退廃の祝福を受けた者   作:暇が欲しい一般人

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ブランシュ殲滅

 壬生先輩の後を追って一階に行くと、エリカが壬生先輩を気絶させていた。

 話を聞く相手に意識がないのでは何も聞けないので、達也に壬生先輩を保健室まで運ばせる。

 壬生先輩を保健室に運んだ後は、意識が戻り次第事情聴取が始まった。

 事情聴取は、七草会長、渡辺先輩、十文字先輩の生徒首脳陣が勢揃いしていた。

 壬生先輩は仲間に引き込まれたところから話してくれた。

 話の内容に七草先輩と十文字先輩は、予想以上に時間を掛けて準備していたことに驚いていたが、渡辺先輩は違うことに驚いていた。

 

「すまん、心当たりが無いんだが……」

 

 目を白黒させている渡辺先輩に、エリカが棘のある視線を向ける。

 だが渡辺先輩に、その視線を意識する余裕はなさそうだ。

 

「壬生、それは本当か?」

 

 渡辺先輩に問われ、壬生先輩は少し俯いた後に顔を上げて話始めた。

 去年の勧誘週間の際に渡辺先輩の魔法剣技を見て指導をお願いしたが、すげなくあしらわれたそうだ。

 しかし、渡辺先輩はすげなくあしらったりはしてないらしい。

 二人の話がかみ合っていないと言うことは、渡辺先輩との記憶も改ざんされていそうね。

 壬生先輩は渡辺先輩に言われて、何を言われたか思い出したようだ。

 

「じゃあ……あたしの誤解……だったんですか……?」

「いいえ、違いますよ」

「え……?」

 

 壬生先輩の言葉を即答で否定した私に全員の視線が集中する。

 

「違うとは、どういうことだ?」

「そのままの意味です。記憶違いは壬生先輩の勘違いではなく、何者かに思考を誘導されていたか、記憶を改ざんされていたからです」

 

 先ほどの特別閲覧室での話で達也は予想していたようだが、深雪は渡辺先輩達と一緒に驚いている。

 

「どうしてそう言い切れる」

「達也、特別閲覧室でのことを話して」

 

 達也に説明を丸投げすると、小さくため息をつかれた。

 

(壬生先輩について話した時の記憶を消してるんだから仕方ないじゃない)

 

 達也のため息に対して心の中で言い訳しながら達也の説明を聞く。

 壬生先輩も達也の話を聞いて、渡辺先輩の時と同じようにポカンとした表情で固まってしまう。

 達也の説明が終わったので、私が続ける。

 

「分かってもらえたと思いますが、壬生先輩はかなり記憶を改ざんされています。他の生徒も思考を誘導されている可能性が高いでしょう」

「分かった。拘束した生徒に検査を受けさせるように手配しておく」

 

 私の言葉に十文字先輩がどこかに連絡をする。

 それを一瞥して壬生先輩に話しかける。

 

「壬生先輩、改めて言います。他人の評価を気にするあなたに、剣の才能はありません。これから先、辛く苦しい練習を続けても剣を極めることは出来ないでしょう」

「ちょっと、美咲!」

 

 今回の事件で記憶を改ざんされ、利用されたことを知って精神的に弱っている壬生先輩に対する私の言葉にエリカが止めようとしてくるのを振り切って、止めを刺すように続ける。

 

「辛い思いをする前に、やめた方が良いですよ」

「美咲!何言ってるの!」

「エリカ、黙ってて」

 

 私の肩を掴んで睨みつけて来るエリカに、視線だけを向けて何でもないように返す。

 エリカは訳が分からないと言いたげな顔をするが、深雪がエリカを落ち着かせるように私から引き離す。

 深雪を一瞥して視線を壬生先輩に戻す。

 

「四葉さんの言う通りかもしれないわね。二科生だから私の剣が侮られるのが許せないなんて……私の剣が評価されて当然だって言っているようなものだものね。私が思い上がってただけで、私に才能なんてなかったのよね……」

「では、剣をやめるのですか?」

「頑張っても無駄なんでしょ……なら、やめた方がいいじゃない……」

「はあー」

 

 俯いて悔しそうに言う壬生先輩に私は呆れてため息をつく。

 後ろでエリカが騒いでいるが、気にせずに話を続ける。

 

「私の言ったことは何も分かってないようですね」

「……え?」

 

 私の言葉に意味が分からないと言った顔で壬生先輩が私を見る。

 

「言いましたよね。他人の評価を気にしているようではだめだと、それなのに今度は私の評価を気にして剣をやめるんですか?」

「!?」

 

 私の言葉に壬生先輩が目を丸くする。

 

「私に才能がないと言われて悔しかったのでしょう。あなたの剣に対する思いは、辛く苦しい修行が嫌で逃げる程度の物なのですか?もし違うなら、見返して見せなさい。私が否定した才能で、剣を極めてみせなさい」

 

 言いたいことを全て言い終えた私は、未だに目を丸くして固まっている壬生先輩を放置して達也に視線を向ける。

 後のことは達也に丸投げすれば大丈夫でしょう。

 深雪とエリカの傍に行くと、エリカが話しかけて来る。

 

「随分と酷い言い方ね」

「優しく言っても壬生先輩のためにならないでしょ。それに嫌なことや辛いことの方が記憶に残りやすいのよ」

 

 エリカに微笑みながら返すと、エリカも微笑んでくる。

 

「ねえ、壬生先輩にあんなこと言ったってことは、美咲は剣を極めてるの?」

「ええ、お姉様は剣だけでなく、武術関係全般を極めているのよ」

「……」

 

 エリカの問いに対して私が答える前に、深雪が自分のことのように誇らしげに答える。

 深雪の答えを聞いてエリカは好戦的な微笑みを浮かべた後、何か面白いことを思いついたようで深雪に問いかける。

 

「じゃあ、達也君と美咲が戦ったらどっちが勝つと思う?」

「……お姉様以外にお兄様に勝てる者はいないと断言できるけど、流石のお兄様もお姉様には勝てないわ」

「深雪が勝てないって言うってことは本当なんだ」

 

 エリカの問いに深雪は何とも言えない微妙な顔で返す。

 深雪の反応に本当のことなのだと分かったようで、エリカが苦笑する。

 

「魔法も武術も出来るって、美咲って出来ないことないんじゃないの?」

「私にも出来ないことはあるわよ。そもそも昔は運動苦手で、少し全力で走ると酸欠で倒れるくらい体力なかったのよ」

「嘘!?」

「そうだったんですか?」

 

 昔のことを話すとエリカだけでなく、深雪も目を丸くして私を見て来る。

 子供の頃は深雪とは関りが少なかったから知らなくても仕方がないかな。

 

「魔法の才能は昔から得意だったけど、運動は本当に苦手だったのよ。今度達也に聞いてみるといいわ、達也なら昔の私のことを知ってるから」

 

 エリカと深雪は視線を達也に向ける。

 私も達也に視線を向けると、ちょうど壬生先輩を落ち着かせたようだ。

 落ち着いた壬生先輩から今回の背後にブランシュがいることを話してくれた。

 

「問題は、ブランシュが今どこに居るのかね」

「美咲さん、まさか、彼らと一戦交えるつもりなの?」

「違いますよ、七草会長。ブランシュを潰しに行くんです」

 

 おそるおそる問いかけて来る七草会長に、何でもないように返す。

 

「危険だ!学生の分を越えている!」

「私も反対よ。学外のことは警察に任せるべきだわ」

 

 渡辺先輩と七草会長に反対され、私が返す前に達也が口を開いた。

 

「そして壬生先輩を、強盗未遂で家裁送りにするんですか?」

 

 達也の一言で二人は顔を強張らせて絶句してしまった。

 私が何かを言う必要はなくなったが、私とは違う理由だったので少し微妙な気分だ。

 

「なるほど、警察の介入は好ましくない。だからといって、このまま放置することも出来ない。同じような事件を起こさない為にはな。だがな、四葉」

 

 十文字先輩が私と達也を見ながら続ける。

 

「相手はテロリストだ。下手をすれば命に関わる。俺も七草も渡辺も、当校の生徒に、命を掛けろとは言えん」

「そうでしょうね。そもそも、最初から力を借りるつもりはありません」

「四葉に援軍を頼むつもりか?」

「いいえ、援軍を頼む必要はないでしょう」

「……まさか、一人で行くつもりか?」

「私としては、そうしたいのですが……」

 

 十文字先輩は私の言葉に少し驚いていたようだ。

 そして十文字先輩の問いに対して私が視線を深雪や達也に向けると。

 

「お供します」

「俺も行く」

 

 予想通り、二人は行くと言い出すと思っていた。

 そして視線をエリカとレオに向けると。

 

「あたしも行くわ」

「俺もだ」

 

 やっぱり、参戦するようだ。

 彼らの言葉に私は小さくため息をつく。

 

「四葉さん、もしもあたしのためだったら、お願いだからやめて頂戴。会長の仰るとおり、警察に任せましょう?あたしは平気。罰を受けるだけのことをしたんだから。それより、あたしのせいで四葉さん達に何かあったら、そっちの方が耐えられない」

「壬生先輩のためではありませんよ」

 

 慌てて止めようとする壬生先輩を冷たく突き放して黙らせる。

 

「私は誰かの為ではなく、私自身が気に入らないから潰しに行くんです。個人的だからこそ、誰の力も借りるつもりはないんですよ」

 

 私の言葉に全員が一瞬だけ黙るが、達也達はすぐに口を開いた。

 

「俺も、俺と深雪、美咲の日常を損なおうとするものを駆除しに行くだけだ」

「私も私の為にお姉様について行きます」

「好きにすれば良いわよ。それよりも達也、ブランシュの拠点に心当たりはある?」

 

 達也にブランシュの拠点について問いかけると、達也は出入り口の扉に視線を向けながら口を開いた。

 

「拠点の場所は分からないが、知っている人なら知っている」

「そう。なら、その人に聞きましょうか」

 

 私も達也と同じように出入り口の扉に視線を向けると、達也が扉を開いた。

 

「小野先生?」

 

 七草先輩の声に、困惑交じりの曖昧の表情を浮かべたのは、先ほど会った小野先生だ。

 

「……九重先生秘蔵の弟子から隠れ遂せようなんて、やっぱり、甘かったか……」

「隠れているつもりもなかったでしょうに。あんまり嘘ばかりついていると、その内、自分の本心さえも分からなくなりますよ」

「気を付けておくわ」

 

 達也と小野先生がどうでもいいことを話していたので、小野先生に話しかける。

 

「小野先生。早速ですが、ブランシュの拠点を教えて貰えますか?」

「嫌だっと言ったら、どうするんですか?」

「ご想像にお任せしますよ」

 

 こちらの出方をうかがう問いに微笑んで返す。

 ここで嫌だと言われたら、手荒な手段で聞き出すだけで大した差はない。

 テロリストの肩を持つようなことをするのだから、それくらいの覚悟はしてもらいたいね。

 

「分かりました。地図を出してもらえないかしら。その方が早いから」

 

 小野先生の言葉に達也が無言で情報端末を取り出した。

 小野先生も情報端末を取り出し、座標データを送信する。

 座標データに従い、地図上にマーカーが光る。

 

「……目と鼻の先じゃねえか」

「……舐められたものね」

 

 レオとエリカが憤慨しているように、徒歩でもここから一時間掛からない距離だ。

 

「場所も分かったことだし、さっさと行きましょうか」

「車は、俺が用意しよう」

「え?十文字君も行くの?」

 

 十文字先輩の言葉に私が視線を向けると、七草会長が私と同じ疑問を先に問いかける。

 

「十師族に名を連ねる十文字家の者として、これは当然の務めだ。だがそれ以上に、俺もまた一高の生徒として、この事態を看過することはできん。下級生ばかりに任せておくわけにもいかん」

「……じゃあ」

「七草。お前はダメだ」

「真由美。この状態で、生徒会長が不在になるのは拙い」

「……了解よ」

 

 生徒会長は大変そうね。

 

「でも、それだったら摩利、貴女もダメよ。残党がまだ校内に隠れているかもしれないんだから。風紀委員長に抜けられたら困るわ」

 

 風紀委員長も大変だったみたいね。

 

「四葉、すぐに行くのか?このままでは夜間戦闘になりかねないが」

「そんなに時間は掛かりませんよ。日が沈む前には終わります」

「そうか」

 

 十文字先輩はそれ以上何も訊かず、車を回す、と言い残して保健室を出て行った。

 

「私達も行きましょうか」

 

 十文字先輩が出て行ってすぐに、私も保健室を出た。

 十文字先輩が用意した車に乗ると、助手席に追加メンバーがいた。

 達也が桐原先輩と呼んだ追加メンバーは、達也に話しかけていたが気にせずに目的地に着くのを黙って待つ。

 

 レオが十文字先輩が用意した大型オフローダーに硬化魔法を掛け、閉鎖された工場の門扉を突き破った。

 

「レオ、ご苦労さん」

「……何の。チョロイぜ」

「疲れてる疲れてる」

 

 衝突のタイミングで大型車全体を硬化するというハイレベルな魔法を要求されたレオは、集中力の多大な消費にかなりへばっていた。

 

「四葉、どうする?」

「達也、指示を出しなさい。早くしないと私一人で行くわよ」

「はあ、分かった。レオとエリカは、ここで逃げ出そうとする奴の始末。会頭は桐原先輩と左手を迂回して裏口へ回ってください。俺と深雪、美咲は、このまま踏み込みます」

「分かった」

「まあいいさ。逃げ出すネズミは残らず斬り捨ててやるぜ」

 

 達也の指示を聞いて桐原先輩と十文字先輩が裏口に向かう。

 それを見送って私達も工場の中へ進む。

 遭遇は意外に早かった。

 相手がホール状のフロアに隠れもせず、整列して待っていたからだ。

 

「ようこそ、はじめまして、四葉美咲君!そしてそちらのお二人は、達也君と深雪君かな?」

「あなたがブランシュのリーダー?」

 

 大袈裟な仕草で手を広げ、歓迎のポーズを取った男に対して、冷ややかな視線を向けて問いかける。

 

「おお、これは失敬。仰せのとおり、僕がブランシュ日本支部のリーダー、司一だ」

「そうですか」

 

 自己陶酔の気がある口調と仕草はどうかと思うが、一応テロリストのリーダーのようだ。

 私の斜め後ろで達也がショルダーケースから銀色のCADを抜いて、司一に向ける。

 

「一応、投降の勧告をしておく。全員、武器を捨てて両手を頭の後ろに組め」

「ハハハハハ、魔法が絶対的な力だと思っているなら、大きな勘違いだよ」

 

 達也の勧告に対して司一が右手を上げると、左右に並ぶ、総勢二十人を超えるブランシュのメンバーが一斉に銃器を構えた。

 

「四葉美咲君、我々の仲間になり給え。君の従弟である達也君のアンティナイトを必要としないキャスト・ジャミングは非常に興味深い技術だ」

「私は達也を従わせる道具ではないのだけど」

「もちろん、君の力も我々にとってはとても貴重だ」

「そう。まあ、あなたに従うつもりはないわ」

「そうか。……では、仕方ない」

 

 手品師のような仕草でメガネを投げ捨て、前髪をかき上げて正面から目を合わせる。

 

「四葉美咲、我が同士になるがいい!」

 

 その言葉と同時に司一の両眼が妖しく光を放った。

 

「ハハハハハハ、君はもう、我々の仲間だ!」

「あなた、馬鹿なの?」

「なっ!?」

 

 馬鹿みたいに騒ぐ司一に冷ややかな視線を向けて問いかけると、目を見開いて私を見て来る。

 

「壬生先輩の記憶も、これですり替えたの?」

「……貴様、何故……」

「あなたがどんな小細工をしようが私には関係ないのよ」

「バカな……そんなことが……」

 

 司一の呻くような声を聞いて私は嘲笑うように微笑んで返す。

 

「あら?あなたが言ったのよ。魔法が絶対的な力だと思っているなら、大きな勘違いだと。魔法が私に通じると勘違いしていた、お馬鹿さん」

「……貴様、一体……」

「それをあなたが知る必要はないわ」

 

 嘲笑うように微笑み、冷ややかな視線を向けて返してやると、威厳を取り繕う余裕を完全に失った。

 

「う、撃て、撃てぇ!」

「な、な……」

「何だこれは!?何が起こったんだ!?」

 

 達也が拳銃、サブマシンガン、アサルトライフルを分解したことで、部品が床に散乱している。

 テロリスト達は武器が部品に戻ったことにパニックを起こした。

 パニックの中、司一は鎮めようともせずに逃げ出した。

 

「お姉様、お兄様、追ってください。ここは私が」

「分かったわ」

 

 私と達也が奥の通路へ向かって歩き出すと、自然と人垣が割れた。

 私達が司一を追おうとすると、背後でブランシュの一人がナイフで襲い掛かってきたようだ。

 それを深雪が撃退したようだが、気にせずに司一の後を追う。

 達也と深雪が何か話していたようだが、気にせずに先に進む。

 私は司一の後を何も警戒せずに進んでいく。

 

「待て、美咲」

「待ち伏せでしょう。気にしなくていいわよ」

 

 達也の注意を聞き流して次の部屋に足を踏み入れる。

 私が部屋に入ると同時に大量の銃弾が襲ってくる。

 そのすべての銃弾が私に触れる直前で塵になる。

 少しの間続いた銃撃は、達也がテロリストの武器を分解したことで止んだ。

 

「もう終わり?なら、殺していいかしら?」

 

 私がため息をついて問いかけると、司一はテロリストたちに何かを命令して狂ったような笑い声をあげる。

 

「どうだい、魔法師?本物のキャスト・ジャミングは?」

「特に何もないけど」

 

 そもそも相手が悪い。

 私の退廃と達也の分解はキャスト・ジャミングを無効化出来る。

 私達を一般人が止める手段なんてあるのかしら。

 

「これが切り札ならもういいわよね」

 

 司一の返事を待たずに司一以外のメンバーに強烈な殺気を放つ。

 体が塵になったと錯覚するほどの殺気に、司一以外の全員が倒れる。

 

「へぇ?」

 

 司一の間抜けな声を嘲笑い微笑んで、話しかける。

 

「あなたには特別に魔法を使ってあげるわ。精神干渉魔法をね」

「や、やめ」

 

 司一の言葉も聞かずに精神干渉魔法で死ぬまで消えない恐怖を精神に刻み込む。

 自殺されたら面白くないため、死に対しての恐怖を何十倍にも強めに刻む。

 精神に消えなに恐怖を刻み込まれたことで声にならない悲鳴を上げながら一心不乱に逃げていく司一の背中を見て微笑む。

 

「無様ね」

 

 司一が逃げて行った方の壁が切り開かれ、桐原先輩が現れた。

 どうやら、裏口からここまで道を切り開いてきたようだ。

 

「よぉ。コイツらをやったのは、お前らか?」

「ええ、そうですよ」

「流石だな。それで、こいつは?」

 

 怯えた顔で壁に張り付く男に蔑みの目を向けて聞いて来る。

 

「それが、ブランシュのリーダー、司一です」

「こいつが……?」

 

 私が桐原先輩の問いに答えると、桐原先輩は物凄い怒気を全身から放った。

 

「こいつか!壬生を誑かしやがったのは!」

「ひいぃぃぃぃぃ!」

 

 桐原先輩は高周波ブレードで、司一の右腕を肘から切り落とした。

 

「達也、戻るわよ」

「ああ」

 

 司一を放置して私は元来た道を引き返す。

 今回の後始末は十文字先輩に任せて、私達はさっさと家に帰る。

 家に帰っていつも通り部屋で着物に着替え、深雪の夕食を食べた後、自分の部屋に戻る。

 そして部屋の壁をスクリーンにして電話を掛ける。

 

「夜遅くにすみません、お母様」

『構わないわ。それで、どうしたのかしら?』

「すでにご存知とは思いますが、一高を襲撃したブランシュの件についての報告です」

『ええ、知っていますよ。その件については、後日葉山さんに聞きに行ってもらうつもりだったのだけど、その必要はなさそうね』

「……そうでしたか」

『早速、報告をお願い』

 

 お母様の言葉に私は今回の事件の詳細を報告する。

 そしてブランシュの日本支部を先ほど潰してきたことも付け加える。

 

「最後に、ブランシュ日本支部リーダーの司一ですが、精神干渉魔法で恐怖を刻み込んでおきました。死ぬことも出来ず、生き地獄を味わうことになるでしょう」

『そう。ご苦労様、美咲』

「ありがとうございます、お母様」

 

 お母様に労われたことに対して、満面の笑みでお礼を返すと、お母様も嬉しそうに微笑む。

 

『それで、何かあったの?』

「……何かとは?」

『美咲が報告のために自分から連絡してくるとは思えないもの。何か他に事象があるのでしょう』

「………………」

 

 流石、お母様。

 私の考えなどお見通しのようね。

 お母様の部屋に葉山さんがいないことを確認して口を開く。

 

「ちょっとした、ホームシックです」

『あら』

 

 口に出して言うと、急に恥ずかしくなってきた。

 それにお母様のどこか嬉しそうな声を聞くと、余計に恥ずかしい。

 

『美咲もホームシックになることがあるのね。初めて知ったわ』

「……私も初めて知りました。こんなに長い間、家を離れたことがありませんでしたから」

 

 こんな思いをするくらいなら、本家から通える学校にすればよかった。

 

『けど、どうしてホームシックになったのかしら?達也さんや深雪さんと一緒に住んでいるのでしょう』

「その達也と深雪が原因の一端です」

 

 私の言葉にお母様はよく分からないというように首を傾げる。

 

「あの二人、四六時中いちゃついているんですよ。仲が良いのは良いですが、私が居るのに二人だけのような空気を頻繁に出すんですよ。私はお母様や葉山さんと話す機会が減って寂しいのに……」

『あら、そうなのね。なら、今度から寂しい時は電話してきなさい』

「良いんですか?」

『ええ、私も美咲と話せると嬉しいもの』

「それでは、今日はもう遅いので、明日の夜また電話します」

『そう。では、また明日』

「はい。おやすみなさい、お母様」

『ええ、おやすみなさい、美咲』

 

 通話が切れたのを確認して布団に飛び込む。

 明日のお母様との電話を楽しみにしながら眠りにつく。

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