ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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人生は、うまくいかないのが当たり前。


歯車の再調整

 ピッコロとの協力関係?同盟?を築いて、早二年。


「あ、おかえり!」

「…た、だいま」


彼は、気が変わっていつかいなくなるのではという私の心配なんぞ知ったこっちゃないと言わんばかりに、居着いてくれていた。日中は修行三昧だが、食事と就寝の際はちゃんと帰ってくるし、診察や魂を調べる時も文句言わずに協力してくれる。挨拶に慣れなくて未だにぎこちないのはぶっちゃけ可愛いのだけれど、この間そう思ってるのがバレて珍獣の珍行動を見たかのような顔をされた。

「今日はラズベリーパイ作ってみたんだけど、デザートに食べる?」

「もらおう」

「おっけ、お茶は?」

「多めに。いつもより汗をかいた」

「はいはーい」

 神へ何らかの仕返しをする気は失せていないらしいが、頭が冷えてきたのか逆に燃えてきてるのか、神以外アウトオブ眼中。恨みを捨てるのは無理だろうなと思っていた私にしてみれば、周りをあまり巻き込まないスタイルになりそうだというだけで100点満点出したい気分だ。


「そろそろ茶の種類も変わる頃か?」

「えーっと…うん、来週くらいに別のになるよ」

 何気ない雑談ができる仲になったんだなぁとしみじみ思う。延々喋ってるわけでもないし、その日の天気レベルの内容しか話してないけど、これが不思議と楽しい。彼も同じように感じているのか、結構自分から話しかけてくれる。
最初は大荒れもいいところの私たちの関係だったけれど、二年も経てば流石にお互いのことがよくわかってくる。そうして得られた結論は、私が前世で持っていた持論とさほど離れていなかった。

 

 彼は、ピッコロは『悪』なのではなく、『我』が強いのだ。

 

 博愛主義で他者のことを考えて行動するのがデフォルトなナメック星人ならばともかく、地球人基準であれば珍しくはないレベルの自分本位さだ。それ故に悪に傾倒しやすくはあるものの、自分の都合次第で善につくことも普通にある。同じナメックの特徴であるあの生真面目さはしっかり残っているので、望ましい結果を得られるのであれば我慢して善業をこなすくらいはしてくれる。

 極論、彼の判断基準に善悪が重視されないというだけなのだ。神が善なら自分は悪だ!というアレがあるくらいで。

 

 神がこの部分を切り捨てるという点に関しては、まあ、納得できる。立場的には管理人なので人間に対して一線を引く必要がある、生かすも滅ぼすも全て自分の感情とは無関係に判断しなければいけない身の上だ。おそらく卵を産む能力も、神という役職が世襲制になる可能性を危惧して放棄したと思われる。滅私奉公と言えば綺麗に聞こえるかもしれないが、努力が斜め上に行ってる気がしてならない。普通に向き合え。自身からの切除という発想が出るのはともかく、マジでやろうとするのはまずいぞお前。

「ねえ、ピッコロ」

「何だ?」

「あのね、一昨日の━━━」

 

 その瞬間、なんの前触れもなくキュッと喉が閉まった。

 

「か、はっ…!」

首を締める糸のようなものを解こうとしても、そこには何もない。指先に当たるのは、何もない滑らかな肌だけだ。

「あ゛っ…」

酸素が回ってこない頭から効きそうな術をどうにか引き摺り出し実行するも、効果はない。ギチギチと見えない糸で締め上げられ、意識と一緒に体もふらつき始める。

「たわけ!!」


状況を把握したらしい彼は、床に衝突する前に椅子から崩れ落ちた私を受け止めてくれた。少し体温の低い太い指が私の首に触れるも、やはりそこに何もないらしく悔しそうな唸り声が聞こえる。ぼやける思考に抗いながら思いつく魔術を片っ端から使っても、締まりが弱まることすらない。

「もうよせ!それ以上は危険だ!」


言われるがまま抵抗をやめたその時、喉の締まりが嘘のように消えた。体を丸めて咳き込む私の背を、ピッコロの大きな手が優しく摩ってくれる。

「……そんなに、重要な話なのか?」


まだ話すこともままならない私は、断言の代わりに何度も頷いた。彼は咳が止まったのを確認すると私を椅子に戻して、爪が短くなった人差し指でそっと涙を拭った。

「私に関わりがあるが、何者かの妨害によって伝えられない未来…か。妨害への対抗策がない以上、できることをして未来に備える他あるまい。お前は無理のない範囲で対策を模索しろ。起きる前に死んだら元も子もないだろう?」


ようやく落ち着いた私は口を開こうとして、一旦閉じた。


「躾は効いてるらしいな」


「おかげさまで」


しょうがないと、笑うしかなかった。いや、笑えた。

 

 今のこの人なら、この人と一緒ならなんとかなると、思えた。

 

 

 

*



 

 

 

 「ムギ、お前は子供が欲しいと思ったことはあるのか?」

 

「…ごめん、なんて?」

ピッコロと一緒に暮らすようになって十年経ったその日、お祝いだと私が張り切って作った夕食を食べている時に突然聞かれた。

「子供だ。世話焼きのお前が好みそうな割には、話題に上がることがほとんどない」

「えっと、その…好き、と言えば好きだけど、なんでそんな話を?」

彼が祝いならと捕まえてきた美味しくてちょっとレアな魚のムニエルからフォークを離して首を傾げる。話題に出さなかったのは彼も一緒だ。

「お前がどうにかこうにか絞り出した情報から、時間だけはあるとわかった」

「うん」

「その時間を我々自身の強化に使うのは当然だが…時間があるのならば、戦力を増やして強化する余裕もあると考えた」

「あ〜…」

 今後の備えという意味では、おそらくこれ以上ない案だろう。この世界で悟空が単騎で倒した敵は意外と少なく、原作中はもちろん原作後も可能な限り戦力を揃えておくべきだ。私達の子供なら期待できる。ピッコロ一人で産んだ『彼』があれくらい強くなれるのだから。

「悪くない、と思うけど…」

「何が問題だ?」

「……戦いの運命を生まれる前からつけちゃうのは、ちょっと…向いてる向いてないもあるし」

どれほど才能があったとしても、嫌がる子は嫌がる。悟飯くんなんて典型的な例だ。純粋なサイヤ人と同じ戦闘狂であったなら、セル編以降は彼の独壇場になっていただろう。でも彼の本質は全く違うところにある。殺し合いに駆り立ててしまったら精神を蝕まれて、最悪暴走する。

「ちなみに、人間とかを味方に引き込んで鍛えるのは?」

全部言い切る前に旦那様の眉間に思いっきり皺が寄った。予想してなかったといえば嘘になる。

「無理?」

以前なら怒って全力で嫌がっただろう。私はあくまで例外、人間は等しくアウトだった。

「……………人間は、短命だ。今鍛えても、必要な時には死んでいる」

でも、今は違う。嫌だという気持ちはまだあるけれど、必要に迫られることがあれば考えなくもないと彼の表情が教えてくれた。

 

 その変化が、嬉しい。

 

「あ、待って。今気づいたんだけど、この場合産むのどっち?」

「公平に双方一人ずつと考えていたのだが」

「それだと二人の血を引くの私が産んだ方だけだよね」

「お前が魔術でなんとかすればいいだろう」

「雑ゥッ!?」

「私の体だ。お前ならできる」

「その信頼は嬉しいけど流石にどうかと思うよ!」

 

 

 

 

 

 

 ピッコロとの同棲が始まり、20年。

 

 私はもう70過ぎかと、外の雨を眺める。

「どうした?」

私の髪で遊んでいた彼が口を開いた。

「んーん」

視線を本に戻し、あぐらをかいている彼の脚の上に乗っている自分の体の位置を調整した。

「私、本当ならもうよぼよぼのお婆ちゃんなんだよなぁ…ってふと思っただけ」


「…そう言えば人間から生まれた人間だったな」


「そー、一応突然変異ってジャンル」


彼は指を私の髪から離すと、そっと頬を撫でてきた。


「星の魔女は基本的に不老長寿。次代が生まれるか、何らかの形で殺されるかでもしないと死なない…だったか?」

「あってるあってる」

「……私は、どれくらい生きられるのだろうな」

珍しく寂しそうにそんなことを言うものだから、私は顔を上げて笑った。

「ピッコロが生きたいなら、私がなんとかするよ」

「できるのか?」

「先に神との縁を切ってからで良ければ」

 お爺ちゃんになっちゃったらちゃんと若返らせるから安心して、と言う前に数秒ほど口を塞がれた。

「それを口にするなと何度言えばわかる?」


役職名すら嫌がる彼が可愛くて笑いが止まらない。

「変わったよねぇ、ピッコロも」

「おまえのせいだろう」

 

 先日、未来の占いババらしき少女に出会った。彼女曰く、未来の私は笑っていたらしい。どれほど先の未来かはわからないとも言われた。

 ならいいかと、この時安心してしまった。

 

 この生活が当たり前のように続くのだと、山積みの問題も何とかできるのだろうと、お気楽に笑っていた。

 

 

 



*

 

 

 

 一緒に暮らしはじめて二十五年が経とうとしたある日、そいつはやってきた。

 

 ピッコロが必死に私を呼ぶ声が聞こえる。

「ぴっ…ころ…」

力が出ない。声かろうじて出て、体はほぼ動かせない。頭もなんだかうまく回らない。

「まさか、ここまで変わっているとは…」

呆れた口調で話すそいつの顔は初見だが、格好に見覚えがある。界王神あたりの連中のファッションだ。

「そいつを放せ!!」

「…ここで殺されない奇跡に感謝しろ、魔族。変わりすぎた歴史にこれ以上の改変を加えれば、元に戻らなくなる」

歴史、というキーワードでようやく色々理解できた。どうやら『ピッコロ大魔王』が生まれないようにしている私の存在がまずいらしい。それで私を拘束し、ピッコロを殺さずにいる。

 わからなくはない。

 確かに、ピッコロ大魔王の存在は重要だ。ピッコロ大魔王が生まれない事で歴史に大きな変化が起きるだろう。ものすごく不都合な、それこそ地球そのものにとって良くない改変になるかもしれない。

 だが。

 

 だが、それがどうした。

 

 何が悪い。私はただ、ピッコロと幸せに生きたかっただけだ。平穏に暮らすピッコロを見たかっただけだ。


「そもそも何故『そこ』なのだ?魔女よ、より良い世界を願うならばもっと別に方法があったはずだ」

彼が幸せになってはいけない理由がどこにある。歴史改変がなんだ、良い変化になるかもしれないじゃないか。彼が大魔王にならなかったら地球を存続できないという証拠はあるのか。

 いいじゃないか、一つくらい。『悪』とレッテル付けされて、三百年封印されて、ただ倒される以外の人生がないなんて、あんまりじゃないか。1つくらいマシな世界を、そう願ってブルマがタイムマシンを作ったじゃないか。私が似たような事をしちゃいけない理由がどこにある。

 

 ふざけるな。

 

 ふざけるな。ふざけるな。ふざけるな!

 

「…神様なんて、大っ嫌い…!」

なんとかそれだけ吐き捨てると、全員に痛みが走って悲鳴が喉を裂く。助けようと飛びかかったピッコロが吹っ飛ばされるのが聞こえた。

「安心しろ、殺しはしない。お前が愚かな行いを反省し、歴史が修正された頃には解ける封印を施す」

 悔しい。まだ、まだたったの二十五年しか経っていないのに。封印される期間の十分の一にも届いていないのに。

「ごめんなさい…ごめんなさい、ぴっころ…」

ああ、あんなに何回も謝るなって言われてきたのに。
結局何も変わってないじゃないか。

 

 

 最後に聞こえたのは、今にも泣きそうな声で私を呼ぶ彼の咆哮だった。

 

 




今回は加筆修正多め。

あいつがアニメに登場したのが、これをちゃんと書こうと思ったきっかけだったりする。

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