ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
お父さんが畑仕事を頑張っている時間、ピッコロさんは一人で修行して、僕は勉強するようにしていた。朝起きたらちょっと体操して、計画通りに問題集を解いて、朝ご飯をしっかり食べたら修行しに家を出る。毎日、これの繰り返しだ。
「本当に全然顔出さねえだな…」
「まあ、飯もいらねえって話だから当然といえば当然だべ」
お母さんとお爺ちゃんがピッコロさんの姿を見ることはない。僕とお父さんがご飯を食べに戻る時も、ピッコロさんはついてこないから。
「ムギさにお茶っぱ用意してもらっただのに」
お母さんは、まだ怒ってはいるけど、ピッコロさんをお客さんとしてもてなす気はあった。ムギさんと仲良くなれたのもあって、少し抵抗がなくなってきたんだと思う。
僕は毎回誘ってるけど、俺はいいっていつも断られる。あの荒野でのお昼ご飯を食べる時間はいつも楽しみだったから、あの頃みたいにピッコロさんにはいてほしい。でも、優しくて真面目なあの人が来づらい気持ちもわかってしまう。
“人見知り、というか…あんまり騒がしいのに慣れてないってのはあると思うよ。チチさんにも気を使ってるだろうし”
いつかムギさんに相談した時にそう言われた。僕に会うまでずっと独りだったから、それが当たり前になっていてもおかしくない。寂しげに、申し訳なさそうに説明された。
“なんだかんだあのお昼の時間は嫌いじゃなかっただろうから、良いきっかけがあれば少しずつ来るようになるんじゃないかな”
その言葉を信じてあの手この手で誘ってみたけど、ピッコロさんは僕を追い払うように断ってばかりだった。
*
いつもと変わらない、ありふれた夜。夜ご飯を食べ終わって一息ついたところで、珍しく家のドアがノックされた。
「こんな時間に…迷子だか?」
元々、この家にお客さんはそうそう来ない。夜の山道は僕達みたいにある程度強い人じゃないと危ないから、知っている人達は皆昼間に会いに来る。ご近所さんですらそれなりに離れたところに住んでるから、用があればすれ違わないように前もって電話してくれる。だから今人が来るとしたらこの辺りに詳しくない人か、急な用事でどうしても来ないといけなかった人だけだ。
「うひゃあ!?」
びっくりしているお母さんの声に釣られて僕とお父さんが玄関に目を向けると、思ってもいなかった人がそこにいた。
「ピッコロさん!」
「ピッコロじゃねえか。なんかあったんか?」
感情の読めない顔でお母さんを見下ろしていたピッコロさんは、一瞬だけ僕を見てから視線を戻した。
「…母上のことで連絡しに来た」
「ムギさ?ムギさがどうかしたのけ?」
突然のことに固まっていたお母さんも、ムギさんのことを話題に出されていつもの調子を取り戻した。それを観察するような目でじっと見ながら、ピッコロさんが続ける。
「明日の夕方から明後日の早朝はおそらく姿を見せないだろう。用があれば昼間に済ませておいた方がいい」
それを聞いて、僕は首を傾げた。ムギさんは元々、星の魔女としての仕事やらなんやらでいないことの方が多い。何かあった時はピッコロさんがテレパシーで呼ぶなり、お父さんが瞬間移動で呼びにいくなりしてはいたけど、わざわざその時に呼ばなきゃいけない事情はそんなに多くない。後で聞けることはそうしていた。それに、何かしらの作業で身動きが取れないとなれば自分で事前に教えてくれるのに、何故か今回はピッコロさんが伝えに来ている。しかもなんだかふんわりとした説明だ。ムギさんらしくないし、ピッコロさんらしくもない。
「ってことは、明後日はオラ一人で畑仕事か?」
「おそらくな」
「はっきりしねえ言い方だな。まぁた何か隠してるだか、ムギさは」
お母さんも僕ほどじゃないけど変に思ったらしい。お父さんの確認にも断言しないピッコロさんを相手に仁王立ちして聞き出そうとした。そこでようやく、ピッコロさんの表情が変わった。
「…案外簡単に忘れるんだな」
ふっと自嘲するような、ニヒルな笑みだった。
「何がだ?」
「まあ、忌々しい記憶だろうしな。思い出せないならそれでいい。母上に余計な刺激を与えないのであれば問題ない」
そこではっとしたお母さんが近くの壁を、そこにかかっているカレンダーを見た。そこで僕も、そしてお父さんも気づいた。
━━━五月九日、ピッコロ記念日。
全員が状況を理解したのを感じ取ったからか、ピッコロさんが説明しだした。
「これまでの傾向からして昼間は安定しているが、陽が落ちると毎年雨が降る。大荒れになることはないと思うが…下手に突き回せばどうなるかわからん。翌朝まではそっとしておいてほしい」
ほんの一晩、しとしとと雨が降るだけだっただから今まで気づかなかった。季節的にも極端に多く降ったりしなければ怪しまれるようなこともない。きっとムギさんも気づかれないようにしていたんだろう。人に迷惑をかけないように、心配されないようにしているムギさんなら、たとえ大切な人の命日であっても気を使われないように誤魔化す。ピッコロさんはそれをよくわかっているから、先回りして僕達に伝えに来た。今までずっとお母さんに会わないようにしてきたのに。
「そういうことだか…それなら独りの時間は大事だな。邪魔はしねえから安心するだ。夜だけで十分なのけ?」
「昼間は全世界がお祭り騒ぎしているからな、それを妨害したくないらしい。丸一日憂鬱なのは嫌だとも言っていた」
「…頭が痛くなるくらいムギさらしいべ」
「まったくだ」
ムギさんのこととなると割と話が合うんだなと、普通に会話できている二人を見る。これはもしかしてと期待したところで、ピッコロさんが話を切り上げた。
「話はそれだけだ。遅くに悪かった」
背を向けると同時に、ふわりとあの白いマントがなびく。それを見たお母さんが、せっかくのチャンスがと焦る僕より早く動いた。
「待つだ」
「…伝えるべき情報は伝えたと思うが」
「オラもムギさに関係することで話があるだ」
「ほう」
最初、ドアを開けた直後は少し怖がっているように見えたお母さん。それがたった数分で、僕達と話しているのと変わらない様子でちゃんと目を見て話している。お母さんの、こういうところは本当にすごいと思う。
「カレンダー見てついでに思い出しただ。おめえ…」
ムギさんの時もそうだった。
「母の日はいつもどうしてるだ?」
僕はそんなお母さんが、大好きだ。
「…………は?」
「やーーーーーっぱりそうだっただ!!ちょっとこっちに来るだ!」
「なっ、おい!?」
簡単に手首を捕まえて家の中に引きずり戻すお母さんと、混乱してるせいでまともに抵抗できなくて引っ張られるままのピッコロさん。お父さんはそれを見て楽しそうに笑っている。
「ははっ!ピッコロでもチチには逆らえねえみてえだなー、悟飯」
「うん、みたいだね」
「貴様ら、他人事だと━━━!」
「おめえの相手はオラだ!」
とても騒がしくて、楽しい夜だった。
チチさんとピッコロさんは一回仲良くなってしまえば後はサクッとうまくいく派