ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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もう一人の例外

 

 ピッコロが来てはや二週間。とりあえずの評価は『無愛想で真面目で身内にしか興味ないが、何もしなければ無害』と言ったところだ。

 

 十日ほどでバブルスくんの捕獲に成功し、二日でグレゴリーを叩き落とした彼は、自分を痛めつける勢いで修行に励んでいる。最初は態度が気に入らないとことある度に怒っていたグレゴリーも、適宜ブレーキをかけてやらないといけないほど修行に没頭する姿を見て毒気を抜かれたらしい。

「ピッコロさん休憩!休憩です!」

「うるさい。休憩のタイミングくらい自分で判断できる」

「気絶したら休憩、は判断してることになりませーん!」

バブルスくんも巻き込んでギャーギャー騒いでようやく折れて休憩、という流れが日常になりつつある。尤も、ピッコロにとっての休憩は気絶以外だと瞑想のことを指すのだが。

「まったく…何故構う?」

「何故って、見てて心配にもなりますよこんなの!馬鹿なんですか貴方は!?」

「貴様が心配する理由がわからないと言っているんだ。修行期間中にしかいない存在、それも魔族に構うような理由があるのか?」

重症だと空を仰ぐ。子供の方はこの辺りについてもう少し素直だった。閻魔帳のコピーを読んでいる自分は彼の視点がどういう経緯でそう固まったのか理解しているが、グレゴリーにはその前提知識がない。なので、不思議そうなピッコロに対して怒りをあらわにしてしまう。

「あっ…貴方ねえ!!」

「やっかましいわ!!瞑想の邪魔をするな!」

結果的に素の彼を引き摺り出すことに成功はしているが、怒りばかりなのでまともな関係構築にはまだまだ時間がかかるだろう。これはこれで一つの手法だとは思うので止めはしない。

 

 お茶に少々強引に誘ってしつこく突き回せば、ぽろぽろと身内に関する情報のかけらが手に入る。警戒心故に口にする話題はかなり慎重に選んでいるようだが、彼の気にわずかでも温かみ宿るのはその時だけだ。 

 例えば、彼の妻である星の魔女は随分とユーモアに溢れた人物らしい。グレゴリーの試練を突破した後にシャレを言わせてみたら『バスガイドが来る前にバスが移動』という想像以上にキレッキレの一撃を繰り出してきたが、子供が披露した『アルミ缶の上にある蜜柑』と同じく魔女が思いついたネタだと後ほど聞かされた。とんでもない逸材だ。立場の問題さえなかったらどうにかして招待したのに。

 それ以外でも彼女の親しみやすさは言葉の端々から感じられ、存在そのものが陽光であるかのように眩しそうな顔で思い出話をしている。自分の子供にも配下にも思うところがあるようで、呆れと罪悪感の合間に微かな喜びが見えた。

「お前、自分も幸せになろうとは思わんのか」

 身を削るような修行風景に頭が痛くなって、ついそう問いかけた時があった。馬鹿な質問だと自分でも思う。

「……どうやら、周りが勝手に頑張りたがる連中ばかりのようでな」

それこそ自分が言っても聞かないと、なんとも言えない顔でそう返されたものだからため息を噛み殺した。もう十分すぎるほどに恵まれていると言いたいのだろうが、そんなことを関係者が聞こうものなら少なくとも魔女には張り倒されるだろう。

 山のように渡される愛を戸惑いながら受け取り、素直に喜べばいいものを自分を諌め、痛ましいまでの不器用さで返す魔族なんて、正直見たくはなかった。今後遭遇するであろう彼以外の魔族に同じものを期待してしまいそうで、色々と仕事に支障が出そうだ。いっそ魔族ではなく人間だと思い込んだら楽だろうか。

 とりあえず界王拳だけは教えないでおこうと、背景に消えたかのように周囲の気に溶け込んだピッコロを見ながらひっそり己に誓った。

 

 

 

***

 

 

 

「━━━元気玉?」

「そうだ。わしがついぞ自分で完成させることは叶わず、悟空だけが完璧にマスターしている奥義…お前は少々違うアプローチが必要かもしれんが、習得できる可能性は十分にある」

 自分のものではない大きな力を扱う術、とはこのことらしい。植物や動物、人間などの生命だけでなく、星からも気を集めて放つ気弾。超高威力のそれはあの小僧も滅多に使っていないらしく、実戦投入は今の所二回だけとのことだ。界王曰く、二回も使う羽目になるような状況に巻き込まれていること自体おかしいらしいが。

「我が子には教えなかったのか?」

「あいつは弟子を助ける為にさっさと生き返ったからな。教えるかどうか判断する前にいなくなられたらどうしようもないじゃろ」

そういえばそんなことがあったなと武泰斗に聞いた話を思い出す。勿体無いが、自分も同じ立場ならそうしていただろう。

 ここで修行を始めて二ヶ月、随分と成長したものだと自分の成果を噛み締める。もう何度こいつに吹っ飛ばされたか忘れたが、おそらくここからが修行の最終段階。タイムリミットまでになんとかやりきれそうなのは喜ばしいことだ。

「仮に習得しきれなかったとしても、お前ならこの修行で得られるものがあるはずだ」

「使えなければ意味ないだろう」

「普通ならな。だが━━━」

 

「お前には星の魔女がいる。この意味を、お前は知っておるかな?」

 

 知っている。知っているからこそ、空いた口が塞がらない。むしろ逆にこっちが聞きたい。お前こそ何を教えようとしているのか理解しているのかと。

「…正気か、貴様」

「おお、ちゃんと知っておったか。なら問題ないな」

「おい!」

身を乗り出して怒鳴っても、相手は軽く笑うだけだ。

 こいつの立場からして、ケラケラと暢気に笑っていいはずがない。魔族の弟子を取った時点で一線は超えていると変に吹っ切れただろうか。それにしたってリスクが高すぎる。

「なんだ、心配してくれるのか?お前も随分丸くなったもんじゃな〜」

「頭のネジがいきなり数十本弾け飛んだら誰でも困惑くらいはする」

「…そこまで言わんでもいいだろうに」

私と親しくなりたがっている時点でおかしいが、ここにきて狂気的な領域に入ってきた。

「『星の防人』を誰よりも危険視しているのは貴様らだろう」

「そりゃあもう、生まれたばかりの芯人はみーんな学校でも寝物語でも聞かされるからな」

ふざけた空気は徐々に落ち着き、界王の顔が真剣なものに変わる。

「…お前達が受けた仕打ちも突き詰めればそこに至る。文字通り死んでもお前に会いたいムギがそれを叶えられないのも、『星の防人』の誕生を恐れた方々の対策の結果だ。ぜーんぶわかっとるわい」

それでもなと、そいつは小さな声で続ける。

「お前もムギも…狙いは絞るし、それ以上余計なことをする気はないじゃろ」

こいつもかと、内心頭を抱える。武泰斗に始まり、閻魔が乗っかり、ついにはこいつまでやらかしだした。遠回しに言おうとして失敗するほどにいかれてしまったらしい。

「わしにもな、ピッコロ、感情はある。思いも願いもある。こう生まれただけで、何も感じないわけではない。時には…本当に極々稀であっても、納得しきれないことがちゃんとあるんじゃよ」

そこまで言うと、界王の顔に笑みが戻った。

「長い間神をやっているとな…信じてもよいと、信じたいと思う者がこうして現れる時が一番嬉しくなる。見守ってばかりの世界に可能性が生まれるのは、とても素晴らしいことだ」

 可能性。ムギも、それを好んでいた。どれほど不確かな光であっても、やりようによっては届くかもしれないと思ったら手を伸ばしに行く。

「お前はまだ長い長い道のりの途中だ。可能性は良し悪し関係なく無限にある。そして…独りではないお前であれば、より良い方を掴み取れると思ったんじゃ。お前はわしらにそう思われて滅茶苦茶嫌かもしれんがな!」

「…腹立たしいが、殴らないでおこう」

「うむうむ。素直だとピッコロでも可愛く思えるな」

 やり込められてる自分に苛立つ。少し肩の力が抜けた自分に怒りを覚える。しかしそれらはどれもささやかなものだ。何か別のことが起きればふっと煙のように消えてしまうのだろう。それすら忌々しい。

「まあ気にするな。ここまで肩入れするようなことで納得できないまま終わったら、それこそ身の破滅だ。手を引いて精神を歪めるくらいなら、走り切った方が気分も良い」

茶を飲みながら元気玉の説明をしてやるからついてこいと、無防備な背中を向けられる。

「………どいつもこいつも…」

深いため息と共に、その後に続いた。

 






Q.なんで界王拳を教えないの?

A. 「解除した瞬間瀕死でぶっ倒れるレベルで使い潰しそうじゃろ。却下じゃ却下。悟空よりタチが悪いぞ、あいつ」

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