ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
そもそも何故、前世の私はマジュニアを真っ先に好きになったのだろう。
悟飯くん達がナメック星に出発した後くらいからだろうか、ふとそれについて考えることが増えた。別にピッコロの方が魅力的なのにとかそういう問題ではない。ピッコロの内面をしっかり知ることができたのはこっちに来てからなので、前世の私に魅力に気づけなんて無茶は言わない。
確かに成長後のマジュニアはかなり真っ当な部類だろう。見せ場も強みも相応にあって、老若男女問わず好かれるのもわかる。悟飯くんとの師弟関係でかなりポイントが高いのも要因の一つだろう。そういった理由は前世の私にも通用している。
「…チェック……こっちも、OK……はい、はい、はい。こっちも問題なし…」
最近、なんとなくだけれど一番の理由が見えてきた。自分の現状と照らし合わせた時、あっと気づいた。
「……よしっ、全部OK!後は皆に知らせるだけ!」
《あーあー、マイクテス。マイクテス…えー、サイヤ人やらフリーザ軍やらと戦った地球人の皆様及び関係者様、そしてナメック星人の皆様にお知らせです。この度、地球に悪影響を及ぼす星の接近が確認されたため、星の魔女たる私がそれの破壊を務めさせていただく事になりました。非常に強いエネルギーを必要とするため、感知能力の高い皆様が驚かないようこのように事前に連絡させていただきました。その他軽度の地震も発生することが予想されますが、地球そのものへの影響はこちらで極力抑えますのでご安心ください。突然のお知らせになりましたことを深くお詫び申し上げます。結果は追ってご連絡致します。それではまた後ほど》
社会人経験は短いものだったから敬語がちゃんとしてるか自信ないけど、まあ、多分こんなものだろう。事前告知なしでやるよりはずっと良心的なはずだ。
「さて、と…頑張ろうか、相棒」
真新しい杖に意思はないのに、自分で作ったせいか随分と愛着を持ってしまった。
***
母上から突然飛ばされたテレパシーの内容に、思わず声がひっくり返った。一人で修行しているタイミングで本当に良かった。無力ではないとはいえ、星を破壊するとは何事だ。あの母上が匙を投げて排除してしまうような星とは、一体どれほどとんでもないモノなのだろうか。
いてもたってもいられず、準備をしているらしい母上の元へ向かう。当然だが、自分と同じ方向へ向かっている気が複数感じ取れた。少し遅れる形で悟飯も接近している。母上の気からは多少の緊張を感じるが、それ以外はいつも通りだ。
周囲の生き物を安全地帯へと追い払ったのか、だだっ広い荒野に彼女は一人佇んでいた。半径五メートルほどの魔法陣の中心で、身の丈よりも長い木製と思われる杖を持っている姿は異様だった。
「お、流石。一番乗りだね」
「母上、これは一体…?」
「他にもお客さん来るみたいだし、揃ってから話すよ。あ、魔法陣踏まないようにね。保護してあるから大丈夫だろうけど、一応ね」
言われるままに魔法陣の外に立ち、全員揃うのを静かに待ちながら母上を観察した。母上が右目の下を軽く叩くと、その眼前に淡く光る小さな魔法陣が展開された。そのまま空を見上げてしかめ面をしたので、おそらく遠見の魔術だろう。
「ムギさん!お待たせしました、皆揃いました!」
「ああ、悟飯くんも…って、うわすご。ほぼフルメンバー」
目標に集中していたのか、他の連中が来ているのに気づかなかったらしい。俺と悟飯、クリリン、天津飯、餃子、ヤムチャ、そして無理やりついてきたらしいブルマが今ここにいる。
「えーっと…何から話そうかな……とりあえず、問題の星を見せた方がいいかな?マジュニアはちょっと影響受けるかもだから注意して。他の人もだけど、まずいって思ったらすぐ言って」
「見せる?」
「私と一時的に視覚を共有する魔術でね。魔術自体は無害だけど、問題の星がかなり特殊だから安全第一で行くよー」
全員の了承を取ると母上は再び空を見上げて、スコープのような魔法陣に触れた。魔法陣の光が強くなったと思った次の瞬間、宇宙空間が眼前に広がった。
「うわぁ!?」
「うっ、宇宙!?宇宙が見えるわ!」
「わぁ…!」
「こ、これが…魔術…」
それぞれ驚く声が聞こえる中、俺は少し遠くにある星に目を奪われていた。眩しく輝いているわけではない、暗い色も相まってむしろ見えにくい部類であるはずのそれは、その禍々しくも妙に心地良いパワーを発して俺を釘付けにしている。注意しろと言うのはこれのことかと、即座に自分の気を鎮めた。
落ち着いてきた頃には他の奴らも見えにくいが異質な星に気づき、話を進めるために俺は口火を切った。
「母上…」
「心身に異常ある?フィルターみたいなのかけられるけど、どうする?」
「い、いや…問題ない。だが、あれは一体…?」
「魔凶星だよ」
***
原作で起きる出来事は当然起きるし、唯一情報を持っている私に規制が入ってるので基本的に変えることはできない。この世界においては、それは原則だ。
それならばアニメシリーズは?
劇場版は?
TVスペシャルは?
ゲームは?
一部、特にゲームや劇場版に関してはIFストーリー的なものが多く、原作とはうまく噛み合わないものがある。これらについてはとりあえず除外してもいいだろう。登場していたオリジナルキャラクター自体はどこかにいるかもしれないが、原作を変えてしまうような登場の仕方はしないと思われる。
ならばそれ以外、原作の空白時間に入り込めるオリジナルストーリーや、GTなどの原作以降の物語はどうなるのか。
「こうしてズームして見てみるとよくわかると思うけど、いかにも魔族が好きそうな星でしょ?」
「な…なんて禍々しいパワーだ…!」
少なくとも、ガーリック親子に関しては普通にいた。つじつま合わせで若干変わっているところはあったけれど、それ以外はそのまま私が知っている通りだった。これにより現神がガーリックの影響もあって早期に就任した可能性が浮上し、知った時は思わず渋い顔をしてしまった。なんてことをしてくれやがったのでしょう。
「ムギさん、本当にあの星を壊すの?」
「うん。最初はちゃんと生き物がいたみたいだけど、星のパワーが強くなりすぎて皆脱出したか死滅してるんだよね。地下の方も念入りに調べたけど、最新の生き物の痕跡は千年以上前のものだったよ。だからまあ、周囲を巻き込まなきゃ死ぬ命はないはず」
「そ、そっかぁ…」
「生き物がいるなら軌道を無理やり変えるとか、影響を受けないように地球全体を結界で覆うとか、そういう案も真面目に考えたんだけど…どっちも確実に地球を守れる方法じゃないから、遠くにあるうちに壊す事にしたの」
彼らのせいで真面目GTルートを考えなければいけなくなったものの、同時に原作外の要素に関しては問題なく私が関われることも判明した。私がやらかして影響が出てしまうような流れになった場合が心配だけれど、それはその時にならないとわからないだろう。それにしても悟飯くんらしい心配だ。念の為、優しさを悪用されないよう後で魔族に関するレクチャーをしておこう。
「星のパワーに耐えられる者はいなかったのか?」
「いたにはいたんだろうけど、多分そういう魔族は魔凶星がなくても十分強いし、自分含めた少数以外がバタバタ死んでいく星の活用方法ってあんまりないから…他の星に近づけて、そこの魔族を強化するのが一番無駄がなくて簡単な使い方になる」
「だから壊すのね!地球の魔族がパワーアップして暴れるかもしれないから!」
「ピンポーン。ここの魔族のほとんどが武天老師クラスに手も足も出ないんだよね。だから極一部を除いて割と大人しいの。まあ、ホームグラウンドたる魔界や魔凶星から離れたのなら当然なんだろうけど」
天津飯の質問に答えると、ブルマさんが私の意図に気づいたのでさらに説明を付け加える。最初から気になる人達にはきちんと説明するつもりだったので、ある程度そのあたりの情報整理はしていた。おかげでサクサク話が進む。
「星の説明はこんなもんかな。そろそろ破壊してもいい?」
「言葉だけ聞くと滅茶苦茶物騒だな…」
メンバーの中でも比較的警戒心強めの天津飯達やヤムチャにも納得してもらえたので、そろそろ仕事を始めたい。そう思っていたら、マジュニアからどうやって破壊するのかと聞かれた。
「魔術や魔法を使うのだろうと想像はつくが…正直言って、母上にそれが可能だとは思えない」
「うん、まあ…そうなるよね。戦えなくはないけど、弱い部類だってマジュニアは知ってるし」
「え…雷とか使えるのにか?」
ナッパにしたことをよく覚えているらしいクリリンが驚く。反対に悟飯くんはマジュニアと同じ表情をしている。
「必要に迫られたりブチ切れてたりしたらそりゃあ暴れるけど、私は所詮『魔女』であって戦闘は専門じゃないよ。これでも基本は平和主義だし…と言うか、私が好戦的だったら地球の天災の発生率はもっと高くなってるよ」
「そ、そういう仕組みなのか…」
星の魔女に関しては私も例の図書館に行って学ぶまで知らなかったことが多いので、マジュニアの反応は当然だ。つくづく、自分がいかにマイノリティーか思い知らされる。
そう、私は少数派だ。この世界のどこへ行っても、私は異質な存在だ。
「この距離にある星を壊すとなると、それこそ神とか宇宙空間でも生きていける種族とか、超高度な科学兵器による超遠距離狙撃とかじゃないと無理なんだけど…星の魔女も、そう言う連中に含まれる例外でね」
前世からその傾向があったし、今更それをどうにかしようとは思えない。もう、そこまで自分を変えようとは思えないし、変わるにも限界がある。
「星の魔女は、星と接続して共生してるわけだけども…一時的になら、複数の星と繋がれる。素のスペックでどうにもならない敵に遭遇した時はもっぱらこの手を使って、身体能力や単純な火力を底上げする。理論的には繋がった星の数だけ強くなれるけど、事前に仮契約というか回線みたいなのを個別に引かないとダメだし、手に入れた力の分だけ体に負荷がかかるから少しずつ増やしていかないと自滅する…今回に関しては月と太陽に回線を繋いで火力と推進力を補ってる」
子供の頃は、どこへ行っても浮いてしまう自分が悲しかった。常識は人それぞれとは言うけれど、私の持つそれは世間一般から結構ズレていて共感されないことが多かった。寂しくて、つまらなくて、惨めで、自分がダメなやつみたいに思えて…せめて無害でいようと一人で過ごしていた私が出会ったのが、ドラゴンボールの原作漫画だった。
「後はどう当てるかだけど…このまま方向だけ調整してぶっ放すと、他の星やらなんやらを巻き込んでどえらいことになるし、いろんなものに当たることで届かなくなったり壊し切れなくなったりする。これが今回の仕事で一番難しい部分なんだけど、実は星の魔女だと割と楽に突破できちゃうんだよね」
「…まさか、回線か?」
「正解!星の影響を極力受けないような最小限ギリギリの繋がりだけど、それでも標準をロックして他の障害物は極力避けるようにできるんだよ。本来は星に衝突しそうな隕石への対策として生み出された手法で、こんな大層な魔法陣とか杖とかいらないんだけど…対象が大きめな星であることと、単純に私がまだ未熟だからどうして魔術的な補助が必要で……つくづく弱いなぁ、私…」
とても読みやすくて、他にすることもなかった私は黙々と読んで、そしてマジュニアの生き様を見た。
かっこいいと思った。優しくて、賢くて、強くて、大人で…人に囲まれていないのに、全然惨めじゃなかった。経歴や見た目、性格などいろんな要因が重なって、普通の人間社会では生きづらい異質な存在なのに、物語後半の彼は不幸じゃなかった。普段は一人で過ごしていても、極々少数の人達としか関わらなくても、他の人達からは怖がられていても、それを理由に正しいことをやらないなんてことはなかった。必要なら泥を被って、命だってかけて最善を尽くす彼が、本当にかっこよくて憧れた。
「ま、とにかく!魔凶星の破壊に関してはきちんと事前調査、手法の確立、最終確認までしっかりやってるから大丈夫だよってこと!月と太陽の力を借りるのは地球を治すのにちょこちょこやってるから、何を取り扱ってるのかもちゃんとわかってる。今回は一点にパワーが集中して絶対皆わかっちゃうから、変に心配されないように連絡しただけだよ」
子供の頃はそれくらいしか言語化できなかったけれど、今ならもっと言える。
異質であっても人に囲まれなくても、幸福に生きられるし惨めでもなんでもないと体現するマジュニアを見て、私は救われていた。
はみ出し者でも良い。無理して他人と仲良くならなくて良い。わかってくれる人を大切にして、可能な限り良く在ろうとすれば、十分真っ当。大勢の人が褒め称えなかったとしても、誇って良い立派な人生。むしろ一人で過ごす時間を楽しめない方が色々ときついと、成長していくにつれて私は学んでいた。気付いていなかっただけで、マジュニアほどかっこよくはないけれど、割と近い人生を前世の頃から楽しめていた。
星の魔女としての人生に割と適応できていたのも、その生き方がある程度身についていたからだ。ピッコロは私の幸福な人生において必要な最後のピースで、だからこそあの二十数年は本当に幸せだった。いろんなものがないようで、いろんなものを諦めていたようで、色々と不自由なようで、色々と大変なようで、でも欲しいものはちゃんと全部ある
「じゃあ、今度こそ始めるよー!」
ピッコロだって、そう生きられた。最悪の介入で奪われてしまったけど、確かにそう在れることを彼は身をもって証明してくれた。そう生きられるならそれで良いと、私以外にも思ってくれる人達だっているのだ。私達のわがままじゃないと、私達でも願っても良いのだと。
だから、強くなる。彼を守れるくらいに、強く。あらゆる可能性を模索して、何度でも立ち上がって、自分なんかなんて言い訳もやめて、いちいちくよくよしないで、もっと強く。
だって私は間違ってない。惨めじゃない。当たり前の、ありふれた願いを、他の人達と同じように頑張って追い求めているだけなのだから。
ピッコロを取り戻して全身全霊で生きるのならば、弱いままなんていられない。