ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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日常に還る

 

 その日は、僕達が思っていた以上に早く来た。

 こんなにも時間の流れを早く感じる毎日は初めてだった。

 

「割れてない?」

 皆が揃うのを待っていると、カルゴがふと聞いてきた。細心の注意を払っているけれど、そう言われると気になってしまってそっと箱の中身を確認した。もちろん、他の人達に見られないように。

「…うん、大丈夫」

「よかった」

長く使えるようにと頑丈に作ったけれど、それでもやっぱり不安になってしまう。他にも心配事はたくさんあって、何よりもあの人に喜んでもらえるかと考えるとドキドキが止まらない。

 落としてしまわないようにと、箱を抱え直す。あと来ていないのは悟飯さん達とクリリンさん達だ。

「───ムーリさん、よかったらこれを」

「これは…もしや、茶葉の苗ですか?」

「皆気に入ってくれていたので…あ、これナメック語で書いた説明書です。ちょっと読みにくいかもしれませんけど」

「いえいえ、わざわざありがとうございます。良い記念にもなります」

ムギさんは早くから来てくれて、名残惜しそうに皆と話している。ついてきてくれたら良いのにと一瞬思ってしまって、慌てて振り払う。

 ムギさんは、もう自分で選んでいる。どんなに辛くても、どんなに苦しくても、自分の願いの為に進み続けると決めている。どんなに楽しくて、どんなに平穏であっても、僕達とは来てくれない。

 寂しいし、そんなムギさんが好きな気持ちでちょっと苦しい日もある。

“…お前も、そう感じるか”

いつか、白いマントを掴んでそう溢した僕にピッコロさんが共感してくれた。幸せになってほしい誰かが苦しんているのに、それを止められない。もう頑張らなくていいと言えたら、どんなにいいだろう。ゆっくり休んでのんびり生きていいと言えたら、どんなに素敵だろう。

“俺達にできることがあるとすれば…母上が進む道を、少しでも歩きやすくしてやることだけだ”

静かに、諭すように、あの人はそう言いながら僕をぎこちなく撫でてくれた。ネイルさんそっくりなのに、撫で方が全然違ってなんだか不思議な気分だった。

 

 そんなことを思い出していたら悟飯さん達もクリリンさん達も到着して、ようやくポルンガを呼び出す準備に入った。

「デンデ」

「うん…行こう、カルゴ」

大した力のない僕達にできることなんて、たかが知れていて。側にいることすらできなくて。それでも、それでも何か少しでも力になれたらと思って。

「喜んでくれるかな…?」

僕達の精一杯を持って、そろそろと皆がいる中心へと歩いた。

 

 

***

 

 

 星の魔女のことは、あまりよくわからない。

 会う機会が一切なかったのだから知らなくて当然だが、何よりあのピッコロ大魔王の妻だなんてロクでもない気しかしなかった。

 

 だが、俺達は生まれ変わりだと名乗っていたピッコロの背中を何度も見ている。時に地獄に、時に地球に意識を向けている、物悲しそうな後ろ姿を。

「ピッコロ、少し聞きたいことがあるが良いか?」

「…なんだ?」

特にそれを止めなかったものの界王様も気になっていたらしく、ある日ふと彼に問いかけていた。

「お前は何故、星の魔女を母と呼ぶ?」

「何?」

「確かにお前の親との関係はあったかもしれんが…血を引いているわけでもなければ、育てられたわけでもない。わざわざそう呼ぶ義理があるようには思えんが」

 

 彼の気が急上昇したのは一瞬だった。

 

彼の瞳には紛れもない怒りがこもっていたが、何を思ったのか理性的に対応することを選んだらしい。

「……貴様にわざわざ説明してやる義理もない」

地を這うような声でそれだけ言うと、ピッコロはその場から離れていった。

「あーあ、ダメじゃないですか界王様。ピッコロの地雷踏み抜いて」

「やかましい!あそこまで過敏に反応するとは思わんじゃろ!」

あからさまにショックを受けている界王様を気遣って、ヤムチャが揶揄う。

 俺はと言うと、どう反応していいかわからなかった。チャオズも似たようなものだったのだろう、なんとも言えない顔で俺を見上げてきた。

 

 しばらく後にもう一度ヤムチャが別の角度から問いかけた時に得られた答えも、更に混乱を招くものだった。あまりに、あまりに普通すぎたのだ。ピッコロ大魔王とどうすればうまくいくのか全くわからない、どこにでもいそうな人間の在り様に聞こえた。ピッコロがわざわざ気にかける理由が先代からの縁しか思いつかないくらい、かけ離れた存在だと感じた。星の魔女の立場から考えると、むしろ極力関わりたくない部類のように思えた。

 結局疑問が投げっぱなしにされたままピッコロが蘇生し、しばらくしてヤムチャも後を追った。

 

 そしてさらにナメック基準で一年後、すなわち百三十日後に俺とチャオズも生き返った。

「天さん!」

さっきまで一緒だったのに生き返った俺にチャオズが飛びつく。見渡せばピッコロや神様によく似た異星人達の中に紛れるように、よく知っている顔ぶれが混ざっている。懐かしさもあって、様々が思いが胸からこみ上げてくる。

「さて、ではそろそろ我々も…と言いたいところですが、最後にもう一つだけ」

三つ目の願いで帰るはずのナメック星人達の長が待ったをかける。

「デンデ、カルゴ…行く前に、さあ」

ずっとタイミングを測っていたのだろうか、緊張した様子で小さな子供が二人おずおずと後ろから出てくる。大きい方の子供が無地の箱を大事そうに抱えて、静かに足を進める。

「…え?私?」

そして、見慣れない黒髪の女性の目の前で止まった。首を傾げながらも彼女はしゃがんで、子供達と目線を合わせた。

「えっと…色々してくれて、その、楽しかったから」

「僕達からの…お礼、です」

「わざわざ用意してくれたの!?ありがとう!開けてもいい?」

穏やかな目でそれを見守るピッコロに気付き、ようやく彼女の正体を把握する。おそらく夫の同族だからと気にかけていたのだろう。揃って頷く子供達に破顔して目を輝かせながらそっと箱を開ける姿は、大魔王の妻やら星の魔女やら仰々しい肩書きとは釣り合わない。

「え……これ…」

そしたらその顔が、驚きに変わった。恐る恐る取り出されたのは、なんの変哲もない二つのマグカップ。変わっていることといえば、片方だけ妙に大きいことぐらいだ。

 彼女の様子を見て余計に緊張してしまったのだろう、子供達がつっかえながらも説明する。

「大きい人だって、聞いたから…ちゃ、ちゃんとピッコロさんに、大きさも確認してもらって…」

「……い、一緒に使えるものがあれば…い、いつかきっと、役に立つかなって…」

状況を把握した以上その言葉の意味も理解できてしまい、開いた口が塞がらなかった。あの子供達は知っているのだろうか、彼が何をしでかしてしまったのかを。いや、知らない可能性の方が高い。子供相手にする話ではないし、言えたとしてもぼやかした表現しかできないだろう。

 こっちが衝撃のあまり言葉を失っていると、星の魔女がそっとコップを箱に戻してから地面に置いた。そして子供達を二人まとめて、ぎゅっと、噛み締めるかのように抱きしめた。

「…ありがとう」

あまりにか細いそれは、震えていた。

 子供達は数秒ほど固まっていたが、二人で包み込むように彼女を抱きしめ返した。

「ムギさん、今まで本当にありがとう」

「僕達、応援してます。だから、いつか…いつかきっと、二人で遊びに来てください」

 

 俺は知らない。何も知らずに、今ここに立っている。

 だが、ピッコロの眼差しと、子供達の心のこもった贈り物と、彼女の震える声が、感情的に納得させてきた。

「遠慮されそうだけど、頑張って説得して連れてくるよ。約束」

拭っても溢れる涙を緩んだ頬の上で滑らせながら指切りする彼女は、願われたのだ。他でもないピッコロ本人に、母になってほしいと願われたのだ。そう願われるほどに、あのピッコロ大魔王が妻にと望んでしまうほどに、愛を振りまく人物なのだ。

“…武泰斗様も何か引っかかっていたようでな、こちらを嘲笑いながらも妙に寂しい目をしていたと言っていた”

いつか、武天老師様が言っていたことを思い出す。真相はどうなのかわからないが、語られた歴史に穴があったのは事実。

「何事も額面通りに受け取るべきではないと言うこと、か」

少なくとも彼女に関しては、先入観を捨てなければと一人決意した。

 

 この後、久々の現世の食事に舌鼓を打っていたら彼女の手作りだと聞いて、驚きすぎて微妙な空気にしてしまったのはまた別の話だ。




ナメックは癒し
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