ぼくらのマジック・ザ・ギャザリング   作:やまもとやま

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13、威光の月渡り

 家に到着。

 疲労感がドッと出た。

 今日は色々なことがあった。

 

 色々なことか……。

 

 ん?

 色々なことと言ったが、思い返してみると、月渡の友達と呪いの写真を取っただけだな。

 おかしいな、もっと世界の平和を守るぐらい色々なことをしたような気がするのだが、まあいいか。

 

 そんなことよりマジックだ。おれはマジックの世界に生きるプレインズウォーカーなんだ。

 

 おれは帰るなり、自室に向かった。その前に、ちらっとだけ、キッチンを覗いてみる。

 今日の夕食はさしずめ豚汁と言ったところか。

 雑然とテーブルに置かれている具材から推測できる。

 

「にゃーにゃー」

 

 キッチンのほうから魚をくわえたニヴがやってきた。

 

「また泥棒したな?」

「にゃー」

 

 おれはニヴを抱え上げると、階段に足を踏み出した。

 ふう、足が重い。このそこはかとなく感じる疲労は慣れないことをしたせいだろう。

 

 女子とお茶したり、女子と写真撮ったり、ポルクラノスに噛まれたり、あの後ガーゴスにも引き裂かれたしな。

 おれとは無縁の世界での出来事・ソーサリーだった。それだけに、精神的な疲労を感じてしまった。

 

 しかし、自室にやってくると、ここからはおれの世界だ。

 

「ようやくおれの世界が始まるな」

 

 おれは勇ましくマジックの世界に通じるゲートの前にやってきた。

 パソコンのスイッチを押せば、おれはプレインズウォーカー。

 

 今日はどこへ行こうか?

 

 カラデシュ、ドミナリア、ラース、ファイレクシア。

 どこだっていい。おれは超音速の稲妻、気の向くままさ。

 

 だが……。

 

「ふざけんな!」

「にゃー?」

 

 ニヴが首をかしげる隣で、おれは思わず絶叫した。

 

 ウィザーズ社からのお知らせ

 

 ただいま、マジック・レジェンダリー・オンラインは接続が不安定な状況となっています。

 エンジニアチームが総出で復旧を試みていますが、回線が安定する目途が立っておりません。

 

 誠に勝手ながら、いましばらく、マジック・レジェンダリー・オンラインのサービスを停止することにしました。

 大変ご迷惑をおかけすることになり申し訳ありません。

 

「ざけんなざけんなざけんな、エンジニアを社長室送りにしろー! マジックはおれの命だぞ。わかってんのか?」

 

 いいか、聞け。

 マジックが停止するということは、停電だの断水だのとはわけが違う。おれの心臓の停止と同じ意味だ。

 こんなことは許されない。

 

 こうなったら、エンジニアどもをおれが直々に社長室に送ってやる。

 

ーーーーーーーーー

 

 社長室送り (1)(B)

 

 ソーサリー

 

 各対戦相手はそれぞれクリーチャーを1体生贄に捧げる。

 この方法でいずれのプレイヤーもパワー3以上のクリーチャーを生贄に捧げなかったのなら、社長室送りをオーナーの手札に戻す。

 

 フレーバーテキスト

 

 社長室に送られるタイミング

 

 1、美術館が閉鎖されたとき

 2、壺を割ってしまったとき

 3、守護フェリダーを社内に持ち込んだとき

 4、トップデッキがオムナスだったとき

 

ーーーーーーーー

 

 100年反省せよ。

 

 ……などと言ったところで、回線が回復するわけではない。

 だが、おれの落胆はぬぐえない。もうダメだ。おれの手札は0枚。おれの精神力は置物に成り下がってしまった。

 デッキトップも受験勉強とわかっているから、もう投了する。

 

 しかし、なんで回線がぶっ壊れてしまったんだ?

 どっかのハッカーの仕業か?

 そんなけしからんハッカーにはウルザの激怒を4連発で撃ち込んでやる。

 

 おれは仕方なくツイッターでマジックオタクたちのつぶやきを確認した。

 

「やっぱダメだ。何度やってもつながらない。2万円つぎ込んで新セットのカード買ったのに、ウィザーズは弁償しろ」

「おれも神々のワームを5500円で買ったばかりなのに。ふざけるな」

 

 おれと同じマジックオタクたちが色々と文句を言っていた。

 

「ニコルボーラスが目覚めたからだ。もう世界はおしまいだ。地球は暴君の闇に包まれてしまうんだ」

 

 おかしなことをつぶやいているマジック廃人もいるな。

 仕方のないことだ。マジックが封じられれば、誰だって頭もおかしくなるもんだ。おれもいまは暴勇状態だ。

 

「にゃー」

「ニヴ、悪いが今日は一人で遊んでくれ。おれはもう寝る」

 

 マジックのない世界など価値はない。おれは寝ることにした。

 と、そのとき、おれのスマホが鳴った。

 

 おいおい、おれを呼びだす輩は誰だ?

 おれの番号を知っているのなんて家族以外誰もいないはずだが?

 

 いや、いた。

 今日手に入れた月渡羽陽の電話番号。それがおれのスマホの画面に表示されていた。

 

 あの後、おれは月渡の番号を手に入れたんだ。

 いやいやいや、深い意味はないと思うぞ。

 月渡のフレンドリーな性格の延長線上で手に入れたに過ぎない。

 

 その月渡から電話。

 ぐ……まさかかかってくるとは思わなかった。

 

 おれは緊張気味に電話に出た。

 

「も、もしもし」

「ごめん、いま忙しかった?」

「い、いや」

 

 おれはベッドの片隅に静かに座り込んだ。

 

「無事に帰れたかなと思って。無事みたいで良かったよ。今日はどうだった?」

「いや、えっと。まあ」

 

 しゃべれねえ。女子との会話なんて、ウルザの激怒キッカー込みで唱えた回数の小数点切り下げ10分の1よりも経験がないんだ。

 

「私はすごく楽しかったな。男の子と時間を過ごすなんて、私たぶんこれが初めてだったからさ。ごめんね、あんまり気を利かせてあげられなくて」

「い、いや」

 

 おれが初めてだと?

 たしかに月渡は純情な女の子とは思っていたが。

 

「だからまたリベンジさせて。今度は全力で稲妻君の彼女を務めてみせるから」

「え?」

「私はこれから塾があるから。また後でね」

「……」

 

 あれ、さっき月渡はなんて言った?

 まあいいか。

 

 ◇◇◇

 

 おれはちょっと変わった性格でな、気分が落ちているときのほうがよく眠れるタイプだ。

 しばらく、マジックができなくなったから、おれはすべて忘れて眠ることにした。

 

 それから何があったのだろう。

 おれは夜の中を歩いていた。

 

「ここはどこだ?」

 

 足を止めて、周りを見渡した。明かりの1つもない寂れた郊外。

 半分廃墟と化したような色気のない世界だった。

 

 見上げると、空には蒼ざめた月が浮かんでいた。

 

「いい月でしょう。ひっひっひ」

 

 背後から卑しい笑いを受けて、おれは振り返った。

 そこにはフードで顔を包んだ背の低い誰かが立っていた。

 

「いい月でしょう? あれはアテムシスの眼ですよ」

「アテムシス?」

「お伝えしましょう。感じてみなさい」

 

ーーーーーーー

 

 アテムシスの眼 (U)

 

 エンチャント

 

 対戦相手のコントロールする基本でない土地がタップ状態になるたび、それはすべてのタイプと効果を失い、基本の荒地になる。

 アテムシスの眼を生贄に捧げる:あなたは手札を公開する。ターン終了時まで、あなたの手札にある公開されているカードは「威光の月渡り、アテムシス」というカードの裏モードを持つ。

 

 威光の月渡り、アテムシス (2)(U)(U)

 

 伝説のクリーチャー - スフィンクス・ムーンフォーク

 

 飛行

 あなたが公開している手札のカードのマナコストの合計が15以上である限り、あなたは呪文をマナコストを支払うことなく唱えてもよい。

 

    6/6

 

 フレーバーテキスト

 

 我の魂を持つ美しき姫はいまあなたのもとへ渡ったのです。

 あなたは姫を守る使命に目覚めたのです。

 どうか、姫を邪悪なる暴君の魔の手よりお守りください。

 

 威光の月渡り、アテムシス

 

ーーーーーーーー

 

「強い……」

「さよう、とても強い力。しかし、とても儚い力でもある」

「儚いか……たしかにうまく使いこなすことができるかと言われれば難しそうな気はする」

「あなたはどう扱いますか? この力」

「ドラコやエムラクールのようなカードがあれば、全知と同じ」

「全知……それがあなたが追い求める力ですか?」

 

 おれは男の問いかけにただ答え続けていた。

 

「全知……全マジックプレイヤーの夢、いや人間なら誰だって夢見ることだろ」

「力がほしいのですか?」

「当たり前だ。誰だって力がほしいよ。おれは力がなかったから、今も隅っこを歩いているんだから」

「力だけならば、他にもあるでしょう。例えば、この力を」

 

 男がそう言うと、男の右手が邪悪に輝いた。

 すると、おれの脳裏に先ほどと同じように情報が流れ込んできた。

 

ーーーーーーーーー

 

 暴君の再燃 (U)(B)(R)

 

 エンチャント

 

 対戦相手が呪文を唱えるためのコストは(1)と「手札を1枚捨てる」と「ライフを3点支払う」だけ多くなる。

 対戦相手のコントロールするクリーチャーは-1/-0の修正を受ける。

 暴君の再燃を生贄に捧げる:あなたの墓地にあるカード1枚を対象とする。それをオーナーの手札に戻す。ターン終了時まで、そのカードは「新世界の暴君、ニコル・ボーラス」の裏モードを持つ。

 

 新世界の暴君、ニコル・ボーラス (1)(U)(B)(R)

 

 伝説のクリーチャー - ドラゴン・邪術師

 

 飛行 威迫

 各対戦相手の追加ターンではないターンのアップキープ開始時、そのプレイヤーは手札をすべて捨て、追加の1ターンを得る。

 あなたが「新世界の暴君、ニコル・ボーラス」を唱えたとき、あなたは「いずれかの対戦相手の追加ターンである限り、あなたはそのプレイヤーをコントロールする」という紋章を得る。

 

     7/7

 

 フレーバーテキスト

 

 我は全世界の嘆き、苦しみ、哀しみによって目覚めるのだ。

 ちょうど、我を封じた者たちが掲げた希望とやらがもたらした正当な結果によってだ。

 喜ぶがよい。

 真に希望に満ちた世界がどのような世界であるか、百聞は一見に如かず、我が見せてやろうというのだ。

 

 新世界の暴君、ニコル・ボーラス

 

ーーーーーーーーーーー

 

「……」

「どうしたのです? あなたが望んでいる強い力ではありませんか?」

「違う……」

「お気に召さなかったですか?」

「いや、力はたしかに感じるが、おれの好きな力じゃない。おれが望んだ力ではない」

「そうですか。どこがお気に召さなかったですか? あなたの望むとおりに世界を変える力ではないですか」

「おれはの理想は……」

 

 理想……おれが望む理想の世界ってなんだろうか?

 お金持ちになること? イケメンになること? スポーツ万能?

 

 それとも……。

 そのとき、ふとおれの脳裏によぎったのは、月渡の笑顔、そして今日撮った1枚の写真だった。

 それがおれの望んだ理想の世界なのだろうか。

 

「ひっひっひ、あなたのことはよくわかりました。あなたに託すことにしましょう」

 

 男はそう言うと、フードの中から怪しくも鋭く光る眼を見せた。

 

「私はマロー」

「マロー?」

「またお会いしましょう。あなたのその灯が世界に希望の灯を灯してくれることを願っていますよ。地球はすごい。本当にすごいんだ。忘れないでください」

 

 マローはその場で忽然と姿を消してしまった。

 

ーーーーーーーーーーー

 

「稲妻の覚醒編」終わり。

 現在「捕食者の覚醒編」の執筆が始まっています。

 開始までしばらくお待ちください。

 

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