ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
「━━━使い?」
「そうだ。この書類を北の界王様に届けてほしい」
閻魔大王からの呼び出しということでピアノ達にひどく心配されたが、まさかただのお遣いを頼まれるとは誰が思うか。こっちは大罪人だというのに閻魔は獄卒どもに仕事を割り振っているかのような態度だ。
「私でなければならない理由があるのか?」
「いや、いつもは天国でボランティアを募っている。お前が拒否すれば今回もそうするつもりだ」
「拒否権があるのか。珍しいこともあるものだな」
死んでから困惑するような目にばかり遭っている気がする。
通常であれば罪人に任せるような業務ではなく、武泰斗との面会のように強制できることでもない。そして天国に行くような者に任せるとなれば、やたら苦痛な道のりである可能性は低い。
「北の界王様は蛇の道の果てにある界王星に住んでおられる。距離は片道百万キロメートル、お前でもそれなりに時間がかかるだろう」
なるほど、少なくとも体力とある程度のスピードが出せる身体能力は必要らしい。いつものボランティアとやらは天国の武道家達がやっているのだろう。
「わざわざ私に声をかけたのは何故だ?内容は知らんが、仮にも神々で取り扱っている書類だろう」
「色々と事情はあるが、現時点でお前にまともに罰を与えられていないのが理由の一つだ」
「…苦役代りか」
いくらか納得できる答えだ。形式的に責苦は毎日受けているが、私にとっては寝ながら通過できるものばかりだ。魔族であることも影響していい加減体裁が悪くなってきたのだろう。
「にしても私にやらせるのはどうかと思うが」
「他の罪人にはそうそうやらせようとは思わん。それに、お前は途中で放り出すようなことはしない…そうするくらいなら最初に断るだろう?」
私の全てをある意味ムギ以上に知っているからこその判断だと百も承知だが、こうも断言されるとなんとも気に食わない。反論しても意味ないので黙る他ないが。
「お前の今の実力からおおよそかかる期間は把握している。そこから大きく遅れるようなことがなければ問題ない。もしそれよりずっと早く終わるようなことがあれば、その分刑期を短くしよう…どうだ?」
悪くはない話だ。これを受けることで今後も似たような案件がよこされるようになれば、さらに刑期を短くできる。仮に短くできなくとも真面目にやれば損するようなこともない。ものによっては良い修行にもなるかもしれない。
ほんの少し、ムギが差し出し続けている手に近づけるかもしれない。
「……我が魔族達に事情を伝えたい」
「手短にな」
*
果てしない黄色い雲海の上を曲がりくねった灰色の道が走っている。雲の下は地獄らしく、万が一落ちてしまったら適当な獄卒に書類を預けてほしいと言われた。そんな雑な対応で大丈夫なのかと少々頭が痛くなってくる。
聞けばあの小僧は行きを半年ほど、帰りはわずか一日で踏破し、その後に走った我が子は一ヶ月程度で界王星にたどり着いたという。いかんせん自分の実力を正確に測れていないのではっきりとは言えないが、頑張れば小僧の往路の記録には勝てるだろう。おそらく閻魔側もその程度の期待をしているはずだ。
ビクビク怯えながら自分を蛇の頭まで案内した鬼の車が離れていくのを聞きながら、改めて預けられた書類ケースを眺める。光を一切通さない漆黒のそれはかなり頑丈で、それを閉じている真っ赤な封蝋のようなものから魔力を感じる。
「……これも試練の一つか?」
ムギを解放するにあたって、物理的な方法以外何も考えなかったわけではない。ムギが残した書物や世界中からかき集めた情報の中に何か有効な魔術はないかと、自分なりに研究していた。研究した上で物理破壊しかないという結論に至ったのだ。そのことを閻魔が知らないわけがない。
「忌々しい」
癪に触る。賭ける価値があると思われていることが、ただただ気に食わない。
頭ではわかっている。やつなりの事情があり、できることに限りがある。下手な行動は宇宙規模の混乱を招きかねない立場で、地位は界王達より下でも重要度は負けず劣らずどころか時として容易く上回る。一日当たり相手にする魂の数など眩暈がするほどで、神々の中でも特に自由のない身分だ。
「どいつもこいつも…何故今になって━━━」
今更救おうとするのかと、噛みつきたい自分がいる。自分が悪いのは当然として、結果が出た後に逆らおうとするくらいなら最初から止めればいいだろうと文句を言いたくなる。
ムギは確かに自らの意思で歴史に逆らおうとしたが、そこに宿る意思は一般的に肯定されるものだ。目的も悪いものではないはずだ。早期に悪の芽を摘もうとしたと言えば、むしろ英雄的とも言えるだろう。やらかした私が苦しむだけならともかく、ムギがあまりにも報われない。私が潰したから仕方ないと言われたら反論できないのも事実だが。
もしやこれは自分に罰を与えつつも、最終的にムギの願いを叶える為にやっているのだろうか。だとしたら随分と回りくどい。そんな手を使わなければいけないほど厄介なことになっているのか。確かに『アレ』の強さは尋常ではないが、なんというか、どうにもきな臭い。
「…とりあえず、行くか」
これ以上は考えても仕方ないと軽く柔軟体操をしてから蛇の頭に乗る。事情はともかく御膳立てされているのならありがたく活用させてもらおう。余計に敵を増やすこともない。遠回しでも味方してくれる者は貴重だ。
この程度の誘惑すら断ち切れないようであれば、ムギの元に戻る資格もないのもまた事実だ。
ご無沙汰しております、お久しぶりです。
皆様はどのようにあの日を受け止められたでしょうか。私は世界の反応に圧倒されて、涙が出るまで一年かかりました。
その日目にしたたくさんの人々を姿を見ていたら、泣く前にジムに行ってました。
人生何があるかわからないものですね。