ディープインパクトと契約して数日、彼女についてわかったことがいくつかある。
近くでディープと話してみると、やはり小柄だということがわかる。背の高いウマ娘のパワーに押し負けることも考えられる程度には小さい。
しかし欠点だけではない。彼女の体は非常に柔らかいということもわかった。前屈すればかなり余裕な感じで足まで手がいくし、開脚した状態でお腹が床につく。股関節の柔軟性にプラスで腱の筋肉のつき方もバランスが素晴らしく、トモの作りも良いためバネのある走りが期待できる。マジで他のトレーナーは何やってたんだ。
しかし彼女には困った点が一つある。それは──
「ディープ、芝コースで走り込みだ。1800m。行けるところまででいいから、その代わり全力で」
「わかりました」
・・・・・・
「ディープ、今日はダートコースだ。あまり脚に負担をかけないようにしてくれ」
「わかりました」
・・・・・・
「ディープ、今日は」
「わかりました」
「言ってない。まだ練習内容を言ってないよディープ」
「あなたの指示に従うことは私の中で決まっていることなので」
「無茶振りされる可能性も考慮しないで何でもかんでも従うもんじゃありません。おかしいな? って思ったら、相手がトレーナーでもちゃんと言わなきゃダメだよ?」
「それでは今日のトレーニングは何を?」
「・・・・・・今日は、坂路。一本目は58秒台くらいで行けるか?」
「わかりました」
こんな具合で異議を唱える、みたいなことはなく、全て俺が言った通りにしてしまうことだ。これがウマ娘の育成のノウハウがわかっているようなトレーナーならそれがベストなのだが、繰り返すように俺は新人のトレーナーであって、自分の指導方針が正しいのかが自分でもよくわかっていないのだ。
ディープは非常に素直な子なので俺のトレーニングメニューに対して何の疑問もなく、メニューに沿ったトレーニングをしてくれる。他のトレーナーにもこのことについてアドバイスを求めようとはしたのだが、揃いも揃って『そんなに素直な子ならこちらが欲しい』としか言ってくれなかった。
つまり俺の指導、もしくはそれに準ずる行為が間違っていたとしても止める人はいないということだ。そのことはディープに牙を剥くことになるかもしれない。それは避けなければならない。
どうしたもんかと考えながらストップウォッチを手に取り、ホイッスルを咥える。そして坂の下にいるディープへ向けて声を張り上げる。
「行くよー!」
「はーい」
ホイッスルを吹くとディープが坂路を一気に駆け上がっていく。
・・・・・・やっぱりすごいな、バネが。坂路なのに軽やかだ。重力の枷があるようには見えない。にしてもちょっと58秒台は速すぎたかな。ジュニア級の子にやらせるタイムじゃないな。少し失敗した。
これは意図的なものではないが、俺は寧ろこれで良いと思った。俺が失敗することがあるとディープに間接的に伝えることができるだろう。こんなタイムは正直無茶振りだ。改めて考えると何してんだ俺。まぁ2本目以降は負荷がかかるから段々とタイムを緩くしていくからいいか。
ストップウォッチに目を落とし、そして先程彼女が走っていたあたりに目をやると、その場所に彼女の影は無く、
俺の目の前を鹿毛が通り過ぎた。
「タイムはどれくらいでしたか?」
「・・・・・・へっ?」
速すぎる。あまりにも。そんなディープを前に俺は素っ頓狂な声を出すしかなくて。そしてSTOPボタンを押すのが少し遅れてしまった。
「今の、タイムは、どれくらい、でしたか?」
「・・・・・・聞き取れなかったわけじゃないよディープ」
「ではどうしましたか」
00:54.31
デジタルストップウォッチの味気ない白黒の画面はこの馬鹿げた数字を示していた。かなりのハイペースとかそういう問題じゃない。ちょっと速いかな? って思うところから4秒も縮めてきたのだ。しかもこれは俺が押すのを遅れた上でのタイム。実際はこれより速いタイムだ。
明らかに俺が様子をおかしくしていたのか、流石にディープも首をこてん、と傾げて俺に聞いてくる。
「どうかしましたか?」
「・・・・・・あぁ、いや、凄く良いタイムだったから、ちょっと、びっくりしちゃって」
「それは良かったです」
「ほら、今のタイム」
「54秒ですか、少しペースを上げすぎましたね」
「ペースを上げすぎたって・・・・・・」
当の彼女はこれだけのタイムを出したにも関わらず、あの模擬レースの時と同じように汗一つかかず、息は一切乱さずにケロリとしていた。
━
これをディープに言うのは非常に心苦しいところだ。彼女のプライバシーを損ねることになり得ないからだ。俺の方針としてはレース以外のことについては出来るだけ干渉したくない。彼女の走りに影響を及ぼすかもしれない。しかしながらディープのことを何も知らない俺は彼女のことを知る必要があったのだ。
「ディープのことを知りたい。だから1日観察させてくれ。邪魔はしないから」
「いいですよ」
「え? マジ?」
「? ええ。マジ、ですよ」
「もっと難色を示されると思ったから意外で・・・・・・」
「断る理由が無いので」
「ほんとに無いの?」
「はい」
凄くあっさりと承諾された。俺が言うのもなんだが、ここまですんなりいかれると逆に「悩んだ時間を返せ」というディープからすればとばっちりもいいところな考えがふつふつと湧き上がる。
そして本日俺はディープをストーカーの如く、彼女にバレないように付け回す。万が一にもトレセン学園に侵入した不審者に間違われないようにトレーナーバッジはちゃんと付けておく。まぁ最近では偽物もネットで出回ってるというか、そもそも俺自身が就職浪人時代に頭をおかしくして買おうとしたこともあるので、バッジについては幾らでも誤魔化しが効くのであまり意味は無いかと思ったりもする。
早朝、秋から冬への移り変わり。まだ日も出ていないので死ぬほど寒い。
黒いソフト帽に黒いスーツ、赤いシャツに白ネクタイ、そしてアフロのカツラとサングラスをかけ、ココアシガレットを咥える。本当は吸ってもいいのだが、ハタチになったときに吸ってみたら咳き込んでしまったのでそこから煙草は吸ってない。
この学園にいる子らには探偵物語と言っても通じないのだろうが、偵察はこの格好に限る。
双眼鏡を構えて彼女のいる寮の部屋を観察する。観察か? これ。普通に女の子の部屋を覗いている。ただの犯罪行為だ。彼女に了承は得ているとは言えバレたらまずい状況でしかない。
「何見てるの?」
「あぁ。ちょっと気になった子を観察してるんだよ」
「それってもしかして、プイちゃんだったりする?」
プイちゃんって誰だよ(笑)みたいな返しをしようとしたところで、脳がようやく違和感に気づく。俺は誰と何を話している? いやそれよりこの状況をどう説明する?
横からの声だったので声の主が自分の横にいるというのはわかる。だが横を向けない。先程の声が俺の幻聴であるという希望を俺はまだ捨てたくなかった。だから俺は双眼鏡を構えたままでその声に問いかけた。
「ああああああああの」
「ん?」
「お、おお俺、何に見える・・・・・・?」
「ん。覗きをしてる変質者」
はっきり言われたなぁ。まぁ何も間違ってはいないのでセーフ。
俺の横にいたのは黒鹿毛っぽい髪に前髪には流星の入ったウマ娘がいた。見るからに気の強そうな顔立ちとショートカットが相まってボーイッシュな印象を受ける。音も立てずにどうやってここまで来たのか。
「1、1、0、っと」
「ま、待て! 天狗のお面をつけた人じゃないけど、それは判断が早いって! 俺はこの学園のトレーナーだ! 今こうしてたのは・・・・・・ちょっと用事があって」
「ふーん・・・・・・。それで、そのトレーナーが一体どういう用事でうちのプイちゃんを覗いていたのかな?」
「さっきから気になってたけどプイちゃんって誰だよ!」
「プイちゃんって言ったらディープインパクトちゃんに決まっているでしょ。アタシの大事な大事な後輩チャン」
「ちょっと待った。君はディープと知り合いなのか?」
「当然。我が愛しのルームメイトよん♡」
なんという偶然、とも思ったがルームメイトなら俺の偵察に気づいてここまで来たのかな。それで返答次第では俺のことを・・・・・・。
「アタシの質問に答えてもらってないよ。アンタはここでなにをしてたの? トレーナーだって信じるなら、プイちゃんの勧誘? でもお生憎様。あの子には運命の相手がいるよ。諦めるんだね」
「俺がその運命の相手、っつーのはどうかと思うけど、俺がディープのトレーナーなんだよ。最近契約したばかりで、あの子のことが知りたくてこんなことをしてる。ちゃんとディープからの承諾も取ってる」
「・・・・・・へぇ。アンタが」
隣にいるその子は眉間に皺を若干寄せている。そして耳も後ろの方にペタンと倒している。いわゆる耳を絞るってやつで、ウマ娘の緊張感が高まったときや、怒ったときになるそうだが生では初めて見た。
剣呑な雰囲気が漂う。俺はディープのことを知りたいだけだったのに何か変なことを言ったのか? 変なことは言ってないけど変なことはしてたかな。しかしどうする? 俺はこのまま殺されるのか。
「いやー! ごめんごめん。脅かしちゃったみたいで」
かと思ったら、その子はパッと耳を戻し、ニカっと笑ってみせた。なんなんだ一体。
「な、なんだってんだ。本気で怖かった・・・・・・」
「あの子さ、能力はあるのになかなかトレーナーつかなくてさー。だけど最近になってようやくトレーナーと契約できたって喜んでて、かと思ったらそのアンタが覗きをしてるのを見かけたからさ。ついイタズラしちゃいたくて」
「どういうことだよ? 俺がディープのトレーナーだって最初から知ってたってこと? 確か初対面だったよな?」
「まー直接見たことはなかったけど、プイちゃんが言ってた特徴から何となくあれかなぁ、って思ってた」
「もし違うトレーナーとかだったらどうするつもりだったんだよ・・・・・・。俺、今は工藤俊作の格好してるんだけど」
「そんな恐ろしいことを言わせないでよ」
「恐ろしいことをするつもりだったのかよ」
まぁ俺とてやってる事はそんな『恐ろしいこと』をされるに値することをしてたんだけどね。
「さっきも言ったけど、俺はあの子のことを知りたいからこんなことをしてる。ルームメイトなら色々教えてくれないか?」
「んー。ま、いいよ」
「ありがとう。君の名前は?」
「アタシはソウルシャウト。プイちゃんの1つ上」
「あぁ、たしか今年の──」
ダービーで2着だったよね。そう言おうとしたが、あまりにもデリカシーの欠く発言だと思われたのでやめた。
今年の日本ダービー、5月とは思えない暑さ、そして10着までのウマ娘がアイネスフウジンの持つ従来のレコードを更新するという、恐ろしいほどの高速決着。当然レースに出たウマ娘の負担は凄まじく、中には長期の休養、あるいは引退を強いられる怪我をしたウマ娘もいたという「死のダービー」彼女はそれで2着に入ってきたウマ娘だ。
そのことを言うのは少しアレだったのでなんとか記憶を辿る。ソウルシャウトという名前、そしてこれまで見てきたレースの結果とを繋ぎ合わせる。
「・・・・・・今年の神戸新聞杯に勝ってた子だよな?」
「残念。正確には京都新聞杯」
「うっそ・・・・・・」
「神戸の方にも出たけどダービーで負けた子にもう一度負けちゃったしね」
「あぁ・・・・・・なんか、ごめん」
「なんでアンタが謝るの。ほら行くよ!」
「え、行くってどこへ」
「アンタ寝ぼけてんの? プイちゃんもう寮を出たよ」
「マジ?」
ソウルシャウトが指差す方を見ると、確かにディープは鞄を持って歩いている。おしゃべりが長すぎたようだ。
━
学校、中等部1年の教室の外、コソコソとしているコスプレイヤーとウマ娘の姿がそこにはあった。
「あそこでスプーンを何個も折り曲げてる黄色の耳カバーを付けてる子がシンパシー、プイちゃんの右隣の席の子がマインハーベスト。メイクデビューではレコード、新潟2歳Sでも勝ってる重賞ウマ娘」
「あそこのハット被ってディープに弾き語り聴かせてる子は?」
「あの子はソルフィエスタ。海外旅行を何度もしてるらしいよ」
「なるほどな」
「あの子が仲良くしてる子たちはこんなところかな。わざわざアタシに聞かなくても、プイちゃんはアンタに教えてたと思うよ。随分気に入られているらしいからね。」
「俺が?」
「そうそう。部屋で話してるときも──」
「私のクラスの前で何をしておられるのですか。ソウルシャウト先輩」
ソウルシャウトの声を後ろから遮ったのは、栗毛をストレートに伸ばし、耳には青と水色のカバーを付けているウマ娘だった。
話しかけている相手はソウルシャウトであるはずだが、彼女の目線は確実に俺にある。学校に明らかな不審者がいるのだから好奇の目を向けるのは当然のことだ。もしかしたら蔑みかもしれないが。
「アジャパー、プイちゃんのトレーナーに色々教えてあげてたんだよ」
「そのように呼ぶのはやめてほしいと何度言えば・・・・・・はぁ。あの方にもトレーナーがようやくついたのでしたか? この方がその?」
「ディープインパクトのトレーナーだ」
「私はアドマイヤジャパンと申します。どうかお見知り置きを。名探偵さん」
「これが通じる相手がいたとは」
「何を模しているのかは存じております。幼少の頃に探偵物語の再放送を目にした記憶がありますので。しかしながら何故そのような格好で私たちの教室覗きをしているのか理解に苦しむところであります」
アドマイヤジャパンと呼ばれたそのウマ娘は少し古風な喋り方をしている。武士というよりかは昭和の軍人って感じ。
やっぱこんな格好じゃなくて普通の格好の方がよかったかな、とも思うがこの格好で探偵ごっこを一回やってみたかったんだよな。
「ただ単純にやってみたかった、ってのがこの格好をする理由だ。恥ずかしいこと言わせんな」
「・・・・・・申し訳ありません。そのような理由でこのコスプレをしてると思うと少し愉快で・・・・・・」
「それは俺もちょっと考えているよ」
「アタシもすごい気になってたんだよね。その服装。全然偵察に向いていない」
「今こうしているのはディープのトレーニング上、あの子のことを知る必要があると思ってやってる。アドマイヤジャパンといったかな、君もディープと仲が良いんだって?」
「・・・・・・あの方とはよくお話しをさせていただいています。ディープインパクトさんの走りは他の方とは一線を画すものと思います。みんなもトレーナーが付かないことを皆不思議がっていました。」
「アタシも不思議には思ってたさ。でもあの子は『走れればそれでいい』って言って、気にしていなかったんだよね」
「そうか」
単純にトレーナーたちの見る目が無かったと断じるのは簡単だが、そんなことを言えばこの子たちに付いているトレーナーに対して不信感を抱かせかねない。
それにディープが走れればそれでいいと言うなら、俺が手を出すようなことも必要なかったのかもしれない。俺は彼女にとって余計なことをしてしまったのだろうか。
「ディープについて何か知っていることはあるかな?」
「そうですね、友人は多い方ではないでしょうか。基本的には誰かといるところを目にします」
「ちょっと意外だな。こう言っちゃアレだけど、クールというか、孤高を好む感じだと思ってた」
「ディープさんは誰にでも気さくに応じてくれますよ」
「アンタの前だけなんじゃないの〜?プイちゃんがフレンドリーじゃないのって」
「それはちょっと考えたけど、はっきり言葉にするのやめて。大の大人が泣いてるのを見たいのか」
でもよくよく考えたら、契約してまだ数日しか経ってない相手にフレンドリーになるのも変な話・・・・・・なのか? 大抵2、3日くらい顔を合わせてたら自然と打ち解けるもんなんじゃないの?
しかし気さくで友達も多い、これはトレーニングでは知ることのできない情報だったかもしれない。
━
昼休み、俺とソウルシャウト、そして何故かついてきているアドマイヤジャパンと共に学食にいた。
俺は自分の分もあるので頼んではいないのだが、2人は昼食も兼ねてディープの観察に臨むようだ。
「あの、充分助かったから後は俺が・・・・・・」
「イヤだね! こんなところでほっぽり出すなんてつまらない。面白そうだし、特に予定もないし、最後まで付き合うよ」
「私も同じく」
「そう・・・・・・」
ディープの方に目をやると、やたらと大盛りの白飯が乗っている盆をテーブルに置いているところだった。そしておかず、ご飯、汁物を交互に、いわゆる三角食べをしていた。
俺も小学生の頃の、母に三角食べしろと言われてみたり、小学校の給食室ではそれを推奨するような文言が張り出されていた。あれって本当に意味あるのか?
「それにしても食う量が多いなぁ。いつもあれぐらい食ってんの?」
「そうですね。今日は寧ろ少ない方だと思います」
「ルームメイトだったら太ったーって言ってたりを聞いたりする?」
「あんま聞かないね。ていうかそれセクハラじゃないの?」
「体重管理も俺の仕事だからな。しゃーない」
「わかってる。冗談だよ」
そうこう話してるとディープと同じテーブルにもう2人座ってきた。そのうちの1人はなんと、かの有名なスペシャルウィークだった。天皇賞春秋連覇や凱旋門賞ウマ娘のブロワイエを倒したジャパンカップなどGI4勝を挙げ、現在はドリームトロフィーリーグで活躍している、強豪チームスピカのメンバーだ。
もう1人はあまり見ない青毛のウマ娘だ。左耳に耳飾りを付けているのでティアラ路線なのだろう。
「あの子は?」
「知らないの!? スペシャルウィーク先輩を」
「そっちは知ってる。もう1人の方」
「あぁ。あの子ね」
「見たことないんだが、スペシャルウィークと関係してるのか?」
「あれはヴァイオラさんです。私たちの世代でも特に有望視されている方です」
「有望?」
「デビュー前にも関わらずチームスピカに勧誘されているらしくて、その中でもスペシャルウィーク先輩に気に入られているらしいです。切れ味のある末脚と土壇場での勝負根性が脅威だと聞きます。かく言う私も彼女と走ってみたい・・・・・・!」
「そうか。だからスペシャルウィークもあそこにいるのか」
彼女らの前でディープは非常に柔らかく笑っていた。俺にはあまり見せない顔だ。スペシャルウィークもヴァイオラもつられながら談笑していた。
━
その後ディープの周りには次から次へと色んなウマ娘たちが現れた。今年の秋華賞を勝ったスイープトウショウが来たときにはソウルシャウトが抱きつこうと追いかけ回すというアクシデントもあったが、今日一日でできることは粗方やったと思う。
「2人のおかげでディープのことを色々知ることができたよ」
「お気になさらず。彼女ほどの実力があるならいずれクラシックでぶつかるでしょうし、その情報収集にもなりましたので」
「アタシはプイちゃんのことならなんでも知ってるからね!」
「じゃあ、お疲れ様。2人ともトレーニング頑張ってね。今日は本当にありがとう」
「ねぇ・・・・・・」
「ん?」
アドマイヤジャパンが行ったところでソウルシャウトに、ディープと同じように裾を掴まれる。どうせウマ娘の力に敵うはずはないので今回は下手にジタバタしない。
今まで快活に笑っていたソウルシャウトが信じられないほど静かな声を出す。
「どうした?」
「プイちゃんを、見つけてくれて、ありがとうね・・・・・・」
「才能を見つけ出すのも俺らトレーナーの仕事だからな」
「プイちゃんのこと、頼むね」
「・・・・・・当然だ」
そう言うと重機に繋がれているのかと錯覚するくらいの不自由感から解放される。後ろを振り向くとそこには誰もいなかった。
━
トレーナー室へ戻ると、既にジャージを着たディープが座っていた。俺がここへ戻るのを待っていたのだろうか。
「トレーナーさん。待っていました」
「ごめん、・・・・・・何を待ってたの?」
「今日一日私を観察すると言ってました。トレーナーさんがどこにいるかは全くわからなかったですけど・・・・・・」
「嘘でしょ」
自分のルームメイトと級友が不審者と一緒にいたってのに気がつかないものなのだろうか。
「・・・・・・ソウルシャウトに会ったよ。それからアドマイヤジャパンにも」
「えっ! シャウト先輩とジャパンちゃんが・・・・・・! 何か私の恥ずかしいこととか、言ってないですよね!?」
「お、落ち着けって、そういうのはなかったよ」
「良かった・・・・・・」
何か恥ずかしいことがあるのか。そう聞いてみたい気もしたが、そうすれば最後、うまぴょい警察に連行されるハメになる。
ディープがこのように狼狽える姿もまた初めて見ることができた。今日はこの子について新しいことをたくさん知ることができた。
「観察してみてどうでしたか?」
「そうだな・・・・・・君には、友達がいっぱいいるんだな。ディープ」
「?」
「君の周りには多くのウマ娘がいた。ソウルシャウトもアドマイヤジャパンも、両方ともいい子だ。君の周りにいた子たちもそうなんじゃないかと思うよ。君の素直な人柄に惹かれたんだろう。俺もその1人だ」
「・・・・・・」
「俺は君がその素直さから、なんでも俺の言うことを聞いてしまうのを問題だと考えた。確かにそれはそうなのかもしれないが、これは紛れもなく君の良さだと思う」
「私の・・・・・・」
「君がそうあるなら、俺も君に隠し事はしたくない。俺はディープと嘘偽りのない関係でいたい。だからディープも自分自身がどうしたいのかを隠さず俺に話してほしい。それはレースのことでも、レース以外のことでもなんでもいい。恋愛相談はやめてほしいけど」
自分が中学1年生の頃など覚えてはいないほどの昔のことだ。そんな歳の子にこんな風に話すのは少し恥ずかしいけれど、彼女がそうであるように、俺も彼女に対して素直で誠実でなければならないと思った。
俺が言い終わるとディープは少し戸惑ったような表情をとった。しかしその後俺に向けた彼女の表情は、食堂でスペシャルウィークやヴァイオラと話していた時のような柔和な笑顔だった。
「・・・・・・はい。約束ですね」
「あぁ。そうだな」
彼女が差し出してきた小指に俺は自身の小指を絡める。彼女の指は俺のものより小さかった。
「では、トレーニングに行きましょうか」
「あぁ、待った。あともうひとつだけ」
「なんでしょう?」
「デビュー戦が決まった。12月19日、阪神の2000mだ」
・ヴァイオラって名前の馬がいることを書き終わった後に知った・・・・・・
・ウマ娘に実装されいているウマ娘と同じ冠名を持つ馬名はそのまま、実装されていない馬主の馬は若干変えていこうと思います。
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