ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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想定外なことは、そもそも考えもしない。


気づき

 治療は、亀より遅いのではないかと思うほど鈍足進行だった。

 

 それを指摘すればやれ外殻が固くて整形が難しいだの少しずつやらないと自分の魔力と拒絶反応を起こすだの、いつも反論を用意していた。食事はもちろん、修行内容にやたらと口を出す時もあった。自分の体のことは自分でわかっていると言っても聞かず、こちらが無視すれば魔術で強制送還された。施術中にかかる負荷があの女の想定を超えれば早期に終了し、翌日いっぱいまで監視された。

 こちらがいくら文句を言っても、なじっても、罵倒しても、こと治療となるとあの女は頑なになった。

「それ以上はドクターストップだから!ほんとダメだって!!申し訳ないけど頼むから安静にしててくださいお願いします申し訳ありませんーーーーーー!!!」

しかも、偉そうにいうならともかく、謝りながらだ。おどおどとこちらの機嫌を伺うのに、自分の要求をごり押ししてでも通すのだ。謝りながら。一体あの『申し訳ない』にどれだけの重みがあるのだろうか、もう耳にタコができるくらい謝罪の言葉を聞いた気がする。

 まともに修行に励めるようになったのは一ヶ月半以上経った後だった。本心としてはまださせたくなかったようだが、これ以上は止められないと判断したのだろう。あの頑固者がようやく折れたと妙な達成感を感じ、さっさと治して出て行ってやると心に誓ったのを覚えている。

 

 だが、そこからさらに治療スピードが遅くなった。

 治療の様子は不快感を我慢しながらも毎回見ていたので、進行が遅くなればすぐにわかった。施術後にそこを指摘したが、そいつはいつものように言い訳を持っていた。

「魂がある程度回復してきたせいか、干渉しづらくなってるみたい…もっとスムーズにできる方法は探っていくから、申し訳ないけどしばらく我慢して」

「貴様…!私に他の当てがないからと━━━!!」

「ち、ちがっ、そんなんじゃ…!」

「だったらすぐなんとかしろ!!」

何もかもが思うようにいかなくて、ただただ苛つきばかりが積もっていった。こうしている間も、『あいつ』はのうのうと望んだ椅子の上で誰にも邪魔されることなく日々を生きているのだと思うと余計に苛立った。

 腹いせにあの女がいつも使っている椅子を壊してやったら、落ち込んだ様子で片付けるばかりで反論も文句も何もなかった。余計に腹が立ったが、怒鳴り散らしたところで得るものはないだろうと我慢した。

 

 

 

 

 

 

 二ヶ月経ったあたりから雨季が始まったのか、夜によく雨が降るようになった。

 

 日にちにして七十日ほどだろうか、治療はようやく終わりが見え始めている。しかし、相変わらず進行は早くならない。むしろ遅くなるばかりだ。

「あと少しだろう!!何故さらに遅くなる!?」

「色々試したけどダメだったの!無理に進めたら逆に悪化するかもしれないんだよ?!」

追い詰められているのか、ここ一週間は向こうも言葉に怒気が混ざるようになっていた。

「はっ、どうだか…ここ最近、夜になると長時間留守にしているだろう。何か企んでいるんじゃないのか?」

「っ!…違う!!」

「なら何をしているんだ?私の足止めをしてまで、何がしたい?」

「足止めなんかしてないし、何しててもあんたに関係ないでしょ!」

あからさまに怪しい。余裕がないあまりに知られたくないという気持ちがあらわになっていた。

 もう少し探ってみようかと考えを巡らせていたら、相手の口が先に開いた。

「もう数日くれれば、具体的にいつ終わるか教えられるから…数字出すのに一週間かからないから、だからもう少し待って。お願い」

ならばその日が来る前に貴様の秘密を暴くまでだと、心の中でそうほくそ笑みながら今晩の計画を立てた。

 

 あの女は前から夜に外出していたが、ここ最近はこちらが就寝した後でないと家から出なかった。

 もう少し怪しまれるかと思ったが、寝たふりをするだけであっさりと第一関門を通過できた。足音が家を出てある程度離れたところまで行ったあたりでベッドから抜け出し、音を殺し気配を消し、バレないように後を追う。夜の森は昼に比べれば静かではあるが、夜行性の生物も多くいるので適度な雑音が常に聞こえてくる。おかげで忍びやすい。

 女の足はよどみなく進んでいるので、おそらく目的地は『いつもの場所』なのだろう。早い段階で情報を得られそうだと思ったところで、目標の足取りに焦りが出た。もしやバレたかと足を止めた瞬間、冷たいものが頭に当たった。

「…ちっ、雨か」

焦った理由はこれだと判断し、見失わないように自分の足も早めた。濡れるのは面倒だが、それだけだ。

 

 雨足が徐々に強くなっていく中、たどり着いたのはこの森の中を流れるなんの変哲も無い川だった。川辺に座る背中に動きが見られない間に最適な隠れ場を見つけ、じっと何かが起きるのを待った。

 女は動かない。微動だにせず、ただ雨に打たれている。あの様子ではとっくに頭からつま先までずぶ濡れだろう。まさかずっとあのままじゃああるまいなと疑い始めたその時、微かな声を耳が拾った。

「…ひっ……」

もっと耳をよくすませようと集中しようとしたら、一気に雨量が増えた。突然の変化に思わず声が出かける。星の魔女は天候を自在に操る力を持つと聞いたことがある。まさかそれで雨量を増やし、自分の企み事を隠そうとしているのか。侮っていたかと焦っていた私の耳に、予想を大きく裏切る声が届いた。

 

「ご、え゛ん、なざい…!」

 

ようやく見えた顔は、雨以外のものでも濡れていた。

「ごめっ、なざっ…うぇええ゛っ…あ゛っうっ…」

 例えるなら、親に捨てられそうになっている子供だろうか。こぼれだす言葉はかろうじて単語と認識できるかどうかといった有様。化けの皮が剥がれていくように、泣き方が酷くなれば雨も負けじと強くなる。

 わけがわからなかった。あまりにも唐突に感じた。説明してくれる者などいるはずもなく、呆然とその姿を眺めてしまう。謝罪の言葉が多いやつだとは思っていた。事あるごとに飛んでくるそれが不快に感じるほど、回数が多かった。だが、今のこの光景は…あまりに様子が違う。

 だから、ほんの出来心で、無防備なやつの心の中を覗いた。

 

 

▽▽▽

 真っ先に流れ込んできたのは私への罪悪感で、後を追うように無力感と自己嫌悪と自責が溢れ出てきた。遅れて寂しさも続く。

 満足のいく治療ができない事、私に不快な思いをさせている事、私とうまく関係を構築できない事、つい言い返してしまう事…その他諸々、私に関係するありとあらゆる物事の中のほんのわずかな失敗も逃さず用いて、自分を責めに責めていた。

 ふと湧く私への文句や批判も、すぐに自己嫌悪と自責の激流に飲まれて消えていく。

 

 全て等しく『己が悪い』という考えの元に。

△△△

 

 

 感情の濁流に自分も呑まれてしまう前に読心術をやめた。雨は一層激しさを増していて、あのひどく小さく見える女を叩きのめしそうな勢いだ。心臓が早鐘のように激しく脈打ち、胸が締め付けられるように痛い。荒い呼吸の鎮め方を思い出せない。

 

 あの女は…彼女は、本当に何も企んでいなかった。

 

 慣れない事を慣れないなりに努力し、真面目に治療に取り組んでいた。可能な限り私の都合に答えようとギリギリのところを見極め、怒鳴られる覚悟で必要なことをこなし、誰よりも私にかかっている負荷が大きいからと八つ当たりを責めなかった。

 彼女の欲は、望みは二つだけ。私の完治と、

「ぢょうじに゛っ、の゛っでっ…ごめん、なざいっ…!」

私との良好な関係。

 

 ほんの少しでいいから仲良くなりたい。完治後はたまに会えればいい。茶を片手に少しばかり会話できれば御の字だと、そんな望みを持って私の治療をしていた。

 この森には食料も水もある。生物も多くいる。だが、人はいない。おまけに、星の魔女はただ一人だけの孤独な突然変異だ。常識を軽く凌駕するほど異質な彼女が外に話し相手を求めたところで、人間達のことだからロクでも無いことになる。状況は違えど、あまりに覚えのある問題だった。

 そこまで考えて思い出す、星の魔女の最大の特徴を。

「ま、さか…」

星と接続している魔女は、互いに影響を与え合う。星の環境が悪化すれば魔女の心身に影響をあたえ、逆に魔女の心身に一定以上の負荷がかかれば━━━。

 

「毎晩、こうして泣いていたのか…?」

 




星の魔女は、大変めんどくさい。
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