ぼくらのマジック・ザ・ギャザリング   作:やまもとやま

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2、ライトとその仲間たち

 仕方なく、おれはゲームの電源を切った。

 

「ちぇっ、いいところだったのに。あの後、ミラディンの王女様から祝福してもらえる予定だったのに」

 

 名残惜しかったが、電車の時間が間に合わないので、おれはパソコンを閉じた。

 

「にゃーにゃーにゃー」

 

 忙しく支度をしているおれの足元でもぞもぞと何かが動いている。

 おれは足元に動いていた塊を抱き抱えた。

 

「ニヴ、邪魔をするな。食事は一日一回だろ」

「にゃーにゃーにゃー」

 

 この猫はニヴ=ミゼットだ。少し前からうちで飼い始めた。

 

 おれが通っている高校のお節介で、保健所の猫の世話をする委員会というものがあって、おれはたまたまその委員に選ばれてしまった。乗り気ではなかったが、くじ引きで決まったから仕方がないことだ。

 で、その世話の途中で、やたらとおれになつく猫がいた。その猫は保健所を脱獄して授業中のおれに会いに来るほどだった。

 

 そこで、親と相談して、保健所から引き取ることが決まった。うちの両親は共に猫好きだったから即決だった。

 で、おれの家に住み始めたわけだが、名前は「ニヴ=ミゼット」とした。

 おれの大好きなゲームのキャラクター名をつけたのだが、その猫の顔つきがどことなく、そのキャラクターに似ていたので、しっくり来た。

 通称「ニヴ」として、家族から愛されるようになった。

 

 そんなニヴは特におれに懐いており、放っておくと学校までついてくる勢いだ。

 おれは母親にニヴを預けると、家を出た。

 

「模試か……嫌だな」

 

 模試。誰が開発したんだか。こんなものは受験の勝ち組のマウントアイテムでしかない。

 おれが受けても、半分は空欄。時間を持て余すだけだ。時間が足りないのではなく、解き方がわからないのだから埋めようがない。

 

 今更、どの大学がどの判定かなんて調べてもしょうがない。それなりの競争率のある大学は全滅。もはや、誰でも入れる大学だけがおれの受け皿だ。

 親はマーチに合格することを期待しているらしいが、もっと我が息子の性能を理解してほしいものだ。

 

 おれはギリギリで最寄り駅から電車に駆け乗った。

 電車は割と込んでいた。休日ということで幸せそうなファミリーがあちこちにいる。

 

 ああいうのを見ていると辛い。

 愛する奥さんがいて、子供がいて。

 

「僕たちは幸せだ。どうだ、見たか」

 

 そんなふうに自慢されているようだ。

 恋人なんて都市伝説でしかないおれにとって、すでに行為を終えた証である子供をひけらかすカップルなど、紛れもない伝説のクリーチャーだ。

 

 恋人か……。

 冷静に考えて、おれがこの世の女性全員に愛の告白をしたら、何人が受け入れてくれるのだろうか。

 むろん、おれは一人の女子に告白する勇気もないがな。

 

 ちょっと気になる女子ぐらいはいる。

 同じ学校に4人ぐらい。

 まあしかし、そんなもの語るだけ無駄だ。腐るほど男がいる中で、おれが選ばれる確率は20面ダイスを振って20が出るような現実的な数字ではない。20が200000000の数字になるんじゃなかろうか。それでも傲慢かもしれないな。

 

 ◇◇◇

 

 無事、学校に到着。

 この平和な日本の平和なご時世で、危険なことなんてない。ニュースでたまに出てくる凶悪犯罪も別世界の出来事のようにしか見えない。おれはこれまで一度もやばいことに巻き込まれたことがない。

 それはいいことなのだろうかね?

 平和だが、なんの刺激もない人生。それがベストだよなんて言うやつもいるけど、ならいつでも入れ替わってやるよと言いたいもんだ。

 

 模試が始まった。まずは数学。

 

 第1問目から手が止まった。

 Σという記号を見たら、そこで試合終了だよ。

 この記号が出てきたら、だいたい解けないということは、おれの経験則でわかっていた。

 

 第2問、第3問もほとんど解けず、第4問の小問1の関数を微分するだけの問題を解いて、数学は終了。

 まだ30分以上時間が余っていた。

 

 おれはちらりと隣の生徒に横眼を向けた。

 

 美少女が黙々と問題を解き続けている。

 

 この女子はいわゆる学園の高嶺の花というやつだ。マーチの壁を超えて、私学の壁を超えて、一橋とかいう立派な大学名を書いているのだから、おれとはもう別の次元に住むやつだ。

 スポーツでも有名で、体育館に盛大に弾幕が張り出されていたよ。

 

「緑川梓(みどりかわあずさ) 水泳部 全国大会出場」

 

 文武両道のエリート。おまけに美少女。なんだよ、この漫画スペックの女は。

 そんなやつがおれの隣にいる。これが漫画なら、何かいいことが起こりそうなものだが、この世界を作った漫画家は才能のかけらもないから、何事もなく2学期まで来てしまった。

 胸が熱くなるような恋愛漫画でなくてもいいから、せめて、ちびまるこちゃんぐらいのほのぼの日常ストーリーぐらいは描いてほしかった。そんなのも描けないやつがコネか何かで連載してるんだから、どうりでこの世が退屈なはずだよ。おれが原作してやりてえ。

 

 数学が終わると、10分の休憩の後、英語が始まる。英語は数学と違って時間いっぱいまで粘れば、そこそこ点数は取れるから退屈しないで済む。

 

 ちなみに、おれには親しい友人がいない。高校3年間の生活もまもなく終わろうというのに、結局一人も友達ができなかった。

 まあ、できない理由は自分でもわかっている。

 

 いわゆるコミュニケーション能力ってやつが欠如してるんだ。

 

 陽気に振舞おうとすると空回り、おとなしくしていると、とっつきにくいと思われ、嫌われたくないから人間関係を避け続けたら、見ろ、立派なぼっち高校生の完成だ。

 別にいいさ。どうせ、くだらない連中とくだらないことをだべっていても、同調圧力に屈して必死に表社会にしがみつく哀れな人間にしかならない。

 

 この世界はなんてつまらないのだろう。

 

「あのう、稲妻君」

 

 ため息をつくと同時に誰かが話しかけて来た。

 声をかけてきた女子はおれのため息を聞いて苦笑した。

 

「そうだよね。数学難しかったもんね。私も全然できなかったよ」

 

 女子はそう言って、おれに気を遣った。

 この女子は月渡羽陽(つきわたりうよう)だ。おれに声をかけた理由はわかっている。

 それでも、おれは尋ねた。

 

「おれに何か?」

「うん、あのね、卒業アルバムに乗せる写真。稲妻君のだけ、2枚不足しているんだよ」

 

 月渡は用件をそう説明した。

 そういうことだ。諸君、期待させて悪かったな。

 女子が好意を持っておれに話しかけてくるはずがない。話しかけてくる場合は、必ず業務上の用件においてだ。

 

 おれの高校はくだらないことをしてくれている。

 卒業アルバムというシステム自体はどこの高校でもあるだろう。

 だが、お節介なことにおれの高校では、「君の日常」「ヒーローな君」「君と仲間たち」「優しい君」とかいうくそみたいなテーマで4枚も写真を載せると言い出した。

 で、君の日常は前回の学活の時間に写真を撮ることになった。

 

 だが、おれは帰宅部だから「ヒーローな君」の写真がないんだ。このコーナーではたいていクラブ活動で頑張るところを、写真部の連中が撮影して、それを使うことになる。

 おれにはヒーローな瞬間がどこにもないというわけだ。

 

 そして、君と仲間たち。これは友人と仲良くしているところを撮るのだが、おれには友達がいないから、ないんだよ。

 

 優しい君は、委員会の活動の1シーンが撮影されて、猫ハーレム状態のおれが写真になった。

 

 で、この真面目な美少女である月渡はおれのために写真を何とか工面しようとしてくれているわけだ。それだけの話だ。

 

「どうすりゃいいんだよ?」

「稲妻君、明日時間はある? 明日さ、稲妻君がヒーローになれそうな場所探そうと思って。それと、私が稲妻君の友達になるから一緒に撮影しようね」

 

 くだらねーとおれは言いたかった。

 うらやましーとか思ったやつは話の本質がわかっていない。

 美少女とツーショットで「君と仲間たち」の写真が撮れるなどというが、そこまでして気を遣って取らされた写真に価値などねえ。アイドルの握手会より名誉無き一シーンだ。

 月渡は真面目な性格で、それでいてい卒業アルバム委員を担当しているから、気を遣っているに過ぎない。

 

「そんなめんどーなことしなくていいよ。適当に撮ってくれ」

「ダメだよ。一生に一度のアルバムなんだよ。かけがえのない人生の一ページになるんだから、粗末にしちゃダメ。ね?」

「……」

 

 お節介なやつだ。

 

「それで、明日予定は?」

「別にねえけど」

「それじゃあ、明日午前中に会える? それとも午後がいい?」

 

 月渡のお節介のせいで、明日の午前中にくだらない写真を撮らされることになった。くそ、めんどくせー。

 

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