ぼくらのマジック・ザ・ギャザリング   作:やまもとやま

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11、世界を喰らう犬

 月渡の友人AとBと会うことになった。

 

 友人A 緑川梓

 

 才色兼備のクラスのアイドルだ。

 一応、席は隣なのだが、話したことは一度もない。

 いや、英語の授業の時に1度だけあったか。

 

 いずれにしても、おれとは無縁の高嶺の花、遠くの世界に咲いているブラックロータスみたいなもんだ。

 そんなブラックロータスとこれから会おうというのだから、さぞうらやましいと思うことだろう。

 だが、あくまでも月渡の友人Aとして会うだけの話だ。おれの好きなようにマナを出してあれこれできるわけではない。

 

 友人B 呪山翔躯(のろいしょうく)

 

 見たことも聞いたこともないが、月渡の部活の後輩らしい。月渡は吹奏楽部だ。

 聞いただけで怪しい名前だ。終末を招きそうな感じがぷんぷんする。

 

 月渡がラインのメッセージを送ると、2時間後に緑川とショークー……いや、違う、呪山翔躯がやってくることになった。もうショークーでいいだろ。

 

 二人が到着するまでの2時間、何をしていたかって?

 

 ただひたすら、月渡と会話をしていた。とてつもなくぎきちない会話をな。

 幸い、緑川が一方的に話題を作ってくれたから、おれは慣れないながらも、2000字ぐらいの文章は話すことができた。

 

 アインシュタインいわく、女子と過ごす時間はストーブの上の数分より短いということだったが、2時間は十分に長く感じられた。時間の伸長をミラーリでコピーしたぐらいの長さだった。

 

「梓ちゃん、到着したって。じゃあ、行こうか」

「あ、ああ」

 

 ようやく、緑川が到着したらしいので、店を出ることにした。

 

「お、おれが払おうか?」

「いいよいいよ、私が払うから」

 

 勘定は月渡に任せることにした。

 

「梓ちゃんね、犬を3匹飼ってるんだよ。一緒に来てるって」

「そうか」

「稲妻君は猫飼ってるって話だったよね。稲妻君は猫派? 私はどっちも好きだけど」

「ま、まあ、一応、猫のほうがいいかな……」

 

 おれは昔から猫派だった。いや、別に特別なこだわりがあるわけではないが。別に犬が嫌いというわけではない。

 

 喫茶店を出て、待ち合わせ場所へ向かった。

 神聖泉前駅を西口のほうに出ると、大きな公園が連なっている通りに出る。あのあたりは犬の散歩道のメッカで、車より犬の遠吠えで騒がしいと言われている。

 緑川はこの近くに住んでいるらしく、よく犬の散歩に来るのだという。

 

「このあたりかな……どこかな?」

 

 西口を降りて、公園の通りを歩きながら、緑川の行方を捜した。

 当初の想定通り、あちこち犬が多かった。

 

 最近は室内でも飼える小型犬がブームなようだ。やたらと小さな犬が鎖につながれて歩いていた。

 

 野生の雑種犬みたいな犬はいないな。おれの犬のボキャブラリーはそれぐらいしかない。そういえば、マジックはめぼしい犬がいない。猫もネズミもそれなりなのだが。

 

 そんなことを言っていると、背後から大きな犬の吠える声がした。

 振り返り見ると……。

 

 鎖を解かれし犬が一匹、おれに向かって猛進してくるのが見えた。

 

 こんな平和なご時世だから、誰かに襲撃されるなんて心構えはない。だから、おれはすぐには反応できず、立ち尽くしていた。

 

 ゆえ、おれは向かってきた犬の無謀なる突進をもろに受けることになった。

 

「うげっ……」

 

 というしかない。

 犬は二段攻撃を持っていたのか、おれの腹にずつきを入れたあと、その獰猛な牙で右手をガブリ。

 

 悲鳴。とりあえず、悲鳴を上げる。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 悲鳴 (R)

 

 ソーサリー

 

 クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+2/-2の修正を受ける。

 マッドネス (0)

 フラッシュバック (2)(R)

 

「わあああああああああ」

「きゃああああああああ」

「しぇええええええええ」

「びゃああああああああ」

 

 ――人間の悲鳴一覧

 

ーーーーーーーーーーー

 

 マナクリの除去を見ながら、自軍のクリーチャーの強化もできる。

 ゴブリンの鎖回しなんかと一緒に使いたいな。

 

 なんて言っている場合か!

 

 痛い。痛いんだよ。びゃああああああ!

 おれはフラッシュバックコストを支払うことなく、もう一度悲鳴を心に唱えた。

 

「こら、ポルクラノス! ダメじゃないの!」

 

 少女が張りのいい声を上げて、おれを襲撃していた犬を抱え上げた。

 

「勝手に走ってっちゃダメって言ってるでしょうが。なんでいつも言うことを聞かないのよ」

「ばうわう! ばうわう!」

 

 少女は犬を抱え上げると、おとなしくしようと手足をロックした。少女の腰にはさらに2匹の犬が鎖でつながれていた。

 おれは手を押さえながら、その2匹の犬を視界に収めた。

 

 狂暴な表情でおれをにらみつけていた。

 く、なんなんだ、この犬は。こんな狂暴な犬を、おれは知らないぞ。

 

「だ、大丈夫、稲妻君?」

「あ、ああ、何でもないよ」

 

 月渡の手前、おれは強がったが、まだ痛い。腹も手もまだ痛みを放っていた。

 少なくともパワー4以上のクリーチャーに殴られた気分だ。犬のパワーじゃねえぞ。いや、ひょっとしてこれが暴勇するまで、手札を捨てた雑種犬の一撃か。

 

「どうしたの、ポルちゃん。そんなに興奮しちゃって」

「さっきまでおとなしかったのになんでかしら。こら、ポルクラノス、おとなしくしなさい」

 

 犬を連れて来たのは月渡の友人Aである緑川だった。

 緑川は髪をポニーテールで結んで、快活な格好をしていた。月渡より一回りスリムでスポーツ少女らしさが際立っていた。

 

 しかし、いまはそんな姿をゆっくり鑑賞している場合じゃない。痛い、誰か治療の軟膏を。

 

 くだらないことはやめて、おれは立ち上がった。

 まさか犬に襲撃される日が来るとは思わなかった。ある日、森の中で熊さんに出会うよりはマシか。

 

「稲妻君、本当に大丈夫?」

「ああ」

「えっとね、あの子がポルクラノス。私はポルちゃんって呼んでるけど」

「ポ、ポルクラノスだと……?」

 

 おれは先ほどおれを襲撃した犬を見つめた。

 

 なるほど、ポルクラノスそのままの獰猛さを放っていた。

 先ほど、おれはポルクラノスの攻撃を受けたわけか。どうりでパワーが犬離れしていると思った。

 

「あの子がポルクラノスのポルちゃんで、こっちの中央の子がガーゴスのガーちゃんで、一番右がウラシュトのウラランだよ。みんな女の子だよ」

「ハイドラマニアかよ!」

 

 ポルクラノスにガーゴスにウラシュト?

 まさか、こんなハイドラ狂暴三姉妹がおれの前に現れる日が来るとは思っていなかった。現実は小説より奇なりとはこのことか。

 

 しかし、こんな名前をつけているということは、ひょっとして緑川はマジックを知っているのか。

 

「か、変わった名前だな」

「梓ちゃんのお父さんがドッグトレーナーで、名前もたしかお父さんがつけてるんだっけ?」

「うん」

 

 ということは、緑川のお父さんがマジックオタクか。マジックオタクでなければ、そんな名前をつけるわけがないからな。おれも飼い猫にニヴとつけてるんだから、マジックオタクは人一倍洗脳されやすいのかもしれない。

 リアルに飼い猫にアタルカと名付けたやつもいるらしいな。

 

 しかし……。

 見れば見るほど、ポルクラノスはポルクラノスにしか見えなくなってきた。

 ガーゴスもガーゴスにしか見えねえ。

 ウラシュトも以下同文だ。

 

 そして、先ほどおれを襲撃したのが鎖を解かれしポルクラノスだったわけか。

 

 まさか、現実にポルクラノスの攻撃を受ける日が来るとは思わなかった。

 記念にカード化しておくか。

 

ーーーーーーーーーー

 

 緑川のペット、ポルクラノス (X)(2)(G)(G)

 

 伝説のクリーチャー - 犬

 

 緑川のペット、ポルクラノスを唱えるに際し、あなたのライフ1点でこれのコストの (X)部分を支払ってもよい。

 緑川のペット、ポルクラノスはその上に+1/+1カウンターがX個置かれた状態で戦場に出る。

 あなたのコントロールするクリーチャーが1体攻撃するたび、それは怪物化Xを行う。

 このXは緑川のペット、ポルクラノスの上に置かれている+1/+1カウンターの総数に等しい。

 緑川のペット、ポルクラノスが怪物的になったとき、あなたはカードをX以下の好きな枚数引き、手札からクリーチャーカード最大X枚を戦場に出す。

 このXはあなたのコントロールするクリーチャーのパワーの最大値に等しい。

 

       5/5

 

 フレーバーテキスト

 

 犬は可愛がるものじゃないわ!

 狩りの相棒よ!

 

 ――迷える捕食者、梓

 

ーーーーーーーーーー

 

 チャネル内臓のハイドラまで登場したか。こいつは手ごわそうだ。こんなカードが4枚入ったデッキは相手にしたくないな。

 

「ところで、いきなり呼び出して何の用?」

 

 緑川はしゃがみこんでポルクラノスを抑え込みながら、月渡のほうを見上げた。それから、その視線はおれのほうに向けられた。

 月渡がおれと二人でいるのを意外そうに見ている様子だった。たぶん、緑川はおれのことなんて認知もしていないだろうが。

 

「ふふふ、それはいい質問」

 

 月渡はそう言っていたずらっぽく笑うと、突如おれの腕に抱き着いてきた。

 

 は?

 おい、なんだ急に。

 

 おれは思わずたじろいだ。

 

「稲妻君とデート中なの。どう、うらやましい?」

 

 はあ? なんだと?

 

 何を言い出すかと思ったら、月渡はとんでもない爆弾発言をした。

 

 いや、本人は冗談のつもりか。緑川にリア充を見せつけるための冗談のつもりか。

 

 だが待て。おれはそんなシナリオ聞いてないぞ。勝手におれを巻き込むな。

 

 緑川は本気だと思ったらしく、ものすごく意外そうな顔で目の前の偽りのカップルを見ていた。

 

「え、ほんとに?」

 

 緑川は立ち上がって真面目に尋ねて来た。相当、意外だったのだろう。そりゃそうか、親友が突然彼氏を紹介し、しかもその紹介された彼氏役のおれが、勉強ダメ、スポーツダメ、顔ダメの三ダメ男だったんだから、娘を想う頑固おやじなら、日本刀の1つでも持ってきそうな局面だ。

 

「うん。ねー、稲妻君」

「い、いや……」

 

 いや、どうすんだよ、この空気感。

 しかもポルクラノスに続いて、ガーゴスまで吠え始めたぞ。このハイドラ三姉妹は少なくとも、おれを良く思っていないみたいだ。

 

 たぶん、月渡には良くなついていて、その月渡が変な男を連れていたから、報復しようとしているのだろう。

 

 弁明させてくれ。

 誤解だ。おれはただ卒業アルバムの件で月渡と会っていただけだ。業務上の共闘に過ぎない。

 

 しかし、戦闘フェイズ以外に興味なさそうなポルクラノスもガーゴスもまったく理解してくれそうもない。

 

 濃霧だ。いまは濃霧が必要だ。

 この戦闘フェイズを生き残らなければ、この先の未来はない。

 

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