ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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星の防人

 

 今のままだとセルに勝てないから、一日で一年間の修行ができる部屋に行く。お父さんが言うからにはそれなりに勝てる可能性があるんだとは思う。修行することに反対しようとは思わない。

 

 ただ、ムギさんから聞いた方法が使えないことに少し不満があるだけで。

 

「━━『星の防人』になれたら、一日もいらないのに」

どうにもならない現実と修行をやったのに力になれない自分への不満が胸のうちで混ざり合って、それが苦しくてつい溢れたその言葉。すぐにピッコロさんの咎めるような声が飛んできた。

「悟飯」

「ごめんなさい、ピッコロさん。わかってます…ただ、もし使えたらって思うと……」

今この瞬間も殺されている人達がいる。次は自分かもしれないと怯えている人達がいる。それを考えると、一日すらも長く感じてしまう。

「『星の防人』?なんだそれ?」

「『星の魔女』と何か関係あるのか?」

当然のように知らない皆から疑問の声が出てきて、ピッコロさんが渋々といった顔で話し始めた。

「『星の魔女』との契約で生み出される戦士のことだ。魔女の力は強大で多岐に渡るが、戦闘となると専門にしている者と比べればやはり劣る。無論それをカバーする為の多才さだが、対応しきれないケースは発生する…その為の『星の防人の契約』だ」

 

 ムギさん曰く、星の魔女はまず生まれ持った力のコントロールと魔術を教わるのが普通だ。特に前者は小さい頃からやっておかないと契約する星が荒れてしまうのだとか。そして、この二つを修めてしまえばある程度は戦えてしまうからきちんと修行する人は少ない。なんなら魔術で自分以外の戦力を強化した方が早く、もしかしたらその流れで生まれたのがこの契約なのかもしれないと言っていた。

「一日もいらないってなると、契約したらすぐ強くなれるってことか!?」

「ああ、何しろ緊急時に使う最後の切り札だからな……伝説が本当だった場合、契約に至った理由 (てき)()()()倒せる力を手に入れられるらしい」

「か、確実に……」

ドラゴンボールが使えなくなった今、こんなにもいてほしい戦力は中々いない。なんだったら、自分がなってもいい。ムギさんとの契約なら心配することもない。お母さんは怒るかもしれないけれど。

「そ、それってつまり……例えばムギさんがウーロンと契約したら、セルを倒せるくらい強いウーロンになるってことか!?」

クリリンさんのその発言で、セルをかめはめ派一発で倒すオレンジの道着をきたウーロンさんが頭の中に浮かんだ。どう反応すればいいのかわからない光景で、筋肉の強張りが少し緩む。ちょっと見てみたいかもしれない。

「そうだ。母上曰く、身体障害でまともに戦えないような体を持っていた人間が、宇宙から来た侵略者を単独で全滅させた記録があったそうだ」

「す、すごいじゃないか!なんでムギさんはその力を使わないんだ!?」

「何か必要なものが足りないとか…?」

「いや、もっと単純な問題だ」

でも、どんなに面白そうな光景であっても、どんなに僕が力を望んでいたとしても、それは無理だ。

 

「契約方法が不明だからだ」

 

「ふ、不明って……いたって記録は残ってるんだろ?」

「確かな記録が多く残されている。だが…方法に関しては魔女達も防人達も口を閉ざしたようでな、どこにも書かれていなかったそうだ……防人の力を利用しようとする者がいたのもそうだが、防人が生み出されるのを阻止する為だけに魔女が殺されたこともある。自分達を守る為に、方法だけでも秘匿したのだろう」

「なるほど……敵からすれば、『星の防人』が生まれる前にケリをつけたいだろうしな」

 悔しいけど、仕方ないことだった。この宇宙にムギさん以外の星の魔女がいるかどうか怪しい状態で、必要な知識を全部集めるのは難しい。自分が最後の魔女かもしれないと思って死んだ人達もいたとしたら、わざわざどこかにその情報を残す理由はない。自分達だけに許されたとっておきの魔法なら尚更だ。ムギさんも必要になりそうだからとかなり長い間探したけれど、それらしい情報はどこにもなくて諦めたらしい。

「そういうことだ。一応、防人になれる条件というものも存在するが難易度は別に高くないそうだ。母上は“大概の人間はなれる可能性があるし、それは神族も魔族も変わらない。魔女との相性によってはどうしてもなれない人達もいるだろうけどね”と言っていた」

「ん?そこは教えてくれなかったんか?」

お父さんが首を傾げると、ピッコロさんは短く息を吐いてから答えた。

「オレや悟飯は満たしていて、母上と契約できない者はそれなりにいるだろうとは言われた。加えて、防人になったらなったでデメリットもあるらしい。その辺りに関してもはぐらかされたが、あの様子だと仮に方法を知っていたとしても契約はかなり渋りそうだ。魔女一人につき一人しかなれんしな」

「一人だけかぁ……でもその一人で全部なんとかなるならなぁ…」

確かに使えないのはちょっと惜しいと僕に同意する空気が流れる中、ピッコロさんは諦めているような結果を分かりきっているような顔をしていた。

 

 なんとなく、何を考えているのか想像がついた。ムギさんが自分で防人を選べたなら、きっと迷わず一人を選べる。それを知っているから、期待していない。なれるものなら僕以上に躊躇なくピッコロさんはやるだろうけど、ムギさんが嫌がる姿がスッと思い浮かんでしまう。子供である僕達を頼れない、頼るわけにはいかないと無理して頑張る、あの人の姿が。

 じゃあお父さん達にその役目を頼めるかと聞かれたら、それもできない。仲が良いお母さんですら、申し訳なくて無理とか言うに決まっている。それくらい重い契約だからというのもあるだろうけど、やっぱりここでもそこまで頼るわけには行かないと逃げてしまう。もう今の時点でたくさんしてもらってるからと、差し出された手をするりと抜けていってしまう。

 

 僕はピッコロさんのお父さんのことはあまり知らない。教科書とドキュメンタリーで見た顔と、ピッコロさんとムギさんとお父さんから聞いたことしか、知らない。

 教科書とテレビでは、史上最悪の極悪人だとか、レッドリボン軍にもできなかった世界征服をほんの一瞬とはいえ成し遂げた怪物だとか、言われている。写真も映像も、この世全てを見下して高笑いしているような顔をしていた。

 お父さんは、とんでもねえやつだったと言っていた。あんなにも怒ったのは生まれて初めてで、フリーザと戦った時みたいに途中でやめたくなることなんてなくて、何がなんでも倒して勝ちたい相手だったと。でも、最後に聞こえた声がずっと耳に残っていて、そのせいでずっと納得しきれないままだって言っていた。

 ピッコロさんは、幸福な選択を許されなかった人だと言っていた。事故みたいに生まれて、生み出した本人に心の底から嫌われて、やっと手に入れたたった一人の側にすら居続けられなかった人だと。悪いことを自分の意思でやったのは間違いないけれど、善いことをする人になろうとしたら死ぬまで邪魔が入ってしまった、悲しいいきものだと言っていた。

 

 ムギさんは、宇宙一大好きな人だと言っていた。真面目だけど好き嫌いが激しくて、頭が良いけど理屈っぽくて、不器用だけど優しくて、雑だけど大事にしてくれる、回りくどい言葉を使いながら手を伸ばしてくれる人だと。どんなところから飛びついても、必ず両腕でしっかり受け止めてくれる人だと言っていた。

 

 

 ああ、どうして。

 

 

 どうしてこの世界は、ムギさんをいつでも笑わせてあげられる人を、心から安心させてくれる人を、生き返らせてくれないんだろう。

 

 

 

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