あったのは歓声、熱狂。
それぞれの夢をのせて、思いを力にして走るウマ娘。
栄光を求めた先にある夢。それがこのレース、有マ記念だ。そしてこのレースを最後に俺が応援してきたウマ娘はターフを去る。
少し暗い鹿毛のウマ娘。他のウマ娘たちと比べれば小柄だが、その小さな背中には多くのものを背負っている。
鳴り響くファンファーレ。これを聴いた観客は更なる熱を発する。ある者は応援するウマ娘の名前を叫んでいる。ある者はただ応援の言葉で喉を枯らし、ある者は最早言葉になっていない思いを喚く。
ゲート入りを嫌がっていた魔女っ子のような勝負服のウマ娘が神輿でも担ぐのかと錯覚するくらいの大人数の係員に押し込まれて、ようやくゲートに入る。他のウマ娘たちは「待たせるな」とでも言わんばかりにゲートに入っていき、彼女もまたそれに続く。
そして、ゲートが開く。
スタートはうまく出たが、すっとポジションを下げた。後方からレースを進めていくつもりのようだ。全体としては1人だけが大きく逃げて、後は有力なウマ娘たちが前の方で固まっているという感じ。
1000m通過タイムは59秒5とやや早めのペースだ。
よし、落ち着いている。無駄に有力バがひしめき合うバ群に入ってスタミナを消耗することはない。後ろからゆったりとペースを伺えばいい。お前はそれだけで他のウマ娘にプレッシャーを与えるんだ。
『3コーナーにかかって、さぁ!仕掛けたぞ!』
ここで彼女はギアを上げる。残り600m。後方から3番手だったのが、大外から一気に仕掛ける。猛烈な追い上げ、得意のロングスパート。それも差しを得意とするウマ娘の末脚とも引けを取らない脚でだ。会場がワッと湧く。圧倒的な人気をもって1番人気に推されたのだから当然だ。
彼女との時間が終わりを告げようとしている。別れが彼女のスピードと同じ速さで迫ってきている。
『さぁ! ここで、翼を広げるのか! 外をついて上がってくる!』
場内アナウンサーの声もなぜか遠くに聞こえる。
一団が第4コーナーを抜けて直線に入った。
ウマ娘ゆえの凄まじい脚力によるものか、コースからスタンドまでそれなりに距離はあるはずなのだが、芝を蹴り上げる轟音がはっきりと聞こえる。
『他のウマ娘たちをあっという間に置き去りにした!』
時速60kmを超えるスピードで走っているはずの彼女となぜか目が合った気がした。
気がしただけなのに彼女の思いとか全て伝わったようにも感じた。
まるで飛んでいるかのように彼女は走る。
『間違いなく飛んだ! 間違いなく飛んだ! 最後の衝撃だ!』
これは俺と彼女の物語、その終幕である。
『これが最後の! ディープインパクト‼︎』