オペレーターに勝ちたい!   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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書いてたアークナイツ小説消えてました。虚無感に襲われながらガチャ引いたら水着チェンが「頑張れ」って言いながら出てきたんで書きました。


チェン隊長に勝ちたい!

「チェン隊長に勝ちてえ」

「…ん?」

 

俺のその言葉を聞き、隣り合わせに座った男──ミッドナイトは、困惑した表情を浮かべた。

移動都市龍門の繁華街にあるバー。そこにミッドナイトを呼び出したのは他でもない、この俺の相談に乗ってもらうためである。その呼び出された本人は酒の入ったグラスを置き、上半身だけ俺の方を向く。

 

「チェン…?それって、あのチェン・フェイゼさんの事かい?」

 

その言葉に頷く俺。

チェン・フェイゼ──。龍門の法を取り締まる警備隊、龍門近衛局特別督察隊を率いる人物。そのトップの名は伊達ではなく、剣の実力は他の追随を許さない。さらに頭も良く、的確な指示と相手を追い詰めて行く作戦を思考する能力を持ち合わせており、その容姿も相まってカリスマ性でも一目置かれる──まさに完璧としか言いようがない人物だ。

 

「俺も作戦の時に同じチームになった事あるけど──あの人は強すぎるね。目の前に来た敵が一瞬で散って行く姿を見て、この人が味方で良かったって心から思ったよ」

 

思い出すようにミッドナイトは目線を上げる。こいつはロドスのオペレーターだ。何度かウチの隊長と面識があるらしく、初対面の時に元ホストの癖で隊長を口説いてしまい額に青筋を立てられたらしい。よく生きてたなお前。

 

「というか、なんであの人に勝ちたいんだ?まず勝つってどういう意味だよ?」

「近衛局の訓練に隊長自らが教官になって隊員と組手をするんだ。んで、それに負けた時にどこが悪かったかとか指摘されるんだけどさあ…俺の時だけ異様にキツいんだよ」

「キツい…?」

「他にも書類仕事を急に与えて来たりさ」

「まさか…あの人が?」

 

ミッドナイトは首を傾げる。そう。隊長は何故か俺にめちゃくちゃ厳しいのだ。それでは、その光景をダイジェストでお送りしよう──。

 

 

 

 

 

 

「脇が甘いぞ。それでは詰め寄られた時すぐに対応できない。しっかりと相手との距離感を測るんだ。次!」

「よろしくお願いします!」

「…ほう、貴様か。今日は退屈させてくれるなよ…来い」

 

 

 

「──馬鹿正直にまっすぐ進むな!お前は猪か!?突っ込むだけなら獣でもできる!!」

「大きく振りかぶりすぎだ馬鹿め!だからこうして──距離を詰められ拘束される!」

「苦しいか?…降参?関節を決められて戦場で相手が離してくれるとでも?おめでたい頭をしているな。──拘束は続ける、自力で抜け出せ」

 

「ハァ…ハァ…あ、ありがとう…ございました…」

「ふん。明日も私の所へ来るように」

「…?いえ、…明日はホシグマ副隊長が教官の日では…?」

「いや、私が貴様を教育し直してやる。貴様はまだまだ甘すぎる。ホシグマに取られるわけにはいかんからな…

「えぇ…?」

「なんだ、文句でもあるのか?拒否権は無い。決定事項だ」

「……はい」

 

 

 

 

 

「チェン隊長、書類をお持ちしました」

「ん…ああ、そこに置いておいてくれ」

「はい。では、失礼しました」

「──おい、待て」

「…?」

「上官が苦しみながら書類を片付けているのにも関わらず、貴様は飲み物のひとつも淹れないのか?」

「ええ…?」

「罰として私と一緒に書類仕事をしてもらう。隣に来い」

「ええ!?ちょ、ちょっと、それは──!?」

 

「何か、文句でも?」

「ナイデス…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みたいなのが沢山あるんだよ!だから俺は思った!隊長に勝てば、もうこんなパワハラは受けずに済むと!!」

 

俺は力説する。その声は、物静かなバーの中に哀しく響いて消えていった。その話を聞いたミッドナイトは何とも言えない顔をしていた。それはそうだろう、表向きは完璧なチェン隊長に、俺がパワハラを受けていることを知ったのだから。俺が逆の立場でもそうなる。

 

「え…?嫌、それって…。うん?おかしいな…」

「だから頼むぜミッドナイト!どうすれば隊長に勝てるか一緒に考えてくれ!!」

「勝つって…。──ああそうか、そういや君ってちょっと抜けてる所あるもんな」

 

はっ倒すぞお前。何故急に煽られんにゃいかんのだ。苛つく感情をオレンジジュースと一緒に飲み込む。美味い。

 

「…まあいいか。チェンさんに勝つ方法ね…。──君確か力めちゃくちゃ強かったよね?」

「ん?…まあ人並みにはあるんじゃね?」

「スカジさんの剣押し返して人並みは冗談キツいよ」

 

あー…、あの人なあ。なんであんな華奢な体からえげつない力出んだよ。美少女の皮被った筋肉じゃねーかよふざけんな。

 

「んー、そうだなあ…。──まあ、戦闘訓練はともかく書類のやつだったら、やりようはあるけど」

「──本当か!?教えてくれ!その手法を!俺に!!」

 

俺に一つの光が差し込む。正直期待はしてなかった。隊長に互角ならまだしも勝てる者など、居ないと思っていたからだ。心が弾む。これは奢らないといけない。

 

「…うーん、ま、いいか。面白そうだし」

「え?」

「なんでもないよ、先ずは──」

 

こうして、俺たちの隊長に勝つための作戦会議が始まった。

しかしやけにミッドナイトがニヤニヤしていたな。あれは何だったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、龍門近衛局の廊下を書類を持って歩いている。通り過ぎる同僚たちは俺を見て、違和感を感じているだろう。それもそのはず、今日の俺は一味も二味も違うぜ。

今日の訓練もボッコボコにされたからなぁ…、覚悟してもらおうか隊長。そんな事を考えているうちに遂に隊長の執務室の前まで来た。一息ついて気持ちを落ち着かせる。…ふう…。──行くぜ!

ノックをする。

 

「隊員のイラです!指定された書類をお持ちしました!」

「入れ」

 

くぐもった声がドア越しに聞こえる。手にかけたドアノブが重い。──まさか、怯えているというのか?この俺が?…弱気になるな、ここで負けたらミッドナイトに顔向けできねえ!!

 

(漢イラ──腹を括れ!!)

「失礼します!」

 

ドアを開ける。そこには椅子に座って書類選別をしているチェン隊長と、コーヒーメーカーを使ってコーヒーを淹れているホシグマ副隊長がいた。…クソ!二人いるなんて聞いてねえぞ!?

 

「──おお、イラか。お疲れ様」

「お疲れ様です、副隊長!」

 

此方を向くホシグマ副隊長を見て、しかしこれは逆に好機だと考える。ミッドナイトは、『この技は女の子が喰らうと、相手にもよるが一発KO』と言っていた。お二人は性別は女性。つまりワンチャンまとめて始末できる!

 

「またイラに持って来させたんですか?可哀想に…」

「ふん、暇そうだったんでな」

「小官ならそんなことはしませんけどね」

「…ほう?」

 

何やら空気が重い。誰だ減速スキル使ってんの。エリジウムか?

まあそんな事はいいだろう、チェン隊長の机に近寄り、書類を静かに置く。これで帰れればまあ、良いだろう。作戦を実行するまでもない。しかし──。

 

「──どこへ行こうとしてる?今日も手伝って貰おうか」

「(──来た)…いえ、ホシグマ副隊長が居られたので、仕事効率は自分がやるよりも上がるかと──」

「ホシグマはお前ほど暇じゃない。対してお前は暇だ」

 

確かにホシグマ副隊長はお忙しいからな。それは俺もわかってた。でもな、俺にも用事があるんだよ!部屋戻って、ビーンストークから貰った鉄子(ハガネガニ)と戯れなきゃいけねえんだ!最近忙しくて構ってあげられてねえからな!

 

「…」

 

何も言わない俺に紅い二つの照準が合わさる。『あの一言』を言った瞬間行動だ。さあ来い…!

 

 

「上官の命令に、文句でも?」

「…!」

 

 

作戦、開始。

 

「チェン隊長、それはちょっと横暴では──」

「ええい煩い、お前も早く巡回に行け」

 

そう言って、隊長はいつも通りに椅子を取りに立とうとした──。

頭にミッドナイトの声が過ぎる。

 

[先ずはチェンさんを立たせる。そして壁際に移動してもらうように頼むんだ]

 

「──すいません、隊長。少し壁際に寄っていただけませんか?」

「?何だ急に。遊ぶ暇など…」

「お願いします」

「…これで良いか。全く、何を──」

 

[壁際に立たせたら──頭の横に手をついて、そして距離を詰めるんだ。振り解かれないよう、力も込めて]

 

俺はそっと隊長の頭の横に右手をつき、密着一歩手前まで距離を詰める。そしてその紅の目をじっと見つめる。

 

 

「──!!?!?ちょ…!おまッ!?な、なななな…!なん、なな!?」

 

 

隊長より俺の方が背が高いので、必然的に見下ろすような体制になる。そして顔を真っ赤にした隊長は困惑と羞恥の反応を示していた。

そう。この技は…。

 

[これこそ、女性から正常な判断能力を奪う必殺技…『KA☆BE=DO☆N』]

 

…さすがだぜミッドナイト。俺はお前に心底感謝している。

見てみろよ、隊長のこの顔。何がなんだか分からない顔をしているぞ。

 

「…は?」

「え…えと。その…イ、イラ…?急にな何をして……」

 

 

背後からホシグマ副隊長の戸惑う声が聞こえてくる。ふっ、やはり一網打尽って事か。二兎を追う者は一兎をも得ず?違えな。優秀な猛獣は二兎ともぶんどるんだよ。

そして。まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ。俺は隊長の耳元に口を近づける。

 

[次に耳元で囁くんだ。優しい、甘い声でね。書類仕事をやりたくないってね。でもそのまま伝えちゃダメだ。あくまでも、その人の事をちゃんと想っているという雰囲気を出す事が重要だ]

 

「──隊長。書類は自分でやりましょう」

「──ッ!」

 

それを始めた瞬間に、隊長の体が一つ、大きな震えを出した。

 

「に…にゃに、を」

「──お願いします。自分も用事があって…勿論、隊長の事を蔑ろにしたいわけではありません。ただ、少し──自分を雑に扱いすぎでは無いかと」

 

一言一言、頭に染み込ませるように囁いていく。俺が口を開けば、隊長は体を震わせ此方を潤んだ目で見つめてくる。よし、弱ってきたな。

 

「…だ、だってぇ…んっ!」

「──これからは、一人で書類、できますね?」

 

ここで決める。一旦顔を離して隊長の目をまっすぐ見つめる。先程まであった、鋭い眼光は無く、蕩け切った目端からは少し涙が出ていた。……勝てるッ!!

 

 

 

「……わ、わかっ…た」

 

 

 

しゃあああああああああッッッ!!!!

 

 

「──うん。ありがとうございます」

「──あっ♡」

 

ダメ押しと言わんばかりに、隊長の頭をぽんぽんと二回軽く叩く。普段の隊長にやればぽんぽんと俺の腕が飛ぶだろう。しかぁしッ!今はKA☆BE=DO☆Nの効果により、隊長は抵抗できない。それどころかひ弱な声を上げたではないか。勝ったッ!隊長、完ッ!!

 

「ふーっ…ふぅぅ…っ」

 

そう優越感に浸っていると、隊長の様子がおかしい事に気づいた。何と力が抜けたのか、俺の体に寄りかかり、荒く呼吸をし始めたではないか。そしてその尻尾は、俺の腕に巻き付いてしまう。

…全く、完全勝利とはこの事だな。何だ、簡単じゃないか。最初からこれをすればよかった!今日は祝杯だ。鉄子にも良いご飯を買って帰ろう。

そう思い、俺は壁から手を離──、

 

 

(…ん?)

 

 

──せないんだけど。え?

見ると、その尻尾がギチギチと音を鳴らして俺の腕を固定していた。ちょっと待って。痛い。

 

「あ…あの。隊長?し、尻尾が…痛いなーって…」

「──つぎはなにをするんだ?」

 

顔を上げた隊長は何かを期待するような目で俺を見つめる。…え?次!?次は何をする!?帰るだけなんだけど…?

 

「こんなふうにしておいて…かえるつもりなのか?」

「えっ、はい」

「──そんな訳無いよな」

 

戻ったああああッ!あのとろんとした可愛らしい目が鋭くなったあああッ!!まっずい!なんだ!?どうした!?ミッドナイト!?

 

「お前なら理解してくれると想ってたよ…私の気持ちを…いつも辛く当たって悪かったな?……でもつい、そうなっちゃうんだよ」

 

待って!?どうしよう全く持って分からねえ何だ隊長の気持ちって!?思考が追いつかねえ!ちょっと待てちょっと待て……!一旦集中しよう…!

 

「あの時、お前に出会わなければ、私は潰れていた。…そこからだろうな、私がお前のことを想い始めたのは──」

 

どっから?どっから間違えた?えっと、部屋入って、副隊長と話して、KA☆BE=DO☆Nして、囁いて、頭ポンポンして…何も問題ない!何も問題ないんだけど!?

 

「私が、その…お前に辛くあたってしまうのは、…好意の裏返しなんだ。不器用だから…。つい…。はあ、こんな自分が嫌になるよ、殺したくなる」

 

殺したくなる!?

え!?俺殺されんの!?こんな事したから!?…ちょっと待て、隊長は前衛のオペレーター。武器は前衛らしく剣しか持っていない故遠距離攻撃ができない。しかし間合いを詰めた時の爆発力は尋常ではない。そして俺は隊長の間合いの中。Q.E.D. 証明終了。俺死ぬわ。

 

「ちょ!ちょっと!ごめんなさい隊長!もうこんな事しません!だから離して下さい!」

「…もうしてくれないのか?」

 

どっちなんだよォォォォォ!!何だその悲しい顔はァ!こんな舐めた事したからキレてんじゃねえの!?辞めないと死ぬけど辞めないでくれって事!?何だその手の込んだ自殺は!!

 

「イラ」

 

パニック状態の俺に、背後からホシグマ副隊長の声がかかる。…そ、そうだッ!ホシグマ副隊長!助けて下さい!俺まだ死にたくない!

ホシグマ副隊長が近寄ってきてくれる。姉御…。俺あんたに一生ついてくよ…。ホシグマ副隊長は俺の両肩をしっかりと掴んだ。なるほど、無理な体制で力が出ない俺の代わりに、副隊長の力で引っ張ろうって寸法ですね!

 

 

 

「──どういう、事なんだ?」

 

 

姉御?力強すぎますよ?姉御?いや確かに力は込めないと行けないけどそんないく?肩甲骨根こそぎ行く気じゃないですよね?

 

「──はっ、お前がそんな顔をするとはな、ホシグマ。とてもイラに見せられたものじゃないな」

 

痛い痛い痛い痛い!腕と両肩が痛い!もう何にも考えられない!ミッドナイトォ!お前マジ許さんからな!絶対ぶっ飛ばすからな!

 

「チェン。良かったじゃないか!イラの【気まぐれ】でそんなことをしてもらって!……次は私の番だ。そこをどいてくれ」

「断る。私は一生ここにいるからな。…というか、お前のその身長でやって貰えるのか?身長を誇っていたようだが、こんな所で差がつくとはな」

「…チッ」

 

どんどん部屋の気温が下がってきている。それに反比例するように尻尾と両手の力は上がってきている。ミシミシ行ってきました。…あー、ほんとにもう無理。痛みで意識が朦朧としてきた。ごめんな、鉄子。最後まで面倒見てやらなくてすまんかった…。お前のご主人はここでリタイアだ…達者でやれよ…。

 

「まぁ、お前にも良い人が見つかるさ。応援するよ。二人でな」

「──ふん、チェン。そうやって余裕を見せるのも良いがな、イラの気持ちはどうなんだ?」

「イラの気持ち?そんなの私と同じに決まってる。確かめるまでもない」

「本当にそうかな?さっきから話は聞いていたが、お前への愛の言葉はひとつも聞こえてこなかったぞ」

「……」

「図星だな?」

「…しかし、行動がそれを示してくれた。イラはそういう男だ」

「では、あらためて聞いてみようか。──私とお前、どっちを…」

「ああ、いいさ。おい、イラ」

「なあ、イラ?」

 

 

「「──私とコイツ、どっちを愛しているんだ?」」

「──ごめんな、鉄子……。愛してるよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「誰だ、その女は」」

 

 

 

 

 

 

俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

今回の勝負──イラの負け。

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