「おれのターン!」
おれはそう宣言すると、カードを1枚引いた。
引き当てたカードは「超音速ライトニング」。おれの得意とする強力紅蓮術だ。
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超音速ライトニング (1)(R)(R)
クリーチャー - エレメンタル・紅蓮精体
紅蓮術レベル5 (あなたがこれを唱えたとき、あなたの紅蓮術レベルが5未満であるなら、このターンの終了ステップ開始時、これを生贄に捧げる。あなたの紅蓮術レベルはあなたがコントロールする赤のウィザードのうち、パワーの最大値である)
トランプル 速攻
超音速ライトニングがプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、あなたはその点数に等しい数の「あなたのコントロールする戦闘ダメージではない発生源が割り振るダメージは1点多くなる」という紋章を得る。
6/1
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いま、おれの戦場には、「歴戦の紅蓮術師、チャンドラ」がいる。
紅蓮術レベルはすでに5に達している。
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歴戦の紅蓮術師、チャンドラ (1)(R)(R)
伝説のクリーチャー - 人間・ウィザード
あなたの紅蓮術レベルが11以上である限り、あなたは赤単色である呪文を、そのマナコストを支払うことなく唱えてもよい。
あなたの終了ステップ開始時、あなたのコントロールするエレメンタル1体と対戦相手または対戦相手のコントロールするクリーチャー1体を対象とする。前者は自身のパワーに等しい値のダメージを後者に与える。
(1)(R)(R):エレメンタル1体を対象とする。ターン終了時まで、歴戦の紅蓮術師、チャンドラと対象のエレメンタルは+3/+0の修正を受けると共に先制攻撃を得る。この方法で先制攻撃を得たクリーチャーが複数の先制攻撃を持つなら、さらにそれは二段攻撃を持つ。
5/2
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「チェックメイトだ。覚悟するがいい、ダレッティよ」
「ぐ……これが超音速の雷、ライトの実力か……」
おれは対戦相手のダレッティを指さした。その指先は赤く燃えている。
おれの名前はライト。あらゆるバーン・スペルを使いこなす紅蓮術師だ。
人はおれを「超音速の雷、ライト」と呼び、恐れている。
いまおれの目の前にダレッティというゴブリンがいる。
こいつは、あらゆるアーティファクトを発明し、その力で多元世界の各地を侵略して回るならず者だ。
おれは正義の紅蓮術師。ダレッティによって住む場所を失った者たちのために、ダレッティにデュエルを申し込んだ。
すべての勝負はアンティだ。
おれが勝てば、ダレッティが支配地にしていたミラディンの都市を奪い返すことができる。
逆に、おれが負ければ、おれの故郷である「地球」のミシシッピ川一帯がダレッティの手に収まることになる。
この勝負、負けるわけにはいかない。
ダレッティも手ごわかった。ここまでアーティファクトを使いこなすプレインズウォーカーがいるとは思わなかった。
だが、正義は必ず勝つ。
正義の雷が悪を討つ。
いま、おれの戦場には「歴戦の紅蓮術師、チャンドラ」がある。
そして、いま引き込んだ「超音速ライトニング」は強力なシナジーである。
この2枚が揃えば、対戦相手を焼き尽くすことができる。
まず、超音速ライトニングがダレッティを攻撃。そして、紅蓮術の火力が上がる紋章を獲得し、チャンドラの力を借りて、エレメンタルを襲撃させれば、合計18点のダメージが入り、ダレッティは敗北する。
「チャンドラ、行くぜ、合わせろ」
「オッケー、ライト。遅れないでね」
おれがそう呼びかけると、チャンドラは紅蓮術の魔力を解放し始めた。
「おれのターンのメインフェイズ。おれは超音速ライトニングを召喚」
ダレッティの土地はすべてタップされている。妨害する手段はない。
おれは華麗に腕を振ると、巨大な火炎の球を生み出した。チャンドラの魔力で、こいつは永続化してくれる。最も、いまはその必要もないがな。このまま攻撃すればターン終了時には勝利が決定する。
「おれのターンの戦闘。超音速のライトニングで攻撃」
「ぐおおおおおお」
エレメンタルの攻撃を受けて、ダレッティは火だるまになった。そして、おれの手には6つの焔の紋章が握られた。火力は最高潮だ。
だが、これで終わりではない。
続いて、チャンドラが前に出た。
「これで決まりよ」
おれの終了ステップ。チャンドラの効果により、超音速のエレメンタルが追加攻撃を行う。紋章の効果で12点火力。かの「ウルザの激怒」よりもさらに熱い一撃だぜ。
「ま、まいった」
ダレッティはその攻撃を受けて、すべての魔力を失った。
「おれの勝ちだ」
「ぐ……地球次元のプレインズウォーカーがこれほどの力を持っているとは……おれの持っているカードとは明らかにカードパワーが違う。いったい誰がカードをデザインしていると……この流れ、我らが神、リチャード・ガーフィールドとは違う……」
「約束通り、貴様が奪ったミラディンの都市は返してもらうぞ」
「仕方ない。ここは一旦引こう。だが、忘れるな、ライトよ。いま、大いなる神が降臨しようとしている。やがて、神の怒りにより、貴様の肉体は焼き尽くされよう……せいぜい今の間に喜びに浸っているがいい。くくくくくく」
ダレッティはその場所で、その姿を消滅させた。
おれの活躍でミラディンは守られたのだ。
覚えて奥がいい。おれこそが超音速の雷、ライト。
正義の雷であり、おれが降臨するとき、この世の悪に正義の雷が下される。
◇◇◇
「ライト、ライト、ライト!」
誰かがおれを呼んでいる。
悪いが、あとにしてくれるか。おれはいま世界を救うための活動をしているんだ。おれの力だけが世界の希望なんだ。
「ライト!」
だが、おれの正義の活動は強制中断させられた。
「このドアホ! 朝っぱらからゲームばっかりして、いま何時だと思ってんだい!」
「ああ? 今日は土曜日だろ。休みの日ぐらいゆっくりさせろよ」
「ドアホ! 今日は模試があるんだろ。さっさと準備して行け」
目の前にいるむさくるしいおばさんはおれの母親だ。
「あと半年で受験だってのに、あんたそんなんでマーチに受かると思ってんのかい?」
「もうあきらめたよ。Fランでいい、Fランで。定員割れで金さえ払えば入れるよ」
「ドアホ、いったいあたしらがどんだけ金かけたと思ってんだ。この親不孝バカが」
朝から、母親はおれを怒鳴り散らした。
言いたいことはわかるさ。
小中高と塾に通わせ、相当な金をつぎ込んできた。参考書も問題集もそろって、立派な勉強机も用意した。
だから、自慢の息子には、いい大学に入ってほしい。そういうことなのだろう。
それだけしてもらえば、おれとしては頭が上がらん。
だが、1つだけ言わせてくれ。
おれの人生は親が決めんのかよ!
親のために、おれは大学に行って、立派?な社会人になるのかよ!
おれは何なんだ?
おれは何のために生かされてるんだ?
なんて……。
言ったところで何も始まらない。わかってるさ、別に現実逃避してたわけじゃない。
だが、おれだって頑張ったんだ。中学生までは、成績上位だった。
だが、高校生になって才能の差が出た。
場合の数がどうしても理解できない。どれだけ参考書を読んでも理解できない。
応用問題が解けない。少し手を加えられたら頭が真っ白になる。
英語の長文が読めない。気が付くと、いつも時間が足りなくて答えられない。
分かろうとした。頑張った。でもどうしてもダメだった。何度も涙を流した。
やがて、勉強が嫌になった。机に向かうのもトラウマになった。
それでも、世間はこう言うのか?
自己責任、努力が足りない、甘えるな。
なんて残酷なんだ。これが科学技術の粋を費やして作った現代社会の掟なのか?
あまりに旧時代的過ぎる。根性と努力ですべてが解決するなら、とっくに一億層東大卒なんだよ。
なんで誰もわかってくれないのだろう。
誰もわかってくれない。親も先生も。おれが怠けているみたいに言う。
くそ、こんな世界、さっさとプレインズウォークしちまいたい。
絶望に瀕したおれが出会った最高のゲームの話だ。
マジック・ザ・ギャザリング。
何もかも嫌になったおれが出会ったこのゲームがおれの人生を変えてくれた。
おれはこのゲームのおかげで、「底辺のクズ」から「超音速の雷、ライト」になったんだ。
おれは早起きしてマジック・レジェンダリー・オンラインのストーリーモードをプレイしていたんだ。
ミラディンを制圧したダレッティからミラディンを救うために。
それが悪いことか?
ゲームに夢中になって、勉強しないことが悪いことなのか?
バイト代を全部つぎ込んで、強力カードをそろえることが悪いことなのか?
いいさ。誰がなんと言おうと、おれは決めたんだ。
雷になると。
おれの名は稲妻ライト。またの名を「超音速の雷、ライト」
ただの冴えない高校3年生。しかし、もう1つの姿は「正義の雷の審判者」