「おれのターン、ドロー!」
よし、山を引いたぞ。
おれの手札にはいま、超音速のライトニングがある。
相手は油断して、灰色熊で攻撃してきた。
赤使いに対して、無防備にブロッカーをなくすことがどれだけ危険か教えてやるぜ。
「山をセット。行くぜ、紅蓮術師の必殺技、超音速のライトニングだ!」
ーーーーーーーーーー
超音速ライトニング (1)(R)(R)
クリーチャー - エレメンタル・紅蓮精体
紅蓮術レベル5 (あなたがこれを唱えたとき、あなたの紅蓮術レベルが5未満であるなら、このターンの終了ステップ開始時、これを生贄に捧げる。あなたの紅蓮術レベルはあなたがコントロールする赤のウィザードのうち、パワーの最大値である)
トランプル 速攻
超音速ライトニングがプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたび、あなたはその点数に等しい数の「あなたのコントロールする戦闘ダメージではない発生源が割り振るダメージは1点多くなる」という紋章を得る。
6/1
フレーバーテキスト
チャンドラにボールライトニングを教えたんだが、少しも上達しない。
けれど、炎の力だけは絶大で、いつの間にか、より危ないボールを投げ始めた。
ワシは新しい好奇心を覚えた。
チャンドラにインフェルノを教えたら、いったい何が起こるのか。
ワシはそのとき人生最大の畏怖を覚えたよ。
ところで、チャンドラは犬より猫派だったようだ。
――ヤヤの教育日誌より
ーーーーーーーーーーーー
まだおれの紅蓮術レベルは0。よって、一度殴ることしかできないが、しかし、一度殴ることさえできれば十分だ。
おれが超音速のライトニングを唱えると、目の前にとてつもない熱気を放出しながら、ネコ型のエレメンタルが現れた。
こちらにまですさまじい熱気が伝わってくる。
それを見た鈴木は狼狽した。
「こいつ、なんてパワーのカードを使ってくるんだ。こっちは2/2バニラが関の山だと言うのに。これが地球のプレインズウォーカーの力だというのか」
カードパワーの差は歴然。それもそのはず、鈴木のカードはすべて旧式のしかもレアリティの低いカードばかりだ。
こっちは150年のMTGの歴史の上にあるカードだ。
聖トラフトも少し驚いた様子でこっちを見た。
「少年、そのカードも例のキャンペーンで手に入れたのかね?」
「ええ、さんざんつぎ込んだおかげで」
こっちはカード破産寸前まで金を投じたんだ。その見返りは十分にあったようだ。
「行くぜ、おれのターンの攻撃。超音速のライトニングを走らせるぜ。行け!」
「うぐおおおおお」
強烈な一撃。6打点だ。鈴木のライフは14点まで減らされた。
それだけではない。超音速のライトニングが相手を叩いたら、そのダメージの分だけ、おれには紋章が刻まれる。
おれの心に6つの紋章が刻まれた。
これで、火力呪文はすべて威力が6点上がる。もはや、お前の命は後数ターンだ。
「ターンエンドだ」
おれはエンドを宣言した。ここで超音速のライトニングは消滅した。だが、こっちの優勢が確定した。
「おのれ、おれのターン。頼むぜ、いいカードを引け!」
鈴木のドローフェイズ。鈴木は引いたカードを見て、にやりと笑った。
「ふははははは、こちらも強力なカードを引いたぜ。おれの愛人だ!」
愛人だと?
「森をセット。そして、ゆけ、恋煩いの野獣!」
鈴木がそう宣言すると、力強い野獣が降臨した。
ーーーーーーーーーーー
恋煩いの野獣 (2)(G)
クリーチャー - ビースト
ソーサリー・出来事ー切なる思い (G)
緑の1/1の人間・トークンを1体生成する。
あなたが1/1のクリーチャーをコントロールしていない限り、恋煩いの野獣では攻撃できない。
5/5
フレーバーテキスト
エッジウォールの酒場で飲んでいたとき、おれは一目惚れした。
かわいくて、美しくて、ほほえましくて……
手をつなぎたくって、抱きしめたくって……
あいつのためなら死ねる。そう思ったんだ。
――恋煩いの野獣の思い
ーーーーーーーーーー
まさか、ここで強力なカードが出てくるとは思わなかった。
たしかにこれは強力だ。5/5というサイズは赤使いには厳しい。
紋章を得ているので、火力で焼き払うことはできるが、1対1交換を繰り返していると、灰色熊がいるだけ、相手が有利になる。
こっちもスピードが求められるな。
ところで、野獣がおれに熱い視線を送っている。
やめてくれ、おれにそっちの趣味はない。それにおれのパワーは少なくとも2以上あるつもりだ。お前にとってもおれはタイプじゃないはずだ。
お前は怒り狂うゴブリンのほうが好みだろ。
「出来事は介さず直接プレイするぜ。安心しろ、野獣。あとでおれが楽しませてやるからよ。ひひひひ」
く、こいつは変態だったか。
とはいえ、野獣が殴り始めたら、こっちのライフも厳しくなる。こっちも急ぐ必要がある。
「おれのターンの攻撃。灰色熊、やつを叩き潰せ」
灰色熊の攻撃。いまのおれにはたかだか2点だ。問題ない。まだライフは16ある。
「おれのターン!」
さあ、いいカードよ来てくれ。
おれの引いたカードは……歴戦の紅蓮術師、チャンドラ。
おれのデッキ最大の相棒であり、ウィザードだ。パワーが5あるので、聖域の条件を満たしてくれる。
ーーーーーーーーーー
歴戦の紅蓮術師、チャンドラ (1)(R)(R)
伝説のクリーチャー - 人間・ウィザード
あなたの紅蓮術レベルが11以上である限り、あなたは赤単色である呪文を、そのマナコストを支払うことなく唱えてもよい。
あなたの終了ステップ開始時、あなたのコントロールするエレメンタル1体と対戦相手または対戦相手のコントロールするクリーチャー1体を対象とする。前者は自身のパワーに等しい値のダメージを後者に与える。
(1)(R)(R):エレメンタル1体を対象とする。ターン終了時まで、歴戦の紅蓮術師、チャンドラと対象のエレメンタルは+3/+0の修正を受けると共に先制攻撃を得る。この方法で先制攻撃を得たクリーチャーが複数の先制攻撃を持つなら、さらにそれは二段攻撃を持つ。
5/2
フレーバーテキスト
領事府を討ち、数々の戦いを切り抜けたチャンドラは史上最大の紅蓮術師になった。
恐ろしいことは、これは彼女の通過点にしか過ぎないことだ。
彼女の炎はより強く、より美しく。
炎は闇を討ち、光を与え、友を助く。
ーーーーーーーーーーー
このターンの選択肢は、野獣を焼くか、チャンドラを出して、次のターンの勝利を目指すか。安全に行くなら前者、勝ちに行くなら後者。
おれは後者な男だ。紅蓮術師とはそういうものだ。
行くぜ、チャンドラ。夢の中でも会えるなんて嬉しいぜ。
おれは歴戦の紅蓮術師、チャンドラをプレイした。
炎をなびかせて現れたのは、チャンドラ。すべての紅蓮術師男子のあこがれ、アイドルだ。
チャンドラは現れると、振り向いて笑顔のウインク。
く……し、沁みるぜ。夢の中でも、チャンドラと出会えたんだ。おれもこれでプレインズウォーカーの仲間入りだ。
「ライト、油断するな。そして、自分の炎を信じるんだよ」
「お、おう」
おれはチャンドラの叱責に応えるように集中した。
パワー5のウィザードがいれば、次のターンには追加ターンに入れる。
「ターンエンドだ」
おれがエンドを宣言すると、鈴木はチャンドラをにらみつけた。
「やつがボーラス様の言っていたチャンドラか。抹殺すべき最重要人物。だが、まずは超音速の雷、ライトとかいうあのヒョロヒョロからだ」
鈴木はそう言いながら、ドローフェイズを迎えた。
「さて、どうしてくれようか」
鈴木は珍しく考え始めた。
「このままゆっくりしていてもらちが開かん。一気にケリをつけさせてもらうぜ」
鈴木はそう言うと、まずはラノワールのエルフを召喚した。
「くくくく、野獣の愛人15号だ」
鈴木はそう説明した。たしかに1/1のクリーチャーの数だけ愛人がいるとなると、15号でも珍しくはない。
これで野獣が攻撃できるようになった。このターンはけっこうなダメージをもらってしまうな。
「そして、巨大化をプレイするぜ!」
鈴木はそう言って、巨大化をプレイ。
ーーーーーーーーー
巨大化 (G)
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それは+3/+3の修正を受ける。
フレーバーテキスト
ミスターM「森で拾ったきのこで大きくなったんだ」
ミスターD「ビッグライトで大きくしてあげるよ」
オールミスター「大好きなあの子のことを考えたら……ある場所が……大きく……」
ーーーーーーーーー
「ふははははは、さらにもう1枚巨大化をプレイだ!」
なに、2枚目だと。
まずい、もう1枚あれば、合計で16点。チャンドラがマストでブロックしなければならなくなる。
「行くぜ、11/11となった恋煩いの野獣で攻撃! 速攻をケアして灰色熊は守れ」
鈴木は冷静な判断で攻撃してきた。
だが、そう宣言したということは、手札に強化スペルはないということだ。インスタント呪文をメインフェイズに使うとは素人か。
おれは野獣の11点をライフで受けることにした。
巨大化した野獣の熱い抱擁。
ぐおっ、なんて苦しさだ。だが、おれのライフはまだ5点残っている。
「よし、追い詰めたぜ。次のターンにはおれの勝利だ。わははははは」
鈴木は勝利宣言。
あいにくだな。もう二度とお前にターンを渡すつもりはないぜ。
「おれのターン! ドロー!」
おれの引いたカードは……ライトニングの抱擁。
ーーーーーーーー
ライトニングの抱擁 (1)(R)(R)
エンチャント - オーラ
エンチャントされているクリーチャーは+6/+1の修正を受けると共にトランプルを得る。
あなたのターンの戦闘の開始時、あなたの紅蓮術レベルが5以上なら、あなたはあなたの墓地にあるライトニングの抱擁を追放してもよい。
そうしたのなら、あなたがエレメンタルをコントロールしていないなら、トランプルと速攻を持つ赤の6/1のエレメンタル・クリーチャー・トークンを1体生成する。
フレーバーテキスト
ろくな着る服がなかったので、ボールライトニングを身に着けてみた。
勝負服を探すチャンドラの発想
ーーーーーーーー
よし、このカードがあれば、チャンドラのパワーは11になる。
紅蓮術レベルは一気に11になる。
手札のカードはすべてキャストできるうえに、火炎世界の聖域により追加ターンも獲得。
おれの勝ちはほぼ確定だ。
「行くぜ、チャンドラ。おれからのプレゼントだ」
おれがライトニングの抱擁をプレイすると、チャンドラが魔法少女の感覚でドレスアップした。
無駄なものはすべてなくなり、チャンドラを覆うものは炎のみになった。
「なにこれ、悪趣味なライト」
「え、そ、そうか?」
おれの妄想のせいか、チャンドラには不服だった。だが、いいだろ。どうせ、おれの夢だ。夢の中ぐらい自由に楽しませてくれたって。
これでチャンドラのパワーは11
手札のスペルは唱え放題。
ぶち込むぜ、すべての火力を!
ーーーーーーーーー
雷王の稲妻 (1)(R)
ソーサリー
クリーチャー1体を対象とし、それに4点のダメージを与える。
あなたの紅蓮術レベルを2で割った自然数部分に等しい値のダメージをそれのコントローラーに与える。
フレーバーテキスト
パーフォロスを信仰する紅蓮術師の中には、パーフォロスへの信心を自身のパワーそのものだと錯覚している者もいるが、信仰に対しては、錯覚というものはない。
信じるものすべてが力となる。
ーーーーーーーーー
紋章があれば、野獣に10点火力。そして、プレイヤーに当たるダメージは11点だ。
これで、鈴木のライフは3だ。
まだまだ行くぜ!
ーーーーーーーーーーー
雷落としの赤ウサギ (R)(R)
クリーチャー 兎・エレメンタル
速攻 先制攻撃
雷落としの赤ウサギが戦場に出たとき、これはクリーチャー最大1体を襲撃する。
雷落としの赤ウサギは+X/+0の修正を受ける。Xはあなたの紅蓮術レベルを2で割った値の自然数部分に等しい。
2/1
紅蓮術師は使い魔にエレメンタルを持つことがある。
昔は焦熱の火猫や狂犬やボールライトニングなどだったが、カルドハイムのほうではウサギがブームになっているらしい。
ーーーーーーーーーー
さらにラノワールのエルフを除去するぜ。さらにパワーは7に上がった。
まだ終わりはせん。
ーーーーーーーーー
紅蓮術師の秘儀術師 (R)
クリーチャー - ウィザード
紅蓮術師の秘儀術師が戦場に出たとき、あなたの墓地にあるあなたの紅蓮術レベル以下のマナコストを持つソーサリーかインスタントであるカード1枚を対象とする。
あなたはそれをマナコストを支払うことなく唱えてもよい。
1/1
フレーバーテキスト
戦慄衆の場合、祖先の回想に耳を傾けるだけの心の余裕がある。
紅蓮術師の場合、稲妻の音しか聞こえていないようである。
ーーーーーーーー
紅蓮術レベルは11なので、何でも踏み倒せるが、稲妻で十分だ。
紋章の力もあり、鈴木に9点ダメージ。鈴木のライフはこれでマイナスに突入。
まだだ。まだ止まらんよ。おれの炎は誰にも止められない。
「おれのターンの攻撃。パワー11のチャンドラで攻撃だ!」
「もうやめな、ライト。相手のライフはとっくに0よ!」
戦闘フェイズ、チャンドラに制止され、おれは我に返った。
おれとしたことが冷静さを欠いていたみたいだ。
このような夢のような対戦は初めてでつい興奮してしまった。まだ追加ターンも残っているので、まだまだやりたいが勝負はここで終わりだ。
「ぐ、このおれが負けただと? おのれ、地球のプレインズウォーカーごとき楽勝だと思っていたが、どうやらそうではなかったと」
鈴木は突然、正気を失ったようになった。
すると、その額にニコルボーラスの角のような魔法の刻印が現れた。よくできた夢だぜ。
「貴様、超音速のライトと言ったか、まさかこれほどのプレインズウォーカーがいようとはな。覚えておくぞ」
「あんたがニコル・ボーラスか?」
おれは夢の中なので、ニコル・ボーラスにもかっこよくがつんと言ってやることにした。
「地球を侵略しようとしても無駄だ。おれがいる限り、貴様に地球を渡さねえ」
「……くくく、その威勢、いつまで続くかな」
ニコル・ボーラスは余裕の笑みを浮かべた。
「今回は一旦退いてやろう。だが、この戦いで貴様の弱点は見抜いた。その力、我にも通じるとは思わないことだ」
「通じるさ。また牢獄領域にぶち込んでやるよ、覚悟しな」
「貴様のその魂は我の術中。せいぜい、今のうちにほくそえんでおくがよい。くくくくく」
そう言い終わると、鈴木の額からニコル・ボーラスの角が消滅。そのまま、鈴木は前のめりに崩れ去った。
戦いに勝ったのか。
やはりいい。MTGで勝利したときの高揚感は何にも代えがたいものだ。
これが夢なら、後しばらくこの余韻に浸っていたと思う。
おれは聖トラフトのほうに顔を向けた。
救ったぜ、地球を。そして……。
おれはちらりと後ろを振り返った。
そこには一人の少女の姿が映った。
見ててくれよな、月渡。
たぶん、おれがお前に見せられる一番かっこいい姿だ。
夢の中でしか見せられないからな。絶対に忘れないでくれよな。
そして、夢の世界は徐々に崩壊。
視界がぐにゃっと曲がり、おれの意識は遠のいていった。
最後に一言だけ聞いた。
「ありがとう」
誰の言葉だろう。聖トラフトか、月渡か。
どっちでもいいや。
しょせん夢だしな。