ピッコロ大魔王をご都合主義全開で救う話   作:Tentacle

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 評価、コメント、ブックマーク、いつもありがとうございます。今回の更新まで長らく休載していたにもかかわらず、また読みにきてくださった方々や新たに読み始めてくださった方々がいて本当に感謝しきれません。
 この度お気に入りが500を超えたので、その記念にまたIFストーリーを書かせていただきました。

 再びPixivでの最新話に追いついてしまった為、ここで更新を一旦停止します。次は流石に一年以内に帰ってこられるように頑張ります…!
 皆様の応援、本当に励みになります。改めて、ありがとうございました!!


【記念作品】もしも地球の神がちょっとだけ冷静だったら

 

 全てがあまりに急で、一瞬のことだった。

 

 ボーロ樹海にかけられていた結界をシャボン玉のようにあっさりと壊したあの御方は、星の魔女だけを封印して風のように去っていった。緊急性が高い事案だったので早急に対応したという伝達が入ったのは全てが終わった後で、詳しい説明は何もなかった。

 星の魔女と魔族の組み合わせの悪さは自分でも理解しているつもりだった。魔女の魔術で行動がよく見えないことが多かったが、二人がいたと思われる場所の確認は怠らなかったし、星の魔女に関する情報は可能な限り集めていた。何か動きがあれば、すぐにでも行動を起こせるようにしていた。しかしどうも、それでは全く足りなかったらしい。

 

 何故魔女だけが封印されてピッコロが野放しにされているのかがわからず、直接確認しに行く為に行き来が可能になったボーロ樹海最奥に向かう。気の様子からして、ピッコロは魔女の封印をどうにか壊そうとしているらしい。そう簡単に壊されるような物ではないとは思うが、こうなる可能性があったにもかかわらず何故彼はそのままにされたのだろうか。

 近づくにつれて固いものを殴るような打撃音が何度も聞こえてくるようになった。その合間に何か瑞々しいものがちぎれるような音が挟まり、なんだろうと首を傾げていた私はたどり着いた現場を見て絶句した。

 

 腕。

 

 腕。

 

 

 腕。腕。腕。

 

 

 ひしゃげて、折れて、ちぎり取られた、何本もの腕が無造作に散らばっている。私のものとそっくりのそれが、血に塗れて土を汚している。その中心に封印の水晶と、腕の持ち主が静かに佇んでいた。

 異様な雰囲気に呑まれそうになりながらもピッコロの後ろに降り立てば、心底面倒そうな声が投げかけられた。

「…捨てたモノに何の用だ?」

こちらに視線を向けられずとも嫌悪感はひしひしと伝わってきた。苛立ちを強引に抑えているような平坦な言葉が酷く冷たく感じる。

「見ての通り、私は忙しい。貴様にかまっている暇など微塵もない。用もないのに来たのならとっとと去れ」

何も言わない、動きを見せない私が鬱陶しくてたまらないというその態度に、神経を逆撫でされているような不快感を覚える。

 こちらこそ、お前になど会いたくなかった。こんなところに来なくて済むなら、未来永劫そうしていた。魔女の結界の中で何をしていたのか知らないが、そのまま死んで肉体が土に帰るまで出てこなければいいと本気で思っていた。

 怒りのままに行動しそうな己を律する為に、一度深呼吸をした。私が生み出してしまった()()は今、動揺している。そこを突けば、たとえ実力が拮抗していたとしても優位に立てるはずだ。その為にも冷静にならなければならない。

「……そんなに、彼女を解放したいのか」

 それにしても、便利な道具が消えたからとこちらに八つ当たりするとはなんて幼稚な生き物だろう。やはり自分から切り離して正解だった。こんな形を持ってしまったのは想定外だったが、自分に課された試練だと思って向き合うしかない。

 問いかけを聞いて振り向いたその者は、噛み合わない会話が急に始まったかのようなとぼけた顔をしていて。その様子が自分を小馬鹿にしているように感じて、私は怒りを乗せて声を張り上げた。

「そんなに力が欲しいか、ピッコロ!!」

その怒声に対してピッコロは、

 

 

「………は?」

 

 

本気で困惑している顔を見せた。

「……え?」

 思考が、止まる。

 おかしい。なんだその顔は。なんだその返答は。肯定するところじゃないのか。鼻を鳴らして私を嘲笑い、下卑た笑みを浮かべて何を当たり前のことをと敵意を剥き出しにするのがお前だろう。

 いや、待て。そもそもこの状況自体がおかしい。

 いくら便利な人材が奪われたからといって、ピッコロがここまで自分の身を削って取り返そうとするだろうか。いくら怒りと混乱に満ちていたとしても、私にここまで近づくことを許すだろうか。私を待ち伏せして解放する術を引き出そうとするならともかく、邪魔だから帰れと追い返そうとするだろうか。

 

 そうだ、色々おかしすぎる。おかしすぎたのだ。あの時天界から追い出したピッコロであれば、とうの昔に暴れ回っていたはずだ。何十年も星の魔女以外の仲間を増やすことなく潜伏し、結界の外に出ても少々うろつくくらいで特になんの爪痕も残すことなく立ち去るなんて異常だ。

 何か壮大な計画をしていたのなら、結界が破壊された時点でそれが露呈しているはずだ。それなのに、ここにあるのは封印された一人の人間だけ。妙な悪寒も違和感も何もない。あの御方が片付けた様子もない。せいぜいピッコロ本人が年数分順当に強くなっているくらいで。

「ピッコロ……お前…お前は、まさか……」

 あり得ない。この者に限って、それだけは起きるはずがない。()()()()()()()()()()()()()()。だが、だがそれ以外に説明しようがない。

 

「…ただ、星の魔女を助けたいだけなのか?」

 

 呆然としそうな私の口から溢れた言葉を聞いた彼は、鼻を鳴らして腕を組んだ。

「……好きに思い込め。私のやることは変わらない」

かけらも信頼のない、突き放すような答えは肯定しているも同然だった。

 誰だ。お前は、誰だ。ピッコロじゃないのか。そんなはずはない。水晶を庇うように仁王立ちしている存在と、自分は間違いなく魂が繋がっている。ならば、これはどういうことなのか。

「もっとも…貴様が邪魔立てすると言うのであれば、容赦はせんがなぁ?」

ようやく見せた覚えのある表情すら、何かが違う。瞳の奥で燃え上がっていたはずの憎悪はチラつくだけで、それ以上に強く輝く決意がある。

 変わった。変わってしまった。あの何十年の間に、星の魔女の結界の中で完全に変質してしまっている。

「……ピッコロ」

「なんだ?」

「お前に、何が起きたんだ…?」

 

 驚愕のあまり警戒を完全に解いて素朴な問いかけをする私に、彼もまた虚をつかれて言葉を失っていた。

 

 

 

***

 

 

 

 ガラスのように弾けて砕け散る結界の中から、脱力した無傷の体が倒れかかってきた。

「ムギ!」

結晶の吹雪など気にもしないで飛び出し、地面に触れるよりもはるかに早くそれを受け止めるピッコロの背をただ見つめる。

 

 長かった。我々二人がかりでも二十年かかるとは思いもしなかった。あの御方はこれを想定していたのか、はたまた私の協力なんてあり得ないと思ってもっと長くなると考えていたのか。まあ、今となってはどうでもいい。

「ムギ……ムギ…!」

 数年前から私には見栄を張らなくなった兄弟は、妻をしっかり抱き抱えて今にも泣きそうな声で名を呼んでいる。無理もない。会いたくて会いたくて、会いたいあまり何度も夢に見た相手だ。まともな返答を得られずとも、声がいくらか届いているようだからと毎日話しかけていた相手だ。人間達や私への恨みを放り投げてでも助けたいと、もう一度一緒に暮らしたいと願った相手だ。雫の一つ二つどころか滝のような涙を流しても良いだろうが、彼のことだから意地でも決壊させないのだろうなと強情な身内に内心ため息をこぼす。

「……ん…」

微かな声にも敏感に反応している彼の背中の向こう側は見えない。だから、久方ぶりに互いが視界に入った二人の表情は彼らだけの一瞬だ。

「ぴっ、ころ…」

「ムギ」

 声だけでわかる、歓喜が。そろりと伸ばされた柔らかそうな手に自ら寄っていく緑の頭を見れば、どれほどこの瞬間を焦がれていたのか伝わってくる。

「ピッコロ!」

大きな体に細い腕がしがみついたと同時に、辺り一体の草木が花開いた。

 白、黄、桃、青、橙の、色とりどりの花々が、青々とした葉を圧倒せんと言わんばかりに咲き乱れている。目が沁みそうな晴天へと吹き抜けていく風が、優しい芳香を掻き上げて撒き散らしていく。その全てを照らす太陽は眩く輝きながらも、我々を焼き尽くすことなくほのかな温もりだけを届けてくれる。

 祝福。これ以上、この光景にふさわしい言葉はない。

 

 この瞬間が見れただけで、私の選択に価値はあった。

 

「━━その、早かったね。もっと時間がかかるかと」

 どうやらムギ殿の体調は問題ないらしく、現状確認できる程度には意識もはっきりしているようだ。よかったよかったと邪魔にならないよう静かに頷いていると、ひどく言いづらそうな様子でピッコロが言った。

「……想定外の、協力者がいた」

「想定外?」

「………できれば、叫ぶな」

「へ?」

恐る恐ると妻を抱えたまま振り返るピッコロ。何事かと眉間の皺を寄せて、されるがままにこちらに向けられるムギ殿。

「……その………ど、どうも〜…」

どう声掛けしたものかわからず、ぎこちなくもなんとか無害をアピールする地球の神(わたし)

 

 

 その日ムギ殿の声は超音波の領域に達し、疲れ果てた私とピッコロはモロにそれをくらってしまうのだった。

 

 

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