「どうしました?あなたの実力はそんなものではないでしょう?」
そんなこたァ言われても仕方がないだろう。
ただ、ここで降参するのも癪だ。
文さんに一番近い木を射撃して倒すが、やはりすぐに避けられてしまう。
今度は周囲の木をなぎ払って倒す。
その間も僕は光る玉を避けなくてはいけない。
射撃と環境破壊の同時攻撃で文さんを狙うも、やはり当たらない。
だが、木が密集している場所に誘い込めた。
今度はまた周囲の木を一気になぎ倒す。
「あんまり倒すと森がなくなってしまいますよ……あれ?」
文さんの視界からは離れることができた。
次は倒れゆく木を駆け上って文さんに突進し、攻撃――――
「――――あれ」
文さんに向けて振るった拳が空を切り、僕は地上に向かって落下していく。
これはまずい。勝ち負けに拘りすぎて攻撃を外した時のリスクを忘れていたし、そもそも当たってもだいぶ危険だ。完全に自分の首を絞めている。
しかもやっぱりこれは落ちたら死ぬ高さだ。御愁傷様とでも言うべきなのか?笑えない。
死を覚悟したとき、誰かの手が僕の体を持ち上げた。
「あやや……強いのは貴女ではなく妖刀のほうでしたか」
文さんの手だ。
彼女は初対面の対戦相手を助けるほどには人間ができているらしい。
いや、人間じゃあないんだったか。
「そう言っただろう」
「言ってませんよ」
「言ってなかったね」
妖刀の力は見せたが、自分自身に実力がないとは言っていなかった。
わかるものだろうと思ったが、そうでもないらしい。
「でも、強力な妖刀を手にした人間が来たというのはいいネタじゃあないかい?」
「それもそう……なんでしょうがねぇ……」
飛んできたネタが『あり得ないほど強力な力を持ち、なおかつ強力な武器を使いこなす人間』ではなく、『強力な妖刀を持っているのに大して強くない人間』だった。期待値が高まりすぎて拍子抜けする現象というやつだろうか。よくあることだ。僕にもよくある。
「少し図々しいかもだが、このまま山の麓まで降ろしてもらえないかい?」
文さんは一秒ほど間を置き、応えた。
「そうですね、あの子から話を聞いてからにしましょうか」
文さんの進行方向に視線を向けると、何か赤く滲んだ白いものを担いだ少女がいる。
この距離でわかることは銀の髪、黒いパーカー、そして何か長いものを持っていることぐらいか。
そして近づくにつれて担がれているものがどんなものなのかがはっきりとしてきた。
白く短い髪、白い獣耳、赤く染められた白い服の少女。
段々とわかってくる。あの服は血で染められている。服の切れ目から切創であることは間違いなさそうだ……!?
「あの子、死体運んでるじゃあないですか!?」
「いや、呼吸はしています。手当てをしないと確実に死にますけどね」
「じゃあ飛ばしてくださいよ!」
「これ以上速度を上げたら飛行中に貴女が死ぬ恐れがありますし、着陸の衝撃でその場の全員があの世行きですよ。この速度が精一杯です」
無駄口を叩きながら飛行し、ようやく少女の目の前に着陸できた。
「え、あ、は、羽!?」
「説明は後だ!」
驚愕するパーカーの少女をよそに、僕は白い服の少女に応急措置を始めた。
まずは少女の上着を脱がし、僕が羽織っているコート……は破けそうにない。仕方がないのでコートの下に直接着ている下着の一部を破り取る。
「あ、あの……手の刀でコートを……」
「いいでしょ、下着ぐらい」
とは言うものの、文さんに言われるまで完全に忘れていた。
このタイプの下着は結構伸び縮みするからコートより使いやすいだろうと思ってはいたが、割と奇異な行動だったのだろう。
とりあえず次。大きく開いている傷口を縛る。両手、右足、右肩……。幸い、内臓に響くような場所に大きな損傷はない。
最後に、出血している部位を心臓より高い位置に置く……。
「大丈夫かな」
「これは……」
両手を木に括りつけ、無事に集団リンチの現場が出来上がった。
集団レイプとも言うかもしれない。
「あ、あの……ありがとうございます!」
手当が終わると、少女は泣きそうな顔で感謝の言葉を言ってくれた。
犯罪臭がするこの絵面の中で。
「お礼はいいよ。まあ、この下着をどうにかしてもらいたい気持ちはあるけど、自分でやったことだし。それに……」
胸部から下が全部破り取られた下着を思い出して哀愁を感じながら、気になることを一つ尋ねる。
「この傷、完全に殺し合いの傷だけど……この子に何があったんだい?」
「えっと、それは……」
「伝わっていないようだから言い方を変えよう。彼女は『スペルカード』を使ったかい?」
スペルカードルール。
それは、『殺し合い』を『遊び』に変えるルール。
逆に言えば、スペルカードを使わない戦いは武道などの『試合』でなければ『喧嘩』や『殺し合い』と同義。
「つまり、椛……こいつはスペルカードルールを無視せざるを得ない相手と遭遇していると?」
「文さん、御名答。それがこのパーカーの子なのか、はたまた他の誰かなのか、だったら誰なのかもわからないが、これだけは言える」
少し間を置き、勿体ぶって結論を出す。
「そんな奴に出会った場合、僕は確実に死ぬ。文さん、僕を守ってくれ」
舞い落ちる花びらの中で、かなり呆れたような顔を向けられた。
続く