おれはニコル・ボーラスから地球を守った救世主。
人はおれのことをこう呼ぶ。
超音速の雷、ライト。
おれはヒーロー。頼れる英雄。
……夢の中ではな。
おれは目を覚ました。
近くから都会の喧騒が聞こえてくる。
先ほどまでは、あちこちで爆発音が響いていた気がしたが、いたって平和だ。
本当に平和だ。
それに心地よい。
いいにおいがする。
頭が何か柔らかいものに覆われているようだ。
ここはどこだろう?
おれははっきりと目を開けた。
何かが飛び込んできた。
やけに美少女。こんな美少女をおれは知らないぞ。おれがこんな間近でこんな美少女を見られるわけないだろ。
そうか……。これは夢か。
夢の中でまた夢を見たようだな。おれの現実はどこへ行ってしまったんだろう?
「稲妻君、おはよう」
目の前でほほ笑んでいるのは、月渡か……そういや、彼女とは神聖泉駅前で会う予定だったっけ。
その途中のバスの中で、おれは夢を見たんだっけな。
ニコル・ボーラスが出てきて、リチャードとか名乗る聖トラフトが出てきて、おれがプレインズウォーカーになって。
変な夢だったな。でもいい夢だった気がするな。
それでその後、どうなったんだっけ?
「大丈夫?」
月渡が優しい笑顔で問いかけてくる。
この夢はこの夢で素晴らしいな。こんな美少女を間近で見られる夢なんだから、めったにお目にかかれないぜ。
「起きれる?」
あれ?
夢か?
なんか現実っぽい気がするのだが……。
これは夢か真か?
たぶん、カード的にはこう……。
ーーーーーーーー
夢か真か (1)(U)
ソーサリー
対戦相手1人を対象とする。
あなたのライブラリーの上から2枚のカードを公開する。
そのプレイヤーはその中からカードを1枚選ぶ。
あなたは選ばれたカードを戦場に出すか、マナコストを支払うことなく唱える。
残りのカードを墓地に置く。
フレーバーテキスト
ニコル・ボーラスをやっつけて英雄になったよ。
目が覚めたら、目の前に可愛い女の子がいたよ。
どっちが夢か真か?
たぶん、夢と夢だ。
ーーーーーーーー
多少ランダム性が強すぎるが、占術や渦巻く知識でトップを操作できればキラーカードになりそうだな。
最悪、土地でもマナ加速だしな。
なんて言ってる場合か。これが夢か真かを確かめなくては。
おれは顔を傾けた。
こ、ここは……月渡の膝の上だ……。
し、しかも半分直だ。推定膝上15センチ以上はくだらないミニスカートのために、おれの頭は直に月渡の体に触れている。
しかも傾けた方向が悪かった。その中に視線が侵入してしまった。
むろん、すぐ閉じたさ。しかし、これは勝手におれの視神経に入り込んだ誤情報だ。
この展開は……そんなもん夢以外の何物でもないだろ。
しかしだ。
目が冴えている。冴えすぎている。
この覚醒はなんだ?
アンタップステップで確認。冴えている。アップキープで確認。冴えている。貿易風ライダーがいれば、おれは無双。夢想で無双する。ははは、なんちゃって。
じゃねえ、そんなことはどうでもいい。
ともかく覚醒だ。覚醒。
おれは体を起こした。
夢か?
いや、現実のようだった。
あたたかな日差しが降り注ぐ、神聖泉前。カップルがたくさん訪れるデート待ち合わせのメッカ。
実際、周囲にはカップルだらけだ。
「あ、あれ、おれどうしてたんだ?」
さっぱりわからず、おれは自分に問いかけた。
「私も実はさっき目を覚ましたばっかりでよくわからなくて。そしたら、稲妻君が私の膝の上で寝ててさ」
月渡はちょっと照れながらそう言った。
「稲妻君は何か覚えてる?」
「いや、おれも何が何だか……」
気が付いたら月渡の膝の上だった。
気が付いたら天国だった並の驚きだった。驚きというか、いきなり女子とこんな間近なシチュエーションでどうしていいかわからない。
誰か、教示者になってくれ。女子との関わり方を教えてくれ。
--------
恋愛の教示者 (2)(G)(G)
ソーサリー
あなたのライブラリーの上から6枚のカードを公開する。
あなたはその中からクリーチャーカードを望む数選んで戦場に出す。
残りのカードは墓地に置く。
フレーバーテキスト
恋愛について、アドバイスしてやろう。
出会ったやつ全員押し倒し。獣もウーズも例外なくだ。
恋愛に関するガラクの教示
ーーーーーーーーー
なんでやねん!
おれはノンクリーチャーデッキ側やろ。押し倒すやつなんて誰もいねえんだよ。
「なんだか不思議だね」
「そ、そうだな」
「あ、でもね、なんか夢を見ていた気がする。たしか……」
月渡は人差し指を口にあてた。な、なんて愛らしい表情なんだろう。
「稲妻君が私のこと守ってくれたみたいな夢だった気がする」
月渡は笑顔でそう言った。
ぐ……心臓が跳ねた。こ、こういうとき、おれはどうすればいいんだ?
「とってもかっこよかった気がするな、夢の中の稲妻君」
「……」
照れる。ひたすら照れるおれ。ついにはうつむいてしまう。
こういうとき女子の顔をジッと見つめることのできる野郎はどういう神経してんだ?
「よいしょっと。喉乾いたし、喫茶店でも行こっか」
「お、おう」
こ、これはデートというやつなのか?
◇◇◇
おれも先ほどの夢をちょっと覚えている。
たしか、おれがプレインズウォーカーになってニコル・ボーラスに操られたやつと戦うとかそういう夢だったよな。
そうそう、ちょうどおれの目の前に見えるビルが炎上していて。
リアルな夢を見てたんだなと思う。いまでは、火災なんてどこにも起きていない。東京は平和だった。
平和か……。
いいことだよな。でもなぁ……。
平和な世界、おれが無能でゴミな世界線でもある。
喫茶店か。こんなところ入ったこともない。ましてや女子と二人きりだなんて。
うれしいとかより、どう過ごせばいいのかと不安になるばかりだ。
「稲妻君、ここに座ろ」
「……」
椅子が2つしかない。しかも向かい合っている。
女子と向かい合うとか、リア充レベル7ぐらいの関門じゃねえかよ。
しかし、椅子がそこにしかないので座るしかない。
「私がおごるよ。好きなの注文していいよ」
あれ?
こういうときって、男が支払うのが当然みたいな、男女差別の権化みたいな鉄則があるんじゃなかったっけ?
ランクの高い女子になると、そんな鉄則も消滅するということか。
ここはそのまま好意を受け取っておいたほうがいいのだろうか。
「あ、ありがとう、悪いな」
「いいよいいよ」
メニューをタブレットから注文か。
ドリンクなんて、コーラとウーロン茶ぐらいしか知らないおれには、よくわからないやつばかりだ。
なんだこの「ロイヤルミルクティー」ってのは。
いいや、これにしとけ。
「私も稲妻君と同じのにしよっと」
ふう、落ちつかねえな。女子と二人きりなんてそわそわするばかりだ。
ところで、おれたちは何でここに来ていたんだっけ?
そうか、思い出した。
おれの写真を撮るとか何とか。
なんか話題を提示して、空気を変えよう。おれにはアドリブ力の問われる空気は耐えられねえ。
「写真を撮るって話だったよな?」
「あーうん、そのつもりで一応デジカメ持ってきたんだけど」
月渡はバッグからデジカメを取り出した。
「これ、お父さんのなんだけど、まだ使い方がよくわからなくって。ちょっと試しにとってみていい?」
「あ、ああ」
月渡はデジカメを構えた。
「表情が硬いよ。ほら、笑って」
笑うなんて、おれにとってはリア充レベル8の長難問なんだが。
人呼んで、不笑のライト。笑ったその日には、にやにや笑いのトーテム像認定だ。
って、いつもマジックのことばかり考えてしまうな、いかんいかん。
「撮れたかな」
月渡はデジカメを覗いて確認した。
「あ、撮れてる。でも、ちょっと硬いかな」
「いや、それでいいよ、もう」
「ダメだよ。だって、私はもっと素敵な稲妻君を知ってるもの。これは夢の中の稲妻君じゃないよ」
勝手に夢の世界の住民を持ちださないでくれ。夢の中のおれはすでにアショクによって引き裂かれたんだ。
「最高に輝いてる稲妻君と稲妻君の最高の仲間たち。テーマは2つあるんだけど、最高に輝いてる稲妻君は夢の中の稲妻君で決定。それを撮りたいな。どうしたらいいかな?」
無理難題言いやがって。輝くおれなんて存在しないんだよ。
「それは後で考えるとして、稲妻君の最高の仲間たちだね。私が稲妻君の仲間になるよ。あとは稲妻君の親友って誰かいる?」
「いや、おれは……友達とかいねえし」
友達いない。おれの中では当たり前のことだが、たぶんリア充レベルだとマイナス30ぐらいになるのだろう。
しかし、月渡は特に変に捉えることはなく、笑顔だった。
「了解。じゃあ、私の親友を紹介するよ。みんなで写真を撮ればいいよ」
そう言って、月渡はスマホを取り出して、仲間を呼び出そうとした。
月渡の友達……それはつまり女子だよな。
女子に囲まれた中でおれは写真を撮るのか?
そんなんリア充レベル81以上じゃねえか。