ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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知識は力なり

 

 父さんの次に精神と時の部屋に入ることになって、オレはその前に一度母さんのところに顔を出しに行った。十六号の修理はセルの幼体のおかげで順調らしい。

「━━ところで母さん、そのセルの幼体はどうですか?」

「パッシバのこと?肉体が完成してないからってのもあるんだろうけど、思った以上に話が通じるわよ。セルとは別のアプローチを取ろうとしてるだけあって、こっちの話もちゃんと聞いて自分なりに考えてるみたいだし」

「そう、ですか」

 不安は変わらずそこにある。ムギさんが保護・監督しているとはいえ、相手はあのセルだ。自分達とは全く異なる生命体だ。仮に躾が成功したとして、それが上部だけのものにならない保証はない。しかも、ムギさんが栄養供給を受け持ったことで急速に成長が進んでいるらしい。ドクター・ゲロがセルを創るにあたって時間をかけたのは忠誠心の問題だけではなく、単純に生育に必要な栄養を効率よく供給するのが難しかったからかもしれないと母さんが言っていた。

「この辺りは科学の敗北というか、星の魔女が凄すぎるのよね……あのスピードで失血と血液の生成をこなせるだけじゃなくて、さらにそれを連日続けられるなんてもう反則技よ。ムギさん一人で輸血用血液の確保問題が解決しかねないわ」

「そ、そんなに…!?」

「あの魔術をごく普通の人間にも副作用なく医療機関で使えるとなったら、必要な時に必要な血液型のドナーを一人二人連れてくるだけでいいもの。レアな血液型の人達も一気に生存率が上がるわね」

 仙豆のような希少なアイテムではなく、あくまで魔術という技術だからこそ価値がある。どうにかして科学の領域に持ち込めないかとぶつぶつ呟く様は、タイムマシンの設計をこねくり回していた未来の姿によく似ている。昔からこうなんだなと少し懐かしく思ったところで、ぱっと若々しい顔がこっちを向いた。

「あっ、そうだ!せっかくだし、あんたもパッシバと話してみたら?」

「えっ」

「口が悪いというか言葉遣いが下手なんだけど、真面目に相手すれば真面目に返してくれるわ。やたら理由を聞いてくるのも、別に意地悪とかじゃなくて理解したくて質問が多いだけだし。私から言わせたら、なんでなんでって聞いてくる小さい子供と変わんないわよ、あんなの」

父さんを選ぶだけあって、母さんもだいぶ肝が据わっている。知っていたはずなのに、改めて思い知らされた。

 

 抵抗はまだあったものの、一度会って話をした方が良いと考える自分も確かにいた。だからちゃんとパッシバと呼べるように脳内で練習しながら長く広い廊下を歩き、ムギさんと一緒にいると言う部屋の前で深呼吸を数回してから、数回ノックした。

「失礼します、ムギさん。今、大丈夫でしょうか?」

そう言ってドアを開けた先の光景に、思わず足が止まった。

 

 食品の包装らしきものが半端に片付けられたテーブルに、長い黒髪を撒き散らすようにしてムギさんは突っ伏していた。

 

 思い浮かぶのは、最悪の事態。

「ムギさん!?」

慌てて駆け寄って彼女の体勢を変え、顔を確認すると同時に脱力した。とても安らかな寝顔だ。顔色が悪いとか、目の下にクマがあるとかそんなこともない、至って健康的に規則的な呼吸を繰り返している。

《間食を食べ終えた二十七分三十九秒後に入眠した。過度に負担のかかる体勢というわけでもなく、気に異常な乱れもない。ただの仮眠だ》

「セ…パッシバか。今後もし同じようなことが起きたら、母さん達のうち誰かしらは呼んでくれ。寝落ちしたその時は大丈夫でも、いつ想定外のことが起きるかわからない」

《警戒しすぎるくらいの方が良い、と。了解した》

とりあえず話が割と通じるというのは本当らしい。出鼻を挫かれた形になったけれど、それが分かっただけよしとしよう。

「その中にいても外の様子が見えるのか?」

《見えているわけではない。気や音の感知を応用して形を感じ取れるだけだ》

「……器用、だな」

 すぐ側にあるベッドに運んで、置いてあった赤いブランケットをかけると待っていたと言わんばかりにムギさんが丸まる。血を供給する為のチューブは一時的に抜いているようだし、寝心地はこれで問題ないだろう。

《母に要件があるなら、起きた時に伝えておこう》

 無機質さの残るテレパシーに「だからとっとと出ていけ」と言われているかのような印象を受ける。気にしすぎか、はたまたムギさんに気遣ってかはわからない。もしかしたら本当に鬱陶しがられている可能性もある。でも、オレは彼と会話する為にここまで来た。今更引き返す気はない。

「オレがここに来たのはムギさんに用があったからじゃない」

《ほう》

「ムギさんの都合が悪ければ時間を改めようと思って、確認はするつもりだった。でも、その必要はなくなった」

《私に用とは……言っておくが、セルの弱点など聞いても無駄だぞ。やつを育てたコンピューターはそこにあるものより、ずっと長くデータを積み重ねて研究してきた。今の我々では知り得ない情報は多い》

「そうか。期待していなかったと言ったら嘘になるが、そういうことなら諦める」

《随分と簡単に退いたな》

 培養液に浮かんでいる体は、初めて見た時と比べて随分と様子が変わっていた。明らかに異なる生き物の形をしていた胚は、どう見ても人間の胎児にしか見えない姿になっている。

「お前は、人間と同じ姿になるのか?」

《自分の姿は輪郭でしか把握していないが、データや周囲の反応からしてそうなると思われる。ムギの血と魔力の影響を軽視していた》

「嫌なのか?」

《特別見た目にこだわりはないが、紛れ込める容姿であることは利点に違いない。母親に似た容姿であればなお良いだろう》

真面目に相手をすれば真面目に返してくれる。母さんが言った通りだった。確かにこれならしばらく会話できそうだ。

《それで要件はなんだ?》

「一度、ちゃんと話しておきたいと思っただけだ。特に話題は決めていない」

《先ほど挙げたもの以外にこだわっている情報はないのか》

「そうだ」

《であれば、お前は私と対話して何を得ようとしているのだ?》

 何を得ようとしているのか。母さんに促されたとはいえ、そうした方が良いと思ったのはオレの意思だ。ならそう考えた理由がある。当たり前のことなのに、こうして問われると言葉が詰まる。

《どうした?》

圧をかけているようで、ただ困惑しているようにも聞こえる声。今のオレには判別がつかない。どこから判断すれば良いのかわからない。

 

 オレは目の前の命を、人造人間を、パッシバを、知らない。

 

「……オレは、お前を知りたい」

《私を?》

「セルにはならないお前が誰なのか、それを知る為に話したいんだ」

 この世界の人造人間は、どうも自分が来た世界とは色々と違いすぎる。オレの中にある先入観が、この危うい状況において判断の邪魔になるかもしれない。それは良くない。ここまで来て皆の足を引っ張るようなことはしたくない。

 だから、それを壊す。まずはイレギュラー中のイレギュラーと話すことで。

「お前を知ったからといって、セルを倒すヒントが得られるとは思っていない。同時に、お前の全てを知れるとも思っていない。でも、何もわからないよりはいい」

一つでも間違いを減らす為に。一つでも後悔を減らせるように。

「オレは、『パッシバ』をよく知らないまま戦場に行くのは良くないと判断した。だから話題は何でもいい。これからの戦いに全く関係ないことでも、お前の過去のことでも未来のことでも……読めばわかるような物質的なデータじゃなくて、お前と対話を重ねることでわかることを知りたいんだ」

 

 パッシバからの返答はない。

 判断に困っているのだろうか。よくよく考えたら、話題フリーといきなり言われてじゃあこの話はどうかとすぐ返せる人はあまりいない気がする。オレがいきなりそう言われたら、ワタワタ慌ててつまらない話を始めてしまいそうだ。やらかしてしまっただろうかと冷や汗が背中を伝ったあたりで、ようやくあの妙に冷たい声が頭に響いた。

《相談、でもいいだろうか?》

「そ、相談!?オレに!?」

《母に同様の相談をした際に、参考例としてお前と孫悟飯の名が挙げられた。であれば直接本人に話を聞くのが効率的だろう》

「参考って……いったい何の?」

《実は━━》

 

 

 

***

 

 

 

「…ん……ん゛〜……あ、れ?私、ベッドに入ってたっけ?」

《おはようございます、母さん》

「ああ、おはよう……って待てぇ!?今の誰!?パッシバ!?」

《トランクス達を参考にするのが良いと言ったのは母さんじゃないですか》

「いやうん、まあ、言ったよ。言ったけど急に変わったらびっくりするよ!」

《僕、優秀ですので》

「優秀って言葉で収めていいやつじゃないでしょ、これは」

《僕、天才ですので》

「言い直せばいいって話でもないんだぞー」

《ですが事実でしょう?》

「返す言葉が封殺されてもうた…」

 

 

「というか、トランクス達は呼び捨てなんだね」

《トランクスさんと呼んだら、何だか気持ち悪いと嫌がられました。何故でしょう?》

「あー……まあ、そういうこともあるよ」

 

 

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