ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
九割好奇心だろうと言われても否定はできない。自分にとって『家族』なんてそれこそプーアルくらいしかいない。強いていうならブルマ達も含んでいいんだろうが、ともかく家族らしい家族というものにあまり縁がなかった。
「━━━なあ、ピッコロ。お前の母さんってどんな人なんだ?」
だから、オレ以上にその概念から遠そうなこいつに大事にしている母親がいると聞いた時は、全くイメージがわかなかった。血が繋がっているわけでもなければ、別に育てられたわけでもないらしく、それはもはや成人後に親が見つけてきた後妻と同等に他人扱いしてもいい立ち位置だろう。ましてや実際の付き合いの長さは悟飯未満。親から記憶を受け継いでるとはいえ、思い入れが強すぎやしないか。
「何故そんなことを聞く?」
「次サイヤ人と戦う時は協力してもらうこともあるかもしれないだろ。詳しくは知らないが、結構できることが多いらしいじゃないか。いざって時に連携取りやすいように、人となりを知っておきたい」
一度界王様が踏んでしまった地雷だったが、もっともらしい言葉を並べてやると嫌そうにしながらも少し考えるようなそぶりを見せた。方向性は合っているようなので、さらに言葉を重ねる。
「わざわざ揉め事を起こしにいくタイプじゃないのはわかってるさ。ただ、知らないやつの地雷を踏むなって言われても難しい。オレは心を読むなんて芸当できないしな」
その発言のどこかに引っ掛かるものがあったらしい。緑色の顔が一瞬だけ翳ったが、すぐにいつもの顰めっ面に戻った。
「…確かに、母上の能力や気質を知らないと面倒なことになるケースもある。当人に聞いたら答えるであろう範囲と、見ていればわかる程度の情報ならくれてやる」
「おっ、そうこなくちゃな!」
気持ちを落ち着けるためか、深呼吸のようなため息の後に了承を得られた。オレが説得成功したのを見るとすっと天津飯と餃子が寄ってきて、それに眉間の皺を深くしたもののピッコロはそのまま語り出した。
星の魔女の能力は強力かつ様々で、敵に回したら間違いなく厄介だ。自然災害を自由自在に起こせるということは、その気になれば地球人全員を人質にとれるということだ。その他の魔術だって、武道をメインにしてきたオレ達ではとてもじゃあないが太刀打ちできないだろう。もし先代のピッコロ大魔王が彼女の協力をもって世界征服したら、悟空ですらどうにもならなかったかもしれない。
だが、肝心の性格がまるで悪人に向いてなかった。
「あー…その」
「なんだ?」
「先に言っておくが馬鹿にしてるとかじゃないからな?……滅茶苦茶普通の人だな、ムギさん」
「…そうか?」
語り部に首を傾げられてなんとも言えない気持ちになる。
あんなとんでもない力を手に入れておいて、彼女は支配者になるどころか極力目立たないように生きている。絶大なパワーを持っていながらそれで世界を思うがままに振り回さずに、むしろ周囲を気遣ってに影響が出ないように生きているのはある意味常人離れした無欲さと言えるかもしれない。
「あれこれ欲しがらずに分相応に生きたいと思って、揉め事に首を突っ込むとしたら身内関係の時だけ。困っている人がいればできそうな範囲で助ける…良識ある一般人なら大体そんなもんだろ。毎日トラブルなく生きられたら十分幸せになれる、特に大きな野望やら目標やら持ってない、ほどほどに生きてる人間だ」
だが、聞けば聞くほど『車を持っているもののあまり使う機会がなく、正直ヒヤヒヤするから進んで使わない人』のような印象を受ける。能力の一部で悠々自適に暮らしているのは間違いないだろうが、その暮らし自体は健康的ながらも質素、能力の自己研鑽も夫の件がなければ趣味の範疇に収まっていただろう。自分の知るピッコロ大魔王とは全く噛み合わなさそうな性質のせいで、結婚生活が微塵も想像つかない。
「お前が戦場から引き離したのもわかる。やればできるんだろうが…やらずに済むなら、それが一番だよな」
逆に言えば、悟空の子供がピッコロに懐くのもわかるような気がしてくる。こんなにも慕われる母を選んだのが初代ピッコロ大魔王であったのなら、心のどこかに彼女が入り込めるような隙間があったのかもしれない。それを子が受け継いだのであれば、まあ説明はつく。
もしこいつが最初から良いやつで、前から悟空達と仲が良かったのなら、あの子を鍛え上げることすらしなかったかもしれない。ムギさんのように相応の理由があれば、チチさんの手元でずっと本を読んでいたかもしれない。
「……そうは、言ってられないだろうがな」
ポツリと遠くを見ながらピッコロが溢した言葉に微かな悔しさがあった。
そういえば悟空の子供とそこまで歳は離れてなかったなと、険しいわりに幼い顔を見てぼんやり思った。
*
「━━━ちゃ……ヤムチャ!」
揺さぶられて起き上がれば、二つの満月がこちらを見下ろしていた。
「大丈夫?頭回ってる?体に違和感は?」
事前に、可能であれば仙豆を節約してムギさんの魔術で治療してもらうことにはなっていた。まさかこんなに早く治してもらうとは思わなくて、少し思考が固まる。
「だ、いじょうぶ、だと、思う」
「ゆっくり起き上がって…軽く体動かしてみて」
俺の一挙一動から目を離さない彼女の顔は、あからさまに心配していた。何か異常があればすぐ動けるような、少し前屈みの姿勢だ。いつか星を撃ち落とした姿とはまるで違う。
これじゃあピッコロが戦場に連れて行きたくないのも仕方ないと思ったところで、大きな爆発音が連続して響き渡る。人造人間達が本格的に動き出したらしい。
「二人とも気をつけて!」
渋りながらもクリリンの背中を追う俺の更に後ろから、そんな声が飛んでくる。
ベジータの後ならピッコロ大魔王くらいどうとでもなるなと、散々な目に遭わされたはずの自分がそう思えるようになっていることに気づく。あんな嫁さんがいて、記憶を受け継いでいる子供が話の通じるやつなんだからと、そんなこと考えている暇なんてないのに少しだけ笑いが漏れた。
***
原作通り悟空が人造人間に勝てずに病で倒れる姿を、離れたところから見守る。心臓病の兆候が修行期間中全く出なかったから、孫家の了承を得た上で急激に進行した場合に時間稼ぎできる魔術は仕込んでおいた。よっぽどのことが起きない限り問題ないと自分に言い聞かせながら、ヤムチャに運ばれていく主人公から意識を引き剥がす。
仙豆の節約で多少は介入したけれど、なるべく物語の中心から距離をとった。巻き込まれたら余計なことをしてしまう可能性があったし、何より人造人間二十号もといドクター・ゲロ本人とスパイロボットが厄介すぎる。魔法・魔術と科学はジャンルが全く違うものだけれど、あの天才的な頭脳である程度仕組みやらなんやら見抜かれてしまいそうで下手に表に出れない。細胞を採取されないような対策はできても、実際に動き回っているところを見られたら何を思い付かれるやら。もうちょっと優秀な脳みそが欲しかった。
トランクスが研究所を攻撃して、人造人間達を含めて皆がその場を離れたのを確認してから動き始める。時間は、二時間もないだろう。縛りに止められていない理由が不可能だからかやっても問題ないと判断されているからかわからない以上、モタモタしている時間はない。研究所の残骸の上に着陸し、すぐに探知魔術を展開して地下室への入り口を見つけて迷わず降りていく。
剥き出しの洞窟の壁を這い回る無機質な配管、いかにもSFチックで何本もの腕を持つ巨大コンピューター、そしてその側でプクプクと小さな音を発している培養カプセル。ちらりと辺りを見回せば人造人間達の設計図も無造作に置かれている。軽く目を通したけど、やっぱりさっぱりわからない。自分が読み解こうと思ったら膨大な量の資料と時間が必要だろう。この世界の科学者達の天才ぶりを目の当たりにする度に気が遠くなる。
設計図を戻して培養カプセルに近づく。原作でもそうだったけれど、あまりに無防備だ。いくら隠されているとはいえ、こんなにも時間をかけて育てている小さな小さな命をこの状態で放っておいてるなんて。研究所自体が見つかるはずがないと慢心してしまう精神が、結果としてドクター・ゲロの死を招いてしまったのかもしれない。
強化ガラスに額を当てて目を閉じ、掌に収まるほどに小さい『彼』が対話可能なほど知能が成長しているか確認する。
《おまえは だれだ》
賢い子だと、口角が上がる。備わっている才能もすぐに使いこなしてみせた。
これなら、なんとかなるかもしれない。
《初めまして、セル。私はムギ、この星と共生している魔女》
《貴方が持つ無限の可能性を信じて来た、しがないお人好しだよ》