退廃の祝福を受けた者   作:暇が欲しい一般人

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入学式

 四月、国立魔法大学付属第一高等学校の入学式の日。

 第一高校の校門前で二人の男女が言い争っていた。

 誰もが認める可憐な美少女とピンと伸びた背筋と鋭い目つき以外、平凡な容姿の男。

 そして、そんな二人の傍で二人を見守る絶世の美少女。

 艶やかな癖の無い黒髪は膝の辺りまであり、宝石のように美しい赤い瞳、日の光にさらされたことの無いかのような白い肌をしている。

 その美貌は言葉にできず、近くで言い争いをしている二人の男女の存在を忘れさせるほどに美しかった。

 そのために、多くの視線を集めているが、一切気にした様子もなく二人の言い争いを見守っていた。

 

 

 

「納得できません!」

「まだ言っているのか?」

「何故お兄様が補欠なのですか?入試の成績はトップだったじゃありませんか!」

「深雪、魔法科学校なんだから、ペーパーテストより魔法実技の結果が優先されるのは当然じゃないか。自分じゃあ、二科生とは言えよくここに受かったものだと、驚いてるんだけどね」

「それに、どうして私が新入生総代なのですか!本来ならば私ではなく、お姉様が務めるべきですのに!」

 

 二人の言い争いを見守っていると、飛び火して来た。

 深雪は視線を私に向けながら食って掛かる。

 私は肩を竦めて深雪の言葉に返した。

 

「深雪の成績が私より良かったからでしょう」

「それはお姉様が私に新入生総代を譲るために手を抜いたからではないですか!」

「あら?私は手なんて抜いてないわよ」

「嘘です!」

「嘘じゃないわよ。全力でやった結果よ」

 

 実際に私は入試で一切手を抜いていない。

 しかし、それで深雪が納得するとは思えない。

 なので、私は深雪に近づいて頭を撫でながら説得する。

 

「深雪、テストで測られるなんて本当に一部の物でしかないのよ。それはあなたもよく分かっているでしょ」

「……はい」

「良い子ね。ほら、達也に挨拶して行ってきなさい」

「はい、お姉様」

 

(納得はしてないだろうけど、これ以上は何も言わないでしょう)

 

 それから少し達也といちゃついた後、深雪は会釈して講堂に向かった。

 深雪が講堂に向かったのを確認して達也がこちらに視線を向ける。

 

「さて、美咲。どうやって時間を潰す?」

「私は持ってきた本を読んで潰すわ」

 

 私は持ってきた紙の本を達也に見せながら返す。

 

「美咲は相変わらず、本は紙媒体なんだな」

「電子書籍も読みはするわよ。けど、紙媒体が一番落ち着くのよ」

「そうか。なら、どこか座れる場所を探そうか」

「道案内よろしくね」

 

 携帯端末に表示された構内図を見ながら歩く達也の後ろについて行く。

 しばらく、歩き回りベンチの置かれた中庭にたどり着いた。

 私はベンチに座ると、本を取り出して読み始める。

 しばらくの間、本を読むことに集中していると声を掛けられた。

 

「新入生ですね?開場の時間ですよ」

 

 私が本から視線を上げると、少女が立っていた。

 少女に私が視線を向けて少しして、隣の達也が返事をした。

 

「ありがとうございます。すぐに行きます」

 

 そういうと達也は携帯端末を片付ける。

 しかし、少女は達也の携帯端末を見て口を開いた。

 

「感心ですね、スクリーン型ですか」

 

 私も本を片付けながら少女の話を聞いた。

 どうやら、仮想型ディスプレイ端末は禁止されているそうだ。

 

(初めて知った)

 

 それから少女が達也と少し話した後、思い出したかのように自己紹介を始めた。

 

「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています、七草真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくね」

 

(なるほど、七草ね。私達の名前聞いたらどんな反応するのかしら?)

 

 七草会長の自己紹介を聞いて、私は微笑んだ。

 隣の達也は思わず顔をしかめそうになっているが、気にせずに私は名乗り返す。

 

「私は四葉美咲です」

「俺、いえ、自分は四葉達也です」

「そう、あなた達が四葉家の」

 

 目を丸くして驚いた後、すぐに表情を戻したが明らかに警戒している。

 思った以上に驚きが少ないってことは、前もって私達のことは知ってたみたいね。

 まあ、四葉が三人も入学してくるとなれば警戒もするわよね。

 

「私達のことを知っているみたいですね」

「ええ、先生方の間では、あなた達の噂で持ちきりよ」

「あら、どんな噂なのか聞いても良いでしょうか?」

 

 私の問いに七草会長は少し間を開けて答えてくれた。

 

「そうね。達也君は、入試試験、七教科平均、百点満点中九十六点。特に圧巻だったのは魔法理論と魔法工学。合格者の平均が七十点に満たないのに、両教科とも小論文を含めて文句なしの満点。前代未聞の高得点だって」

「あら、達也。すごいじゃない」

「ペーパーテストの成績です。情報システムの中だけの話ですよ」

「相変わらずですね」

 

(素直に喜べばいいのに)

 

 私は肩を竦めて呟いた後、視線を七草会長に戻す。

 

「それで、私の噂は?」

「美咲さんは……試験を舐めてるんじゃないかって先生方が呆れていました」

「嫌ですね。舐めてなんていませんよ、ちゃんと本気でやりましたから」

「……七教科全て六十六点。実技の成績は新入生総代の深雪さんと全く同じ結果。これで舐めてないと言うんですか?」

「はい、ただの偶然ですよ」

 

 七草会長だけでなく隣の達也からも呆れた視線が向けられるが、無視して微笑む。

 それ以上何も言わず、偶然で押し通す私に七草会長がため息をついた。

 

「そろそろ時間なので、失礼します」

「失礼します」

 

 七草会長の返事を待たずに背を向けて歩き出す。

 七草会長から離れて少しすると、達也が話しかけて来た。

 

「試験本気でやったんじゃなかったのか?」

「ええ、やりましたよ。全教科で六十六点を取る点数調整と、実技での計測値を深雪と完全に同じすることに全力を尽くしました」

「それは試験で手を抜いたってことじゃないのか?」

「いいえ。あの程度の試験で出された数値に意味がないことを証明しただけですよ」

「なぜ、そんなことを?」

 

 達也に視線を向けると表情は変わってないが、興味があるようだ。

 そんな達也の目を見て微笑んで口を開く。

 

「達也のことを思って、と言って欲しいですか?」

「そんな都合の良い嘘はいい。美咲の本心を聞いている」

「ふふ、主目的じゃなかっただけで嘘ではないですよ。従弟のことを心配しないほど、私は薄情ではありませんよ」

 

 私の冗談に真剣な目で返してくる達也に微笑み。

 視線を達也から外して進行方向に向ける。

 

「あの程度の試験の結果で威張ってる人達と一緒にされたくなかったんですよ。団栗の背比べに付き合ってあげるほど、私は優しくないですよ」

 

 私の言葉に対して達也から何も返事が無かった。

 その後、すぐに私達は講堂に着いた。

 講堂の中に入れば、前半分が一科生、後ろ半分が二科生に分かれて座っていた。

 座席を指定されているわけでもないのに、自然と別れているのだ。

 

「本当に呆れるわよね」

「美咲は前に座るんだよな」

「あら?私は達也の隣に座るけど、もしかして前に座りたいの?」

 

 確認で聞いているはずなのに、決まっているかのように言ってくる達也に前半分を指さしながら問い返す。

 微笑んで問いかける私に、説得は無理と諦めたのかため息をついて後ろに向かう。

 私も達也について後ろに向かった。

 中央に近い空いた席に二人で並んで座る。

 まだ、時間があるので椅子に深く座り、目を瞑る。

 私達が席に座って少しすると、達也が座っている方から声を掛けられた。

 

「あの、お隣は空いていますか?」

「どうぞ」

 

 どうやら私が座っている反対側の席に座りたかったようだ。

 薄目を開けて横目で見れば四人の女子が並んで座る。

 まあ、これ以上関わってくることもないでしょう。

 私がもう一度目を瞑ると、達也に声を掛けた女子がまた声を掛けていた。

 

「あの、私、柴田美月っていいます。よろしくお願いします」

「四葉達也です。こちらこそよろしく」

 

 美月は四葉という名前を聞いて一気に顔を青くした。

 まあ、四葉に良い印象が無いから美月の反応は仕方がないだろう。

 達也もそれが分かっているためか、少しどうしようか困っているようだ。

 

「達也、女の子を怖がらせるんじゃないわよ」

「美咲……」

 

 別に達也が悪いわけではないが、流石に可哀想なので話に参加する。

 

「私は四葉美咲。ごめんなさい、従弟が怖がらせてしまって」

「いえ、その、四葉さんが悪いわけでは……」

「そんなに怖がらなくても何もしないわよ。それに四葉じゃ、どっちのことか分からないから、名前でいいわよ」

「えっと、その勝手に怖がってすみません」

「気にしなくていいわよ。怖がられたくらいで怒ったりしないから」

 

 私が美月に優しく微笑んで言うが、美月は私のことを直視しようとしない。

 眼鏡をかけているってことは、霊子放射光過敏症かな。

 

(私がどう見えてるんだろう?)

 

 美月にどう見えているか少し気になったが、美月の隣に座っている女子が話に入ってくる。

 

「あなた達が今年入学した四葉家三人の内の二人ね。あたしは千葉エリカ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしく」

「よろしく」

 

 私と達也がエリカに返事をすると、エリカが私の胸のエンブレムを見て問いかけて来る。

 

「達也君は分かるんだけど、美咲はどうして後ろに座ってるの?」

「達也が後ろに座るって言うからよ」

「……え?それだけ?」

「それだけよ」

 

 私の答えに美月とエリカは目を見開いて驚く。

 二人は何をそんなに驚いているんでしょう。

 

「一科生だから前に座ろうとか、思わないの?」

「私は一科生や二科生なんて括りに興味はありませんから」

「へえ、意外ね」

「そうかしら?」

「何かもっと差別意識が強いのかと思ってたから」

 

 やっぱり、ここの学生は試験の結果なんてものに囚われてるのね。

 

「そうね。ここの人達は差別意識が強いみたいだから、仕方ないのかもね」

 

 私はエリカ達から一瞬だけ視線を外して、講堂内を一瞥する。

 

「試験で人の全てが測れるなんて勘違いも良いところね」

「けど、試験で魔法力は測れるじゃない。魔法力は魔法師の実力を測るものでしょ?」

「魔法力が高くても魔法師の技術が低ければ、何の意味もないでしょ?」

「まあ、確かにそうね」

「だから、驕ってる馬鹿はいずれ痛い目を見るでしょうね」

「うわー」

 

 私が微笑みながら言うと、エリカが苦笑する。

 エリカ達と話していると、入学式が始まった。

 深雪の答辞以外を聞き流していると、あっという間に入学式が終わった。


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