ぼくらのマジック・ザ・ギャザリング   作:やまもとやま

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8、扉を開く者

 よくできた夢だと思う。

 自分の意思で自由に動けるのに、目の前には非現実的な世界が広がっている。

 そして、その非現実的な脅威から世界を守るために、MTGで戦えというのだ。

 

 都合のいい夢なら、しばらく楽しませてもらうぜ。

 

「少年、研ぎ澄ませ。己の灯を信じれば、力がみなぎってくるはずだ」

 

 おれの隣で聖トラフトが教えてくれた。この聖トラフトが何者かはわからないが、夢の中の案内役みたいなものだと考えることにした。

 おれは目を閉じて、己の灯を見つめた。

 

 おれは超音速の雷、ライト。

 

 見える。たしかに、灯の中に紅蓮術の数々が。

 そして、おれはそれを使いこなすことができるんだ。この夢の中では……。

 

「よし、ドローだ」

 

 おれは灯の火を高ぶらせた。

 頭の中に7つの力が宿った。

 

 初期手札

 

 山

 山

 稲妻

 雷王の稲妻

 雷落としの赤ウサギ

 超音速ライトニング

 紅蓮術師の秘儀術師

 

 よし、いい手札だ。

 これならいける。

 

「行くぜ、おれのターンだ」

 

 おれの目の前には鈴木と名乗る男がいる。彼はおれに勝負を仕掛けて来た。

 彼が手を上げると、その手に、新緑の光が集まって来た。

 

「まずは森をセット。そして、ラノワールのエルフを召喚だ!」

 

 鈴木がそう宣言すると、彼の背景が突如として森に変化した。

 なんだこれは。最新鋭のVRか?

 MTGもここまで進化したのか。いや、どうせ夢だ。深く考えても仕方ない。

 

 鈴木は続けて、ラノワールのエルフを召喚した。

 突如、おれの目の前に一人のエルフが現れた。

 

ーーーーーーーーー

 

 ラノワールのエルフ (G)

 

 クリーチャー - エルフ

 

 (T). (G)を加える。

 

     1/1

 

 フレーバーテキスト

 

 東京にやってきたはいいが、ビルが立ち並び、人がうごめいている。

 とてもこんなところでは暮らせない。

 森が恋しい。花の香りがほしい。

 そうだ、軽井沢へ行こう。

 

 東京に迷い込んだラノワールのエルフの言葉

 

ーーーーーーーーー

 

 これは旧時代のカードだ。MTGの黎明期に登場した基本的なマナクリーチャー。

 去年でマジックも150周年を迎えたが、ラノワールのエルフは最初のマジック「アルファ」に収録されていたマナクリーチャーだ。

 こんな古典的なカードを使ってくるとはな。

 

「くくくく、次のターンにはマナ加速から強力クリーチャーを召喚するぜ」

 

 鈴木はそう言って手の内を明かしながらほくそえんだ。

 マナクリーチャーからのマナ加速。マジック黎明期からあった緑の強力ムーブだ。

 

 だが、そうはさせない。おれは超音速の雷だ。マナクリーチャーにはめっぽう強い。

 行くぜ!

 

「おれのターン!」

 

 後攻であるおれはドローフェイズを迎えることができる。

 おれの頭の中に現れたのは、「山」だ。

 これはありがたい。3枚目の土地を引き込むこともできた。

 

 だが、まずはあの厄介なラノワールのエルフを除去するのが優先だな。

 

「おれのメインフェイズ、山をセットするぜ」

 

 おれは手を前に出して、頭の中にあった山カードを燃やした。

 心の中で燃え尽きた山はやがておれの周囲にその力が具現化した。

 

 おれの背景が山に変化した。

 

 すげー。これが夢の力か。

 

 まるで魔法使いになった気分だ。そうか、これがプレインズウォーカーになるということなんだな。

 ならば、さらに続くぜ。

 

「おれはメインフェイズに稲妻をプレイするぜ」

 

 おれは頭の中にあった稲妻カードを燃やした。

 すると、おれの体に力がみなぎってくる。その力に呼応して、空に稲妻の光がきらめいた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 稲妻 (R)

 

 インスタント

 

 任意の対象に3点のダメージを与える。

 

 フレーバーテキスト

 

 若き紅蓮術師「お願いだ。僕に稲妻を教えてよ」

 歴戦の紅蓮術師「お前が稲妻など1万光年早い。まずはショックからだ」

 若き紅蓮術師「もう嫌だ。学校をやめて火遊びしてやる」

 

ーーーーーーーーーー

 

 稲妻。

 マジック黎明期から存在する最強の紅蓮術だ。

 現代マジックでも第一線で活躍しているとは、すごい紅蓮術だと思う。

 

 行くぜ、雷雲よ、ラノワールのエルフを焼き尽くせ。

 

 おれが手を上げると、空から稲妻がほとばしり、ラノワールのエルフを直撃した。

 すさまじい雷光と雷音。なんて迫力だ。これがリアル稲妻か。

 

「おのれぇ、おれの相棒のラノエルを。許せねえぜ」

 

 マナクリーチャーを失った鈴木は顔にいら立ちを浮かべた。

 ふふふ、貴様にマナ加速はさせねえぜ。

 

「ちっ、おれのターンだ」

 

 鈴木もドローフェイズを迎えた。

 

「ふははははは、さらに強力なクリーチャーを引いたぜ。森をセット。そして……いでよ、灰色熊!」

 

 鈴木は先ほどのいら立ちを吹き飛ばすと、追加のクリーチャーを展開してきた。

 

 目の前に突如現れたのは、巨大な熊。

 灰色熊だった。

 

 こ、これが灰色熊か。

 目の前に現れると迫力を感じざるを得なかった。

 

 とはいえ、これも旧時代のクリーチャー。恐れることはない。

 

ーーーーーーーー

 

 灰色熊  (1)(G)

 

 クリーチャー - 熊

 

       2/2

 

 フレーバーテキスト

 

 地球へ行ったときの話だ。友人の農場を手伝うために熊本に向かったんだ。

 そのとき、とてつもない灰色熊に出会った。

 名前はたしか……くまモンとか言ったかな……。

 彼はいま私の農場で働いているよ。タルモゴイフとも仲良くやっている。

 

 ~アジャニの地球旅行記68ページの一節~

 

ーーーーーーーー

 

 たかが2/2で能力はない。

 旧時代はこれが普通だったんだ。今では考えられないことだ。

 

「おれのターン!」

 

 おれのドロー。

 

 来たぜ。おれのデッキの切り札「唯の焔、シルカ」だ。

 

 このターンはどういうプランを取るかで選択肢が変わってくる。

 相手の灰色熊を倒すか残すか。

 

 灰色熊を残した場合、次のターンに、相手はブランチウッドの鎧みたいなカードを使ってくる可能性がある。

 クリーチャーのサイズが上がると、紅蓮術使いとしては少し厳しい。それに相手のマナが自由になると、いつでも巨大化や健在的防御を構えられる。

 

 とはいえ、ここで灰色熊を対処すると、次に相手がもっと強力なクリーチャーを出して来る可能性がある。

 

 リスクを取るか、安全に行くか。

 

 ふっ……選択肢になっていないな。

 おれは常に前のめりだ。リスクを取るぜ。

 

 灰色熊は無視だ。

 

「おれのターン、山をセット。そして、唯の焔、シルカを召喚する」

 

 おれがそう宣言すると、鋭い輝きを放つ炎が眼前に現れた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 唯の焔、シルカ (R)(R)

 

 伝説のクリーチャー - エレメンタル・ウィザード

 

 魔力高揚2(あなたのコントロールする戦闘ダメージではない発生源が割り振るダメージは2点多くなる)

 あなたが唯の焔、シルカを唱えたとき、あなたが「火炎世界の聖域」を持っていないなら、あなたはこのゲーム中、永続的に「火炎世界の聖域」を得る。

 あなたの紅蓮術レベルが4以上である間に、あなたの火炎世界でないターンを向かえたなら、このターンに続いて、火炎世界のターンを迎える。

 火炎世界のターンの間、あなたは戦闘フェイズを迎えることができない。

 火炎世界のターンの間、あなたは魔力高揚2を持つ。

 唯の焔、シルカが攻撃するたび、以下の数字のうち、あなたの紅蓮術レベル以下であるものを1つ選び、そのカードを1つ生成する。あなたはゲーム中、それらを唱えてもよい。

 

 3、「稲妻」

 6、マナコストが (1)(R)(R)であることを除き、「炎の波」

 9、マナコストが (R)(R)であることを除き、「焼尽の風」

 

       3/1

 

 フレーバーテキスト

 

 ぼくのかんがえたさいきょーのファンタジー「最期の紅蓮術師」の登場人物。

 焔により失われてしまった世界の管理人シルカは、生きとし生けるものたちの強い願いを受け、焔により失われたものを復元する。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 強い輝きの中から、シルカが現れた。

 おれのデッキの主力クリーチャーが目の前に現れるとは、夢のようだ。まあ、夢か。

 

 シルカが降臨すると、鈴木の表情が変わる。

 

「こ、このカードは……ま、間違いない……異次元に封印されし世界の魔力。馬鹿な、ボーラス様が封印したはず。なぜ、貴様がそのカードを」

 

 鈴木はそう言って狼狽した。

 ふふふ、そうだろう。

 これはおれが課金に次ぐ課金でようやく手に入れた超レアカードなのさ。

 6万円つぎ込んでようやく引き当てたんだ。羨むのも仕方あるまい。

 

 隣にいた聖トラフトも少し驚きをあらわにした。

 

「少年、このカードをいったいどこで?」

「先月手に入れたのです。期間限定の新エキスパンションということで全財産つぎ込んで開封しまくりましたよ」

「あのエキスパンションを開封したというのかね?」

「はい」

 

 そんなに驚くことか。

 たしかに1週間限定のキャンペーンみたいだったようだけど。その1週間以降は一度も販売されなかったものだ。

 あのときに買い損ねた者はたしかにこのカードを使えないのかもしれない。

 

「そうか。あのエキスパンションを開くことができた者……見事だ、少年。この調子でやつを倒すんだ!」

 

 そのつもりだ。

 

 シルカが出たことで、相手はいつでも追加ターンの脅威がある状態になった。

 紅蓮術レベルは自分のコントロールするウィザードのパワーに呼応する。パワー4以上のウィザードがあれば一気に勝ち切ることができるぜ。

 

「こいつは想定外。後でボーラス様に報告せねば。やつは封印されし次元の扉を開くことができる身とな……」

 

 鈴木は先ほどまでのへらへらした表情はなくなり、顔がこわばっていた。

 

「おれのターン!」

 

 鈴木はドローしたカードを確認してにやりと笑みを浮かべた。

 

「おれのカードは、強行突破だ。まずはその異次元のクリーチャーを除去させてもらうぜ」

 

 鈴木が灰色熊に強行突破を命じると、灰色熊がこちらに向かって突撃してきた。

 その一撃でシルカが除去されてしまった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 強行突破 (1)(G)

 

 インスタント

 

 あなたのコントロールするクリーチャー1体を対象とする。それは対戦相手のコントロールするクリーチャー1体を対象とし、それを襲撃する。

 襲撃者がトランプルを持つなら、そのダメージはトランプルを持つかのように与えられる。

 

 フレーバーテキスト

 

 各民族の強行突破のやり方

 

 グルール人「殴る」

 アメリカ人「銃を乱射する」

 ロシア人「軍事侵攻する」

 イギリス人「集団を離脱する」

 中国人「現場を埋める」

 韓国人「歴史書を改ざんする」

 日本人「火の玉、X=1億」

 

ーーーーーーーーーーー

 

 シルカは唱えてしまえば、火炎世界を得ることができる。

 この除去は相手が損をする行為。すべては計算通りだ。

 

「おれの戦闘だ。灰色熊で貴様を殴るぜ。ゆけ!」

 

 灰色熊が襲い掛かって来た。

 夢とはいえ、びびるぜ。

 鋭い爪がおれを切り裂いた。

 

 本来なら致命傷。だが、プレインズウォーカーの灯の力を得たおれにはかすり傷に過ぎない。ライフは2点削られただけだ。

 準備は整った。ここから、おれの反撃だ。

 

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