退廃の祝福を受けた者   作:暇が欲しい一般人

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投稿、遅くなって申し訳ありません。
しばらく、忙しい日が続くので、次の投稿も遅くなると思います。
投降ペースは遅いですが、読んでいただけると嬉しいです。


九校戦の準備

 先週、一学期の定期試験が終わり、生徒達の熱意は夏の九校戦に向いていた。

 

定期試験の結果

総合

一位:A組・四葉美咲

二位:A組・四葉深雪

三位:A組・光井ほのか

 

実技

一位:A組・四葉美咲

二位:A組・四葉深雪

三位:A組・北山雫

 

理論

一位:A組・四葉美咲

二位:E組・四葉達也

三位:A組・四葉深雪

 

 結果から言えば、私一人が異常な高得点をたたき出した。

 今回は点数調整などせずに本気を出したのだから当然の結果なのだ。

 深雪も頑張っていたけど、頑張ってどうこうなる問題ではない。

 そもそも私は完全記憶能力を持っているから、知識が問われる問題で間違えることはない。

 私に勝ちたいのなら、理論で達也を超えるところからだ。

 私としては試験結果の上位の大半を四葉が独占したことだ。

 達也は実技で好成績を出せない以上、完全な独占が出来ないのは仕方がない。

 

 試験の結果、私と深雪は九校戦の選手に内定した。

 そのため、夜に九重先生のお寺で深雪のトレーニングに付き合っている。

 境内の一角で九重先生の『鬼火』を追いかけて短い杖で両断していく。

 飛び回るスピードは深雪に合わせているが、それでも鬼火を両断した数は倍以上に差が出ている。

 理由は単純で、滞空時間の差だけ。

 深雪の動きを観察しながら鬼火を追いかけていると、達也が休憩の合図を出す。

 

「おつかれ、深雪」

「お、お疲れ様です、お姉様」

「一回の跳躍で効率よく点を取れるようになって来たわね」

「いえ、今のままではお姉様には遠く及びません」

「私を目標にしても意味が無いわよ」

 

 目標にしてくれるのは嬉しいけど、これに関して完全に無駄でしかない。

 開始以降一度も地面に足をつけなかった私と比べても意味はない。

 

「美咲君の言う通りだよ。そもそも飛行魔法を使える美咲君がおかしいんだから、気にする必要はないよ」

「深雪、師匠の言う通りだ。ミラージ・バットは、飛行魔法を使える美咲の方が有利なんだ。あまり気にする必要はない」

「私も飛行魔法を使えればいいのですが……」

「三人とも、あれは飛行魔法ではないといってるでしょう」

 

 一定の時間で終了するように条件付けた魔法で浮遊、魔法の重ね掛けで移動してるだけ。

 ここまでなら誰にでもできるけど、私は浮遊の魔法が終了した後、フラッシュ・キャストで記憶領域から起動式を呼び出し再実行している。

 CADから起動式を呼び出す時間を省いた私の魔法は5ms程度で発動する。

 重ね掛けも十五、六回は出来る。

 仮に魔法が終了する前に重ね掛けの限界が来ても、退廃で魔法式全てを消滅させて一瞬で発動させれば問題ない。

 退廃を除いたとしても、私のようにフラッシュ・キャストと圧倒的な処理速度を組み合わせなければ出来ない。

 普通の魔法師が出来る浮遊と移動魔法を力技で途切れることなく連続して魔法を使っているに過ぎない。

 これを飛行魔法と呼ぶのは、流石に間違っているでしょう。

 

「それより、深雪。今夜はここまでにする?」

 

 私の問いに対して、深雪は達也から受け取ったドリンクを一口飲んで首を横に振った。

 

「もしお姉様と先生がよろしければ、もう少し身体を動かしておきたいんですが」

「私は構わないわよ」

「僕も構わないよ。なんなら達也君も一緒に『鬼火』を追いかけてみるかい?」

「いや、俺は……止めておきます」

 

 九重先生がニヤリと浮かべた笑みの意味を察したのか、達也は九重先生の誘いを断った。

 普段の達也なら受けたかもしれないけど、今は深雪のトレーニングを優先したみたいね。

 

「そうか、いや、残念」

 

 残念そうな顔を浮かべた後、深雪へ向き直った。

 トレーニングを再開しようとした時、達也が口を開いた。

 

「誰だ」

 

 達也が声を発したことで、何の気配も無かった暗闇から人の気配が現れた。

 トレーニングに気を取られていたとはいえ、気が付かなかった。

 気配を感じ取るのは苦手だけど、もっと頑張らないといけないわね。

 

「おや、遥君」

 

 その気配へ、九重先生が気安く声を掛けると、小野先生が暗闇から出て来た。

 

「先生はともかく、四葉君に気づかれるとは思いませんでした」

「彼の目を誤魔化したかったら、気配を消すんじゃなくて、気配を偽らなきゃ」

 

 九重先生を先生と呼ぶってことは、私達と同じように九重先生の弟子なのかな。

 

「なぜ、小野先生がこんなところに?」

「警戒しなくても大丈夫だよ。遥君は僕の教え子だ」

「お邪魔してごめんなさい。ミラージ・バットの練習みたいだったけど、四葉さん達、九校戦に出場するの?」

「正解、深雪君はミラージ・バットとアイス・ピラーズ・ブレイクに、美咲君はアイス・ピラーズ・ブレイクとバトル・ボードに出場するんだよ」

「二種目に出場、すごいわね」

 

 はあ、九重先生にも困ったものね。

 話しても問題ないことだけど、私達に確認もなく簡単に教えるなんて。

 まあ、後のことは達也に任せておけば問題ないでしょう。

 

 翌日の昼休み、生徒会室で七草会長はかなり元気がなさそうだった。

 最近、生徒会の仕事も忙しかったが、七草会長は九校戦の選手決めなどで大変そうだ。

 

「選手の方は十文字君が協力したから、何とか決まったんだけど、問題なのはエンジニアよ……」

 

 かなり深刻そうね。

 私もCADを必要としてないから、CADの調整は苦手なのよねぇ。

 理論だけなら、達也に負けないくらい出来る自信はあるんだけど……。

 そんなことを考えていると、達也が腰を浮かせた。

 

「あの、だったら四葉君が良いんじゃないでしょうか。深雪さんと美咲さんのCADは四葉君が調整しているそうですし」

 

 逃げようとした達也を、中条先輩の言葉が止める。

 まあ、中条先輩が止めなくても、私が逃がす気はなかったけどねぇ。

 

「盲点だったわ!」

「そうか、私としたことがうっかりしていた」

 

 生気が戻った七草会長と渡辺先輩も達也を逃がすつもりはないようだ。

 

「一年生が技術スタッフになった例は過去に無いのでは?」

「何でも最初は初めてよ」

「前例は覆すためにあるんだ」

「進歩的なお二人は一年生の、それも二科生、しかも俺は色々と悪目立ちしていますし。CADの調整は、魔法師との信頼関係が重要です。選手の反発を買うような人選はどうかと思いますが……」

 

 流石、達也ね。

 七草会長と渡辺先輩も反論が出来ずに困っているみたいだし、二人だけだと達也の説得は大変そうね。

 まあ、私は説得するつもりはないけどねぇ。

 

「達也、技術スタッフに入りなさい」

「美咲……、美咲の命令でも今回ばかりは簡単には聞けないぞ」

「達也が言っていることに間違いはないわよ。けれど、私と深雪は信頼関係に問題はないでしょう。それに、達也の技術力は四葉が保証するわ。四葉の技術力に不満があるなら、他のスタッフに頼めばいいだけでしょう」

「…………」

 

 一高の二科生の技術力に不満を言うのは簡単なことでしょうけど、十師族の四葉家が保証した技術力に対して不満を言えるものなど、他の十師族くらいでしょう。

 四葉が保証した技術力でも二科生が信用できない選手がいるなら、他のスタッフに調整を任せれば良い。

 

「わ、私は九校戦でも、お兄様にCADを調整していただきたいのですが……ダメでしょうか?」

 

 私だけでも反論できずに困っている状態だったのに、深雪にも裏切られては達也の逃げ道は完全になくなった。

 

「そういうことなので、達也を技術スタッフに加えていただけますか?七草会長」

「え、ええ、大丈夫よ」

「それでは、何か反論があった場合は私が対処しますね」

「あまりやり過ぎないでね」

「分かりました」

 

 流石に、四葉の名前を出したせいで、七草会長の笑顔が少し引きつっている。

 まあ、達也の技術スタッフ入りが確実になったのだから、些細なことは気にしないでおこう。

 

 昼休みの残り時間を生徒会室で過ごしていると、達也がシルバー・ホーンを取り出した。

 先ほどのやり取りで多少ストレスが溜まったのだろう。

 けど、中条先輩の前でCADを取り出して大丈夫なのだろうか?

 

「あっ、今日はシルバー・ホーンを持って来てるんですね」

 

 どうやら大丈夫ではなかったようね。

 さっきまで課題で唸っていた中条先輩が嬉しそうに達也に近づく。

 達也がトーラス・シルバーに関して下手に情報を漏らすとは思えないし、大丈夫でしょう。

 しばらく、達也達の話を聞き流していると、最近聞いた単語が聞こえて来た。

 

「課題の内容は、『三大難問』の解決を妨げている理由についてです。他の二つは分かったんですけど、汎用的飛行魔法が何故実現できないのか、上手く説明できなくて……」

 

 飛行魔法という言葉に達也と深雪の視線が私に向く。

 あれは飛行魔法ではないと、何度も言っているのに彼らは納得する気配がない。

 それに飛行魔法を可能にする方法として私の力押しでは参考にならない。

 

「魔法で飛行するには、加速、減速、上昇、下降をするたびに、新しい魔法を作動中の魔法に重ね掛けしなければならない。必要になる事象干渉力はその度に増大していくので、重ね掛けは十回が限度。このため、飛行魔法は現実的に不可能である。重ね掛けが必要なら、発動中の魔法をキャンセルしてから新しい魔法を発動すればいいと思うんですけど……」

「でも、その程度のことだったら、すでに誰かが試しているはずよね。事後的に領域干渉を展開するみたいなものなんだし」

「一昨年、イギリスで会長が仰ったコンセプトの実験が行われていますが、結果は失敗です」

「理由は何ですか?」

「ここには書かれていないですね」

 

 こんな簡単なことにも気づかない程、頭の悪い研究者しかいないのだろうか?

 一高のトップクラスの彼女達も気づいていないようだし、それが当たり前だと思っているのかしら?

 

「達也君達はどう思う?」

 

 七草会長は私と達也に視線を向けて問いかけて来る。

 

「その実験は基本的な考え方が間違っています」

「え?」

「魔法式は魔法式に作用できません。それは領域干渉であっても同じです。魔法式を直接消し去る術式でない限り、対抗魔法であってもこの原則の例外ではありません」

「とても簡単なことですよ。領域干渉は、より強い干渉力で事象の改変を拒絶しているのですから、新しい魔法を発動させるにはさらに強い干渉力が必要になるということです」

 

 私達の説明に七草会長達は何も言えずに私達を見つめている。

 逆に言えば、私のように魔法式を簡単に消滅させられば、飛行魔法は完成するということだ。

 まあ、退廃のような特殊な力に頼っている私も飛行魔法を完成させたとは言えないけれどね。

 

「つまり、余分な魔法を掛けちゃってるっということ?」

「ええ、実験を企画したイギリスの学者は対抗魔法の性質を錯覚していたのでしょう」

 

 飛行魔法に関する話が終わったところで、昼休み終了の予鈴がなった。

 

 そして放課後、九校戦メンバー選定会議では達也の技術スタッフ入りの話が出た。

 当然のように、二科生である達也の技術スタッフ入りに納得していないものが多くいた。

 昼休みに話したように私が説得のために立ち上がろうとする前に、十文字先輩の言葉で達也の技術力を見ることになった。

 その後も私が何かを言い出す前に、中条先輩や桐原先輩、そして服部先輩までもが達也の技術スタッフ入りを支持した。

 彼らが支持したことにより、達也の技術スタッフ入りが決定した。

 

 私が文句を言う奴らを黙らせようと思っていたのだけど、達也の人望は私が思っている以上にあるのかもしれない。

 達也の実力を認めてくれる人が一高内に増えることはいいことね。

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