オペレーターに勝ちたい!   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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『ヤンデレって怖いね(小並感)』の作者様である、狼黒様とのコラボ回です!!時間をかけてしまって本当に申し訳ございません…。キャラの性格があってるかめちゃくちゃ心配で何度も書き直してしまってこの様です。こんな私とコラボしてくださり、本当にありがとうございました!!
アークナイツの世界観に合ったクソデカ愛情たっぷりの傑作小説は、コチラ↓
https://syosetu.org/novel/278549/


カドヤさんに勝ちたい!(コラボ回)

「ロドスが女の子を保護した…?」

 

快晴が広がる昼。龍門近衛局にて、俺はチェン隊長からその情報を聞かされる。まあ、前職関係無しに誰でも迎えるロドスなら保護しても疑問には思わないんだが…。

 

「記憶喪失?その子がですか?」

「…ああ。何でもその少女を見つけたオペレーターによれば、全身傷だらけで死んだような目を向けていたらしい。まるで感情を抜き取られたように」

 

チェン隊長は疲れたように目頭を揉む。レユニオン関連でこっちも手一杯なのに、また新たな問題が起こったことに疲れているのだろう。

 

「今ホシグマが身元を調査している。…しかし、彼女にとっては身元受取人は現れない方が良いかもな」

「……虐待って事ですか」

「──落ち着け。まだそうと決まったわけじゃない」

 

思わず拳に力が入る。傷だらけって言うのが、そこらを彷徨いてできた傷ならまだ良い。だが、それが身内で引き起こされる、頻繁に起こる暴力によるものであれば──。

 

「彼女は感染者では無いからな。その可能性は低いだろう」

「──そう、ですかね」

 

隊長はそう言うが、一回気になってしまえばどんどん気になるタイプの俺の頭の中は、すぐにその少女の事でいっぱいになる。すると隊長が、深々とため息を吐いた。

 

「はぁー……だから言いたくなかったんだお前には。何をさせようとしてもその事で頭が回らなくなるだろう」

「あぁ、いや…すみません」

「はぁ…」

 

とは言われたものの、それが俺のサガのようなものなのだから仕方がない。どうしてくれよう、この気持ちは…。

そう頭を捻っていると、執務室のドアが開かれる。そこに居たのは、書類を持ったホシグマ副隊長であった。

 

「失礼します、隊長。龍門での聞き込みの情報を纏めました」

「分かった。あー…そうだな、おい、イラ」

 

突然の指名に驚く俺をよそに、チェン隊長はホシグマ副隊長から受け取った書類を俺に押し付けた。

 

「お前がロドスに渡して来い。そしてその心のわだかまりを消して来るんだな。お前がそんなだと、こちらも仕事が手につかん」

 

 

 

 

 

 

 

と、言うわけで来ました。ロドス。ドクターに書類を手渡して、俺は案内された部屋の前で深呼吸をする。そして、静かにドアを三回叩いた。

 

「──どーぞー」

「失礼します」

 

そこに居たのは、病的に白い肌をした可憐なサンクタの少女であった。その子は俺を見るときょとん、とした目でこちらを見つめる。

 

「ありゃ?健診じゃないの?」

「あ、失礼しました。自分は、龍門近衛局遊撃隊隊長の、イラと申します。本日は少し──カウンセリングというか、そんな感じで…」

 

肩書きが長いなー、と笑いながら、少女は座っていたベットから立ち上がり、俺の目の前までしっかりとした足取りで歩いてきた。そしておもむろに俺に手を差し出す。

 

「私はカドヤ。それしか分からんけど、まあよろしく」

 

差し出された手を握る。その手は、鉄のように冷え切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…倒れていたところをロドスの職員が保護。そこから今に至る…か」

「おーん」

 

そんな謎の返事を発した彼女──カドヤさんは、ロドス艦内にて発見されたという。もちろんロドスに所属しているわけでもなく、ロドス関係者でもなかった。

部外者の彼女が何故、厳重な警備をされているロドスのど真ん中で見つかったのか。ドクターはそれを調べているようだ。

 

「それに加えて、正体不明のアーツユニット…?」

 

カドヤさんが倒れていた側には、腰に巻くような形状のアーツユニットが落ちていたという。解析班に回しているが、未だ結果は出ていない。ロドスの技術を持ってしても解析できないアーツユニット。一体何なのか。色々と気になる事はあるが、俺が今一番聞きたいのはそれじゃない。

 

「…カドヤさん、えと…体、痛みますか?」

「あー…大丈夫かな?うん、大丈夫大丈夫」

 

不器用に笑うカドヤさんに、俺は詰め寄っていく。絶対嘘だもん。

 

「嘘でしょ?その顔は絶対に嘘でしょう?流石の俺でもわかりますよさあ話してくださいどこが悪いのかさあさあさあ」

「お、落ち着けぃ…わかったよ、話すから」

 

そう言いながら俺を足で押し返す。咳払いをし、カドヤさんは口を開いた。

 

「──といっても、わかんないんだよね。私痛み感じないんだから」

「……え?」

 

その言葉に、俺の思考が停止する。

 

「何か医者によれば、細胞が再生と破壊を繰り返しすぎてなんたらかんたら〜みたいな感じなんだってさ。だからどこが傷ついてんのか自分でもよく分かってないんだよねー」

 

彼女が何を言っているのか、理解できなかった。細胞が再生と破壊を繰り返すだって?じゃあ、それじゃあ、保護される前の彼女は、誰に何を──。

 

「……い、おーい、大丈夫?」

 

はっと思考の渦から意識を取り戻すと、そこには怪訝そうな顔をしながらもこちらを心配するカドヤさんの姿があった。

 

「すっごい怖い顔してるんだけど…え、私なんかした?」

「いや、すいません。少し──考え事を」

「ふーん…。あのさ、そんな気にしなくていいからね?私も気にしてないし。生きてるだけでも幸せモンなんだからさ」

「は、はい……」

「やっぱそういうの考えてたのね」

「あ、いや…その…」

 

けらけらと笑うカドヤさんだが、俺はあまり上手く笑えない。そんな俺をよそに、カドヤさんは差し入れの果物の皮を剥く。

 

「気にしすぎだよ、気にしすぎ。たかが痛み感じないだけで」

「たかがなんて…!」

 

まるで他人事のようにそう呟くカドヤさんに、思わず声を荒げてしまった。何でこの人はこんなに平気でいられるんだ…!

 

「『たかが』さ。どんな怪我、病気、感染症、性病。それらだって源石病よりかはマシって世間も言うし。ひどいもんだよねぇ。自分達に脅威があるものだけメディアで取り扱って、それら以外は全部無視。そりゃ源石病で切羽詰まった状況なのは分かるけど、ちょっとは目を向けてくれても良くない?」

「それは──」

「ん、ああ、別にキミを責めてるわけじゃないよ。そりゃお巡りさんだって情報社会は取り締まれないさ」

 

俺が言い淀んでいると、カドヤさんはベットから跳ね起き、部屋にあった椅子に座って果物を食べ始めた。

 

「うわ、味無いグミみたい。…まあ良いや、ビタミンビタミン」

「──味覚も、無いんですか」

「うん。それよりさ、色々世間話しようよ。私の記憶障害って、全部が全部忘れてるわけじゃ無いタイプのやつだからさ。情報を擦り合わせとこうぜ」

 

自分の身に異変があっても、それを気にせず普段通りに話す。ある人から見ればそれは、他人に心配をかけないための美しい自己犠牲だと言う人もいるだろう。だが、俺が感じたものは──底知れぬ恐怖と、それを上回る哀しみだった。

 

 

 

 

 

 

 

「んー…私が知ってる常識と世間の常識はほぼあってるみたいだねー。やっぱ私自身の記憶かぁ…」

「ま、まあ、日常の中で急に思い出す事もあるかもしれませんし…」

「そやねー、気楽に待とう」

 

そうやって伸びをするカドヤさんは、満足げに頷いた。…見た目は可愛い少女なんだけど、なぜか話せばそうは思えないというか…割と男っぽいというか…なんなんだろうか。

 

「イラはさー、なんで近衛局に入ったん?」

「なんで…ですか。──俺は最初は入る気は無かったんです。けど、俺の夢を叶えるのに一番近衛局が適していたって感じですね」

「夢?」

「はい。世界平和です」

 

間髪入れずにその答えを口に出す。すると、カドヤさんは何かを言いたそうに顔を顰めた。

 

「それは──」

「無理、ですか?」

 

その言葉に、苦い顔をしながら頷くカドヤさん。まあそれはそうだろう。源石。これがもたらしてきた弊害は数知れず、そして永く続いている。領土の取り合い、難病の発見、そして源石病による差別。これら全てに共通する事といえば、戦争だった。

 

「色んなものを見てきました。源石病に罹った子が乱暴され、その親が乱暴した親の子を殺す。そしてまたその親族が殺しに行くなんて無間地獄。源石が与える恩恵欲しさに、強欲な権力者は次々と領土を拡大していきました。──その地にいた先住民を殺して。そんな時、俺は何も出来なかった。何も、知らないままだった」

「………」

「俺はね、正直源石病とかどうでも良いんです。病人か病人じゃないかとか関係無く、ただ子供が泣いているのが本当に嫌なんだ。未来ある彼らが、腐った大人たちの手にかかって、それを見た子供が何も知らないまま腐っていく。そんなの──あんまりじゃないか」

 

自然に手に力が入る。

 

「…でもさ、絶対にそれら全部は救えない。そんなの、理想なんじゃないの?」

「理想でも、それを言わないと始まらないじゃないですか。だから俺は笑われてもこの夢を大事にしていきたいんです」

 

そう言い切ると、俺は一息つく。…少し喋りすぎて、喉が渇いた。そばにあった飲料水を一飲みして喉を潤す。

 

「…キミは──」

 

 

カドヤさんが何かを言おうとしたその時、俺の携帯が鳴り響く。画面を見ると、チェン隊長からの着信であった。

 

「はい、もしもし──」

[出動だ。3番街の倉庫で凶悪犯グループが居るとの通報があった]

「──分かりました、すぐ行きます!」

 

通話を切り、すぐに荷物をまとめて出て行こうとする。

 

「じゃあ、俺はこれで!」

「…待って!」

 

ドアの取っ手に手をかけようとしたその時、カドヤさんが俺を呼び止めた。

 

「キミの夢は叶わないかも知れない、それでも行くのかい?」

「はい!!」

「──」

「いってきます!」

 

俺の返事にまだ何か言いたそうにしていたが、それに構わず俺はドアを一息に開け、勢いのまま飛び出した。

 

 

 

 

 

「…即答ねえ」

 

部屋に残されたカドヤは嘆息する。自分は記憶を無くした人間だ。今まで会ってきた人を忘れていたとしても、あれだけ素直な人物は他にいないだろう。

 

「まっすぐだねえ。今のご時世、風変わりというか…」

 

あれだけ一直線な性格では、この先苦労が絶えないだろう。しかし──。

 

(……でもまあ、世界を変えてくのは、あーいうやつなのかも知れんなぁ…)

 

カドヤはベッドに戻り、再び横になった。

 

 

 

 

 

 

「急に何だコイツ…!?ぐああっ!!」

「近衛局のナンバースリーだ!遠距離から──ぎゃあ!」

「大人しく捕まっとけ!痛い目見たくねえならな!」

 

現地到着した俺は、応援を待たずにすぐさま突撃。倉庫には無数の暴漢どもが居た。左から来るやつの顔をぶん殴り、右からくる奴らをまとめて吹っ飛ばす。だが道が開けたのは一瞬で、すぐに人の黒い波が目の前を塞ぐ。

 

(クソ、数が多いな…!やっぱ隊長達待てば良かったか…?)

 

内心で舌打ちしながら敵を捌いていく。あまりにも数が多い。隊長みたいに大勢を一網打尽にできる術を俺は持ってない、タイマンなら余裕なんだけど──!

さらに、俺を焦らせる要因──そして、俺が隊長達を待たずに突入した最大の理由。それが──。

 

 

「んー!んーーー!!」

 

 

人質であった。

年はまだ12くらいだろうか。口に布を噛ませられ、瞳を潤ませながらこちらに叫びを上げている。

 

「──どけ!」

 

それを見た瞬間、体中の血液が熱くなる。怒りと共に、俺は人海の中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ロドス艦内。医務室で眠りから覚めたカドヤは喉の渇きを覚え、机の上のペットボトルに手を伸ばした。

 

「…ありゃ、空か」

 

しかしペットボトルの内側には水滴がちらほらとついているだけ。カドヤはベッドからのそりと起き、備え付けのスリッパを履く。

 

「確か──自販機はっと…」

 

医務室のドアを開け、ふらふらと歩いていく。…因みに彼女は、自身が一銭も持っていない事に気づいていない。

 

「お、あったあった…」

 

廊下の突き当たりにお目当ての自販機がある事に息を吐き、そこに向かっていく。と、その時。

 

 

「──イラー?おーい、イーラー!…あっれー?居ないのかなぁ」

「来てるって情報はあったんだけどね…っと、ごめん、大丈夫?」

 

 

横から現れた女性二人組の一人とぶつかってしまった。不幸だなー、と鼻を押さえて、自分も謝るためにその人物を見上げる。

 

「あー、ごめんごめん。私の注意不足だ、った………」

「…?どうしたの、君。そんなに痛かったかな」

「モスティマ〜、注意しなってば。ごめんねウチの連れが!ほら、立てる?」

 

バチン、とどこか頭の中で何かがはまる音が聞こえた。私はこのサンクタとサルカズに見覚えがある。青と赤、大切な、幼なじみ。私は──。

 

 

「……思い出した」

「え?」

「ん?」

 

 

ぽつりと呟いたその言葉は、二人には聞こえなかったようだ。未だに心配する二人の顔を見て、くしゃっとした笑顔で笑いかける。

 

「ごめんね、モスティマ、エクシア」

「…?うん、こっちこそ」

「じゃ、私は行くわー。お二人も気をつけてーい」

 

カドヤは来た時より足早に歩き去っていった。その背中を見て、エクシアは首をかしげる。

 

 

「あれ?あたしたちの名前、なんであの子知ってるんだろ」

「…さあ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉらぁ!!」

 

迫り来る暴漢を殴り飛ばす。吹き飛んでいった暴漢は奇怪なオブジェとなって壁にめり込んだ。

 

「…ふう」

 

残りの敵は──二人。一人は人質の子を盾にしてオドオドしてるが、問題はもう一人。さっき倒した奴らとは服装が違う。どこか豪華な衣装に身を包んで、俺を笑いながら見つめていた。

 

「──流石だな、龍門近衛局ナンバースリーさんよ」

「あ?」

「俺の名はディアー。レユニオン共より優れた感染者反乱軍のトップに立つ男だ」

 

そいつ──ディアーは、訳のわからんことを言ってのけた。何を言っとるんだこいつは。そんな考えはすぐに隅に置き、この現状を打破する対策を練っていく。

 

(距離はおよそ五メートル…全力ダッシュしてあの子回収できるか…?)

「…まーた面倒臭いやつが出たな。近衛局は今そのレユニオンで手一杯なんだけど」

 

とりあえず今は、人質に危害が及ばないように──。

 

「レ、レ、レ!レユニオン、と!オレたちを!一緒に、するなよ!!」

「んん゛っ!!」

 

その時突然、オロオロしていた男が何の脈絡もなく人質の子の髪の毛を引っ張り、癇癪を起こした様に振り回す。

 

「ジェクト。そこまでにしとけ──」

 

 

 

 

 

「やめろ」

 

 

 

 

 

溢れ出る衝動が思わず口に出ていた。見ると、ジェクトと呼ばれた男は青く顔を染め、滝の様に汗を流している。ディアーも引き攣った笑みを浮かべているが、額には冷や汗が滲んでいた。

 

「その子を解放しろ」

「…そいつぁ出来ねえ相談だな。解放したらアンタ、俺たちの事どうする気だ?」

「………」

「ひ、ひ、ひっ…!」

 

その質問に沈黙で返す。その俺の顔を見て、ジェクトは微かに悲鳴を上げた。…こいつらは何が目的なんだ。人質を取ったのなら、俺が突入した時点でそれを盾にしても良かったはずだ。俺はそれを予想して、奪取するつもりだった。しかし、なぜこいつらは人質を見せびらかすように…?

 

「本題に入ろうか、近衛局のイラ。お前──俺たちの仲間になれ」

「……………は?」

 

目の前の男は本当に何を言ってるんだ。脳味噌に源石でも生えてんのか?

 

「お前のその人外じみた力はこの龍門の中でも頭一つ抜き出ている。お前が俺たちの仲間になれば、レユニオンにも、近衛局にだって負けるこたぁねえ」

「…まず聞きたい事がある。感染者反乱軍団とか言ってたが、なぜ似たようなレユニオンに入らなかった?」

 

そっちの方がメリットが多いだろう。装備も、仲間も、一から作るより、元々集められてある軍団の方が合理的に効率的に活動できるはずだ。

その俺の質問にディアーは拳を握り締めながら、口を開いた。

 

「…俺のアーツは、物体を圧縮するアーツだ。元々は俺もレユニオンに居た。親にも疎まれてきた俺は、仲間が出来て喜んださ。…最初はな」

「……」

「だが、奴らは俺を仲間だとは思っていなかった。来る日も来る日も、俺に炭素を握らせ、俺のアーツでダイヤモンドを作らせる…俺は、奴らの資金源だった」

 

…だからちょっと前の奴らの装備が潤沢になってたのか。こいつがダイヤ売って、それで装備を調達する…。今のご時世宝石なんか欲しがるやつもいんのかよ。

 

「だからレユニオンを抜けた。そこにいるジェクトも、不満がある風だから連れてきた」

「…なるほどな」

「さあ、無駄話が過ぎたな。そろそろ返事を聞こうか」

 

その言葉に俺は内心舌打ちをする。まだ来ねえのか応援は。時間稼ぎはもう限界だぞ…!

 

「ちなみに、断ったら…?」

「そのガキを殺す」

 

ジェクトは人質の首に手をかけ、俺をじろじろ試すように見ていた。…仕方ないか。

 

「──分かった。お前らの仲間になるよ。だからその子を離せ」

「いや、それもダメだ。どうせお前、人質を解放した瞬間に俺たちを殺る気だろ?」

「だ、だ、から。こい、こいつは、一生!お前の、枷にす、、る!仲間に、なって、も!妙な、うご、動き!をした瞬、間に。こ、この、が、ガキを殺す殺す殺す殺す殺す」

「んんーっ!!」

「ゲス野郎が……!!」

「ああ、因みに応援とかは期待しないほうが良いぜ。今頃残りの連中かが近衛局を足止めしてっからなぁ」

(用意周到じゃねえかよクソが…!)

 

どっちにしてもあの子の未来は無いに等しいじゃねえか…!…もう、やるしか無い。全力で、突っ走って彼を回収する。それしか道はない…!

 

「…分かったからそうカッカすんな。今そっちに行く…」

「へっ、交渉成立だな?」

 

気づかれないよう、足に力を込めていく。一直線で駆け抜ける、一直線で駆け抜ける、一直線で──!

 

 

「──よ!!」

「まあそうくるだろうなぁ!ジェクトォ!」

「あーーーーー」

 

 

ドン!と地を踏み鳴らし、飛ぶように距離を詰める。しかしそれを見越していたのか、ディアーの指示でジェクトは不気味な声を上げながら俺に手を向けた。

しかしもう遅い。俺の伸ばした手は、人質にたどり着く──。

 

「ーーぁあ!」

 

その時、俺は見た。ジェクトの空いた手のひらから何かが超スピードで飛んでくるのを。その何かが、無防備な俺の身に着弾するのは、当然のことで──。

 

「ぐあ、あああ!!」

 

俺は情けない声を上げながら、人質の側に転がり込んでしまった。

 

(な…なんだ…何が、飛んできた!?)

 

脂汗を滲ませながら痛みの走る太ももに目を向ける。そこには、およそ一センチ弱ほどの穴が、八個ほど生まれていた。

 

「なんっ……!?」

「ああ、そういや紹介してなかったな。こいつのアーツは無機物を超高速で射出する能力。まあ、念能力みてえなもんだな」

「あひゃ、ひゃひゃひゃひゃ!」

「今こいつが飛ばしたのは、俺が作ったダイヤだ。それが相手の体めがけて、ズドン!お前は貴重な戦力になるからな、チマチマやらねえとうっかり壊しちまう」

 

そう言って、ディアーは俺の太ももを踏みつけた。

 

「ぐああああっ!!」

「愚かだな。大人しく俺たちの仲間になっていれば、こんな目には合わなかった…。──ジェクト」

 

突如ディアーは、ジェクトに顔を向け、その凶悪な顔を歪めさせた。

 

 

「そのガキの腕、へし折れ。そうすりゃあ、こいつも大人しくなるだろ」

 

「な……!?」

「んんーっ!んーーー!!」

「あぁあーい……」

 

泣き叫ぶ人質の腕を持ち、ジェクトは徐々に力をこめていく。

 

「おいやめろ!!」

「てめぇには教えといてやらねえとな。未来の上司はやると言ったらやる男だっつー事を」

 

止めようとするも、足に力を込められ痛みで思うように動けない。そして、ジェクトは笑いながら人質の腕を──。

 

「んん゛ーーっ」

「やめ──!」

 

 

 

 

「ほいっと」

 

「ギャアアア!!」

 

腕が折られるその瞬間、何者かが猛スピードでジェクトの横腹を蹴り飛ばした。きりもみ回転しながら勢い良く吹っ飛ぶジェクト。

 

「な…なんだ!?」

「あ、貴女は…!」

 

ディアーと俺は驚きの表情で乱入者を見る。ディアーはまだしも、俺にとってその人物は、ここにいる事があり得ない人物だったのだ。

 

「──カドヤさん!?」

「おいっすー」

 

その人物──カドヤさんは、この戦場に似つかわしくない呑気な声をあげて俺に手を振った。

 

「チッ、応援がもう来やがったのか…!…いや、お前近衛局じゃねえな?どこのモンだ!」

「な、何でここに…。危険だから、その子連れて下がって!」

「うーむ、二人一気に言われてもどう答えれば良いのか分からんな」

 

何を呑気な事を…!その場の雰囲気とミスマッチした物言いに、思わず歯噛みしてしまう。

 

「イラ、大丈夫?無事…じゃなさそうか」

「あ、はい…じゃなくて!早く逃げて──」

「…オイ、俺を無視してんじゃねえぞクソアマが…!ジェクトォ!いつまで寝てんだ起きろ!」

「あ、あ、あ!」

 

その怒号で意識が飛んでいたジェクトも慌てて起き上がる。その様子を、カドヤさんは目を細めて見つめていた。

 

「その身のこなしは只者じゃねえ。態度は悪いがな。どうだ、俺の仲間にならねえか?」

「…仲間?何、何すんの」

「レユニオンより優れた反乱軍を作るのさ。今はまだ規模は少ねえが、これからでかくなる」

「ふーん……」

 

両手を広げ、自分の思想を高らかに宣言するディアー。そんな彼を、カドヤさんは、無機質な目でじっと見る。

 

「で?」

「…あ?」

「で?レユニオンを追い抜いたら、どうすんの?」

 

その言葉に、場が静まり返る。

 

「どういう意味だ…」

「レユニオン潰して、感染者の指示もレユニオンより集めて。で、どうすんの」

「決まってんだろ!感染者の同胞達を増やして、いずれ世界に俺たちの名を轟かすんだ!」

「あのさ」

 

「さっきから聞いてたら、それさ。レユニオンの真似してるだけじゃん」

「………は?」

 

言ってる意味がわからないというように、ディアーは口をぽかんと開けた。

 

「お前はレユニオンを敵視してるみたいだけど──事情を知らない私から見ても、お前のやってることはレユニオンとてんで変わらない」

「……てめえ」

「いや、レユニオンより酷いね。あっちは感染者を救うって名目で戦ってるけど、お前はレユニオンより優れたいっていう何とも無価値な目的でこんな事してるんだから」

「──黙れッ!俺の夢を笑うなぁッ!!」

 

顔を真っ赤にして、ディアーはその太い腕を振り上げ、カドヤさんに向かって走る。不味い──!

 

「カドヤさん!避けて──」

「よっ…と」

 

俺は、いや、カドヤさん以外の奴等が全員目を見開く。それは、小柄な体格のカドヤさんが、突進してきたディアーの攻撃を手に持った剣で防いでいたからだった。

 

「何…!?」

「俺の夢を笑うな、か。そんなんで怒るなんて、さぞ自信が無いんだ──ねっと!」

「うっ…!」

 

その剣を振り払い、ディアーとの距離を取らせたカドヤさんは、人質の子の縄を切り捨てた。そして、横たわる俺の姿を見て──気さくな笑みを浮かべた。

な、なんだ…?

 

「──これは知り合いの話なんだけどさぁ…そいつは、まあ街を守る警察官なのさ」

「…?てめぇ、一体何の話しやがる?」

 

ディアーとジェクトが首を傾げる中、俺はその人物に心当たりがあった。

 

「そいつの夢──『世界平和』なんだって」

「──ハァ?」

(俺だーーーーー!!!)

 

俺じゃん、それ。さっき話したことじゃん。何でさぞ知り合いじゃ無い感じで喋ってんのさカドヤさん!

 

「ハッ、何を言うかと思えば──無理に決まってんだろ、そんな馬鹿な事。源石があるかぎり、この世に平和なんぞ訪れねえ、あるのはただ──死のみだ」

「──っ」

 

思わず声を上げようとしても、痛みで大きな声が出せない。……カドヤさん、多分こいつらを説得するつもりなんですよね!お願いしますよ、俺の夢で、こいつらを改心させてやってください! 

 

 

 

「だよねぇ…」

 

 

 

(嘘だろ!?)

 

まさかのそっち側!?俺は思わず目を見開いてカドヤさんの顔を見る。その表情は、純粋な笑顔一色であった。

 

「私もその時、無理だって言ったんだよ。そんなのただの理想だって。でもね──。そいつはそれを、笑って受け入れて、それでも意見を曲げなかった」

「──」

「本気の目をしてるんだよ。そいつはその理想のために、今自分の目の前の不幸を幸せにするんだって、本気で言ってた。馬鹿って思うでしょ?もうちょっと他にいい案あったろーに」

 

カドヤさんは腹を押さえながら爆笑する。…そ、そんなに笑わなくても…。

 

「──けどさ。私はそいつの夢を聞き終わって、『出来ない』って思わなかったんだ。ああ、こいつならやれる──そう感じちゃったんだよねえ…」

「──何が言いたいんだ、ガキ」

 

 

 

 

「いんや?ただ、お前の夢よりかは素敵で──叶えられそうだなって、思っただけだよ」

 

「──!」

 

その表情は、とても哀しく、それでいてどこか強かなものであった。

 

「おかしいよね…お前の夢の方が断然簡単なのに、どーも私はそっちの夢が先に叶うと思うんだよね」

「──てめぇ、何なんだ…!散々俺様をコケにして……!!何処のモンだ!!お前はァ!?」

 

その言葉を聞き、それに答えるように──または、自分の存在を確かに感じる為のように。静かに、カドヤさんは呟いた。

 

 

 

「通りすがりのサンクタさ、覚えておけ」

 

 

 

「あ゛ーーーーッ」

「うわっと!」

 

その言葉と共にジェクトが周囲の木材をカドヤさんに飛ばす。それをステップでかわしたカドヤさんは、俺の横にやってくる。

 

「おまたせ〜」

「ちょっとカドヤさん…!いくらなんでも笑いすぎですってぇ…!」

「ごめんごめん、ちょっとあいつに格の違いを見せつけたかっただけなの。夢の格の違いを」

「ああもう…!」

 

そんな会話をしていると、不意にカドヤさんが辺りを見回す。

 

「…ねえ、もしかしてさ。倒れてる人たち、殺してないの?」

「当たり前でしょ…!世界平和が夢なのに殺人なんかできませんって…」

「…起き上がってきてんだけど」

「え゛」

 

そう言われて俺も周囲を見渡すと、確かにチラホラ立ちあがろうとする奴らが現れていた。…さっきの木材が壁に激突した音で起きたか…!?

慌てて俺も起きあがろうとする。

 

「──っとと…!」

 

しかし、ダメージがまだ残っており、カドヤさんに寄りかかってしまった。カドヤさんは俺の足を見てため息を吐く。

 

「あのさぁ…その足で戦うつもり?」

「あー…まあ、そこは気合いで。根性だけが俺の取り柄なんで!」

「お前さんは一直線というか、馬鹿というか…はあ」

 

そう言ったカドヤさんは、腰に巻いた謎のアーツユニットを操作する。

 

『アーツライド パフューマー』

 

「ちょっとくすぐったいよ」

「え?」

「おら、足こっちに向けい」

「あ、はい…?」

 

言われるがまま、足を差し出す俺。すると、どこか嗅いだことのある花の優しい香りと共に、徐々に俺の足にできていた傷が塞がって行く。こ、これって…?

 

「パ、パフューマーさんの治癒アーツ…!?」

「お、正解」

「な、何で使えるんですか…!?」

「まあそれはあとあと。今はやる事があるからね」

 

そう困ったような笑みを浮かべたカドヤさんは、再び剣を構え周囲に目を配って行く。そ、そうだった、俺もやらないと──!勢いよく立ち上がり、俺はカドヤさんの横にならんで構えを取った。

 

「私がデカブツとキモいやつやるから、残り頼める?」

「──おっす!!」

 

「舐めんじゃねえぞ──!てめえら!ぐちゃぐちゃにひねり潰せぇ!」

「お、おお。お、女、殺す、殺す殺」

 

そのディアーの怒号と共に、反乱軍団たちが一斉に襲いかかってくる。それと同時に走り出す俺たち。俺は無数の暴漢達に。そしてカドヤさんはディアーとジェクトに。

 

といったものの、隊長の訓練を日々耐えている俺にこいつら相手に苦戦する事は恐らく無いだろう。だから早々に片付けて、カドヤさんの加勢に行きたいんだけど──。

 

「よっと、はっ、やっと」

「う、うぅ…?」

「クソ、ちょこまかしやがってこの女!」

 

ディアーの突進を交わしその横腹に軽く蹴りを入れ、その勢いで前転してジェクトが発射した物体を回避する。そのしなやかな身のこなしに奴らは手をこまねいている様子だった。その光景に思わず目を奪われてしまう。

 

(あの動き…少なくとも俺より場数は超えてる気がする…。何者なんだ、カドヤさんは…?)

「何余所見してんだよ!」

「ん?」

「グヘェ!」

 

振り向きざま裏拳を放ち、向かって来た男を吹き飛ばす。…とりあえず俺はこっちに集中だな。再び気を引き締め、俺は残りの暴漢たちに構えをとった。

 

 

 

(意外とやるなあ、イラ。…いや、さっきは人質がいたからあのパワーを出せなかったのか…?)

「テメェ、どこ見てやがる!」

「おっと」

 

カドヤは迫り来る両の手を回避し、その勢いでディアーの腹に強烈な回し蹴りを叩き込む。その衝撃を受けたディアーは、数メートルほど後退しそこで膝をつく。

 

「掴まれたら圧縮されて腕が使い物にならなくなるからね、そりゃ当たらんようにするさ」

「ゲハ…ッ!──ハァ、ハァ…ちっ、ジェクトォ!」

「…あ あ あ!」

 

その呼びかけに、ジェクトがポケットから取り出したのは、大量のダイヤ。じゃらり、とこぼれ落ちるほど存在するダイヤを見て、カドヤは口を大きく開けた。

 

「え、それ全部使っちゃうの?もったいな…」

「すばしっこいテメェを殺るなら、こんくらいしねえとな…!?」

「こ、殺す…!引きずり、殺す!」

「ふーん…でも良いの?今私にそれ撃っちゃうと、お仲間さんに当たるんだけど…」

「必要な犠牲だ、奴らも本望だろうよ」

「……」

 

カドヤは目を細め、何かを口にしようとして──やめた。何かを言ったとしても、この仲間の命を何とも思わないゲス共にはどうせ聞こえないだろうからだった。

ゆっくりと腰を落とし、前屈みの姿勢になる。その脚には並々ならぬ力が迸り、今か今かとその放出を待ち構えていた。そして──。

 

「やれ、ジェクトォォ!!」

「ぁぁぁあーー!!!!」

「────」

 

両者が動き出す。ジェクトが放つ無数の煌びやかなダイヤモンドは、凄まじい速度で発射される事で凶悪な殺傷能力を得る。広範囲にばら撒かれた事でカドヤに起こせるアクションは少ないはず。ディアーはカドヤが回避するだろうエリアに向けて、走り出す。

 

(上に飛んでも移動手段は無い。ここに逃げ込むことは確実──。そこを俺のアーツで押し潰してやる)

 

ニヤリと勝利を確信し、ディアーは掌を構える。…確かに、彼の作戦は的を得ていた。だが、それは敵の前提が通常の人間であることがまず求められる。彼女は──カドヤは、それに当てはまらなかった。

 

 

「──ふっ」

「な…!?」

 

 

迫り来るダイヤモンドを一瞥し──、そのまま加速。思わぬ展開に、ディアーの足が止まる。

 

(と、トチ狂ってんのかこいつ!?普通は回避するだろ、避けようとするだろ!?)

「ま、こーゆーのはもう慣れっこだし」

 

困惑するディアーの表情を見て、一人ごちるカドヤ。痛覚が感じないその身体で、被弾覚悟の特攻。彼女の思考が叩き出した、極めて有効な戦術がそれだった。カドヤは心臓と頭を腕でカバーし、そのダイヤモンドの弾幕と衝突する──。

 

 

 

 

「あっ──ぶねぇぇぇ!!」

 

「──は!?」

 

 

 

その直前、横から猛烈な勢いで跳んできたイラがカドヤを突き飛ばした。二人の慣性は止まることなく、地面へとダイブする。砂埃を上げて転がったカドヤは、手に持った剣を地面に突き刺してその勢いを殺し、自身の服を汚した本人を睨みつけた。

 

「……ちょいちょい、どういうつもり?何で私の邪魔してんの」

 

その鋭い威圧感をものともせず、イラは腰に手を当てながら立ち上がった。

 

「…あ痛ってえ…!じ、邪魔って、そんな…」

「お前さんが横槍入れなかったら、今頃あいつらはやれてた。お前さんもそんな痛い目見なくて済んだのに…何がしたいのさ」

「う…た、確かに、そうかも知れません…。けど、けどカドヤさんが傷つくじゃないですか…」

「──え?」

 

その言葉に呆気に取られるカドヤ。そんな彼女を、イラは決意を込めた目で見つめた。

 

 

「俺の夢は世界平和です。そんなこと言ってる奴が、目の前で人が傷つくのを黙って見るなんてあり得ない。…か、勝手な事してすみません。だけど、これだけは嫌だというか、なんというか…」

 

 

しかしすぐに申し訳なさそうにするイラを見て、カドヤの心の中の苛立ちが消え──。

 

「──ぷっ、はははは!!」

「え、えぇ…?」 

 

突然大笑いするカドヤを逆に呆気に取られながら見るイラ。ひとしきり笑った後、カドヤは涙を拭いながら頷く。

 

「ふー…。…あー、そうだよね…。お前さんはそういうやつだもんね…」

「あ、はい…すみません」

 

 

「──悠長にお話なんていい度胸だなぁ!?」

 

 

その言葉にイラとカドヤが振り向くと、自分達に向かって飛んでくる木材らが目に入った。お互い別方向に転がり込み、それを回避する。

 

「…あれだけいた部下がこの短時間で全滅か…。ますます欲しくなるぜ、イラ」

「……やめてくんねえかな、気味が悪い。愛が重てえ奴は俺はノーセンキューなんだ」

「……え?でも君…いや何でもない」

 

記憶が戻るきっかけの彼女らを思い出し、カドヤは口に出かけた言葉を飲み込んだ。そして、不敵な笑みを浮かべる。

 

「イラ、今から大技出すからさぁ!──時間稼ぎ頼むわ♡」

[アーツライド エンシオ]

「え、あ、ちょっ!」

「──ッさせるか!」

 

その言葉を聞いたディアーは走り出す。二人でも手に余る実力の持ち主に、大技を出させるわけにはいかない。その華奢な体を圧縮させようと、両手を突き出すが──、間に入り込んだイラが、その手首を掴み取った。途端に鳴り響く何かが軋む音。その異音は、ディアーの手首から発されていた。

 

「──ぐぅう……っ!!」

(な、何だこの馬鹿力…!?さ、さっきまでとは、比べ物にならねえ…!)

「あーーーーっ!!!あ、あ、!」

「──!?ば、バカ、ジェクト!今射出するな!俺に当たっちまう──!」

 

汗をかきながらジェクトが放った石や木材などが、取っ組み合いをしている二人の元に吸い込まれていき──。

 

「…よっと」

「がぁあ!!」

 

ディアーの巨体を、イラは軽く持ち上げ盾とした。背中を襲う激しい痛みに、ディアーは悲鳴を上げた。

 

「チームワークがなってねえな!フレンドリーファイアなんて三下がする事だ!!」

「イラ、行ける!」

 

その時、カドヤの声が背後から聞こえたイラは、獰猛にディアーに笑いかけ、声を張り上げた。

 

「お願いします!カドヤさん──!!」

「──そぅら!!」

 

 

[ファイナルアタックアーツライド 真銀斬]

 

 

(………ん?)

 

 

そんな音声が流れたと同時に、辺りの空気が冷たく、鋭くなっていく。そしてイラの耳が捉えたのは、何かが高速で空を斬ってこちらに飛んでくる音。恐る恐る背後を振り返ると──10センチほど。眼前に銀色の斬撃波が迫って来ていた。

 

 

「うわあああ危なああああ!!!」

 

 

命の危険を感じたイラの体は、反射的にしゃがみ込み、それを回避する事に成功。しかし、突然の事にディアーがついて来れるはずもなく──。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

その斬撃をモロに浴びてしまい、吹き飛ばされ、壁に激突して意識を失った。それを遠く離れた場所から見ていたジェクトはすぐに背を向け、逃げ去ろうとした。

 

「は、ひひはひ、はっ!?」

「逃すか…!」

 

それを見ていたイラが、しゃがみながらも地面に拳を打ち付けた。すると床は紙のように裂け、逃げの第一歩を踏み込もうとしたジェクトの足のバランスを乱していく。

 

 

「──────あ」

 

 

 

ジェクトが最後に見た景色は、鮮やかで、なおかつ非情な程の銀色一色だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、ありがとうございました。本当にカドヤさんが来てくれなかったら、あの子は…」

「まあまあ、気にしんさんな。たらればの話はやめよーぜ」

 

頭を下げるイラに、苦笑しながらも手を振るカドヤ。それを受け、イラは倉庫の隅に目を向ける。そこには、縄で縛られ今もなお気を失っているディアー達一味の姿があった。

 

「…殺さないでくれたんですね」

「加減しなかったらすぐ打てたんだけどねぇ、もし殺したらお前さんになんて言われるか心配で心配で」

 

その言葉に思わず笑みが漏れる二人。しばらく笑った後、イラがふと、疑問を口に出す。

 

「そういえばカドヤさん。どうやって記憶が治ったんですか?」

「え?あ、ああ…なんて言えばいいのか…ショック療法というか」

「?」

 

その言葉に首を傾げるイラ。更なる追求をしようとしたその時だった。

 

 

「「──っ!?」」

 

 

突如カドヤの背後の空間が歪んだと思いきや、それが展開していき、カドヤを待ち構えるようにゆらゆらと揺れ始めた。まるで、それは銀色のカーテンのようで──。イラは警戒体制をとったが、カドヤはそのカーテンをじっと見つめていた。

 

「……あー…。イラ、これ大丈夫なやつ」

「だ、大丈夫なやつ?」

 

「うん。私、ここに帰らないといけない」

 

「──そう、ですか」

 

突然のその言葉に、イラも構えを解いてカドヤを見つめる。帰る、という言葉の意味がいまいち納得できなかったが。

 

(まあ、色々規格外なこの人の言う事だし…問題はない…と思いたいけど)

 

ゆっくりと歩き出すカドヤに、イラはもう一度だけ声を掛けた。

 

「カドヤさん!」

「…ん?」

 

「──ありがとうございました!!」

「……うん。頑張れよ、夢のために」

 

悪戯な声色とは裏腹に、その表情は──とても爽やかな笑顔だった。カドヤはカーテンの手前でこちらに向き直り、新たな言葉を紡ごうとする。

 

 

「お前さんなら────」

「み つ け た」

「え」

「え?」

 

 

その時、イラは見た。カドヤの背後──銀色のカーテンから、無数の手が生えてくるのを。その腕が、カドヤを二度と離さないように抱きしめたのを。

 

 

「い、いやちょっと待って今本当感動のシーンっぽい感じだったぁぁぁぁぁぁ────」

 

 

そんな情けない声を上げながら、カドヤはカーテンの奥に引き摺られて行った。イラはあまりの突然の事に、ぽかん、としていたが、徐々に顔を真っ青に染め上げ、尻餅をついた。

 

「ゆ、幽霊…!?」

「突入!!」

「ヒィッ!!」

 

ぽそり、と呟いた直後に入口から力強い声が聞こえ、悲鳴を上げるイラ。そこに声の主であるチェンが駆け寄って来た。

 

「──すまない、イラ!時間をかけてしまって──イラ?」

「た、た、隊長!!カ、カドヤさんが!幽霊に!!」

「な、何をいきなり…!いやまあ離さなくていいが、一生。どうした。まずは落ち着け!カドヤとは誰だ!」

 

イラがチェンの手を握り締め、震えながらも口を開ける。

 

「今朝の話の少女ですって!あ、あの子が──!」

「…?待て、今朝?今朝は私とお前は会えなかっただろう」

「…………え?」

 

その言葉に、イラは自分の耳を疑った。

 

「──とりあえず、話は後だ。落ち着いて、ゆっくり話せ。カドヤという者について。お前と、どんな、関係なのか」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お互い苦労するね、イラ」

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