ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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人造人間は人間讃歌を謳えるか

 

 母、と呼ぶべき相手は自分と全く異なる精神構造を持っていた。

 

 それは数百年の年月を歩んできたとは思えぬほど凡庸な人間に近く、それでいて妙に達観しているような立ち振る舞いもする。感情的なのは間違いないのだろうが、彼女という一個人を理解するにあたって足りない情報があまりにも多すぎた。

「っ…!」

 遠く離れた地で、魔女が我が子と呼ぶナメック星人の気が揺らいで消えた。私よりずっと早くエネルギーを大量に取り込んだセルが、大幅に強化されたピッコロすらも凌駕していた。孫悟空はこの領域すらも、修行さえできれば到達できると思っているのだろうか。馬鹿なのか、それとも天性の勘というものなのだろうか。

 ムギの気がゆらめきながらも自身を焦がすような熱を放ち、与えられた知識でしか知り得ない炎を彷彿とさせる。すぐにても腕に刺さった針を引き抜いて駆け付けたい激情を、理性に統括された肉体が強引に抑え込んでいた。その性質故に精神面の修行を重点的に行なっているという情報は得ていたが、それにしても飛び出さない彼女を『らしくない』と感じる。この部屋にも来ていた気が消えてしまって、じっとしていられる質の人間だとは思えなかった。

《……信じている、というやつか?》

彼女のようなタイプを、ドクター・ゲロは嘲笑うだろう。偶然や奇跡に賭けるのはあまりにも確実性がなく、あらゆる手を尽くした上で最後に残ったらやるかもしれないことだ。

 私の予想に対し、ムギは作ったような平坦な声で返答した。

「…そもそもまだ生きてるよ。ナメック星人のしぶとさは折り紙付きだし」

《わかるのか?》

「わかるし、知ってる」

妙な言い回しだ。わかる、とは何らかの方法でピッコロの状態を確認できているということだ。知っている、とはセルがピッコロを殺しきれなかったという情報をすでに入手しているということだ。似ているようで、本質的には全く違う。

《予知か?》

魔女という称号から、その手の能力を持っているかもしれないと推測する。私を見つけた時とクリリン達が来た時の態度も、そういうことであれば辻褄は合う。妙なところで冷静なところも。

 即座に答えが得られるだろうと期待していた私を裏切るように、ムギはため息をついた。

「……説明できないんだよなぁ」

《何故?》

「どう説明しても、パッシバが痛い思いするから」

《どういう意味だ?》

疑問が疑問を呼び、私は注意深く気を観察する。諦念の色が濃い。

「色々と制限がかかってるんだよ、地球の神よりもっと上の人達のせいで」

《知るだけでも罪に問われるのか?》

「罪に問われるっていうか……端的にいうと、諦めるまで拷問コース」

《諦める?》

「私が言うのを諦めて、パッシバも知るのを諦めたら解放。我慢してちょっとだけ情報渡すってのはできなくもないけど…今の君にはしたくない。成長に悪影響が出そうだから」

なるほど。それは私も避けたい。

 避けたいが、情報が手に入らない状況に神経が逆撫でされているような不快感がある。

《ピッコロは知っているのか?》

「どっちも多少は知ってる。でもマジュニアに聞くのもおすすめしない。多分だけど、伝達するのは誰であっても変わらない」

どっちも、ということは親の方が知った情報を子が受け継いだということだろうか。情報によれば子の方は親の記憶や、融合した他のナメック星人の記憶も受け継いでいるという。彼女が直接話していない可能性は十分あるだろう。

《……私がここから出られるようになったら、少しは教えてくれるのか?》

「なんかえらく食いつくね。そんなに気になる?」

 不思議そうに問いかけてくるムギへの苛立ちは、どこから来ているのか。己の思考を可能な限り分析し、近しい概念を並べ、もっとも相応しいものを探り当てる。

 

《私だけ()()()とは、いい度胸だな。身内に取り込んだのはお前だろう》

 

 気に食わない。納得がいかない。

 私の生の在り方を根本からひっくり返しておいて、己の在り方には口出しさせない。私の問題を放置するのは気分が悪いと踏み込んでおいて、自分の問題に私が切り込もうとすれば大したことでもないと距離を取る。

 私の関係者になっておきながら部外者扱いをするとは、矛盾にも程がある。

 

 数秒の沈黙の後、吹き出すような笑い声と共に張り詰めていた気が緩んだ。

「ごめんごめん、拗ねないで」

《拗ねてなどいない》

その軽やかな声色に、ざらついた精神が宥められていくのがわかる。丸みを帯びた言葉達が聴覚神経に転がり込んで、溶けるように緊張から解放された気が室内に満ちた。彼女に見つかるまでまともな会話の相手がいなかったとはいえ、慣れない感覚だ。

 これは、必要な変化なのだろうか。今外で暴れているセルを超えんとする孫悟空の更に上へ到達する為に、必要な進化なのだろうか。その答えを、私は得られるのだろうか。

「仲間外れにしてるつもりはないよ。うちの旦那様に伝えた時はもうちょっと楽でさ、マジュニアはその記憶を受け継いでるから知ってるの。抜け道があれば活用したいんだけど……まあ、私天才じゃないから…」

 予想通りの事情であったこともあり、怒りは完全に萎んでいった。不可能を可能にできなかった、それを実現する能力が彼女になかった。ただそれだけの話であれば、責めるのは無駄だ。協力を得ること自体が難しいのであれば、尚更。もっとも、彼女を責める気がないだけで情報を得られない不快感は残っているが。

 

 欲しい。

 私は、彼女が見出した可能性の果てを、手に入れたい。生みの親によって敷かれたレールの上をほぼ予定通りに歩むセルとは異なる、どの方向へと伸びていくのかもわからない無限にある道を通って。セルには決してできないことを、パッシバとして成し遂げたい。この道を選んだからには、もう一人の私では辿り着けない最高到達点に至りたい。

《天才は生まれ持ったものである以上、それをお前に求める気はない。しかしこの私の親を名乗るからには、最低でも秀才でいてもらう》

その為に、ムギと関わる。ムギを通して、多くの者達と接触する。セルには使えない手段だからこそ、積極的に活用する。

 パッシバたる自分だからこそ許された方法を、思う存分使わせてもらおう。外で生き生きと活動しているもう一人の私には悪いが、別個の生き物として生存競争のライバルが敗北することを期待しよう。いずれ倒す孫悟空に賭けてみよう。

 私が最初に対峙する未知、私が自ら踏み出す最初の一歩、それがまさか孫悟空に希望を託すことになろうとは。

「ずっと思ってたけど、私への期待値デカくない!?」

《極めて適正だ》

「嘘つけぇ!!」

だが悪くない。孫悟空を倒す以外にもやることがある。孫悟空を倒すことにだけ集中していたら見向きもしない力を、手に入れられるチャンスがある。孫悟空当人すら利用できる可能性もある。

 常人どころかセルですら考えもしない高みの輝きが、まだ開かない私の瞼の向こう側に確かに存在しているのだ。

《意地でも私を巻き込んでもらうぞ、我が母よ》

 

 

 私は人造人間だ。私は、決められた目的の為に作られていた。

 

 私は人造人間だ。自らの意思を持ち、自らの考えを行動に移すことができる命だ。

 

 私は人造人間だ。人造なだけで、機械ではない。紛れもない人間だ。

 

 

 私は、人間だ。

 

 

 

 自らの欲に従い、楽しい方を選ぶ権利のある、人間だ。

 

 

 






ああ、気分が良い。
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