい。

「貴様の話し相手など、ここに来ずとも履いて捨てるほどいるだろう」

「私は、お前の話が聞きたいのだ」

「…趣味が悪いのはムギ一人で十分だ」

ため息しか出ない。私を改心させようとでも思っているのだろうか。ムギ以外の人間がどうなろうと知ったことではないのに、無茶を言う。

 間違った判断をしたとは思っている。もっと別の方法を使うべきだったと後悔している。だがそれは、ムギが苦しむ結果になったからだ。ムギの苦しみがなければ、心残りはあっても後悔はなかった。他の人間にいくら憎悪されようと、今更なのだから。

「ああ、その気だ」

「何がだ?」

「お前は妻のこととなると纏う気が変わる。まるで別人だ。そっちのお前を、私は知りたい」

顔に浮かんだ不快を隠す気など微塵もなかった。

「やはりこれは私専用の苦行だったのか」

「そんな風に思っていたのか?」

「貴様の目は節穴らしいな」

拘束用の大きな鎖をガチャガチャ鳴らしてやれば、次回はなんとかならないか聞いてみるなどほざいてきた。まだ来る気か。

「話してもいいと思える範囲で構わない。ムギ殿に関連することを聞かせてほしい」

何かしらの納得が手に入れられるまで諦める気がないらしいその男に、私は海溝より深いため息を吐いた。

 

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