ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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掠める指先

 

 地味にナメック星人達が旅立って以来だなと、運び込まれたコンピューターと培養装置の隣で二人の天才が設計図と睨めっこするのを見守る。

「ふ…む……こいつはすごいもんだ………わしでもわからんことがずいぶん多いのう…」

最初に話を持ち込んだ時、ブルマさんには相当嫌がられた。まあそうだよなと説得モードに入ろうとした私を驚かせたのは、他でもないブリーフ博士だ。とりあえず話を聞こうと、一切の嫌悪や疑心を見せることなくさらりと受け止めて見せたのである。

「おしいなあ…ドクター・ゲロもこの天才ぶりをもっといい方向に…」

 嫉妬の欠片も感じられない、人類の損失を悲しむコメントは原作からあったものだ。セルもといパッシバへの反応も考えると、この人の精神レベルは亀仙人クラスなのかもしれない。いやほんと、二人ともスケベなところ以外に欠点なくないか。下手に無欲を貫こうとする連中よりよっぽど人ができてる気がする。

「人間をベースにして………ほとんど有機質だけ改造してあるわ…」

《元々人間をベースにして機械的な改造を施す手法を使っていたが、そうすると更なる改造抜きでは強化が難しい。自己研鑽、すなわち生物のように成長することで強化できるよう開発されたのが十七号と十八号、その発展型が私だ》

「なるほどね……これなら確かに細胞レベルで融合するのも可能かもしれない…」

《十六号が失敗とされたにも関わらず完全機械型に回帰したのは、単純な手間の都合だ。適切なプログラムを組むだけでいい機械型と違い、人間をベースにすると忠誠心の面でどうしても難が出る。私に関しては時間をかけることでその面を克服しようとしたらしいが…》

新たに迎え入れた我が子はあっさり切り替えているらしく、私が促さなくても天才達の会話に参加していた。

「その割には普通に裏切ったわね」

《教育プログラムを仕上げる前に死んだドクター・ゲロの落ち度だ……今彷徨いているもう一人のセルは、よほどのことがない限り私と同じ方式で創られているはずだ。そして、私と違って完成されていることから説得は難しいだろう。滅多なことは考えないことだ、星の魔女。ここまで私を連れてきておいて早死は許さん》

「うぉう、いきなりこっちに声かけないでよ」

《感情的なお前は釘を刺しておいた方が良いと判断した》

会って半日も経たないうちにこの対応である。そんなに信用ないか。ないだろうな、わかりやすいし。

「悪いけど、少なくとも一回は会って話すつもりだよ」

《おい》

「ちょ、ちょっとムギさん!?」

「大丈夫大丈夫、本当に話すだけだから。私を吸収しようにも、デメリットがめんどくさすぎて嫌だろうしね」

《わざわざ説明してやるのか、懇切丁寧に》

「必要なら。賢いから一いえば十はわかってくれるだろうし、いけるでしょ」

 

 自分が強くなったから、対策を考えているから、変に自信を持ってしまっている部分もあるかもしれない。でも、それ以上にアイツの強さが頭に焼き付いている。

 フリーザとコルド大王の気を感じてから、ずっと皆を、そして新たに現れたセルの力を観察してきた。その度に、到達しなければならない場所の遠さに頭が痛くなる。ショックのあまり誇張された記憶になっているのかもしれないと疑った日があった。実力の片鱗すらまともに見れてないから過剰に警戒しているだけだと思った日もあった。そんな私の期待は、毎回毎回ことごとく崩れ落ちていく。私の記憶は不確かでも、この星に刻まれた記録は残酷なまでに正確だ。

 アイツよりヤバくない。アイツの方が底知れない。水平線の向こう側にいるはずのアイツを必死に追いかけているのに、太陽そのものどころか陽光すら見えてこない。あとどれくらいで見えるか推測すらできない。そんな存在を知ってしまうと、自分では絶対叶わない相手であっても頭のどこかが冷静になってしまう。原作を知っているというのも間違いなく影響しているだろうけれども。

 恐怖を通り越して、ぶっちゃけ腹立つ。このレベル差で何ガチ対策してやがると、なんで放っておいてくれないんだと、苛立ちばかり募っていく。

 星の防人対策にしてはいくらなんでも過剰すぎる。というか、そんなに嫌ならそもそも刺激しないように立ち回ればいいだろうに。いくら歴史を改変しようとしたからといって、魔族を夫に選んだからといって、ここまでやらなくてもいいはずだ。要観察扱いではいけない理由はなんなのか。他にたくさんいるならまだしも、こちとら絶滅一歩手前だぞ。強さは雑魚中の雑魚なのに、警告すらなく一発封印ルートとかどう考えてもおかしい。

 何よりも、死ねないことに一番納得がいかない。そんなに危険だと思うならとっとと殺せばいい。星の防人を生まれさせない為に暗殺された星の魔女の記録はいくらでもある。ドラゴンボール対策だって、アイツの推定立場からして難しくないだろう。マジで意味わからん。私が一体何をしたっていうのか。

 

 セルに会いたい理由は、ものすごく個人的な理由だ。この星の魔女として、前世で彼の活躍を見てきた一人のオタクとして、そしてパッシバの母親としてきちんと会っておきたい。ただそれだけだ。

 研究所と共に生まれることなく死んでしまったセルの幼体はもちろんのこと、未来からやってきたセルについても実は思うところがある。倒すか倒されるしかない相手ではあるのだが、果たして悪なのかと問われるとピッコロ以上に微妙なところだ。

 だって彼は悪人というより、捕食者なのだ。色々ととんでもない新種の命であり、人間の生存戦略の為に殺すしかないのは確かなのだが、シマウマを食べるライオンを悪と呼ぶのは違うはずだ。いやまあ、性格悪いし、たった一人で地球全体に生息する一種族を食い潰せるのは生物として極悪極まりないのだけれども。

 それでも、彼もチャンスが与えられなかった立場であることには違いない。パッシバは『セルでなくなる』ことでなんとか歴史改変ストッパーをすり抜けることができたらしいが、もう一人はそうはいかなかった。タイムマシンでこっちに来たばかりの頃に接触すればもう一つ選択肢を作れたかもしれないが、いつもの如く縛りのせいで身動きが取れなくなってしまった。おそらく追加の縛りがなければいけただけに、不完全燃焼というか、気持ちの切り替えがうまくできていない。だから、会いに行く。どうせ十日間暇だろうし。

 ちなみにフリーザに関しては最初から諦めている。あれはピッコロみたいに原作外のタイミングで会った上で、満塁ホームラン級の影響を幼少期に与えないとどうにもならないだろう。自分には荷が重すぎる。コルド大王とクウラまでいることを考えたら、常に死亡フラグと隣り合わせな綱渡りモードになる人生しか見えない。どう考えてもメンタルが保ちません、本当にありがとうございました。

 

「━━ムギさんはしばらくここに?」

「うん、献血と魔力の供給しないとだから…こっちまで来れるなら怪我の治療とかは全然するけど、無茶しないでねクリリン」

《いよいよか。十七号と十八号との融合が事実上不可能になった今、存分に活用させてもらうぞ》

おそらく悪どい調子で言ったつもりなのであろうパッシバに、私は笑って返した。

「それが赤ん坊の仕事だからねー。私も頑張って食べるから、どんどん大きくなりなさいな」

 

不思議と、返答はなかった。

 

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