ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話 作:Tentacle
「━━届きそうなら手を伸ばすのが人間、か……素直に伸ばすことも、完全に手を引くこともできなかったやつが、何者にもなれないのは当然の結果か」
その言葉が誰のことを指しているのか、言われなくてもわかる。タイミングと変質した気からして、すでに起きてしまったのだろう。
「…やっぱり?」
「ああ……オレ一人では、足りなかった」
優しいこの子らしく、融合の件は修行期間中に相談…というよりは、やるかもしれないとわざわざ言いにきてくれた。修行の手応えを感じながらも、事前情報から万が一に備える必要があるだろうという判断によるものだ。私はやむなしと、強く反対するようなことはしなかった。
避けられない未来に私が異を唱えたところで何かが変わるわけでもないし、やらずに済むならそれが一番だというのは共通の意見だった。マジュニア自身はそれを嫌い、回避できるように必死に自分を鍛えていた。ネイルさんとの融合で経験した変化を神で経験したくないと、それはもう体を痛めつけながら。それでもその領域には至れなかった、ただそれだけの話だ。セルのことを知っていたとしても、きっと同じ結果になっていただろう。限られた時間内の努力には限界がある。
一回目の融合での変化を念の為スキャンして軽く調べていた私は、だからこそ違和感に気づいた。
「なんか、その割に質の変化少なくない?」
元は一人のナメック星人、という理由は弱い。片割れはあくまでピッコロの方で、この子はよく似ている子供…すなわち全くの別個体だ。絶対綺麗に混ざらないから、どこかしらにあからさまな変化が現れるはずだ。
「馴染み過ぎ……いや、
いくら天と地ほどの力量差があったとはいえ、精神面にダイレクトに影響を与えていれば気の質にもそれがはっきり出てくる。少なくとも、ネイルさんの時はそうだった。でも今回は残り香とも言えないくらい、本当に微々たる違いしか感じられない。私と悟飯くん、あと悟空とミスター・ポポなら一発でわかるだろうけど、他の人であれば数秒はかかるレベルだ。
「……どうも、神が気を利かせたらしい」
「あいつが?」
「ああ……オレの人格に自分の片鱗があるのは嫌だろうと、自らの精神に封印をかけたらしい。やつの記憶や知識は受け継いだが、思い返そうとすると第三者のような距離のある感覚になる。感情は完全に切り離されていると言っていい」
「……そんなことできるの?」
「オレも初めて知った」
融合系の技は基本的に精神面の影響を避けられない。一般的なナメック星人はそのことに対して、種族的な在り方故に忌避感を覚えない。必要なことなら躊躇なく融合されるし、ベースとなった方も思いと記憶を受け継いでいこうと抵抗なく受け入れる。姿が見えなくなっただけで同胞は今も確かにここにいると、多少寂しく思ったりしても納得できてしまう。
「ってことは、実質吸収したようなもの?」
「そうなるな。ありがたいのはありがたいが…正直、調子が狂う」
何故、どうして、なんて聞くまでもない。ただ、ただこの子が言うように、困る。
確かにありがたいのだ。間違ってもマジュニアに悪感情を向けたくない私にとって、あいつの面影が極力薄められているのはとても良いことだ。何かの拍子にこの子を通して神を見てしまう日が来るかもしれないと思うだけで、苦しかった。マジュニアの意思が彼一人のものではなくなることに、ネイルさんとの時点でいくらか抵抗があった身としてはこれ以上ない結果だ。
それが、心底嫌っているやつ本人のおかげで限りなくマシな状態でいられた。複雑、なんて一語に収めていいのかわからない気持ちが胸の内で渦巻く。
「母上」
「何?」
「余計、だとは思うのだが……伝言を預かっている」
「………………聞く」
腹立つだろうなと確信しつつも、続きを促す。
「“チャンスを与えられながらもろくに償えず、本当に申し訳ございませんでした”」
思わずこぼれた舌打ちにマジュニアがぎょっとした顔をする。
「人の子供になんてこと言わせてんだあんのカス……やっぱいっぺん殴っとけばよかった」
「は、母上?」
「ごめん、マジュニアは本当になんっにも悪くない。巻き込んで本っ当にごめん」
ナメック星での冒険が終わった時点で、あいつを殺せるだけの力は手に入れていた。なんだったら嬲り殺しにできただろう。だからこそ、殴れなかった。数百年前のあの頃に掲げた目標は、いまだに到達できていない。
こっちで防御系の魔術とか肉体強化の魔術とかをあいつにかければいけたと思うけど、力一杯殴る為とはいえその手の力をあいつに使いたくなかった。自分の力であいつを守るという行動そのものに、嫌悪感があった。
この子に今の言葉を言わせるくらいならそうした方がずっと良かったと、顔を覆ってため息を吐く。
「最後まで気が利かないの、なんなのあいつ……そういう伝言は破られる覚悟で手紙にしとけっての」
「言わない方が良かったか…?」
オロオロと困った様子のマジュニアに罪悪感が募る。いやもう本当に、なんてことをしてくれやがったのでしょう。
「そしたらマジュニア一人に抱え込ませっぱなしでしょ。聞くって言ったの私だから気にしちゃダメ。あいつ相手になんてこと押し付けやがるクソジジイとか思ってなさい」
苛立ちを強引に追い出すように長く息を吐いた。
強いていうなら、怒って嫌い続ける理由ができたのは気持ちとして楽だ。素直に恨み続けて自他に咎められることが減るのは良い。腹立つけど、恨まれた本人もそれでいいそれがいいとか言いそうだし。腹立つけど。
《お前のその恨みは、たったの一撃で晴れるものなのか?》
「ひょあ!?」
突然降って湧いた声に飛び上がる。どうやらさっきのマジュニア同様シリアスなやり取りを静かに聞いていたらしい。
《どうした急に》
「ご、ごめん。存在忘れてた…」
《今もなお血を抜かれているというのに、器用なことだ》
「これぐらいなら慣れるよ」
毎日血を二リットルというのは誇張ではなく事実なものの、一日かけてゆっくり抜かれているから体感しにくい。献血は十五分くらいで数百ミリリットル採血していることを考えると、これは私が鈍いとかではないはずだ。超高速でエネルギー補給と血の生産をしているという前提あってのことだろうけど。
「質問の答えだけど、なんだかんだ直接会ったこと一回もないんだよね。星の記憶を見て知ってるだけ。だから会って一発キメないことにはなんとも言えない」
《数百年尾を引く怒りを持っておきながら、一度も?》
「尾を引くどころか現在進行形で更新してくれやがってますわ。すごくない?」
《何故だ?何故復讐を果たさなかった?お前なら殺さない方法など、いくらでも創出できたはずだ。一発と言わず、長時間かけて苦しめることも可能だろう》
「よろしくない方向に厚い信頼…」
パッシバが理解に苦しむのも無理はない。彼は不可能な復讐を可能にする為に生まれた存在だ。手段をもう持っている私が、自分の欲望のままに行使しないのは妙に映るだろう。
《孫悟空とその周囲の怒りを買うからか?》
「あーー、まあ……関係にヒビが入るのは間違いないね。一定の理解はしてくれるだろうけど」
《隠蔽すればいいだろう》
「バレる。絶対。証拠も説明できる理由もないけど、これだけは断言できる」
《……ふむ、理解に苦しむがそういうものだということにしておこう。主因はなんだ?》
そんな余裕がなかったとか、縛りの妨害を受けるかもしれないとか、優先項目はいくらでもあるとか、そもそもあいつのことをあまり考えたくなかったとか、たくさんの理由がある。全部説明しても、この子のことだからとりあえず聞いてはくれるんだろう。
でも、それらを全部雑にまとめる言葉を私は持っている。
「明日のご飯が不味くならないような、ある程度すっきりできる方法でやりたかっただけだよ」
こんな理由でやりそびれるんだからマヌケだよねと笑ったら、また沈黙が返された。そんなにおかしな回答だっただろうか。