ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
お兄ちゃんは心配性
拝啓、マイスイート旦那様。
「━━頼むから、文明の利器でも人間でもいいから使って、楽をしてくれ。戦いに集中できん」
「ご、ごめんなさい…」
貴方の直系たる可愛い我が子は、身内思いの優しい子に育っています。貴方そっくりですね。
どんどん持ってけーと言った手前、取られていく血液の量に文句が言えるはずもなく。おっしゃ魔女の本領発揮じゃいと自己治癒方面に一時的な肉体強化を施して、ちょいちょい調整しつつも特に問題なく過ごしているつもりだった。魔力も血液に乗せて供給してるので確かに疲れるけど、食事だけに頼らず星の力も若干いただいてるので言うほどしんどくはないのだ。本当に。無理して笑ってるとかではなく。
「どう考えても体への負担が大きすぎる。いくら星の魔女でも無茶だろう」
「いやまあ、確かに本調子じゃないけどモニタリングはしてるよ。科学と魔術両方の面から」
「止められなかったのか?」
「ブルマさん達は私の体の仕組み詳しくないから、最初は止めてきたよ。でもちゃんと話し合って、色々試して、これならいけるねって結論出した上での今」
妊婦みたいに循環するならまだしも、私達のこれは長時間の献血なので当然最初は反対された。生物方面はドクター・ゲロほどではないとはいえ、ブルマさん達でもそのリスクは理解している。なんなら当事者のパッシバにもどうやるつもりだと聞かれた。なんの説明もなく協力してくれるとは思っていなかったのである程度の説明は準備していたけれど、カプセルコーポのツートップとレッドリボン軍の科学の髄の結晶とも呼ぶべき存在はそれだけで納得してくれなかった。もう何百年も昔のことなのに『素人質問で恐縮ですが』に似た恐怖を味わった日々を思い出した。まさかドラゴンボール原作と家族のこと以外で鮮明に思い出せる前世の記憶が大学時代の卒業論文になるなんて、誰が思うか。もう二度とやりたくねえ。
不信の目を向けてくるマジュニアをどう納得させたものかとあまり回りのよくない頭で考え込んでいると、ずっとそこにいたもう一人が口を開いた。
《驚いた。本当に母親扱いしているのか》
「!?…セル、じゃない。パッシバでよかったか?」
《そうだ。名実ともにお前と兄弟になる》
話し方に関しても教育すべきなんだろうか。今のままだと生意気なクソガキ扱いされかねない。パッシバ本人は気にしなさそうなのが難点だ。
《ここにいる私は成長段階が違えど、外にいるもう一人とほぼ同一の生命体だ。つまり、成長にあたって必要なエネルギー量も近しいものとなる》
「何!?」
《ムギはそれを自分一人で供給するだけでなく、人造人間十七号と十八号で満たすはずだった分も補うと約束した。彼女はその言葉通りに行動しているに過ぎない。代わりが用意できないなら口を出すべきではないと思うが》
返す言葉が見つからないのか、悔しそうに新しい弟を睨む我が子。本当に申し訳ない。口調は真面目になんとかした方が良さそうだ。
「パッシバ、その対応の仕方だとこの先苦労しかしないから少しずつでも変えて」
《何故だ?お前としても周囲の反対は煩わしいだろう。反論の余地を即座に潰すことのどこに問題がある?》
「……確認するけど、私がその話し方で交渉してきたらここに辿り着けたと思う?」
コポコポと液体が揺らぐ音と微かな機械音だけが部屋に響く数秒の沈黙の後、納得しきれないながらも理解したかのような声が再び脳内に響いた。
《話す際の言動で相手に与える印象が変わり、それに伴って交渉の成功率も変わる。いたずらに相手の警戒心を煽らない話し方を覚えろ、ということか》
「そ。確かに君の才なら大概のことは力でゴリ押しできるんだろうけど、そんな平均以下のIQでもできる手段で無駄に力や時間を使うってのは…君好みじゃないと、少なくとも私は思ったんだけど」
《私好み?》
「立派な知的生命体なのに力で潰すだけの脳筋とか、知識を垂れ流しにするだけの馬鹿扱いされてもいいの?」
《断固拒否する》
噛み付くような返答の速さに、吹き出しそうになる。別ルートに突入したからといって、プライドの高さがそう簡単に矯正されるわけがない。
「だと思った。賢く話せる人ってのは正論と理詰めで相手を叩きのめせる人じゃなくて、相手の目に映る自分の姿をコントロールしながら自分の望むものを引き出せる人のことだよ。前者の手法はごく一部にしか通用しない」
ここでようやく、パッシバの声から角が取れた。
《つまりこの状況においては、自分の利益の為に友好的な態度で信頼を着実に稼ぐべきだと》
「声に出した時点でアウトなんだよなぁ…まあ、わかってくれたならいいよ。マイナススタートなことには変わりないし」
《お前もお前で容赦がないな》
「ふはははは、伊達にマイナススタートした相手を夫にしてないよ私も」
デザートのプロテインバーピラミッドをボリボリいただきながら、本日何度目かの魔術スキャンで自分の体調を確認する。うん、血液の生成スピードは安定してる。栄養失調の兆候もなし。
納得してくれたしなんとかなるだろうと、静かにしてくれていた長子に視線を戻した。
「マジュニア、気に食わないだろうけど…ちょーっと長い目で見守ってもらえると、ありがたい、かなーと」
何とも言い難い様子で私達のやり取りを聞いていた顔にそう言うと、ため息と一緒に頭を抱えてしまった。
「今に始まった事ではないが……悪趣味だぞ、母上」
「まさかの悪趣味」
「なんでそう……そんな肩入ればかり…」
足りない文章でも、なんとなく言いたいことは伝わってきた。確かに私のタチならもっと優しそうな穏やかそうな、いかにも善良そうな人の側にいる方がそれらしいかもしれない。それこそ悟飯君やクリリンのような、穏やかな人達に囲まれて生きるのが楽だろう。
何もなかったら、出会わなかったら、そう生きて終わったかもしれない。
「手が届きそうだなって思ったら伸ばしちゃうのが人間だからね。私、高尚な精神を持ち合わせてないし」
人によっては、私をボランティア精神に溢れた人間だと思うかもしれない。無欲なやつだと言う人もいるかもしれない。慈悲溢れる聖人とかとんでもないことを言い出す人もいるかもしれない。でも、そんなことはない。ここにいる私は、少々どえらい力を手に入れてしまった凡人に過ぎない。人並みに欲があるし、人並みに怖がりだし、泣く時は泣くし、怒る時は怒る。諦めて手放してしまう時だって、嫌だ嫌だって駄々を捏ねる時だって、当然ある。
ピッコロも、パッシバも、我儘言いたいくらい欲しいと思っただけだ。
もしもを実現できたらいいなって願望を持っていたところに、ワンチャンあると思わせる何かがあっただけだ。