歩んだ足跡、弾けた衝撃   作:マザリーニ枢機卿

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また遅くなりました。すみません。


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『今日も、新幹線をご利用くださいましてありがとうございます。この電車はのぞみ号、新大阪行きです』

 

 

 

 特徴的な音楽。新幹線に乗っているとよく聞くアナウンスは俺の旅路がまだ長いことを示した。目的地は終点の新大阪、ではなく京都駅なので途中で降りることになる。迂闊に寝たりすれば新幹線で乗り過ごすというなかなかに怠い展開になるのでアナウンスには耳を傾ける必要があるのだ。

 

 さて、トレセン学園のトレーナーである俺がなぜ東京から遠く離れた京都へ行くのかと疑問に思う者は少ないだろう。無論レースを観に行くためである。トレーナーの仕事の中でレースの分析というものは多くのウェイトを占めていると言わざるを得ない。これは自分の担当ウマ娘はもちろんのこと対戦相手の分析も必要不可欠だ。そのためトレセン学園では国内はおろか海外の条件戦に至るまで、レースの映像をURAから直接取り寄せることができる。しかしスクリーンに向かっているばかりではなく、たまには実際のレースも観に行きたいということで今はこうして新幹線に揺られているのである。

 

 俺が今回観に行くのは天皇賞・春だ。京都レース場3200m、日本の平地GIの最長距離であると同時に、世界で見てもイギリスのゴールドカップ、フランスのカドラン賞に次いで3番目に長い距離のレースとなる。ディープインパクトがこのレースに参戦するかどうかはともかくとして、シニア級に上がった際に、ディープが相手にする可能性が高いウマ娘が多数出走を予定している。

 

 先述の通りGI級のレースともなれば取り寄せるまでもなくウマチューブにURAから動画が投稿されるので分析だけならわざわざ京都まで出向く必要もないのだが、俺の担当はディープ1人の上にダービーまで少しの余裕が出来たので、久しぶりに単純な楽しみという意味を含めたレース観戦となる。正直ディープが出ていると怪我しないかどうかが気が気でないのでレースを楽しむことは到底出来ないのだ。

 

 トレセン学園は非常に羽振りが良く、こういったレースの観戦に係る交通費はもちろん入場料まで出してくれるというのだ。これを利用しない手はない。入場料の方は出してくれるというよりかはトレセン所属のトレーナーであることを示せば関係者として自由に出入りができるのだが。

 

 

 閑話休題。

 

 

 ともかく俺は京都へ向かうわけだが、肝心のディープの方は春天の開催が日曜日ということもあってオフを命じてきた。二冠目である日本ダービーに向けて気合いが入っているのか、またもやハードワーク気味になっていたのでオフというよりかはトレーニングの禁止の厳命である。運動部とかのオフで『次の練習のための時間にしろ』とか言われて自主的にトレーニングするとか、そういうのも無し。どうしても走りたくなってもせいぜい軽いランニングしか駄目と言った。

 

 トレーニングのメニューとかは文句ひとつ言わずに従うのに今回のこれはやたら抵抗された。今回のオフの指示も聞き入れられず全力で走ったりするんだろうなぁ。身体を休めるのもトレーニングの一環だと何度言ったかわからない。

 

 

 

「隣、失礼してもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、どうぞ」

 

 

 

 若い女の声にあまり顔を見ないようにして応じる。このご時世何が理由でいちゃもんをつけられるかわかったものではない。そういえばここは自由席だった。他にも席はあるだろうにわざわざ俺の隣なんかに座んなよな。

 

 もしかしたらトレセン学園のトレーナーという立場みたいなのを利用すれば街で出会った気に入った女を落とせるんじゃないのか、そういう考えは少ししか湧かない。確かにトレセン学園のトレーナーという職業を目指す人間は多い。国民的エンターテイメントであるウマ娘を陰で支え、共に勝利へ向かって邁進する。まして中央(トゥインクル・シリーズ)のトレーナーともなれば倍率は数十倍、年によっては100倍台に届くかという狭き門である。トレーナーになってからは行ってないけど、コンパとかだったらえらくウケがいいと思う。

 

 トレーナーという人種は往々にして女日照りなどはないが頭の中はウマ娘でいっぱいなのでそのようなことを考える暇がない。ただでさえ普段からウマ娘とはいえ中高生の女の子に囲まれているのだから誘惑も多い環境だ。女にすぐ手を出すような者にはトレーナーは務まらない。それでも少しは湧くよ。

 

 

 

「トレーナーさんも天皇賞を見に行くんですね」

 

「・・・・・・うん?」

 

 

 

 聴き覚えのある声だったが眼球だけを動かして隣の女性を見る。『トレーナーさん』という二人称、見たことのある茶髪、というか鹿毛だったし、ウマ耳も生えていた。というかディープインパクトだった。

 

 

 

「うわっ!」

 

「・・・・・・!」

 

 

 

 新幹線なので他の客もいるから声は控えめであったが、驚きはひとしおであった。そしてその反応を見たディープもまた驚きを表情に出していた。その時の彼女の耳がぴょこぴょこ動く様は少し可愛かった。

 

 ところで先ほどウマ耳と言ったそれだが、近年ではあまりよろしくない表現らしい。「耳の形で差別するのは──」みたいなことをウマ娘でもない連中が言っているのだ。個人的には可愛らしくて好きな表現なのだが、こんな俺でもディープの活躍のおかげでメディアへの露出も多くなったので、ディープ自身は無論だが、オレの方もそのような表現ひとつに気を使わなければならない。

 

 

 

「なんでそっちも驚いてんの?」

 

「そんなに反応してくれるとは思わなくて・・・・・・」

 

「ええ、ちょっと待って、え、なんでいんの?」

 

「私も春天を観に行くんです」

 

「そこじゃないよディープ。俺が驚いたのはそこじゃないよ」

 

「?」

 

 

 

 なんでそこまで見事な(不思議ですね・・・・・・)みたいな顔ができんの。その顔をしたいのは俺の方なんだけど。逆ならその顔をするのもわかるよ。もしディープがどこか遠出しようとして新幹線なり飛行機なりに乗っていたとして、隣の席に俺が座ってきたとかだったら君がその顔をする権利はあるけれど、今の君は俺の隣に、それも恐らくだが俺と分かった上で隣に座ってきたのだから、そんな顔をする権利はないのではないか

 

 

 

「君が春天を観に行くのにそこまで疑問はないんだ。ソウルシャウトも出走するしな。聞きたいのはなんで俺と同じ新幹線なのかって話よ」

 

「理事長に聞きました」

 

「理事長に聞いた」

 

 

 

 理事長に聞いたんだ、俺の休日の予定を。ミッション・インポッシブル2か? ロッククライミングしたその頂上でヘリから指令を渡されて、その指令の最後に付け足された『次にバカンスに出るときは行き先を教えておいてくれたまえ』か。行き先を教えたらバカンスにならないだろ。これ別にバカンスのつもりはないし。そして理事長は俺のプライベートを簡単に教えんなよな。因みに俺は007派である。

 

 

 

「はい。トレーナーさんがオフの日に何するのか気になって」

 

「・・・・・・悪い。ディープにも一緒に行くかどうか聞くべきだったね」

 

「そうですね」

 

 

 

 フォローをしたつもりで言ったから『そんなことないですよ』的な返答を期待していたんだが、俺が悪いみたいになっちゃった。俺が悪いのか・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 京都レース場、ディープの若駒S以来、来るのは3ヶ月ぶりくらいだ。あの日は単なるオープン戦や条件戦ばかりで人は少なかったが、今日はGIが開催されるとあって小雨が降っているにも関わらず、とんでもない人数となっている。

 

 というのも今回の春天は例年とは違う。阪神大賞典や日経賞といった前哨戦で人気を集めたウマ娘たちは悉く敗れた。加えてゼンノロブロイやタップダンスシチー、去年の菊花賞を制したシグマレクイエムもいない。正直に言えば今回の天皇賞は本命不在と言わざるを得ない。ただ1人を除いては。

 

 例外、それはオーストラリア代表のクインテットシンガーである。そう、今回の天皇賞・春には同レース初めて海外ウマ娘が参戦する。一昨年、そして去年とオーストラリア最大のレース、メルボルンカップを連覇しているウマ娘であり、既にオーストラリア史上最高のステイヤーと呼び声高い。そんな彼女に挑むウマ娘達の中には、ソウルシャウトの名前もあった。

 

 

 

「お待たせしました」

 

 

 

 ディープはそう言いながら客席に戻ってきた。というのも控え室のレースを直前に控えたソウルシャウトに会いに行っていたのだ。

 

 今日は雨であることに加えて俺はトレーナーなのでわざわざ観客席ではなく関係者席でも観れると彼女に言ったのだが「一番近くで観たい」と言うので観客席にいる。しかしディープはもはや一般のウマ娘ではなくGIウマ娘であり、現在も観客からの視線が半端ではない。個人的に関係者席というものに憧れのようなものがあったので、どうせならそこで観たかった・・・・・・。

 

 しかしそれを中学生相手に態度に出したり、言葉にすれば野暮ってもんだし、はっきり言ってそれは大人気ないというものである。なので俺はそれをおくびにも出すことなくディープを出迎えた。

 

 

 

「会えた?」

 

「はい」

 

「どうだった?」

 

「元気でしたよ。『今日こそGI制覇だ!』って張り切ってました」

 

「そっか」

 

 

 

 そう言う彼女の表情はどこか頼りない。そして俺の方を見たり、控え室の方を見たり、はたまたコースの方を見てみたりと若干の挙動不審になっている。仲の良いどころか同室の先輩が

 

 

 

「あの・・・・・・」

 

「ん」

 

「どう思いますか? このレースって」

 

「誰が勝つかってこと?」

 

「はい」

 

 

 

 ソウルシャウトは勝てるかどうか、ディープインパクトはそうは言わなかった。

 

 

 

「本命不在と言っていい」

 

「え、でもオーストラリアから来たのは・・・・・・」

 

「クインテットシンガーは確かに注目されているが日本での前走を惨敗している。メルボルンカップ2連覇という実績こそあるが日本での適応に手こずっているようだ」

 

 

 

 そもそも海外のウマ娘が天皇賞・春に参戦すること自体、史上初のことだ。データのへったくれもない。前走だって京都ではなく中山の2000m、今回のレースはクインテットシンガーにとって距離以外の何もかもがぶっつけ本番なのだ。

 

 

 

「あとはヒシミラクルやエイブラハムといったところだけど、圧倒的と言うほどではないね。両方とも最近はハッとするような走りを見れていない。それに今回が本命不在であると同時に、なんでか最近の春天は荒れに荒れる」

 

「じゃあシャウト先輩も」

 

 

 

 先程まで伏せられていたディープの目がパッと輝く。しかし俺のトレーナーとしての一面は彼女の期待には応えられないと言う。そのまま言うべきかと考える。

 

 

 

「・・・・・・ディープは、勝てると思うか? ソウルシャウトが」

 

「はい!」

 

 

 

 彼女は即答してみせた。私は信じている、言葉にはなくとも雄弁に語るディープの表情を見て自分が恥ずかしくなってしまった。始まる前から負けると断じるなどあってはならない。1番人気が強さを見せる、最低人気が下剋上を果たす。どの可能性もあるからレースというのは面白いというのに。

 

 

 

「トレーナー失格だなぁ」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

「─と、こんなところでしょうカ」

 

 

 

 外国語訛りの日本語を話すその男はホワイトボードからペンを離す。控え室にはスーツの男と勝負服に身を包んだウマ娘、ソウルシャウトである。男はひどく緊張し、しきりに汗を拭ったり、上着を脱いだかと思えばまた着たりと忙しい様子を見せる。対してソウルシャウトの方はこの上なくつまらなさそうに男の話を聞いていた。

 

 

 

「アタシはとにかく終い勝負に持ち込めばいいんだね。いつもと同じじゃないか」

 

「お、おおむねはその通りデスが・・・・・・」

 

「オルピュールやツムギプロミネントあたりが引っ張ってくれるだろうし、スローペースにはならないから、でしょ?」

 

「ちゃ、ちゃんと聞いてくれてたんデスネ〜!!」

 

 

 

 男は目に涙を浮かべてウマ娘に抱きつこうとするが、ウマ娘はそれを苦もなくひっぺがす。傍目には成人男性が女子中学生に絡もうとしたところを見事な大外刈りで阻まれるという、きわめて情けない光景となっている。

 

 

 

「ひっつくな! 暑苦しい!」

 

「Parce que(だって)・・・・・・」

 

「フランス語は通じないってば」

 

 

 

 ソウルシャウトのトレーナーはディープインパクトのトレーナーと比べれば経験は長い。しかしながら彼女がそうであるようにトレーナーもまたGIタイトルを獲っていない。重賞制覇も彼女の

ソウルシャウトが距離適正を無視してでも天皇賞・春への出走を強行したのは、本命不在という前評判があったという事もそうだが、未だにGIウマ娘になれていないという焦りがそうさせた。

 

 しかし彼女の中の焦りは前までより確実に小さくなっていた。それは自分を「魅力的だ」と評してくれた存在であった。一時は「GIウマ娘ではない自分に価値などない」とまで考えていたソウルシャウトであったが、春のファン感謝祭での出来事を機に自分を支えてくれるトレーナーや決して少なくない応援してくれるファンの存在を再確認することとなった。

 

 

 

「だーいじょぶだよ。そんな重く構えなすんなって」

 

「え?」

 

「多分ここじゃ勝てないってみんな思ってるんだろ。アンタもそうじゃない? アタシですらそう思ってたんだから」

 

「え、えェェ・・・・・・」

 

「それでも!」

 

 

 担当からの弱気にも聞こえる発言にトレーナーは肩を落とす。しかしソウルシャウトの顔は負けを受け入れた者の顔ではなく、そこにあるのは他と何も変わらない、勝利への渇望があった。

 

 

 

「ダメ元なら端からやっちゃいない」

 

 

 

 

 

 雨粒が細かいからか向こう正面のスターティングゲートは霧がかって、普段なら真っ青であるはずの芝も白ずんで見える。5月の京都、天気予報でも20度を軽く超える気温だと予報されていたにも関わらず、暑さどころか寧ろ肌寒さすら感じる緊張感。ソウルシャウトが出走するとはいえ俺からすればほとんど関係のないレースであるにも関わらずだ。

 

 肉眼では出走ウマ娘の様子は見えないが、ターフビジョンで確認できる。アメリカ国旗のようなトリコロールカラーの勝負服が目立つ、鹿毛のウマ娘がクインテットシンガーか。イギリス生まれのオーストラリア育ちと紹介されていたのにアメリカ国旗を身に纏うなんてなかなかシニカルではないか、と思ったのだが、そのフリルが大量に散りばめられたアイドルのような勝負服の左胸には南十字星が刻まれていた。なるほど赤白の主張が強すぎてアメリカの国旗だと思ったのだが、これは間違いなくオーストラリアの国旗なのだ。

 

 

 

 いつものベージュのジャケットではなく紫紺のレインコートを着たURAの発走係員がスターター・スタンドカーの昇降機に乗って、まるで観客やウマ娘を焦らすほどにゆっくり上へ登っていく。

 

 全ての観客の視線を集めたスターターは真紅の旗を高らかに振り上げる。今日は雨だからか生の演奏ではなくターフビジョンから関西GIのファンファーレの音声が鳴り響く。音は雨粒や観客の傘に反射して普段より大きい音に聞こえてくる。

 

 そしてファンファーレのフィナーレ、雨にも関わらずその余韻すらも塗りつぶすような歓声が上がる。これはむしろ地鳴りのような類いのおとであった。

 

 

『8万人を超える大観衆、大きな声援が巻き起こりました。スタート地点のウマ娘たちの様子はどうでしょうか?』

 

『そうですね、比較的全員落ち着いている感じがしますね。特にアドマイヤグルーヴは大人になった印象がありますね』

 

『クインテットシンガーあたりはどんな感じですか?』

 

『平常心といった感じがします。異国の地とは思えないほど穏やかな感じです』

 

 

 

 リポーターと実況のやり取りの中でもほんの一言も「ソウルシャウト」という言葉は出てこなかった。彼女だけではない。有力とされるウマ娘やGIウマ娘以外には見向きもされない。

 

 

 

『そして大外枠、18番のマズルフラッシュのゲートインです』

 

 

 

 尤も彼女たちが見向いているものは戦前の評価などという、くだらないものではないと思う。いや、もちろん評価を多少気にしているウマ娘もいるだろうし、こんな身も蓋もない話は決してトレーナーとして口には出せないけれど、彼女たちが見ているものはたった3分先の未来である。

 

 

 

『いざ2マイルの先にある栄光へ、天皇賞!』

 

 

がこん。

 

 

 

 

『オルピュールが粘る粘る粘る! ツムギプロミネントは飲み込まれたか!』

 

 

 

 馬場が良とは言ったけど水を吸った芝だったからなのか、ここに来て脚がとられる。地面から手でも生えてきて文字通りアタシの脚を引っ張っているみたいだ。

 

 いや違う。やっぱりアタシには3200mを走れるだけの適性が無かったんだ。それかスタミナを増やすための努力は惜しまなかったつもりだけど、それが足りなかった。脚をとられるどころか視界が歪みだしている。そのせいで仕掛けどころを間違えた。もっと早く仕掛けるべきだった。

 

 おかげでコーナーで広がったバ群の大外も大外を通らなければならない。しかも内を選択した連中はまだ脚が残っているようだ。

 

 頭の中を「絶望」という二文字が埋め尽くす。

 

 

 

『しかし外から伸びる! 外からヒノモトユニコーン! 更にクインテットシンガー!』

 

 

 

 ぼやけた視界が赤や青を捉える。そういえばオーストラリアから強いウマ娘が来ると聞いていたけど、そんなウマ娘がアタシと同じような位置、少し前くらいのポジションにいる。彼女は歯を食いしばって、雨粒が走っている速度と同じだけの勢いで飛び込んでくるのも構わず目を精一杯見開いている。ゴールを見つめている。

 

 勝ちたいんだ。育ってきた国も、今まで掴んできたであろう栄光も関係なく、例えどんなに絶望的な状況でも目の前のレースで勝ちたいのだ。そんな当たり前のことをアタシは忘れかけていた。ここは負けても仕方ない、とどこかで思っていた。

 

 

 

『さらにその外からソウルシャウト!』

 

 

 

 ぱりっ

 

 そんな音が聞こえた気がした。負けるかも、という頭より先に身体が動いたのだ。負けたくないと、この状況に少しでも争おうと。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 恥も外聞もこんな泥まみれでは気にすることはないだろう。だから叫んだのだ、心のままに。大外なので観客にも聞こえていることだろう。だがそんなことはどうでもいい。前に遮るものが無いので空気抵抗をモロに受ける。決して風は強くないはずなのに向かい風の突風に晒されているようだ。

 

 

 

『内を割ってスズカマンボがやってきた! スズカマンボ!オルピュール!エキサイトアイズ!そしてトウショウナイト!! 』

 

『しかし勝ったのはスズカマンボです!』

 

 

 

 結局、届かなかった。

 

 勝ったのは私よりも人気していないウマ娘。2着も14番人気。逆に上位人気3人のほとんどは着外、1番人気のエイブラハムとアタシで5着争いであったが写真判定の結果、アタシの番号である16が着順掲示板の一番下に灯された。

 

 

 

「はぁっ・・・・・・!」

 

 

 

 思わず力が抜けるが倒れない。ここで倒れたらもう起き上がれない気がする。だから膝に手をつくだけに留めておく。菊花賞の7着を考えれば200m距離が伸びて入着もできたともなればそこまで悪くないようにも聞こえる。

 

 だけどアタシはただの末脚に任せて大外一気をかけただけ、謂わばゴリ押しだ。長い距離だったからロスを抑えられる走り方をすべきだったけどこの方法しか知らない。それに5着といっても先頭集団の4人とは結構離されていたのに対して、アタシの後ろは超絶がつくほどの混戦。最後の直線で少し前に出れたのは運と言っても差し支えない。

 

 

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁぁぁ・・・・・・」

 

 

 

 スタンドにいるであろうトレーナーを探そうと眼球だけを動かす。しかし彼よりも先に“アイツら”を見つけた。我が愛しのルームメイトのディープインパクトと、そのトレーナーだ。プイちゃんは私の方を見て、ひどく心配そうな顔をしている。まるで危険なスポーツをしている子どもの事を見てられない母親みたいだ。

 

 

 

「カッコ悪いとこ、見せちゃったかな・・・・・・」

 

 

 

 誰にも聞こえないようにそう呟く。後輩にあんな顔させるなんて先輩として情けない気持ちでいっぱいだった。だからこれはせめてもの先輩としてのカッコつけだ。

 

 

 

 左の胸を拳で強く叩いて、それを彼女のいる方へ突き出す。

 

 アンタは日本ダービーに出る。アタシが勝てなかった、あの一生に一度の舞台に。そして1番人気に支持されて、多分勝つんだ。アタシを置き去りにしたあの子のように。

 

 そうして多くのファンの、そしてウマ娘たちの夢を断ち切るんだ。でもそれでいい。アンタは悪役なんかじゃない。だってそれと同じくらいアンタ自身も多くの夢を背負って戦うんだから。

 

 それにあのとき負けたアタシ自身も、こうして走ってる。そしてこれからも走り続ける。だからきっと大丈夫だ。

 

 

 

 ぼやけた視界は、しかし確かに彼女が私に向かって拳を突き出したのをはっきりと捉えていた。

 

 




ネオユニヴァース実装されたしソウルシャウトを真名にしたい・・・。ご意見お待ちしております。
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