ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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そして多分に含まれた親の意地




甘やかし上手の頼り下手

 

 わざと避けていたつもりは、ない。

 

 気まずい気持ちはあった。それは肯定する。ただ直後はそれどころではなかった上に、しばらくピリつく状況が続いて意識がそちらに中々向かなかったというだけで。

 

 セルを取り逃した何度目かあたりでクリリンに行方を聞いた時は驚いた。クリリンとトランクスよりも早くセルの幼体を見つけるに留まらず、説得の果てに寝返らせて保護に成功したという話にその場にいた全員が耳を疑ったのは言うまでも無い。

 保護した件に関しては、すぐに平静を取り戻せた。いかにも母上がやりそうなことだ。何も起きていない段階ならなんとかできるかもしれないと、幼体が困惑するほど言葉を尽くしたに違いない。

 問題は、セルの幼体の存在とその位置を知っていたことだ。

 思えばトランクスが初めて来た時から言動に違和感があった。母上をポンコツ呼ばわりする気は一切ないが、感情豊かなあの人らしからぬ落ち着き様だった。そういえば自分と同じく悟空とトランクスの会話を一から十まで聞いていたのに、眉ひとつ動いていなかった事に今気づく。オレ達が修行している間も何かと忙しなく活動していたし、人造人間達が現れてからはやたらと慎重な行動を心がけている様子だった。

「━━母上……一体、どこまで先を…」

 独り、カプセルコーポレーションに向かいながら奥歯を噛み締める。多くを知りながらも他者にそれを伝えることが叶わず、出過ぎたマネをすれば強引に止められ、ただただ現在を見つめることしかできない。その苦しみはもう、自分の死で終わったと思いたかった。あまりにも甘い考えだった。

 おそらくセルの幼体の保護は、かろうじて見つけた縛りの穴なのだろう。一人拳を振り上げて歓喜したに違いない、ようやく何かできることが見つかったと。失敗続きの日々の果てにようやく得られた、この上なく素晴らしい成果だと。

 そう思うだけで、酷く、苦しい。

 

 C.C.につくと無闇矢鱈に親しげなブルマの母親に連れられて、義理とはいえ弟と呼ぶべき存在がいる部屋に向かった。保護してからは居候のような状態で大人しくしているらしい。

「ムギさん、パッシバちゃんのお世話を始めてからたーーっくさんご飯食べるようになっちゃって!最初は自分で全部作ろうとしてたから、びっくりしたわー」

「そうか」

「ピッコロちゃんからも無理しないように言ってあげて。やってることは他の妊婦さんと変わりないんだもの、周りの人にちゃんと頼らないと」

「…あまり、体調が良くないのか?」

「う〜ん、なんて言ったらいいかしら……子供に栄養をたくさんあげてるから、あんまり動き回る元気がないの。たくさんおしゃべりはしてるし、自分でトイレにも行けるんだけど…大体いつも座ってて、お昼寝が多いのよ」

 星の魔女があまり動きたがらない程にエネルギーを取られているとなると、魔力も与えているという話は本当なのだろう。自己治癒が可能な母上の場合、血液だけなら短期間で影響はあまり出ないはずだ。そこまで大量に与えて色々と大丈夫なのかと口出ししたい気持ちが湧いてくるが、良くも悪くも実績がある相手に通用するような言葉が思いつかない。なんなら()()よりよっぽどスムーズにやれているだろう。

 何より、母上が信じたいと願ったものにケチをつけるような真似はしたくはなかった。

 

「ムギさーん、入るわよー」

 謎のリズムを刻んだノックの後に開いたドアの向こう側から、孫家で嗅いだような、大量の料理の匂いが押し寄せてきた。

「んぐ……パンチーさん、何かありました…って、マジュニア!」

いくつもの器やら皿やらが重ねられた使用済み食器のビルと、和洋中問わない豪勢な食事の数々。それらを乗せて若干苦しそうなテーブルの向こう側に、半分削られたかのような山盛りのどんぶりご飯を片手に食べ勧めている母上がいた。

「………よく、収まるな?」

見たことがある光景ではあった。孫と悟飯が食卓に並べば、各自これくらいは問題なく食べ尽くす。サイヤ人はそういう体なので特に気にならない。だが、自分が知る母は一般的な地球人程度の食事量だったはずだ。この量を胃袋に収めようとすれば、文字通り破裂してしまうはずだ。

「消化・吸収のスピード底上げしたら意外といけた」

「意外と?」

「デフォルトだと血の生産が追いつかなくてさー。毎日二リットルくらい持ってかれるから」

「にっ…!?」

二リットル。オレの知識が正しければ、一般的な大人は一リットル以上失血すると命に関わる。

「致死量だろうそれは!」

「大丈夫大丈夫、私なら死なない。あっ、そうだ。パンチーさん、もう食洗機終わりました?食べ終わった分の皿、そろそろ片付けようかなーって」

へらりと笑う母上の顔色は、確かに悪くはない。魔術で足りないスピードを補っているというのも本当なのだろう。

 だが自分より細い腕と仰々しい機械を繋ぐ管は、よく知っている赤色で切れ間なく満たされている。今この瞬間も絶えることなく、その身を削って栄養を供給し続けている。通常であれば十分の一も食べられるかわからないような量の食事を取らなければいけないほどに、エネルギーを吸い取られている。

 それなのに。それなのに、この……この、馬鹿親は!!

「っ〜〜〜!オレが運ぶから座ってろ!」

「え、悪いよそんな━━」

どんぶりと箸を置いて腰を浮かせる姿を見て、とうとう耐えきれずに怒鳴った。

 

 

「 座 っ て ろ ! 」

 

 

 驚きながらも不満げな母上に釘を刺すようにひと睨みしてから、食器の一部は抱え、一部は浮かせながら部屋を出る。低く小さい声で自分の親の正気を疑っていると、案内役が明るくもホッとしたような声でこんなことを言ってきた。

「やっぱり家族に言ってもらうのが一番ね〜。ムギさん、自分の方がたくさん運べるからって家事ロボットにもやらせてくれないのよ」

「……他に、何かやろうとしたか?」

「お掃除とベッド周りのお洗濯はなんとか止めたんだけど、服は自分でいくらでも出せるからって断られちゃったの。お料理はどうしても食べたい自分のレシピがたまにあるみたいで…それ以外は家事ロボットとデリバリーよ。家事やってるとパッシバちゃんとあんまりお話できないわよって言って、それでなんとか納得してくれて」

ため息をなんとか噛み殺し、愚痴を先代への文句に切り替えて心の中にしばらく垂れ流した。

 なんで死にやがった。なんで暴れやがった。なんでお前にしか素直に甘えられないやつを、置いていった。理不尽だとわかっていても、罵らずにはいられない。

 

 

 前言撤回。

 先代も含めて、オレの親はどうしようもない馬鹿だ。

 

 

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