オペレーターに勝ちたい!   作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない

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喧騒の掟 5

モスティマと別れた後。エクシア達はテキサスを探しに、そしてイラはジェイ達を探しに別行動を始めた。エクシアは離れることに異議を申し立てたが、イラの必死の説得で事なきを得た。

 

「──つっても、やっぱり上から探すしかないよな…」

 

先ほどの様に建物を飛び越えながら辺りを散策する。しかし今度こそ手がかりは無く、しらみつぶしに探すしかない。路地裏の細部まで目を凝らす。

 

 

(もう、失いたく無いんだ──早くしねえと)

 

 

イラは静かな決意と共に、その足に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

「ああ、ここに居た。やっと見つけたよ」

「お主は…」

 

街の端の路地裏。モスティマがそこで見たのは、紫色の服を着た身なりの良い老人が、砂に囲まれながら歩いていく姿だった。老人はモスティマの声に反応してそちらに振り向く。

 

「さっきの、どういう事?」

「なあに、ちょっとした思いつきじゃよ」

「思いつきの割には随分と派手だったけどね。ペンギン急便もあの場にいたし。無理して力振り絞っても待ち構えているのは腰痛だけだよ」

「ほっほ。お主はワシがそれほどまでに力を使ったとでも思うのかね?」

 

にこやかに笑う老人に、モスティマは目線を逸らして頬をかいた。

 

「そ…。なら──少なくともその殺気をしまってくれないかな?面と向かって話すのが怖いよ」

「おや、すまんの」

「…何かあったの?」

「──何、少し言う事を聞かない操り人形がおってな。責務に忠実な魚団子屋を誤って傷つけてしまった。ただそれだけじゃよ」

 

(それだけ、ねぇ…?)

 

それだけ、というのであればその顔を歪ませる必要なんてないだろうに。モスティマは心の中で深く息を吐く。

 

「…これらの状況って、貴方の想定内ではないの?例えば──ペンギン急便とマフィアの衝突の収束が付かなくなるのを防ぐため、自分の手で彼らを懲らしめられる口実を探した、とか」

「……このお嬢さんがあのアホペンギンの元におるなんて、本当勿体無いのう…」

 

惜しむように頭を振る老人に、苦笑で答えるモスティマ。

 

「──だが、惜しいな。もう一つあるんじゃよ」

「もう一つ…?」

「…『壊し屋』の矯正といった所…かのう」

「──ッ!」

 

その言葉を聞いた瞬間、モスティマは目の前の老人の首元にアーツユニットを当てる。いつも掴み所のない笑顔を浮かべている筈の彼女は、温度のない無表情でその老人を睨みつけていた。

 

「ごんに何するつもり?」

「…悪い事はせんよ、ただ少し力の振るい方を教えるだけじゃ」

「……」

 

モスティマは歯噛みする。目の前の老人は自分の考えを最初から全て教えはしない。今教えられた情報も、それが全てなのか、はたまた他の意味があるのか──。モスティマにはまだわからない。

 

「──お主は知っているか。三年前に起こった事件を?」

「…」

「龍門の街や建物を滅茶苦茶に破壊していき、その惨状はまるで、小さな天災が通り過ぎていったようじゃった。しかし──その跡を見ると、()()()()()()()()()()()が多々残っておった。故に、この事件は後に歴史にも残る、『人災』と呼ばれるようになった…」

 

老人は息を吐く。

 

「あの馬鹿龍の元にその身一つで乗り込み、五体満足で捕らえられたというのは、褒めるべきか恐れるべきか……」

「──ちょっと待って、ごんはそんな事してたの?」

「おや、知らなかったのか。何事をも掌握しておるお嬢さんが、珍しい」

 

驚きの表情を浮かべるモスティマに、くっくと喉を鳴らす老人。その姿を見て、モスティマはアーツユニットをゆっくりと引っ込めた。

 

「──知らないよ。知らないのが一番嫌なんだ。彼の苦しみを、知らないで終わらせたくなかった。だけど──はーあ、何でこんな風になっちゃったんだろ」

「…?」

「…実はね。私はその事件が起こる直前に、彼の龍門襲撃を止めようとしたんだ」

 

足元の小石を蹴りながら呟くモスティマ。先程とは正反対に、老人がその言葉を受けて驚愕の表情を浮かべていた。

 

「でもダメだった。どれだけ彼の時を遅くしても、彼の時間を止めても、彼は一つの『感情』だけでそれらを背負い込んで龍門に向かったのさ。しかも私に酷い言葉を向けてね。ほんと、踏んだり蹴ったりだったよ」

「──待て、つまり──あやつは、お主のアーツで自身の時を遅くされたその状態で、龍門をあそこまで陥れたということか──!?」

 

目を見開き、冷や汗を垂らす老人。それに力無く笑い、モスティマはその場から足を進ませる。数歩ほど歩き、そこで思い出したかのように立ち止まった。

 

 

 

「そうそう、彼を試すのは良いけど──あまりやりすぎない方がいい。じゃないと、またこの街が終わっちゃうよ」

 

 

 

彼の『憤怒』という感情でね、とモスティマは付け加え、今度こそ闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁーっ!!」

「ぐあああ!!」

 

気合の入った掛け声と共に、数人が一気に吹き飛ばされる。その中心では、炎国のカンフーの構えをする、フェリーンの少女──ワイフーが、鋭い目で周囲のマフィアを見渡していた。

 

「チッ、何だあのガキ…!おいお前ら!ガキ一人にビビってんじゃねえ!さっさと全員で──!」

「──おい、よそを見てても良いのかい」

「──グッ!?」

 

攻めあぐねているマフィアに、カポネが指示を出そうとする。しかしそれは下方から突き出された包丁に止められた。

 

「お前──魚屋に偽装してた同業者か。しくじったぜ、お前の事は気にかけておく必要は無いと思ってたのによ」

「…それは誤解なんじゃ…まあ、良いか。今はそういうことにしといてやらぁ」

 

そう言ったジェイは、いつもよりドスが効いた顔つきで、カポネにその獲物を向けた。

一方で、ワイフーはガンビーノと肉弾戦を繰り広げていた。迫り来る剣を受け流し、さらにその勢いで裏拳を放つ。ガンビーノはしっかりと腕でそれを受けるが、勢いが殺しきれずに少し後退りをした。

 

「…お前とあの狼の腕は同等だな。あの鼠王がお前のような隠し玉を持っていたとはな!」

「…何が隠し玉なのか、貴方が何の事を言っているのか、全く分かりませんが。大人しく降伏して私と警察に同行なさい──!」

「ぐおっ!」

 

ワイフーの飛び蹴りが、再びガンビーノを襲った。それを横目で見たカポネが、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「小娘ひとりにひどいやられようだなあ!ガンビーノ!」

「…チッ、お前を殺すのは後回しだ。だが喜ぶのはまだ早い」

 

その時、ジェイの膝にクロスボウの矢が飛ぶ。しかしそれを足を上げる事で回避したジェイは、じっとカポネを見つめた。

 

「…アンタ、隙を狙って不意打ちしようとしやがったな…。ゲス野郎が」

「不義の拳を振るう者に勝機なし。あなた方が傍若無人に暴行を働いた代償、払ってもらいます…!」

 

背中合わせの状態で、ジェイはカポネを、そしてワイフーはガンビーノを睨みつけた。それを受け──ガンビーノは突如、笑い始める。

 

「…ハッ、随分と格好いいこと言うが…。──すまねえな、お前ら二人と、それとあそこの裏切り者。みんなここで死んでもらうぜ…!──野郎ども!ハジキ構えろ!!」

 

その言葉と同時に、ガンビーノの手下が拳銃を構えた。

 

「人海戦術ってわけですか…」

「おいワイフー、こっちもだぜ……」

 

冷や汗を垂らすワイフーに、同じく冷や汗を垂らしているジェイが呼びかける。体術のスペシャリストのワイフーだが、流石に大量の飛び道具には手も足も出せない状況であった。

 

「聞け。お前らの言うボスが引き金を引いた瞬間、正式に決裂となる。お前らも今後ガンビーノファミリーとは一切のつながりは絶たれる。だから手加減はするなよ」

「了解…!」

 

「私たち、完全に板挟みになってますね…!」

「拙いんじゃねえの、これ…。──来るぞ」

 

固まって動くのはまずい。そう思い、二人は一斉に動こうとする。しかしここは狭い裏路地。遮蔽物など存在しなく、まさに袋のネズミであった。万事休す──二人の頭に、その言葉が過ぎった。

 

「死ね──!」

「撃て!!」

 

二つのマフィアファミリーが激突しようとしたその時──。

 

 

 

「……な、何だ!?」

「──板…?いや、ありゃ…車のボンネットか!?」

 

 

 

ジェイとワイフーを遮るように、鋼鉄の板が二枚、音を切り裂いて路地裏の荒れた地面に突き刺さった。そして次に、人影が降り立つ。

 

 

「──旦那!?」

「イラさん!?」

 

「──二人とも、無事か!?」

 

その人影は、イラ。全身汗だくで、シャツは肌に張り付いており、息も荒く二人の肩を掴んだ。

 

「──どうしてここが」

「かけずり回ったんだよ…!心配かけさせやがって…!」

「──すいやせん、だけど──」

「話は後だ、とりあえず今はここから離れよう」

「させると思ってんのか!?あァ!?」

 

吼えるガンビーノに同調し、カポネらも各々武器を構える。先程の相対から、カポネが学んだ事はひとつ。

 

(──真正面からじゃ駄目だ。絶対に勝てねえ。となると、残る手段は……!)

「テメェらあのガキどもを──」

 

人質だ。あの恐るべき力を、こちらに向けないようにすれば──そう思ったカポネは、部下に指示を出した。

 

 

「させるか」

 

 

それを見たイラは、力を爆発させる。二対のボンネットを力任せに地面から引き抜き、カポネとガンビーノ──二つのファミリーに向けて、強引に投げつけた。

 

「うわあああ!!?」

「二人とも、飛ぶぞ!」

「えっ…?」

「飛ぶって旦那、おわ──!」

 

ボンネットが見事命中したのを確認し、イラはすぐさま二人を抱え──飛び上がった。爆音と砂煙が上がり、混乱の渦に巻き込まれる周囲。

 

「落ち着け!先ずは奴らを仕留めるぞ!」

「構えろ!」

 

各々のボスが怒号を浴びせ、ようやくマフィアは混乱から立ち直り、再び銃を構えた。しかし、先ほどまでいた標的の姿は無く、辺りを見回してしまう。

 

「何…?」

「野郎…!逃げ切りやがった…!」

 

この狭い裏路地で、この圧倒的な人数で、圧倒的有利な状況で、逃げられた。その事実が、二つのファミリーのボス達に敗北感を与える。

 

 

(──やりおるな)

 

 

そしてそれを陰から見ていたザラックの老人も、髭を撫でながらほくそ笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「なあ。良くないよ勝手に行動すんのは。分かるでしょワイフーさん?」

「はい…」

「すごい心配したんだからな、本当に。ジェイの気持ちもわかるけどさ、それでお前が怪我したら元も子もないだろ」

「すいやせん…」

 

戦線を離脱した三人は、街路を歩きながら反省会を行っていた。イラの説教を二人が聞きながらとぼとぼ歩く。イラの説教は、怒ると言うよりかは叱ると言ったほうが正しく、そこには自分達に対しての思いやりがあり、二人はより申し訳ない気持ちになっていた。

 

「……反省したか?」

「はい…すみませんでした」

「旦那の言う通りです。俺らが勝手な行動したから、危険な目にあっちまいやした」

 

素直に頭を下げるジェイとワイフーを見て、バツが悪そうに目を逸らして頷くイラ。

 

「……まあ、俺が言えた事じゃないんだけどな」

「え?」

「いや、俺さ。いっつも隊長に勝手な行動すんなって怒られてんだよね…。だから、叱るって事ができないって言うか…。こうやって、君らの行動を頭ごなしに否定するのもなあって……ちょっと情けなく感じて」

「──そんな事ないです!」

「お、おお…!?」

「確かに自分との境遇を合わせた時、その気持ちになるのは仕方ないです。しかし、それでもイラさんは私たちを案じてくれているではありませんか!」

「…本当に情けねえやつぁその情けねぇ部分を隠そうとするもんです。でも旦那はそれを俺らの教訓にしてくれてるんです。それは尊敬すべき所でしょう」

「お、おう…。あ、ありがと…」

 

鼻息荒く詰め寄る二人に、戸惑いながらも礼を言うイラ。年下の子にこんな熱いフォローを受けた事はなかったので、少し嬉しさを感じてしまうイラ。

 

「…でも、もうこれ以上はダメだ。あとは俺に任せてくれ。ワイフーさんも、テスト近いんだろ?ジェイだって仕込みとかあるんじゃないのか?」

「む……」

「そいつぁ…そうですが」

「俺がきっちり奴らをしょっ引いてやるからさ。頼む」

 

そう言って頭を下げるイラを、二人はしばし見つめ──肩をすくめて、ため息をついた。

 

「……分かりました。今回は引き下がる事にします。そんな顔を見せられては何も言えません」

「…俺も。旦那に任せる事にしやす。もともと俺ぁ料理人ですから、荒事は領分じゃねえし」

「お前ら…ありがとな」

 

自分の思いを汲み取ってくれた二人に、心からの感謝を告げるイラ。照れ臭そうにしていた二人だったが、そこでワイフーが手を叩き、ひとつの提案をする。

 

「…でも、今日は安魂祭です。もうそういうことには関わらないので、少しだけ歩いていきませんか?」

「ん…」

 

その言葉に、イラは口に手を当て思考を始める。本音を言えば、すぐに帰ってほしい。マフィアがそこかしこを彷徨いていて、またいつ出会ってしまう可能性は無きにしも非ずだろう。だが、二人はまだ若い。この安魂祭を楽しまずに帰らせるのは、少しイラの良心が痛んだ。

 

「……おっけい、分かった。そこら辺ぶらつこうか」

「!やった」

「いいんですかい?」

 

控えめに喜ぶワイフーとは対照的に、ジェイは目を丸くして訪ねる。それにイラは一つ頷いた。

 

「せっかくの祭りなんだ、今の今まで楽しめてなかっただろ?幸い明日は日曜日でワイフーさんは学校は休みだし、ジェイの屋台も午後からだから…と思ったんだが…」

「ええ、私は構いませんし、この人も構わないと思います」

「なんで俺の意見を代弁すんだよ…」

「…ダメ、ですか?」

「………いいけど」

 

突然始まった青春物語にイラは口角を額まで吊り上げながら考える。

 

(…マフィアのやつらも、流石に一般人が大勢いる広場には居ねえだろ。それに、この二人も率先して騒ぎを起こすような性格じゃねえし…)

 

「もう!じゃあ早く行きますよ!ね、イラさ…うわぁ」

「旦那もコイツにどーにか言ってやってくださうわぁ」

「うんうん、じゃあ行こうか。どうした?そんな顔して」

「「い、いや…別に……」」

 

自分の顔が化け物の様な笑みを作っているとは知らず、イラは二人にドン引きされながらも広場へと向かっていくのであった。

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