退廃の祝福を受けた者   作:暇が欲しい一般人

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一科生と二科生

 入学式が終わり、IDカードを受け取る。

 私のクラスはA組で、達也と美月、エリカの三人はE組のようだ。

 

「どうする?あたしらもホームルームへ行ってみる?」

「それは私を仲間外れにするってこと?」

「そんなつもりはないけど」

「冗談よ」

 

 私の問いに対してエリカは少し困った表情をしたので、冗談だと微笑みながら言ってあげる。

 達也は私の隣で首を横に振り、エリカの誘いを断る。

 

「悪い。俺達は妹と待ち合わせているんだ」

「そういうこと」

「ああ、新入生総代の子か」

「妹さんということは、双子なんですか?」

「よく訊かれるけど、双子じゃないよ。俺が四月生まれで妹が三月生まれなんだ」

「私は達也と深雪の従姉」

 

 達也の説明に一応私のことを付け足して置く。

 エリカと美月は納得したような顔をして話を続ける。

 

「私は美咲の妹だと思ったんだけど、達也君の妹なんだ」

「よく言われるわ。けど、私と深雪は外見が似ているだけなのよ」

「そうですね。美咲さんのオーラとは似てないようですね」

「柴田さん、オーラの表情が分かるなんて、本当に目が良いんだね」

 

 達也の言葉に柴田さんが目を見開いて下を向いてしまった。

 そんな脅すようなことしなくてもいいのに。

 

「お兄様、お姉様、お待たせ致しました」

「早かったね」

 

 達也が深雪に返して、背後の同行者に視線を向ける。

 私も達也と同じように同行者に視線を向けた。

 

「こんにちは、また会いましたね」

 

 同行者の一人は入学式前に会った七草会長。

 人懐っこい笑顔をした七草会長のあいさつに、達也は無言で頭を下げる。

 私は関係ないと、黙って見守る。

 

「お兄様、その方達は?」

 

 どうやら深雪は七草会長達のことより、私達と一緒に居る女子の方が気になったらしい。

 

「こちらが柴田美月さん。そしてこちらが千葉エリカさん。同じクラスなんだ」

 

 達也は深雪に美月とエリカのことを紹介する。

 

「そうですか……早速、クラスメイトとデートですか?」

 

 深雪は可愛らしく小首を傾げて微笑むが、目が笑っていない。

 ストレスが溜まっているのかもしれないが、私が一緒にいるのだからデートではないでしょうに。

 

「深雪、私がいること忘れてないわよね?」

「お姉様も一緒にデートされていたのですか?」

 

(ああ、ダメね。かなりストレスが溜まっているみたい)

 

 私は肩を竦めてため息をつく。

 達也もやれやれといった表情で深雪に注意する。

 

「そんなわけないだろ、深雪。お前を待っている間話していただけだ。そういう言い方は失礼だろ」

「申し訳ありません。はじめまして、四葉深雪です」

「柴田美月です。こちらこそよろしくお願いします」

「あたしは千葉エリカ。エリカでいいわ。深雪って呼んでいい?」

「ええ、どうぞ」

 

 問題なさそうね。

 私が深雪達を見ていると、達也が口を開いた。

 

「深雪。生徒会の方々の用は済んだのか?」

「大丈夫ですよ」

 

 達也の問いに対して、七草会長が返事をした。

 私達が七草会長に視線を向けると、七草会長は話を続ける。

 

「今日はご挨拶させていただいただけですから。深雪さん、詳しいお話はまた、日を改めて」

 

 七草会長の隣の男子生徒が何か言っているが、七草会長は気にせずに話を続ける。

 

「それでは深雪さん、今日はこれで。美咲さんと達也君もいずれまた、ゆっくりと」

 

 会釈して七草会長が立ち去る。

 その背後に続く男子生徒が振り返って達也を睨んでいたが、達也は気にして無いようだし無視しておこう。

 

「さて、帰りましょうか」

 

 その後、私達はエリカに連れられてケーキ屋によって家に帰った。

 平均を大きく上回る広さの家に、私達は三人で暮らしている。

 帰ってすぐに自分の部屋に戻り、制服を脱ぐ。

 そして普段来ている着物に着替える。

 黒を基調として赤い彼岸花の刺繍が入った着物。

 着物が一番落ち着くので、基本的に私服は全て着物。

 着替え終えてリビングに戻ると、達也と深雪がいちゃついていた。

 

「相変わらず、仲が良いわね」

 

 この二人に何を言っても意味がないと分かっているので、それ以上何も言わずにソファーに腰を下ろす。

 私が降りて来てすぐに、深雪は夕食の支度に台所に向かった。

 その日は三人でいつも通り過ごした。

 

 

 

 高校生二日目もいつもと同じように起きてリビングに降りる。

 トレーナー姿の達也と制服姿の深雪がいた。

 そして深雪の手にはバスケットが握られていた。

 

「あら?深雪も一緒に行くの?」

「はい。先生に進学のご報告をしに」

「ああ、そういうこと……少し待っていて、私も制服に着替えて来るから」

「分かった」

 

 二人に声を掛けて私はすぐに自分の部屋に戻って制服に着替える。

 そして急いで、リビングに戻る。

 

「お待たせ、行きましょうか」

 

 

 

 まだ少し肌寒い早朝に長い髪とスカートの裾をなびかせながら、深雪がローラーブレードで坂道を滑り上る。

 その隣を達也が走って併走する。

 二人とも時速六十キロ近い速度で坂道を上っていく。

 そんな二人の前を後ろ向きの状態でブーツで滑りながら見守る。

 十分程度で目的の場所に着いた。

 目的の場所は小高い丘の上にある寺。

 達也は山門をくぐるなり、約二十人の僧兵と稽古を始めた。

 正確には約二十人の僧兵が総掛かりで達也に襲い掛かっている。

 

「美咲君、深雪君。久しぶりだねぇ」

 

 達也の様子を見ていると、死角から唐突に陽気な声がかけられた。

 

「九重先生、お久しぶりです」

「先生。気配を消して忍び寄らないで下さいと、何度も申し上げておりますのに……」

「僕はシノビだからね。忍び寄るのは性みたいなものなんだけど」

 

 綺麗に髪を剃り上げ細身の身体に墨染めの衣を着た九重先生に深雪が抗議する。

 深雪と話している九重先生を見ながらゆっくりと気配を空気に馴染ませる。

 気配を空気と完全に同化させるころには、九重先生は際限なくテンションを上げ、深雪にジリジリと詰め寄っていく。

 そんな九重先生の死角に回り込み、身体能力だけで出せる最高速の手刀を頭に振り下ろす。

 しかし、九重先生は私の手刀を綺麗に躱して見せた。

 

「やるね、美咲君。完璧に気配を消せていたよ」

「その割には、私の動きが見えているようでしたけど」

 

 九重先生の誉め言葉に対して私は不満を隠さずに返す。

 九重先生は笑顔のまま薄っすらと目を開いて私を見る。

 

「残念だけど、僕は美咲君から意識を逸らさないようにしてるからね」

「少しくらい逸らしてくれないと、隠れられないじゃないですか」

「君の美貌から目を逸らすなんてもったいないじゃないか」

 

 九重先生に言われると嘘に聞こえない。

 いや、嘘ではないのかもしれないが、一番の理由ではないでしょう。

 一番の理由は私のことを警戒しているからなのかな。

 私が不満そうな顔で九重先生を見ていると、突然振り返り達也の手刀を受け止める。

 

「やるね、達也君。僕の背中をとると、はっ!」

 

(私にばかり意識を向けてるからそうなるのよ)

 

 達也と九重先生の組手を見ながら心の中で愚痴る。

 組手は達也が九重先生にボコボコにされて終わる。

 その後、九重先生と一緒に四人で深雪が作った朝食を食べて、家に戻り登校の準備をする。

 登校すると、達也とはクラスが違うので分かれて深雪と一緒にA組の教室に向かう。

 教室に入ると、すでに登校していたクラスメイトの視線が集まるが気にせずに自分の席を探す。

 私は深雪の前に座り、後ろを向いて深雪と雑談を始める。

 

「あの、四葉さ、あぁっ!?」

 

 雑談している私達の席の横で女子生徒が一人倒れた。

 倒れる前、私達に声を掛けようとしていたようだが、何か用があったのだろうか。

 

「大丈夫ですか?」

 

 私が女子生徒の様子を見ていると、深雪が手を差し伸べた。

 

「あ、ありがとう」

「どういたしまして、あの……」

「み、光井です。光井ほのかです」

「四葉深雪です。仲良くしてくださいね」

「こちらこそ」

 

(流石、深雪ね)

 

 深雪の行動に感心していると、私の前の席に座る女子生徒が話に入ってくる。

 

「すみません、四葉さん。この子ちょっとおっちょこちょいなもので」

「酷い、雫。確かに、ちょっと失敗したけど……」

「あの、こちらは?」

「北山雫です。お名前はかねがね」

 

 こっちの子はしっかりしているようね。

 

「私も話に入れて貰っていいかしら?」

「は、はい。大丈夫です」

「えっと、貴方は?」

「四葉美咲、深雪の従姉よ。四葉だと分かりにくいから美咲で良いわ」

「私も深雪って呼んでください」

 

 私の問いにほのかは驚きながらも返してくれた。

 冷静に問い返してきた雫に名乗る。

 その後、オリエンテーションを聞き流して履修登録を済ませる。

 オリエンテーションが終わってすぐに、私は気配を消して教室を出ていく。

 

(授業の見学なんて退屈だし、どこか読書できる場所を探そっと)

 

 実際に行われている授業の見学をさぼり、たまたま見つけた木陰のベンチに座って読書を始める。

 今日は長時間読書をする気でいたので、紙媒体の本ではなく携帯端末の電子書籍で読書をする。

 邪魔が入らないように気配を空気と同化させて読書に集中する。

 

 あまりに集中していたため、気が付いたら夕方になっていた。

 やってしまったと、ため息をついて教室に戻り荷物を持って校門に向かう。

 

(深雪達待たせちゃったかな?)

 

 深雪達に悪いことをしたなと思って言うと、校門前で騒いでいる集団が見えた。

 よく見てみると、深雪と達也、美月、エリカに男子生徒が一科生ともめているようだ。

 

「ほのか、雫。あれ、なにしてるの?」

「美咲。その、彼らが深雪とお兄さんが一緒に邪魔しているみたい」

 

 ちょうど、近くで様子を見ていた雫とほのかに近づいて問いかける。

 返って来た内容は何とも馬鹿らしいことだった。

 

「そう。ありがとう」

 

 私はもめている一科生と二科生の間に移動して口を開いた。

 

「あなた達、邪魔だからさっさと帰りなさい」

「そうだ。四葉さん、もっと言ってやってください」

 

 私の言葉に一科生の男子生徒が続く。

 その男子生徒に視線を向けて私はため息をつく。

 

「あなた、何言ってるの?私が言ってるのはあなた達のことよ」

「……え?」

 

 私の言葉に一科生の全員が意味が分からないという顔をする。

 

「分からない?なら、もう一度言うわね。あなた達、邪魔だからさっさと帰りなさい」

 

 ごみを見るような目で彼らを見てはっきりというと、先ほど私の言葉に続いた男子生徒が口を開いた。

 

「どうして、そいつらウィードじゃなくて、僕達ブルームが帰らないといけないんだ!」

「ふふ、あなた本当に馬鹿よね」

「なっ!?」

「大した魔法力もないし、頭も悪い。その上、周りだけでなく相手のことさえ見えてない。一科生だなんてくだらないことで優越感に浸る。私に言わせれば、あなた達と二科生に差なんて無いわよ」

 

 先ほどまで、達也達を見下していた彼らを微笑みながら見下す。

 二科生と同列の扱いをされたことで彼らの顔に怒りの表情が浮かぶ。

 それを私は笑って見下し続ける。

 

「どうしたの?あなた達がしていたように、自分より弱い人を見下しているだけよ?何か文句があるの?」

「そういう四葉さんも従妹の深雪さんより魔法力が弱いじゃないか!」

 

 どうやら、彼は私が新入生総代でなかったために深雪より弱いと思っているようだ。

 だから、試験結果の数値だけでしか判断できない彼らは馬鹿なのだ。

 

「あら?あの程度の試験で点数調整が出来ないとでも思ってるの?私の実技の結果は深雪と全く同じ数値、ペーパーテストは全教科六十六点。先生達に確認すれば教えてくれると思うわよ」

「そ、そんな馬鹿な……。ありえない、失敗すれば不合格になっていたかもしれないのに……」

「失敗?私が本気で調整したのよ。失敗するわけないでしょ」

 

 彼らのように傲慢に上から見下ろす。

 二科生を見下して優越感に浸っている彼らに私を見下すほどの力など無い。

 

「分かったらさっさと帰りなさい、ウィード」

「僕はブルームだ!」

 

 男子生徒は小型拳銃を模した特化型CADの銃口を私に向ける。

 

(馬鹿にされた程度で魔法攻撃とは、本物の馬鹿ね)

 

 私は男子生徒の行動に微笑み。

 雫とほのかを除いた一科生に殺気を放つ。

 精神干渉系魔法など使わずに、私は殺気だけで彼らの精神に死のイメージを刷り込む。

 

「ひっ!?」

 

 あまりの恐怖に男子生徒は私に向けた特化型CADを地面に落とす。

 

(彼らの価値観をここで徹底的に壊してしまいましょうか)

 

 死の恐怖で後ずさる彼らに微笑みながら近づこうとしたら、後ろから肩を掴まれた。

 振り返ると、達也が私の肩を掴んでいた。

 

「美咲、そのくらいにしておけ」

「……そう、達也がそれで良いなら良いわ」

 

 被害者である達也に止められたのなら、これ以上私が彼らを追い詰めるわけにはいかない。

 私の言葉に達也が肩から手を放す。

 そして「帰りましょうか」と言おうとした時、後ろから聞いたことある声が聞こえて来た。

 

「あなた達、なにしてるの!」

 

 後ろを向いて声の主を確認すると、七草会長ともう一人女子生徒がこちらに向かって来ていた。

 未遂とは言え、人相手に魔法を使おうとした馬鹿に校門前でこれだけ騒いでいれば生徒会も飛んでくるわけね。

 

「達也、後よろしく」

「はあ、分かった」

 

 七草会長達の相手を達也に任せる。

 話を聞いていると、七草会長と一緒に来たのは渡辺摩利という名前で風紀委員長らしい。

 達也曰く、先ほどの男子生徒の魔法を見学していると、勘違いした私が割り込んで来てもめていたらしい。

 先ほど、急遽任せたのによくもそこまで嘘が付ける。

 七草会長はともかく、渡辺先輩はかなり疑っているようだ。

 それでも七草会長が不問にしたため、渡辺先輩も今回は不問にするようだ。

 その後、先ほどまでもめていた一科生の男子生徒が達也を認めないなどと宣言して帰っていった。

 

(あの馬鹿は死なないと治らないわね)

 

「あの、光井ほのかです。一緒に帰ってもいいですか?」

 

 もめていた一科生達が帰った後、ほのかが達也に一緒に帰る許可を求め。

 達也達が了承したので、雫とほのかも一緒に帰ることになった。

 帰り始めてすぐに、エリカが先ほどのこと話題にする。

 

「いやー。美咲、すごかったわね。あれが四葉の風格ってやつ?」

「本当に驚きました。昨日と違ってすごい迫力でしたから、別人なのかと思いました」

 

 昨日の入学式から仲良くなったエリカと美月の二人が私を意外そうな目で見る。

 

「別に、彼らと同じことをしただけよ。それに四葉は関係ないと思うのだけど」

「そういえば、さっきあいつらに何したの?何か魔法でも使ったの?」

「普通に殺気をぶつけただけよ。魔法は使ってないわ」

 

 エリカの問いに答えると、達也と深雪以外の何とも言えない視線が集まる。

 そんなに変なことだろうか。

 

「そういえば、お姉様」

「ん?何かしら」

「先ほど、入試試験で点数調整をされたと言っていましたよね」

「あっ」

 

 そういえば、深雪には点数調整をしたなんて言ってなかった。

 その点数調整で深雪に新入生総代の座を譲っている。

 このままでは確実にお説教をされる。

 

「それに、朝から夕方までどちらに行っていらしたのですか?」

 

 そういえば、夕方まで隠れて読書をしていたのだった。

 しかも、深雪に何も言わずに勝手に姿を消している。

 ただでさえ長いお説教がさらに長くなる予感を感じ取り、達也に視線で助けを求める。

 しかし、達也は視線を逸らして私の救援を無視した。

 

(裏切者!さっき助けてあげたでしょう!)

 

「お姉様、帰ったらじっくり聞かせてもらいますね」

「……はい」

 

 自業自得なのは分かっているが、誰か助けてくれないだろうか。

 誰も助けてくれないことを悟り、肩を落として弱弱しく返事をする。

 家に帰った後、深雪のお説教は達也が止めるまで続いた。

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