オペレーターに勝ちたい! 作:ナメクジとカタツムリは絶対認めない
「切り尽くす……!」
「はあぁっ!!」
a.m.0:38 天候/砂嵐。
龍門市街広場の屋外パーティ会場で、拳と剣が交差する。テキサスの源石剣をワイフーが紙一重で躱し、テキサスがワイフーの拳を受け流すその様を、周囲の野次馬たちは歓声と共に見届けていた。
「………なんでこんなことに…」
その中で唯一、近衛局のナンバー3だけが憂鬱げにそれを眺めていたのだが。
a.m.0:14 天候/砂嵐。
広場に着いたイラたちは思わぬ人物たちと遭遇していた。
「あっ」
「お?」
「あ、イラ!」
パーティハットを各々被ったペンギン急便のメンバーを見て怪訝そうにするイラ。それとは対照的に笑顔になって駆け寄って来たエクシアに、イラは問いかける。
「何でお前らがここに…?」
「んー?わかんない。ボスからの指示だからさ!」
「そのボスは?」
「わかんない!」
「ええ…?」
「……イラ」
まさか今回の騒動の当事者であろう者からひとつも情報を得る事ができないことに絶望していると、静かな声がエクシアの後ろから聞こえて来た。
その声の主であるテキサスは、スタスタとイラに歩み寄り──。
「そい」
がばっ、とイラのシャツの中に潜り込んだ。
「キャーーーーーッ!!?」
生娘の様な声を上げ、イラは不埒な変質者を引き剥がそうとする。しかしいくら力を込めてもびくともせず、さらにシャツ深部までテキサスは入り込んできた。
「何してんの!何してんのお前!?」
「甘ったるい匂いで気分が悪いんだ。他ので紛らわせないと吐いてしまう」
「俺のシャツの中で紛らわす意味ねえだろ!てめえ離れろ…!離、力強……」
「ああ、いいぞ。暴れればより濃くなる……ふぅ」
「おまわりさーーん!!ここでーーす!」
必死の形相で叫ぶイラをよそに、ワイフーはクロワッサン達へ目を向ける。
「今夜の事、知らないとは言わせませんよ──。どうせあなた達が主な原因なのでしょう?」
「一応、主な原因じゃないんやけどね…」
「だとしても、他の人を巻き込んだことは変わりない事実。さらには公共の財産に損失を負わせるなんて、あなた達には龍門市民としての自覚はないんですか?……そこ!聞いてます?」
ひと息にその文句を言い放ったワイフーは、未だイラのシャツに住み着いた狼に指を向ける。指し示されたテキサスは首元から顔を出し、それをじっと睨んだ。
「何ですか、それ。それが人の話を聞く態度なんですか?」
「オイ、睨まれてる。睨まれてるから離れて」
「…ちゃんと話は聞いている。すまなかったな」
「……本当に人の事をコケにして…!」
イラは濡羽色の後頭部越しから見た。怒髪天を衝いたワイフーの表情を。本格的に焦り出すイラは、二頭となった自分の相方に懇願を始めた。
「テ…テキサスマジで頼む、ワイフーさんやべえよ。あれ本気で怒ってるやつ」
「ところでイラ──お前はモスティマと言う名前に心当たりはあるか?」
「えっ」
「──あるのか」
ぐりん、と体の向きを変えられ、テキサスの真っ黒な目が視界いっぱいに広がる。
「えっ」
「さっきは嘘をついていたのか?後ろめたいから隠していたんだよな?」
「えっえっ」
「エクシアから全部聞いたよ。どれだけ私が気が狂いそうになったか分かっているのか?私に相談もせずに共有の道を選択するなんて、随分偉くなったな」
「えっえっえっ」
「──いい加減にしてくださいイラさん。私は今冷静さを欠こうとしています」
その言葉になんで俺?と宇宙フェリーンになるイラを睨みつけ、ワイフーは声を荒げた。
「大体なんですか、貴方にはスカジさんという人がいると言うのにその体たらくは。男ならすっぱりきっぱり断りなさい!」
「イラ、説明してくれ。私は今冷静さを欠こうとしている」
「…お、なんだ?痴話喧嘩か?」
「見ろよアレ!ペンギン急便と女の子がイラさんを取り合ってるぜ!」
「また巻き込まれてんのかよイラー!いい加減覚悟決めろー!」
「…めんどくさいことになってきたな。──もういい、キミがそこまで私たちに絡みに来るのなら、実力でかかってこい」
そう言ったテキサスはイラのシャツから離脱し、気怠げに源石剣を鞘から抜き放ち、ワイフーに向けた。
「…望むところです。私が勝ったら、しばらくは大人しくしててもらいますよ。そしてイラさんも解放してもらいます」
(しばらくなんだ…)
静かに構えをとったワイフーの言葉に、バイソンは心の中で突っ込みを入れる。そんな事は梅雨知らず、両者の間の空気が張り詰めて──。
「──切り尽くす」
「はああぁっ!!」
剣と拳が交差する。
「──旦那、大丈夫ですかい?」
「なんでいっつもこうなるんだ…?」
体操座りをするイラの背中をジェイは優しくさする。実のところアンタが原因なんですけどね、などと心優しい彼が言えるはずもなく苦笑いで返すことしかできなかった。
(…んまぁ、こればっかりは当人が気付く事だからなぁ…気張ってくだせぇ)
するとそこにペンギン急便の面々が集まってくる。
「…なんかいっつもイラはんのそのちっさい背中見とる気がするわ」
「ふん、まあ当然ですよ。日々日々女の子を取っ替え引っ替えしてるんですから当然の報いです」
「まあまあ!…ジェイさん疲れてるでしょ?私が変わるよ、楽にしてて!」
「はあ…?いや、俺ぁ疲れては…」
「疲れてる、よね?任せて」
「アッハイ」
(怖…)
エクシアが嬉々としてイラの背中に取り憑き、頭を撫でていく。
「よーしよし、怖かったねー?でも大丈夫だよ、アタシが居るからね。アタシだけが味方なんだからね?」
「エクシア…──お前ってやつぁ、なんて」
「うん。────スカジさんとは何もない?」
「はい」
「よし!信じるよー!ほら、抱きしめてあげる!嬉しい?」
「はい」
イラは年下の少女にあやされる事に何も羞恥心など無かった。今彼の心には生き残りたいと言う願望──そのためであれば一時の恥など軽い傷。彼は必死だった。
[──…イ、…オーイ!安魂夜のパーティにお越しの善良な市民たちー!聞こえてるか〜い?]
「…あ?なんだ?」
その突然の声は、エクシアの行動を止めるのには最適なものだった。
「あれ、ボスじゃん」
「…ああ、エンペラーさんね。…何してんの?」
「さあ?ボスはミュージシャン気取ってるから」
「ミュージシャンなんだけどね…」
ソラが呆れたようにそう呟くと同時に、周囲の人々はざわめき出す。
「おい、アレエンペラーじゃねえか?」
「嘘だろ!?クルビアにいるんじゃなかったのか!?」
「キャーーッ!エンペラー!!」
黄色い声援が集まる中心を見る。かすかに見えたその光景──それは、車の上をステージとし、国民的スターがその小さい羽でマイクを握っていたものだった。
「派手だなぁ…それよりこっちをどうにかして欲しいんだけど」
「ボスは放任主義なんだよねー。それに比べてあたしって結構面倒見良いんだよ。子供も好きだしね!」
「ほえー…」
「子供も好きだしね」
「なんで二回言ったの?」
能面の様に笑いながら見つめてくるエクシアに怯えながら後退りするイラだったが──。
「………ん?」
突如その時、イラはどこか違和感を覚えた。
「んん?エクシア、なんかおかしくねえか?」
「ええ、ひどいなあ。急にそんな悪口言わないでよぅ」
「違う、流れが…人の流れが、均一すぎる」
その時、スピーカーからまたもや声が聞こえてきた。
[……やかましいのう、エンペラーさんや。お主の騒音は死人さえも煩くて目を覚ましてしまうぞ]
その声は、エンペラーのものではなく、年季の入った嗄れた声だった。
[な──!]
[お主はもう眠る時間じゃな。──良い安魂祭を]
声と共に、何かが倒れる音をマイクは拾う。それを聞いたエクシアとイラは、同時に顔を見合わせた。
「…オイ、何かの演出か?」
「ううん、違うと思う…!」
雰囲気が変わった事を察知したイラは低い声でエクシアに尋ねるも、その返答は首を横に振るものだった。
そして、異変は伝染する──。
「はっ」
「おい、ワイフー?相手を間違えて──!」
「違わない。私たちは囲まれてるんだ」
「な──」
ジェイは周りを見回す。人が多く見つめる中、確かに敵意を持った視線が見えた。問題なのは、その量。360度安全な視線は感じられない。
「スラムからここまで追ってきたの?」
「嘘でしょ、この量──!」
「周りはほぼ敵です!これは、罠──エンペラーさんは──!」
バイソンが盾を構えながら周囲を睨みつけていると、スピーカーから声が聞こえ始めた。
[あー、あー、ゴホン。龍門市民の諸君、こんばんは。慌てないでくだされ。今死んだのは取るに足らないペンギン一羽のみ。安魂祭の式典は継続されよう。もちろん目障りの死体は専門の業者に処理させる]
「……エクシア。ここ、頼んだ」
「え…イラ?」
イラはスピーカーを睨み、ある店へ足を運んだ。
[諸君を突然驚かせてすまない。そして今宵のイベントに臨時の項目を一つ追加しておいた。シラクーザからの友人が、ワシらのために特別なプレゼントを持ってきてくれたのじゃ。今はこのパーティー会場のどこかに隠してある」
「…悪い、適当なもん、一枚くんねえか?」
「おお、イラ。まいどあり!」
「──ありがとう。お釣りはいいや」
その受け取った、仮装用のお面。その面を見て、イラは少し固まった。何故なら今、心に沸々と湧き出ている感情と同じ顔をしていたから。
イラはそれを装着し、足に力を込める。
[残り時間は多く無いぞ、諸君。ああ、もし誰もこのプレゼントを見つけられぬ時は、残念ながら──]
[お主らの人生で最後のサプライズになるのじゃ]
その言葉と共に、轟音が響き渡る。車の上でスピーチをしていた鼠王は、上空から降って来る人影を見て、ニヤリと笑った。
即座に自身のアーツである砂を展開──。自身の上方を覆い守る様にしたその砂は、次の瞬間、凄まじい音を立てて爆散した。
「突っ込んできおったな?若者は大胆で良いのう…同じ事をしようとすると腰をいわしてしまうわい」
「……」
その衝撃を放った人影。握った右拳には砂が纏わりついており、上体を低くしてこちらを見据えている。
安魂祭の明かりに照らされたその顔は──憤怒の表情を浮かべていた。
「かかってくるか?若造が」
「………!!」
──安魂祭は終わりに近づく。
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